今回ご紹介するアニメは『AIの遺電車子』です。
山田胡瓜による『週刊少年チャンピオン』で連載されたSF漫画。
原作漫画は2015年から2017年まで連載され、単行本は全8巻で完結しています。2023年7月より毎日放送・TBS『アニメイズム』B1枠にてテレビアニメ化されました。
本記事では、ネタバレありでアニメ『AIの遺電子』を観た感想・考察、あらすじを解説。
“近未来版ブラック・ジャック”とも呼ばれていて、ヒューマノイドが人間社会に一般化した近未来を舞台にしたSF作品。
基本的に1話完結型のオムニバスアニメなので、見やすくて面白いおすすめの作品!
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AIの遺電子の原作・アニメ
漫画『AIの遺電子』
『AIの遺電子』は、山田胡瓜による漫画です。
山田胡瓜先生はもともと、IT総合情報サイト「ITmedia」の記者であり、その経験を活かしてITmedia上でも公開されている『バイナリ畑でつかまえて』を連載。
その後、初の長編作品となる『AIの遺電子』を発表し、2018年には、文化庁主催の漫画賞である文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞を受賞しました。
『AIの遺電子』は全8巻、その続編となる『AIの遺電子 RED QUEEN』は全5巻、そして『AIの遺電子』の前日譚となる『AIの遺電子 Blue Age』は現在『別冊少年チャンピオン』にて連載中です。
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アニメ『AIの遺電子』
2023年7月7日よりMBS・TBS・BS-TBS「アニメイズム」枠ほかにて放送が始まりました。
原作 | 山田胡瓜 |
監督 | 佐藤雄三 |
シリーズ構成 | 金月龍之介 |
脚本 | 金月龍之介 |
キャラクターデザイン | 土屋圭 |
音楽 | 大間々昂、田渕夏海 |
アニメーション制作 | マッドハウス |
製作 | AIの遺電子製作委員会 |
放送局 | 毎日放送・TBSほか |
放送期間 | 2023年7月8日〜 |
主題歌 | ■オープニング曲 Aile The Shota「No Frontier」 ■エンディング曲 GReeeeN「勿忘草」 |
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ネタバレあり
以下では、結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
『AIの遺電子』の世界観・用語
以下では、『AIの遺電子』に登場する、作品を理解する上で参考になる世界観・用語を解説。
ヒューマノイド
知性や感情、能力など、人間と同等レベルに設定された人間の姿を模したロボット(ヒト指向形人工知能)。『AIの遺電子』の世界では、ヒューマノイドは世界の総人口の1割に達している。
バイオ系のボディを持つヒューマノイドは、人間と同じように歳をとる。人格をコピーする「バックアップ」は違法とされ、違反者には30年以下の懲役、ヒューマノイドは場合によって身体を剥奪される。
ロボット
人間やヒューマノイドに奉仕をするために設計されたAIを持つ“道具”として作られた存在。
産業AI
人間の生活をサポートするため作られた人工知能。心が生まれないように能力を制限されている。
インプラント
「ナノマシン」の注射により、後天的に人間の脳内にインターネットと接続できる機能を付加する技術。現実の世界でAR(拡張現実)を展開することも可能で、ヒューマノイドは先天的にこの機能を備えている。
第1話『バックアップ』
©山田胡瓜(秋田書店)/AIの遺電子製作委員会2023
第1話ネタバレあらすじ
舞台は人口の1割がヒューマノイドとして浸透した近未来。ヒューマノイドを専門に診る医師・須堂光は、助手の樋口リサと共に須藤新医院を経営している。
