今回ご紹介する映画は、『ノマドランド』です。
クロエ・ジャオ監督による、アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちの生き様を描いた作品。
主演は、2度のオスカーに輝いたフランシス・マクドーマンド。
本記事は、映画『ノマドランド』の感想と解説、ネタバレありで考察をしている記事となります。
ドキュメンタリーのような、雄大な自然と人間の業を感じさせる映画でした…!
『ノマドランド』は以下で視聴できます!
映画『ノマドランド』の作品情報とあらすじ
『ノマドランド』
あらすじ
ネバダ州に暮らす60代女性のファーンは、リーマンショックによる企業倒産の影響で、長年住み慣れた家を失ってしまう。キャンピングカーにすべての荷物を詰め込んだ彼女は、過酷な季節労働の現場を渡り歩きながら車上生活を送る。
5段階評価
予告編
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作品情報
タイトル | ノマドランド |
原題 | Nomadland |
監督 | クロエ・ジャオ |
脚本 | クロエ・ジャオ |
出演 | フランシス・マクドーマンド デヴィッド・ストラザーン リンダ・メイ シャーリーン・スワンキー |
撮影 | ジョシュア・ジェームズ・リチャーズ |
音楽 | ルドヴィコ・エイナウディ |
編集 | クロエ・ジャオ |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2020年 |
上映時間 | 108分 |
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おすすめポイント
本当の豊かさとは何か。
クロエ・ジャオ監督&フランシス・マクドーマンド主演、ノンフィクション原作を映画化。
キャンピングカーに人生のすべてを積み、“ノマド”生活を送る主人公。どこにでも行ける自由な生活に見える一方で、彼女は「思い出」に縛られていました。
そんな主人公が見つける、「人間の根本的な豊かさ」について。物質的な豊かさとモノと思い出の執着、それらとの向き合い方を描く必見の映画。
アカデミー賞では作品賞と監督賞を受賞。アジア人として初めてゴールデングローブ賞監督賞を受賞。
『ノマドランド』のスタッフ・原作
© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.(画像左)
クロエ・ジャオ監督
監督は、中国生まれでアメリカで活動するクロエ・ジャオ。
2017年には、Netflixで配信の怪我を負ったカウボーイを描いた映画『ザ・ライダー』も手掛けています。
本作でもそうですが、前作『ザ・ライダー』では俳優ではなく、ロケ地に住んでいた人をキャスティングするなど、リアリティへのこだわりもみられます。
さらに、マーベル映画でMCU作品の『エターナルズ』も監督しています。
原作:「ノマド 漂流する高齢労働者たち」
原作は、ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」です。
ノマド生活者ときくと「キャンピングカーで暮らす気楽な高齢者」に見えますが、そこにあるのはアメリカ貧困層の現実で、気鋭のジャーナリストが数百人のノマドに取材し過ごした記録を描いています。
『ノマドランド』のキャスト
キャスト | 役名 |
---|---|
フランシス・マクドーマンド | ファーン |
デビッド・ストラザーン | デビッド |
リンダ・メイ | リンダ |
スワンキー | スワンキー |
ボブ・ウェルズ | ボブ |
フランシス・マクドーマンド
© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
主な出演作
- 『ミシシッピー・バーニング』
- 『ファーゴ』
- 『スリービルボード』
主演は、すでに2度のオスカーに輝いた経験を持つフランシス・マクドーマンド。
言わずもがな、素晴らしい演技をしていました。
ネタバレあり
以下では、映画『ノマドランド』の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ感想】喪失と孤独と美しさと
© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
アカデミー賞作品賞に輝いた『ノマドランド』。
映画でありながら、映画でないように思えてしまうリアリティに驚きました。
ファーンがノマド生活をはじめた理由
「ノマド」と聞くと、昨今で話題になっている場所にとらわれない働き方の「ノマドワーカー」のイメージがありましたが、それと「ノマド(遊牧民)」生活の実情はあまりにもかけ離れています。
主人公であるファーンは、アメリカ北西部ネバダ州の企業城下町、エンパイアに暮らしていましたが、町を支えていた工場の閉鎖によって職を失ったことで生活が行き届かなくなるところから始まります。
アメリカにはこういったゴーストタウンと化した町が多くあるみたいですね…。
共にに暮らしていた夫も亡くしていたため、町を離れ、季節労働者として車で移動しながらの生活を送ることになるのです。
Amazonとノマド生活者
© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
企業の衰退によって職を失ったファーンでしたが、彼女がノマド生活で働く基点としているのがAmazonの工場なんです。
同時期に公開している邦画『騙し絵の牙』でも描かれていましたが、Amazonの台頭でさまざまな企業が廃業に追いやられたのも事実。
経済的に厳しいノマド生活者たちにとって、給料の良いAmazonでの仕事は大きな収入源となっているのです。
特に、クリスマスなどのハイシーズンにおいて、Amazonの工場を支えているのがノマド生活者たち。
Amazon側は駐車場と高い給料を提供し、そこで働くノマド生活者たち。直接的な因果関係はないにしても、あまりにも皮肉な構造ですよね。
この構造を考えるとAmazonの内部までよく撮影できていますよね!
