今回ご紹介する作品は『ブラック・ダヴ』です。
本記事では、Netflixドラマ『ブラック・ダヴ』を観た感想・考察、あらすじをネタバレありで詳しく解説します。
人間味のあるキャラクターが印象的なスパイドラマです!
作品情報・配信・予告・評価
ネタバレあり
以下では、ドラマ『ブラック・ダヴ』の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
スパイのヘレンと殺し屋のサム
『ブラック・ダヴ』の物語は、ロンドンの夜に起きた3人の人物の殺害事件から幕を開けます。犠牲者となったのは、タブロイド紙の記者フィリップ、宝石店の店員マギー、そして司法省に勤務していたジェイソンです。
この事件と深く関わるのが、本作の主人公の一人であるヘレン・ウェッブ(キーラ・ナイトレイ)。彼女はイギリス国防長官ウォレス・ウェッブの妻であり、双子の母親という顔を持ちながら、「ブラック・ダヴ」と呼ばれる秘密諜報機関に所属するスパイでもあります。さらに、彼女は被害者ジェイソンの恋人でもあり、不倫関係にありました。ヘレンは長年、政府の機密情報を「ブラック・ダヴ」に提供し続けてきましたが、ジェイソンの死によって、彼女と組織の存在が露見する危険が迫ります。
この状況を受け、「ブラック・ダヴ」の司令官であるリードは彼女を叱責します。しかし、10年以上にわたる彼女の貢献と家族を持つ彼女の立場から、簡単に見放すことはできません。そこでリードは、ヘレンを守るため、彼女の旧友であり殺し屋サム・ヤング(ベン・ウィショー)を送り込みます。
一方、同じ時期にイギリス国内で中国大使が死亡する事件が発生。この出来事をきっかけに、中国政府はイギリスとアメリカの攻撃と見なして緊張が高まり、物語はさらに複雑な展開を迎えます。
事件の真相そのものシンプルですが、それが引き起こす人間関係や国際的な波紋が絡み合い、ややこしい物語でもある本作。以下で、この複雑な関係性を整理していきます!
中国大使が死んだ理由
物語の鍵を握るのは、中国大使の死因に隠された真実です。その背後には、ロンドンを拠点とする有名な犯罪組織クラーク家の息子、トレント・クラークが関与していました。
トレントは、中国大使の娘であるカイ・ミンに恋をしており、彼女を喜ばせようとヘロインを調達して提供していました。大使は娘を中毒に追い込んだトレントとの関係を断ち切るように強く迫り、二人は激しい口論に。怒りに任せたトレントが大使を突き飛ばしたことで、大使は偶然にも命を落としてしまいます。
慌てたトレントは事態を隠蔽しようと母親でありクラーク家の家長アレックスに助けを求めます。アレックスは警視総監スティーブン・ヤリックを手配し、ヤリックは大使の死をヘロインの過剰摂取によるものと偽装するよう指示。さらに、この情報をイギリス首相にも伝え、クラーク家、警察、政府が一体となって事件を隠蔽する構図が明らかになります。
しかし、中国政府はこの説明に納得せず、大使の死に抗議するとともに独自調査を開始。その過程で、行方不明だったカイ・ミンの自宅付近で、米国大使館へ逃げ込もうとする男性の姿を発見します。彼の名はコール・アトウッド、実はカイ・ミンの恋人でありCIAのエージェントでした。これにより中国政府は、CIAが大使殺害に関与し、イギリス政府がその隠蔽を図ったと判断し、国際的な緊張が一気に高まります。
一方で、父の死を目撃したショックから混乱状態に陥ったカイ・ミンは、ロンドンのヘロイン密売人ヘクター・ニューマンの倉庫に身を寄せます。しかし、ヘクターは彼女がニュースで注目されていることを利用しようと考え、彼女を監禁する決断を下します。
ジェイソン、フィリップ、マギーは誰に殺された?依頼したのは?