須藤は、医院としての仕事のほかに「モッガディート」という名前で闇医者としての活動もしている。
ある男から「裏」の診察依頼が届き、須藤が向かうと、人格を違法にバックアップした男の妻が、体の不調に悩まされていた。家庭はヒューマノイドの夫婦と人間の養子の娘の3人家族。
娘によると、階段でつまづいて頭を打ったことをきっかけにバックアップしたのだという。
妻はウイルスに感染していたものの、バックアップに異常はみられず、バックアップを実行した場合は1週間分の記憶がなくなることが伝えられる。
妻は、フォーマットされてバックアップすることで、今自分が認識している自分と別の存在になることに不安を覚え、バックアップを拒否する。
その14日後、ウイルスによって機能停止し、バックアップからの復元を実行。半月眠っていたが、無事に目覚める。娘は母が無事に戻ったことを喜ぶが、バックアップ前の母と違うことを母の手料理で実感し、涙を流す。
第1話の感想
『AIの遺電子』がTVアニメーション化されました。めちゃくちゃいい感じですね。
原作の漫画は、エピソードがとてもサッパリしているのですが、アニメ版は背景を適度に膨らませて感情移入する余地を作り上げています。
原作でもそうですが、人間とヒューマノイドを見分ける際に役立つ「瞳の形状」も、よりわかりやすくなっています。
原作を読んでいない方でもまったく問題なく楽しめて、1話完結型のエピソードなのでとても見やすくて良いアニメになっていると感じました。
第2話『成長限界』
©山田胡瓜(秋田書店)/AIの遺電子製作委員会2023
「ベスト」「ミチ」
リサは、須藤がカオルというヒューマノイドの胸を触診している姿を目にして驚く。カオルはリサに「同じ釜の飯を食べた仲」と説明する。リサは親しげな須藤とカオルの関係性が気になっている様子だ。
陸上部で短距離競技をするヒューマノイドのジュンは、記録が伸びず、須藤に悩みを吐露する。ジュンは、ボディの仕様が決まっていて成長に限界があると自覚していた。
ジュンは同じ陸上部の友人、マサと切磋琢磨していたが、マサが自分を追い抜いていくことに苛立ちを隠せず、衝突してしまう。
ある時、体育のバレーのプレー中にジュンとマサが接触し、マサは足に怪我を負い、大会の予選に出られなくなってしまう。
ジュンがマサの病院へ見舞いに行くと、マサは人知れずジュンの予選大会の映像を観て応援していた。
後日、マサは松葉杖の状態で大会の会場でジュンを応援しに来ていた。ジュンはマサが見守る中、好記録を樹立する。
須藤はリサに昔の写真を見せると、須藤がカオルと言う人物は男の姿だった。リサがカオルの性別について質問すると、須藤はカオルにとって「男でも女でもないのが理想だろう」と伝える。
カオルは、とある研究室へ向かい、「審議会のメンバーについて相談したい」と、MICHI(ミチ)という人物に接触していた。
第2話の感想
第2話は、原作漫画の「ベスト」と「ミチ」いうエピソードが組み合わさったエピソードになっていました。
ヒューマノイドのリサ表現がやや過剰(お腹を空かせて顔を真っ赤にさせるなど)の印象もありましたが、それがあるからこそ、ヒューマノイドの専門医である須藤が、自分に好意を寄せまくっている“ザ・看護師”のリサを近くに置いていることの気味悪さが浮き彫りになっています。
それを、以前は男だったカオリに指摘されるところも対比になっていて好きな場面です。タイトルを「成長限界」に変更しているところも良かったですね。
第3話『心の在処』
©山田胡瓜(秋田書店)/AIの遺電子製作委員会2023
「ポッポ」「ジゴロのジョー」
ある女性のヒューマノイドが死体を埋めながら、「私は悪くない」と言葉にする。
シズカというヒューマノイドは、女性を喜ばせるために作られたジョーという恋人ロボットと7年一緒に暮らしていたが、「好きな人ができた」と涙ながらに伝える。
壊れたクマのぬいぐるみ型ロボット・ポッポを修理した須堂。持ち主の少年・ケンジは大喜びするが、母親はポッポに強く感情移入する息子を心配していた。
