「黒ビールといえば?」
多くの人が思い浮かぶ銘柄は、恐らく「ギネスビール」ではないでしょうか。アイルランド発祥の黒ビール、ギネスビール。世界中で愛されているあの黒ビールの成功の裏には、知られざる愛憎と野望の物語があったのです。
Netflixドラマ『ハウス・オブ・ギネス(House of Guinness)』は、19世紀のダブリンを舞台に、ギネス家の4人兄妹が、名家の誇りと時代のうねりに翻弄されていく人間ドラマ。
この記事では、物語のあらすじから登場人物の相関関係、そして最終回で何が起きたのかまでを、わかりやすく整理して解説しています。
ネタバレあり
以下では、『ハウス・オブ・ギネス』の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
『ハウス・オブ・ギネス』の登場人物・キャラクター相関図
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「協力しなければ遺産は没収」はじまりは父の遺言
物語の舞台は19世紀のアイルランド・ダブリン。ギネス家は黒ビールで街を支配し、莫大な富と名声を手にしていた。しかし、当主ベンジャミン・ギネスの死によって、残された子どもたちの運命は大きく揺れ動くことになる。
「長男アーサーと次男エドワードが協力して経営しなければ、遺産は没収される」
父の遺した遺言が、兄弟たちの運命を大きく変えていく。政治の世界で権力を得ようとするアーサー、家業の安定と社会的責任を重んじるエドワード、そして、病を抱えながらも人々を支えようとする長女アン、自由を求めながらも破滅へと進む末弟ベン。
時代はイギリス支配と独立運動がせめぎ合う不安定な時代。一族の誇りとビジネス、そしてアイルランドの未来はどうなるのか…。
アーサーとオリヴィアの型破りな“契約結婚”
アーサーとオリヴィアの関係は、「政略と愛情のバランスで成り立つ結婚」として描かれている。
アーサーは家の名誉を守るため、形式的な結婚を必要としていた。彼は同性愛者であり、19世紀のアイルランドではそれを公にすることは許されなかったため、「世間体を保つための結婚」が避けられなかった。
一方のオリヴィアは、地主バントリー伯爵の娘。貴族階級の出身ながら家計が破綻しており、ギネス家との婚姻によって再び社会的地位を取り戻す必要があった。二人の結婚は「ラベンダー・マリッジ(形だけの結婚)」として成立している。初対面の時点で、両者は明確な“条件”を取り交わした。
アーサーとオリヴィアの契約結婚
- 二人がセックスすることはない。
- 互いの自由を尊重する。
- 愛する相手を持つ自由があるが、感情を残さないこと。
つまり、この結婚は愛ではなく、打算と合意のうえで成立した関係だった。
そして結婚後、オリヴィアはギネス工場を取り仕切る男・ショーン・ラファティと関係を持つようになる。アーサーも当初は黙認しており、「形式的な結婚」の範囲内であれば自由にしてよいという暗黙の了解があった。
しかし、オリヴィアが本気でラファティを愛し、妊娠したことで事態は一変する。欺瞞に満ちたギネス家であったが、それでもアーサーは「他人の子をギネス家の名の下で育てることはできない」と突き放し、世間体を守るため、彼女にロンドンでの中絶を命じる。
しかしオリヴィアはアーサーに従いながらもラファティとの関係を完全には断ち切れず、秘密裏に関係を続けようとしていた。
アーサーの“スキャンダル”と不正選挙
アーサーが同性愛者であることは、ギネス家や彼の政治活動においても「秘密」にする必要があった。
アーサーは家業よりも政治家としての地位を重視している。上流階級の人間として、イギリス支配下のダブリンで発言力を持つことを望み、「ギネスの名」を政治的影響力の象徴に変えようとしていた。一方で、彼は社交界の華として振る舞うことを好み、経営の実務にはほとんど関心を示さない。その軽率さやプライドの高さが、たびたびエドワードとの衝突を招く。