圧倒的に美しい景色と現実
© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
『ノマドランド』は、ある意味、映画館でみるにふさわしい映画だと思います。
はっきり言ってしまうと、感覚的と言うか、退屈でもあり、人を選ぶ作品であるのは間違いないのですが、それを踏まえてでも引き込まれてしまう圧倒的な映像美。
荒野の先に浮かぶ稜線にかかる夕日の美しさ。その一方で、突きつけられる現実。
美しい映像とともにピアノの切ない旋律がバックでかかり、えも言われぬ充足感を感じたかと思えば、突然プツンとカットを入れて現実に引き戻されてしまうのです。
ノマド生活をしたいと思うか
© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
恐らく、『ノマドランド』を観てノマド生活をしたいと思う人は少ないでしょう。
というのも、映画全体を流れる空気感が、その生活の厳しさを物語っているからで、ファーン自身も孤独や喪失感に満ちているからなんですよね。
ただ、本作が本当にすごいのは、そんなノマド生活者の生き方を、ある種ドキュメンタリー的に描きながら、それでもわずかに憧れや豊かさが見えるからなんです。
そこにあるのは、人間の根本的な豊かさとは何かという問い。
厳しい現実が見えながらも、ノマド生活者が語る人生のきらめき。
毎日を忙しなく生きている私にとって、「この瞬間に死んでもいい」と思える景色や人との出会いというのは、限りなく羨ましいと感じてしまうのです。
そして、それが作られたものではなく、リアルなものだとわかるエンドロール。素晴らしいサプライズでした。
『ノマドランド』は、主演のフランシス・マクドーナンドとデビッド・ストラザーン以外は、リアルなノマド生活者たちを本人として出演させているのです。
これによってドキュメンタリーとフィクションの垣根がないように感じるんですよね!
マキシマリストからミニマリストに変わった私にとって、ノマド生活への興味は以前からあったのですが、ファーンのモノに対する考え方が非常に印象的に映っていました。
ファーンは、夫との思い出がつまった皿を大事にしていたり、ノマドを支えるボロ車も、買い換えるのではなく高い修理費を払ってまで使い続けます。
多くのノマド生活者たちが不用品をフリーマーケットで手放していた一方で、ファーンはそれをもらう側でした。
ノマド生活をしつつも、エンパイアの周辺から離れることができずにいたファーン。
それでは、なぜラストにエンパイアを離れる選択ができたのか。
次の項目では、その点について考えてみます。
【ネタバレ考察】なぜファーンはエンパイアを離れたのか
© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
ファーンがエンパイアを離れた理由を考える上で、そもそもなぜエンパイアから離れられずにいたのかについてを考えていきます。
プライドとアイデンティティ
劇中、ファーンにはノマド生活をやめるきっかけが数回訪れます。
特に印象的なのは、デビッドとのシーン。
同じくノマド生活をしていたデビッドは、孫の誕生をきっかけに息子たちと暮らす道を選ぶのでした。
ファーンに好意を寄せるデビッドは、一緒に暮らすことを提案します。デビッドの暮らす家に訪れたファーんでしたが、結果的にファーンはノマド生活を続けるのでした。
ホームレスじゃなくてハウスレス
ファーンが言うこの言葉は、劇中の中でも特に印象的に響きます。
ある意味、ノマド生活へのプライドのようにも聞こえる言葉ですが、作品全体を観るとファーンだけに対しての言葉ではなく、ノマド生活者のアイデンティティだと理解できます。
モノとしての家(ハウス)がないだけで、帰る場所(ホーム)は失っていない。
ファーンにとってのノマド生活。それは、夫と町(生活する場所)を失った彼女の心の拠り所を映していたのです。
繋がりと孤独
© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
ノマド生活を始めたファーンは、コミュニティに難なく溶け込むことができていました。
しかし、彼女はそのコミュニティと共に移動することを選びません。
コミュニティが去っても、しばらくその場に留まっていたり、一緒に景勝地を訪れても一人でフラフラと進んで行ったり。
ファーンは、一時的にはコミュニティに属していても最後には必ず1人での時間を意図的に作っていることがわかるのです。
それは、彼女にとってのホームが、夫と暮らしたエンパイアにまだあるからなのだと思います。
ノマド生活にしても、失ったエンパイアにしてもどこか落ち着かない。だからこそ、劇中のファーンには孤独を感じてしまうのです。
さよならは別れではなく再会だ
© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
拠り所を失っていたファーンは、ノマド生活で心を許せる友人、ボブと出会います。
彼女と過ごす時間は、心から笑い合っているようで、とても多幸感が伺えました。
ノマド生活者の先輩でもあるボブは、ラストには死んでしまうのですが、彼女の生き方は、ファーンが変わるきっかけになっていたように感じます。
さよならは、別れではなく、また会える
ノマドたちの指導者であるボブから聞いたこの言葉。
ノマド生活者たちの多くが、高齢者であり、何らかの喪失感や悲しみを抱えていることが多いといいます。
しかし、ノマドたちは「最後のさよなら」は決して言わないのです。
なぜなら、必ずまたどこかで会えると信じているから。
夫と町を失ったファーンにとって、モノとしての思い出こそが夫の記憶をつなぎとめていました。
だからこそ、エンパイアを離れることができなかった。
そんな彼女が、ノマド生活での出会いと別れを通して「さよならは別れではなく再会だ」と理解したのです。
ラストに夫との思い出が詰まったエンパイアの荷物を引き払った理由はそこにありました。
それは、夫との別れでなく、また会えるとわかっていたから。
同時に、思い出に縛られていた彼女が、自分の人生を歩み始めた瞬間でもありました。
まとめ:雄大な自然と人間の業
今回はアカデミー賞受賞作『ノマドランド』をご紹介しました。
車上生活と聞くと、日本では馴染みがないように感じる人も多いと思いますが、実は車上生活者は日本でも増えているんです。
NHKのドキュメンタリーでは、日本の車上生活者の実態を描いていましたので、本作と合わせてみると面白いです。
本作、非常に観念的な部分もあり、好みが別れる映画だと思います。
それを踏まえた上でも、ノマド生活の先に見える豊かさを感じることができたのは、圧倒的な映像美だからと思っています。
『ノマドランド』は以下で視聴できます!