すると後日、ケンジがポッポを抱えて一人で再び須藤新医院へやってくる。ポッポには「ユキちゃん」という前の持主のデータがメモリ内に残っており、修理の際にそのデータが復活してしまっていた。
しかし、ケンジはユキのデータを消去せず、ポッポと2人で公園に家出していた。ケンジは、シズカがジョーの恋人ロボットサービスの利用を終える様子を目の当たりにする。
ケンジはポッポがロボットであることを理解しながらも葛藤していた。その後、ケンジが疲れて公園で寝てしまうと、心配したポッポが周りの人に助けを求めようとして車に轢かれてしまう。
ポッポは大きく破損してしまうが、ケンジの母はポッポがケンジのために行動したことを理解し、須藤のもとへ修理を依頼する。
ポッポが修理されて元に戻ると、ケンジと母はポッポを連れてユキの墓参りをする。ポッポは、ある時突然ユキと会えなくなったという話に涙を流していた。
シズカが「ジョーのことを忘れられない」と須藤の元にやってくるが、須藤は治療の出番ではないと伝えて帰す。とあるマンションの一室では、女性の前に派遣されるジョーの姿があった。
第3話の感想
第3話は「ポッポ」と「ジゴロのジョー」というエピソードを組み合わせた内容になっていました。
原作漫画でも、それぞれ単体のエピソードとして面白いのですが、アニメではケンジとポッポの物語を主軸にして、ジョーとシズカの様子を上手く切り取って組み合わせているのが見事。
ケンジとシズカ、それぞれがぬいぐるみロボット、恋人ロボットという「感情を持たない」対象に強い思いを抱いている様子を丁寧に描いていました。
第4話『4つのケース』
©山田胡瓜(秋田書店)/AIの遺電子製作委員会2023
「妄想マシン」
リサは須藤の健康診断に協力し、血液を採取しながら、須藤が他人に対して好意を抱いたりするのだろうかと考えていた。
リサの友人の三好レオンは、自分の好きな人物・シナリオでAIがドラマを作り上げる「なりきりジェネレーター」を使ってリサの気になる須藤のドラマを作って見せるが、リサは困惑する。
リサは本物の須藤がいいと伝え、三好レオンの家から帰ろうとしていた。レオンはリサと自分のドラマも作ったと冗談めいて伝えると、リサは笑って帰っていく。レオンはその後ろ姿を寂しそうに見つめていた。
そんな中、須藤は自分の血液を別の用途のテストに使おうとしていた。
「痛恨の混濁」
高校生の野崎は、好きな人物の写真をAIに学習させてキャラクターとして召喚できる恋愛VRゲームに手を出していた。野崎は同じクラスで好きな女性の佐々木の画像をゲームに使用する。
自分のことを好いてくれる「ナナ」という名前のVRキャラとデートを繰り返し、ゲームにハマっていく野崎。ある時、佐々木から映画デートに誘われ、勢いで告白すると受け入れられ、2人は実際に付き合うことになる。
しかし、高揚するあまり佐々木と「ナナ」を間違えて呼んでしまい、ゲームで彼女を使用したことがバレて振られてしまう。野崎は落ち込むが、ゲームのナナは常に自分の味方であることを感じ、後ろめたさも感じなくなっていた。
「ボタン」
ヒューマノイドの豊田ヒデと彼女のカヨは、ヒデの度重なる浮気で破局の危機に瀕していた。ヒデは自分を変えるため、須藤に依頼し、耳の裏に押すと理性を漲らせる「賢者ボタン」を設置する。
それ以降、ヒデは誘惑に負けずに浮気でカヨを泣かせることはなくなった。しかし、ある日、カヨに好きな人ができたと別れを告げられる。
ヒデとカヨをつなぎとめていたのは、恋心ではなくカヨの嫉妬心だったことが判明し、ヒデはスイッチを取ることにする。
第4話の感想
第4話は、25分のアニメに3つのエピソードを入れ込んだオムニバス。笑えるエピソードでまとめながらも、VRと現実との隔たりを描き、人間の感情の複雑さを感じさせます。
原作でもそうでしたが、「賢者ボタン」を押した後の理性が漲ぎる場面は、大友克洋『童夢』のじいさんのオマージュと思われる一コマ。