エドワードは、父ベンジャミンの跡を継ぐにふさわしい経営感覚と責任感を持っている。彼はビール事業を安定させ、アメリカ進出を含む拡大戦略を描いていた。
ただし、単なるビジネスマンではなく、労働者の福利や社会貢献を重視する理想主義者でもある。アイルランド独立を掲げるフェニアンに理解を示し、政治的には保守派である兄アーサーとは異なるスタンスを取っていた。
そんな兄弟の関係が大きく崩れたのは、アーサーとオリヴィアの結婚式の場面。
エドワードは、アイルランドの独立を目指すフェニアンの女性エレンと「交渉」し、アーサーが「アイルランドの独立支持」をすることで選挙で有利な立場になると考えていた。しかし、この提案はアーサーにとっては「拒めばスキャンダルを暴露する」という「脅迫」だったのだ。エドワードに“交渉材料”として使われたことで、アーサーは怒り、傷つくことになる。
その日を境に兄弟は断絶し、アーサーは政治活動を孤立状態で進めることになる。エドワードの支援を失ったアーサー陣営は、代わりに義弟(アンの夫の弟兄)を選挙参謀として迎え入れる。ところが、彼らが考え出した戦略は不正行為だったのだ。
アーサー陣営の不正選挙
- 有権者がアーサーに投票する郵便投票を済ませる。
- 投票を終えた証拠として、古い列車の切符を受け取る。
- その切符を、アーサー陣営が秘密裏に所有する印刷工房へ持参。
- クローゼットの中に隠れた男が、5ポンド(現代換算でおよそ10万円)を手渡す。
つまり、「票を入れたら現金と交換できる」という、極めて原始的な買収システムだった。この仕組みによって、アーサーは一時的に当選を果たすが、当然ながら、ほどなくして不正が発覚し、当選は無効となる。
裁判の結果、アーサー本人には“直接的な関与”がないと判断されたが、エドワードは「ギネス家の名声が傷ついた」と非難する。
エドワードとバイロン、アメリカ進出の光と影
アイルランドから生まれた黒ビール「ギネス」を、いかにして世界に広げていくか。その大きな挑戦を担ったのが、次男エドワードだった。彼は父の死後、経営の実務を担いながら、アメリカ市場への進出を最重要課題と見ていた。
19世紀後半、アメリカ東海岸の都市(ニューヨーク、ボストン、フィラデルフィア、ワシントンD.C.)では、アイルランド系移民が港湾や運送、流通の労働を担っていた。エドワードは彼らのネットワークにアクセスしない限り、「港に積んだビールを、街のパブまで運ぶことすらできない」現実に気づく。そこで現れたのが、バイロン・ヘッジズだった。
バイロンは、ギネス家の血を引く女性と、フェニアンの男との間に生まれた人物。つまり、彼はギネスとフェニアンをつなぐ“橋”のような存在だった。エドワードにとって、バイロンは理想的な現地交渉人だったが、同時にその出自がスキャンダルの火種でもあった。
フェニアン団はアイルランド独立を掲げる過激組織であり、彼らとの結びつきは、英国支配下のダブリン社会では“裏切り”と見なされる。それでもエドワードは、リスクを承知で彼をアメリカに送り出す。
ニューヨークに渡ったバイロンは、現地のフェニアン幹部たちと接触する。そこで彼は権力を握る男・エイモン・ドッドに博打的な交渉を持ちかける。
バイロンがアメリカでした取引
- フェニアン側に「1本売れるごとに15%のコミッション」を支払う。
- 英国忠誠派に怪しまれないよう、支払いは「チャリティ(寄付)」として帳簿上に偽装。
この案を聞いたエドワードは愕然とする。ビジネスを拡大するどころか、ギネス家全体を政治的スキャンダルの渦に巻き込む危険な取引だったからだ。この15%のコミッション契約によって、確かにギネスの出荷量は増えた。しかし、その裏で事態は急速に悪化する。
