今回ご紹介する映画は『僕が跳びはねる理由』です。
ジェリー・ロスウェル監督による作品で、自閉症の東田直樹が13歳のときに執筆し、世界30カ国以上で出版されたエッセイをもとにしたドキュメンタリー。
本記事では、ネタバレありで『僕が跳びはねる理由』を観た感想・考察、あらすじを解説。

自閉症者の世界の捉え方を映像と音響を駆使して疑似体験することができる映画で、多くの人に観てほしい作品でした。
映画『僕が跳びはねる理由』の作品情報と評価
『僕が跳びはねる理由』はU-NEXTで視聴できます!
映画『僕が跳びはねる理由』のスタッフ・原作など
(C)2020 The Reason I Jump Limited, Vulcan Productions, Inc., The British Film Institute
ジェリー・ロスウェル監督
手掛けたのは、イギリスのドキュメンタリー監督、ジェリー・ロスウェル。
ドキュメンタリーを多く手掛けてきた監督ですが、映像や音響として自閉症者の世界を擬似的にも表現できる手腕は見事でした。
原作:東田直樹『自閉症の僕が跳びはねる理由』
原作者の東田直樹さんは、1992年生まれで、13歳のときに原作のエッセイを出版しました。
同い年である私は、恥ずかしながら彼について知りもせず、この機会に著書と合わせて本作を鑑賞したのですが、自閉症について本当に何も知らなかったことを痛感させられました。

映画と合わせてぜひ、原作を手にとってみてください!
(C)2020 The Reason I Jump Limited, Vulcan Productions, Inc., The British Film Institute
デイヴィッド・ミッチェル
本作に、原作者の東田直樹さんは登場しません。
当事者と家族以外で登場するのは、原作の英語版翻訳者であるデイヴィッド・ミッチェル。
ハリウッドで映画化もされている『クラウド・アトラス』などを執筆したベストセラー作家です。
彼が東田直樹さんの原作をなぞりながら、著書に登場する言葉を案内として進んでいきます。
原作本の解説部分もデイヴィッド・ミッチェルが担当しているのですが、東田さんの言葉と彼が英語版翻訳に至ったまでの背景や解説がとても興味深く読むことができました。
ネタバレあり
以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ感想】原作と映画の両方で“知る”
(C)2020 The Reason I Jump Limited, Vulcan Productions, Inc., The British Film Institute
まず、ここまで読んでいただいた方にお願いがあります。
映画の原作である東田直樹さんの著書『自閉症の僕が跳びはねる理由』をまずは読んでみてください。
本作を観ようと思っている方、そして、観たけど原作は読んでいないという方も手にとってみてください。
原作とセットで自閉症の人の世界を知る
本作は、東田直樹さんの著書の言葉をナビゲートにして、自閉症の当事者と家族の姿を映したドキュメンタリーとなっています。
自閉症の人がどんな感情で、どんな考えを持っていて、それがどう行動に影響を与えているのかを映しています。
この部分に関しては、原作の東田直樹さんの著書が非常に克明に記されているので、まずは読んでみてほしいのです。
そして、視覚や聴覚としてそれを補う意味で映画を観ることで、自閉症の人たちがどのように世界を捉えてるのかを感覚的に捉えることができます。
部分から全体へ
(C)2020 The Reason I Jump Limited, Vulcan Productions, Inc., The British Film Institute
自閉症の人は物事を捉える上で、まず「部分」から飛び込んでくるといいます。
著書でもその話は印象的で、頭で想像はしていたのですが、映画として映像を観るとハッキリとイメージすることができます。
そのため、あらゆるものを接写で映した映像となっていて、人によっては酔ってしまいそうになるほどなのですが、東田さんの言葉を映像として感覚的に捉えることができるのです。