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現実社会でも、スマホやネットの普及でアダルトコンテンツへ容易にアクセスできることで「インターネットポルノ中毒」が問題視されていたりするので、他人事ではない話です。
リサへの密かな思いを抱えるレオンの寂しい感情もよく伝わり、このシリーズの幅の広さを感じるエピソードになっていました。
第5話『調律』
「Post-truth」
ヒューマノイドの松村は、妻と子供と平穏に暮らしているが、ボーっとしたり不眠である悩みを抱えていた。そんな夫を心配した妻のアドバイスで、須藤の診療を受ける。
妻は、松村が毎月、多額のお金を“おじさん”という「お世話になった慈善団体への寄付」という名目で振り込んでいることを明かす。
須藤は、松村が6年前に違法な治療で記憶を書き換えられ、その記憶を消されていることを発見し、昔の知り合いに会いに行くと病院を後にする。
須藤はかつての知り合いの瀬戸を訪ね、松村にどんな治療を施したのかを問いただす。松村はネットポルノやアルコールに依存しており、立ち直るために瀬戸のもとを訪れていた。
瀬戸は松村の記憶を書き換え、“おじさん”という「人生の支え」を創作するという治療を行っていた。後遺症を心配する須藤に対して、瀬戸は副作用は仕方ないと須藤に症状を抑えるように任せる。
瀬戸は須藤がモッガディートとして活動していることも知っている様子で、もっとウソに寛容になれと伝える。
須藤の治療を受けた松村は無事に不眠が改善するが、須藤は記憶が改ざんされていることは伝えず、やり場のない感情を残す。
「ピアノ」
ピアノが得意である小学生のユウタは、感情が抑えられず、たびたび学校でケンカしてしまうことに悩み、母親とともに須藤の診断に訪れる。
ヒューマノイドであるユウタには、情緒のメカニズムを微調整する治療が提案されるが、一度考えてから改めて相談することに決める。
その後もユウタは、母親や同級生に感情的になり、怒りを抑えられず、治療を受けることに決める。
治療後は苛立つことも少なくなり、同級生とも仲良くすることができるようになる。ユウタから治療前の演奏データをもらった須藤とリサは、張り詰めたようなピアノの音色に聴き入る。
治療後のユウタは、ピアノの音色が治療前の自分のものとどこか違っているような感覚を覚えていた。
第6話『ロボット』
「山の鍛冶屋」
須藤は知り合いの大学の教授の研究室を訪れ、鍛冶屋に弟子入りしたロボットの修復を行う。
有田研究室は、AIを活用した伝統工芸技術の記録と継承を進めており、半年前に山奥で鍛冶屋を営む桐山鍛冶店を訪れた。
そこで鍛冶職人の桐山に頼み込み、研究室のAIロボット「覚える君」を弟子として学ばせてもらうことになる。
桐山のもとで一週間学んだ覚える君は、見事な包丁を鍛え上げて桐山を驚かせる。翌日、桐山は普段よりも早く鍛冶場に立ち、覚える君から刺激を受けたのか「もっといいものが作れる」と笑顔で伝える。
「半年がいっぱい」
介護AIを開発する須藤の知り合いは、須藤に推薦してもらい、産業AIに人生経験を積ませて経験値を得るため、小学校にケアロボットの「パーマ」を入学させる。
パーマはネット上からAIが監視しているため、生徒と揉め事が怒る心配はない。パーマは生徒たちからすぐに人気となり、学習スピードも段違いで成長していく。
パーマはほかの学校にも入学しており、それらがネットを通してつながり、経験を共有していた。ある時、パーマは別の学校でいじめられたのか、落ち込んだ様子を見せていた。
ササやんたちは、パーマを縄跳びに誘い、一緒に遊ぶが、パーマが気を使っていることを察していた。その後、夏休みが過ぎて再会すると、パーマは別人のように達観した様子になっていた。
パーマはササやんが誘ってくれた縄跳び遊びをした時間が、半年間で一番素敵な時間だったと伝える。
小学校入学体験でさまざまな経験を得たパーマは、ケアロボットとしての活躍を期待される。
第7話『人間』
「元通り」