アメリカ側のフェニアンたちは、得た資金を反英活動や武装蜂起に流用。その報復として、イギリス政府はダブリンのフェニアン団を大量逮捕。これによって、「ギネス家が資金提供している」という噂が広まり、アーサーは、「ギネスの名を汚した」としてエドワードを痛烈に批判する。
男性中心社会の中で闘い、兄弟をつなぎ合わせるアン
父・ベンジャミンの遺言により、アンは兄たちとは異なり、遺産を一切相続しないことが決まっていた。それは彼女が女性であることにほかならない。「男社会の外に追いやられた存在」として描かれる一方、彼女はギネス家の兄弟をつなぎ合わせる接着剤のような存在だ。まさしくギネス家の「縁の下の力持ち」。
物語の中盤、アンは地方(ゴールウェイ県クルーンブー)を訪れた際に流産を経験する。そこで出会った地元の看護師スルタンから、ジャガイモ飢饉の話を聞き、現状を目の当たりにする。
その歴史を知った彼女は、貴族社会の無関心に衝撃を受け、「自分の財産や名を、人々のために使う」という新たな使命に目覚める。以降、アンは労働者の住居建設や慈善事業を兄エドワードと共に推進。自身が病を抱えながらも、家族の中で最も“社会を見つめる目”を持つ人物となっていく。
繊細で破滅的な末っ子ベンジャミン
4兄妹の末弟・ベンジャミン(ベン)は、ギネス家の中で最も繊細で破滅的な人物として描かれる。富と特権の中に生まれながら、彼は常に自分の居場所を見つけられず、酒と愛に溺れる人生を歩む。
父ベンジャミン・シニアからの遺言が明かされると、ベンは兄たちと違って実質的な経営権を与えられないことが判明する。当然ながら、それは彼が酒に溺れ、信用を失っていたからだ。遺言の意図を自分で理解していながらも、その劣等感をさらに自己破壊的な行動で紛らわそうとする。
そんなベンを支える存在が、恋人のクリスティーン。彼女は社交界の良家の女性でありながら、ベンの破滅的な生き方を理解し、彼を立ち直らせようとする。しかし、ベンは借金を肩代わりしようとするクリスティーンの申し出を拒み、「僕は変われない」と、絶望の中で自ら距離を取ってしまう。
そしてアーサーの結婚式を機に、ベンは叔母アグネスと取引を結ぶ。条件は、「年間4,000ポンド(現代換算で約6億円)の支給と引き換えに、 “身分にふさわしい女性”と結婚すること。」
こうして彼は貴族の娘、ヘンリエッタと結婚する。一時は酒をやめて、一見、安定した生活を手に入れたかに見えたが、エドワードが結婚する頃には、再び酒に溺れていた。
しかしそんな彼でもクリスティーンは想いを寄せており、ベンは彼女と愛人関係となる。
シーズン1のラストはどうなった?
『ハウス・オブ・ギネス』のシーズン1の最終話では、家族の中では長年の確執が少しずつ癒え、アーサーの議会選挙のステージに、エドワード、アン、ベンジャミンが顔をそろえる。かつては遺産をめぐり対立していた4人が、今では「ギネス家の未来」を守るために同じ方向を見ている。
しかしその会場に、パトリック・コクランがアーサーの命を狙うために忍び寄っていた。エドワードによってニューヨークに追放されていたパトリックだったが、ギネス家への恨みと「アーサー殺害」というフェニアンの危険な政治的使命を背負い、密かに戻ってきていた。
エドワードとエレンは一時、愛し合っていたが、すでに関係を絶っていた。しかしエレンは沈黙を破り、アーサーが危険にさらされているかもしれないと警告する手紙をエドワードに送っていたのだ。
そして議会選挙の当日、ギネスの4人の子どもたちは、父の死後に直面してきたあらゆる困難をすべて乗り越え、兄妹たちに見えた。
しかし、アーサーの演説中、群衆のざわめきの中で、パトリックがゆっくりと拳銃を構え、引き金を引いた。誰が撃たれたのか。誰が倒れたのか。アーサーは撃たれたのか。すべてが闇に包まれたまま、物語は終了する。