同様に、聴覚=音の観点でも、毛虫が身を寄せ合うときの音や、トランポリンで跳びはねるときの軋む音など、彼らの世界の聞こえ方を疑似体験できるようになっています。
「雨が降っている」と理解するまでのプロセスや、線ではなく点での記憶の集まりでたどっている様子など、自閉症者の物事を捉え方が印象的に映されていました。
本作では、世界中の異なる地域の5組の自閉症者たちを映し、彼らと彼らを取り巻く環境を映しています。
そこには、自閉症の歴史が80年に満たないほどの背景などからくる偏見やバイアスが彼らを生きづらい社会にしている事実も伺えました。
【ネタバレ考察】 偏見やアンコンシャス・バイアス
(C)2020 The Reason I Jump Limited, Vulcan Productions, Inc., The British Film Institute
シエラレオネの当事者の話では、自閉症を「悪魔」など、忌み嫌われる対象とされている悲しい現実が描かれていました。
デイヴィッド・ミッチェルの話でもありましたが、コミュニケーションが困難だから「彼らには創造性がない」だとか、東田直樹さんに関しても「自分で書いていない」「症状が軽いから」などの偏見があるのも事実。
ベンとエマ
アメリカ、バージニア州アーリントンに暮らすベンとエマのパート。
2人は幼少期からの十数年に渡る関係を築いており、2人の間の直接的な言語的コミュニケーションはほとんどにないも関わらず、文字盤を通して意思を伝えることができる彼らは、互いを「親友」だと認識しているのです。
彼らがちゃんと自分たちの意思で語る言葉一つ一つは、私たちと何ら変わりはないのです。
そんな彼らの姿をみてもなお、「創造性がない」などと言えるのでしょうか。
個性を知ること
私たちは自閉症の人たちを知らなすぎるのだとも痛感しました。
彼らの言葉や態度から、勝手に彼らの意思を想像して判断してしまう。それは家族にしても。
伝えたいことを伝えることができないもどかしさを想像できるでしょうか。
僕たちは、自分の体さえ自分の思い通りにならなくて、じっとしていることも、言われた通りに動くこともできず、まるで不良品のロボットを運転しているようなものです。
東田直樹『自閉症の僕が跳びはねる理由』より
原作や本作を観ることで、「自閉症の人の世界を理解した」と言ってしまうのは明らかに違います。
ただ、同じ空の下で暮らす身近なひとりだと思って、彼らの「個性」を尊重できるような社会にしていきたいと感じました。
他人事ではない社会
イギリスの青年、ジョスの父親は「自分たちがいなくなったら不安で…」と涙ながらに語りました。
親がいなくなってしまった後の社会に息子が生きられるのか。
そう、これは決して他人事ではない話なんです。
まず、彼らについて知ること。時がたってもジョスや当事者の方が安心して暮らせるような社会にしていくためには、私たちの一歩が大切なんだ。
まとめ:原作とあわせての鑑賞がおすすめ
以上、『僕が跳びはねる理由』をご紹介しました。
本作をきっかけに、私は自閉症についてあまりにも知らないことが多すぎると痛感させられました。
繰り返しになりますが、まずは原作者の東田直樹さんのエッセイを手にとってみてください。
そして、東田直樹さんを追ったNHKのドキュメンタリーもあわせて観てみることをおすすめします。
この映画をきっかけにして知った言葉で「ファシリティテッド・コミュニケーション」というものがあります。
ファシリティテッド・コミュニケーションとは、意志疎通することが困難な方が、キーボードやタイピング装置を使う際に、その腕または手を「ファシリテーター」が補助する方法のことを指す言葉。
上記の東田さんの著書や本作、NHKの特集を見る限りでは自分で書いていないとは到底思えないんですよね。
ただ、自閉症について調べるうちに、本作に関して以下のような記事もあるということも知りました。
「僕が跳びはねる理由」で迷惑している件!|Saltbox 自閉症&自由ブログ
答えはでないのかも知れませんが、本作を通して「知る」きっかけになったこと、それだけは間違いありません。