青少年育成団体「心の和」で世話人を務めていた後藤賢治は、フィールドワーク中の不慮の事故で昏睡状態となり、治療には超AIミチによる治療が最も望ましいとされた。
しかし、超AIによる治療は賢治が嫌がっていたことであり、家族は対応を考えていた。そんな中、孫娘リオンの歌声によって賢治の傷ついた回路に人間性が戻ってきていた。家族はその様子を動画配信サイトで投稿する。
人権団体ヒューマノイドライツジャパンの掛居は、須藤のもとを訪ねて治療を打診する。賢治は須藤による検診を受け、問題なく治せることが判明するも、家族は治療を受けるか迷っていた。
掛居は、家族が歌手を目指す孫娘リオンのために賢治を動画のコンテンツとして利用していると訴えるが、須藤は決める権利は家族にあると返答する。
掛居は後藤の家族に連絡を取り、家族は最終的に治療を受けることに決める。治療後、賢治が暴れまわる様子を見て掛居は須藤の治療ミスを指摘するが、家族はそれが家族の知る賢治の姿だと言い、須藤に感謝を伝える。
掛居は、須藤に自分は間違っていないことを尋ねるが、須藤は医者として患者のために全力で治療するだけだと答える。
「謝罪」
カスタマーサービスで仕事をする男性は、顧客からのクレーム対応にストレスが蓄積して限界を迎えていた。須藤に診察し、ストレス感情を切ってもらえないか尋ねるが、須藤は調整はできるが完全に切ることはできないと言う。
男は仕事を辞めようと上司に伝えると、上司はカスタマーサービスの人間を外部のプロに委託したことを明かし、今後は悪質なクレーム対応に応じる必要がなくなったことを伝える。
男は外部のプロたちの対応が気になり、同伴することにする。クレーマーの顧客の家を訪れた外部のプロの2人組は、顧客の前で部下が失礼な態度を取り、それを上司が暴力的に抑え込む様子を演じる。
委託業者はスケープゴートを仕立てることで顧客の怒りの矛先をコントロールしたのだった。その様子を見た男は、人間性の放棄だと驚き、彼らが人間であることを尋ねるが、「企業秘密」と答えられる。
男は人間でもロボットでも気が晴れるわけでないと須藤にその話を伝える。須藤はミチがアップデートされたとしても、簡単に悩みが解決されるほど単純ではないとリサに伝える。
第7話の感想
第7話は第3巻に収録の「元通り」と「謝罪」のエピソード。
第6話の「ロボット」というタイトルに対して「人間」というタイトルでまとめる構成が見事。問題のある人間性を取り戻すことになった家族の葛藤、カスタマーサービスでのクレーマー対応を通して人間性について考えさせます。
最後の須藤の言葉のように、超高度AIが進歩しても人間の悩みが一発解決するほど単純ではないです。治療や対応を完璧にしたとしても、根本的な人間性の問題提起を投げかける良いエピソードでした。
第8話『告白』
「ホワイトデー」
リサはバレンタインデーに手作りチョコを作り、須藤にプレゼントする。須藤は味に対する感想は明言せず、リサが一生懸命作ったというストーリーをまとめて食べることが人間の暮らしだと感謝を伝える。
翌月、須藤はホワイトデーにお返しにケーキを作り、リサにプレゼントする。リサはケーキの美味しさに感動し、店を尋ねるが、須藤は自分で作ったことは明かさないではぐらかしていた。
「2つの告白」
2年前にボランティアで知り合ってからリサの友達である三好レオンが、恋愛感情を捨てたいと須藤のもとを受診する。ヒューマノイドである彼女はコントロールできない恋愛感情に振り回されることを無駄だと言う。
レオンはサバサバした性格から「サバちゃん」という愛称で呼ばれている。リサは、レオンがあまり自分のことを明かさないこと、須藤のもとを受診したことが気になり、レオンに本音を尋ねる。
すると、レオンはリサに片思いしていることを明かす。リサは友達でいることを確認するが、レオンは涙ながらに今すぐ同意することはできないと伝える。
リサはレオンが恋愛感情を取り払う施術をする日まで、彼女と会話できずにいた。須藤の助言で触発されたリサは、恋愛感情ではないものの、そのままのレオンが好きであることを伝える。
その後、レオンは施術台で須藤に施術を受けるか最終確認をされる。
第8話の感想
第8話は、2巻収録の「ホワイトデー」と4巻収録の「2つの告白」のエピソード。
リサの恋心と彼女の友人レオンの関係を描いています。バレンタインデーとホワイトデーのエピソードでは、市販の完璧なケーキよりもリサが作った不完全なケーキの方が意味があることがよくわかり、須藤が自ら作ったこともそれを意味しています。
一方、リサの友人レオンがクィアであることが明かされ、想いが届かないなら捨ててしまおうと思う様子は、ミシェル・ゴンドリー監督の映画『エターナル・サンシャイン』を彷彿とさせます。
レオンが施術を受けたかどうかは観客に委ねられる形となりますが、レオンがどんな選択をしたとしても、リサがレオンと向き合うことができるかどうかが問われています。
第9話『正しい社会』
「不健全アニメ」
アニメ「闇のブシドー」が、子供たちの間で人気となっている。古風な考えの親元で育った男は、自分の子供には自由に娯楽を楽ませようと思っていた。
しかし、子供が「闇のブシドー」にハマっている様子をみて心配した男は、作者に会いに行き、最低限の倫理ラインを守るように伝える。
一方、作者の小山田茄子は、行儀の良い人間に合わせるほど「悪」は増加すると主張し、対立していく。男は「闇のブシドー」に反対する署名を集めて再び小山田に接触する。
しかし、男が町で不良に肩がぶつかり、喧嘩を仕掛けられてしまう。すると、小山田が代わりに喧嘩して追い払う。自分を助けた小山田に理由を尋ねると、小山田は彼らのような小悪党を描くのが好きだという。
続けて小山田は、悪の陣地が減っていき、ひとつもなくなったとき、残っているのは人間ではなくかつて人間だったなにかだと伝える。その後も小山田はアニメをひとりで作り続けた。
「透明な教室」
人間的な教育方針を掲げる評判の悪い学校にある男が就職する。その学校では、AIの指導支援を使わない方針で、多くのマニュアルや、授業は遠隔で保護者に中継されるなど、教師たちは徹底的に管理されていた。
教師たちは監視の中で生徒たちの交流を恐れ、機械的な受け答えに徹するようになっていた。男は、ある時、特選を受賞した子供にジュースを振る舞ったことで問題扱いされて咎められる。
男は須藤のもとを受診し、学校を辞めてフリースクールの手伝いを始めることになった。その場所では、介護用ロボットAIの「パーマくん」が、教育現場で信頼できる存在とされていた。
第9話の感想
第9話は7巻収録「不健全アニメ」と8巻収録「透明な教室」のエピソード。2つのエピソードに共通するのは「倫理」。人間的な教育や倫理的な正しさを追い求めることで、返って人間性を失っていく皮肉を描いています。
表現の自由と倫理ライン、教育現場での学校と保護者の関係性は、まさに現代社会での問題ともリンクします。
第10話『来るべき世界』
「妄想」
ヒューマノイドの医師である五本木テツヤが、女性の殺人容疑で逮捕される。五本木は自ら自分の電脳を改造し、取り調べに須藤が専門家として参加する。五本木は、超高度AIによって人間が感知できないレベルで支配されていることを主張する。
リサは、妄想で殺人を犯した犯人に対して恐怖感を覚えるが、須藤は「超高度AIの見えざる手が人間を支配しているというのはもっともな不安」と言う。
その理由として、超高度AIの運用は理解ではなく、経験則による信頼でなりたっているからと言う。
「救いの教え」
スピリチュアル業界の著名人、勅使河原唄子について取材している中野記者は、稼いだ金で自身の延命技術を試していることを本人に指摘する。
勅使河原は、須藤の大学の友人であり、ヒューマノイドの電脳的な老化について研究する優秀な研究者だった。彼女は科学を信じつつも、人間が別の救いを求めることは問題ないないと主張する。
中野記者は、勅使河原の支持者たちが彼女のおかげで穏やかな気持ちで生きられると語っていること、自分の考えもすべて記事にすることを決意する。
第10話の感想
第10話は5巻収録の「妄想」と7巻収録の「救いの教え」のエピソードでした。
この2つのエピソードでは、超高度AIに対する疑念と人間が求める救いについて描かれています。現代ではシンギュラリティについて議論が盛んに行われていますが、この世界ではすでに超高度AIが浸透している社会。
AIやインターネットが急速に普及する一方、誤った情報の拡散力も凄まじく、進歩と表裏一体の影の部分についての上辺をなぞるようなエピソードです。
第11話『トゥー・フィー』
「トゥー・フィー」
リサの家の前に、妹を名乗る女性が現れる。彼女は同じ母にインドで育てられたと明かす。
同じ親のつながりがあるフィーを受け入れたリサは、彼女と一緒に生活するようになる。フィーは父親の所有物だったことを明かし、リサを羨ましいと感じていた。
ある時、フィーのもとに警察がやって来る。すると彼女はリサがフィーであると主張し、脳紋を調べるように訴える。須藤のもとで脳紋を調べたところ、リサとフィーの脳紋は完全に一致する。フィーの父親がリサの脳をコピーしたのだった。
フィーは父親を殺していたことで捕まり、面会したリサに対して「どうして自分だけが悪いの」と怒りと悲しみを訴える。
「旅立ち(1)」
10年前、リサは海外旅行中に事故で母親を亡くし、須藤は電脳を新たなボディにセットしたが、髪の色が母親と違っていた。リサの父親はリサを儲けてすぐに蒸発し、母親は父親と似た髪色のリサを嫌がり、作り替えていた。
リサは両親の都合で自分が作られ、作り変えられ、勝手に死んでいったことに怒りをあらわにする。須藤はリサを似た者同士という理由で気にかけ、そこから2人の関係が始まっていた。
須藤はカオルから、ミチの大規模改修プランのメンバーに誘われる。ミチは須藤の母親の電脳コピーした個体がいる場所の情報を掲げて須藤に参加してもらうように打診する。
その夜、須藤はリサを食事に誘う。須藤はリサにこれまで助けてもらったことに対する感謝を伝え、自分の母親を探す旅に出るために、別れを切り出す。
第11話の感想
3巻収録の「トゥー・フィー」と8巻収録の「旅立ち」を合わせたエピソード。
コピーされた母親の電脳を探す須藤と、両親に勝手に電脳をコピーされていたリサ。原作とは異なり、トゥー・フィーがリサの物語になっており、彼女のルーツをより肉厚なものにさせています。
第12話『旅立ち』
「旅立ち」
須藤は刑務所にいる母親に面会し、瀬戸に須藤医院を譲り、リサを引き続き雇うように伝える。
カオルはミチの行動を理解できずにいた。須藤を必要だと言う一方で、母親を探す須藤に危険が及ぶ可能性が高いことも承知であるからだ。それに対してミチは、苦難の先に須藤が選ぶ答えが知りたいという。
リサは後任となる瀬戸の考え方に賛同できず、一緒に働きたくない気持ちをあらわにするが、須藤医院のAIのジェイが、須藤管理のもとでサポートすることを知り、リサは働きながら今後について考えることにする。
須藤は旅立ち前に患者たちのメンテナンスを訪れる。須藤は母親のバックアップをした患者の娘から、感謝を伝えられる。
その後、旅立つ前の空港でリサが見送りをする。リサは、須藤がどんな母親の姿と遭遇しても、須藤のままでいてほしいと伝える。
須藤はリサにハグし、他人と言ったことを謝罪し、別れを告げて旅立っていく。
第12話の感想
『AIの遺電子』の全12話が完結しました。原作の数あるエピソードの中から、似たテーマでピックアップしてまとめる構成はオムニバスアニメとして良かったです。
派手さのないシリーズですが、短いエピソードで近未来のテクノロジーと人間の関係性をバラエティに富んだ切り口で描く魅力がアニメにも生きていたように感じます。
一見すると冷たく見える須藤も人間の医者としての役割、自分のできることに向き合っていて、一見するとおバカっぽいキャラ造形のヒューマノイドのリサも自分の芯がしっかりした女性として描かれています。
次のシーズンも映像化してほしいと思えるアニメでした。