中国大使がトレントとの口論の末に事故死する場面は、カイ・ミンの幼なじみであるマギーが仕掛けた隠しカメラにより記録されていました。この隠しカメラは、マギーがカイ・ミンとの個人的なつながりを利用して設置したもので、彼女はその映像を利用して記者フィリップに情報を横流しし、金を稼いでいました。
しかし、この映像の内容を知ったフィリップは、スキャンダルの核心に警視総監ヤリックが関与していると考え、イギリス国防長官ウォレスに密告します。ウォレスはその真偽を確かめるため、直接ヤリックに確認。これにより、ヤリックは隠しカメラの映像の存在を知り、すぐにトレントに連絡を取ります。
トレントは事態の深刻さを理解し、ヤリックにフィリップを尾行するよう指示。そこでヤリックは、フィリップがマギー、ジェイソンと密会し、さらにはジェイソンがヘレンと親密な関係にあることを知ります。この状況を把握したトレントは、自分が追及されるリスクを回避するため、プロの殺し屋エルモア・フィッチを雇い、ジェイソン、フィリップ、マギーの3人を殺害させるのです。
さらに、トレントは別の殺し屋チーム、ウィリアムズとケントに録画機器の回収を命じます。ジェイソンの家で彼らと鉢合わせたヘレンは命を狙われることに。そこにサムが現れ、ヘレンを助けるとともにケントを殺害し、危機を乗り越えます。
物語はさらに緊張感を増し、ヘレン自身もフィッチの襲撃を受けます。しかし、彼女はスパイとしての経験を活かし、見事にフィッチを返り討ちにして彼を殺害。こうして、ヘレンは自身の命を守りながらも、複雑に絡み合った事件の核心に迫っていくのです。
この展開で、ちょっと気になる点もあるんですよね!
ジェイソンの正体は何者だった?
ヘレンの不倫相手であり、彼女が「愛」と信じていたのがジェイソンです。表向きは司法省に勤める公務員だった彼ですが、物語の最終話で実はMI5(英国情報局保安部)のエージェントだったことが明らかになります。
ジェイソンは、カイ・ミンを利用して利益を得ていたマギーを情報源として活用するために接触したMI5のエージェントでした。彼に課せられた任務は、イギリス政府の機密情報漏洩の原因を突き止めること。その過程で、情報漏洩の背後にヘレンの存在があると疑いを持ったジェイソンは、彼女に意図的に接近します。
やがて二人は恋人関係に発展しますが、ヘレンはジェイソンへの深い愛情から、「本当の自分」を知ってほしいという思いを抑えきれず、自身がブラック・ダヴの一員であることを明かしてしまいます。しかし、ジェイソンは任務を超えて彼女を守ることを選びました。報告書にはヘレンの正体を記さず、彼女の秘密を守り通したのです。
ジェイソンがMI5のエージェントだったという事実を知ったヘレンは、当然ながらショックを受けます。しかし、彼が秘密を守ったことで、二人の「愛」が偽りではなかったことを確信します。同じように、ヘレンもリードから受け取ったジェイソンの情報が入ったUSBには目を通すことなく、それを捨て去ることで、彼との記憶を尊重し、永遠に心に刻む道を選びました。
ラストでヘレンとサムはどうなった?
ヘレンは、ジェイソンから贈られたブレスレットを手掛かりに、マギーの宝石店に隠された録画データの存在を突き止めます。このデータを武器に交渉を進め、クラーク家に捕らえられていたサムたちを無事に解放することに成功しました。しかし、ジェイソンを殺害した黒幕への怒りは消えていません。
そしてヘレンは、ジェイソン殺害の指示を出したのがアレックスではなくトレントであることを知ります。この事実に激怒したヘレンは、トレントを殺害しようとしてクラーク家と衝突。一触即発の状況に陥りますが、そこでサムが彼女の復讐を肩代わりします。サムはアレックス、トレント、そしてそのボディーガードをすべて殺害し、ヘレンの手を汚さずに復讐を完遂させたのです。
ジェイソンが命をかけてヘレンとの「不倫愛」を守り、彼女の秘密を明かさなかったことは、ヘレンにとって大きな意味を持ちました。彼の行動によって救われたヘレンは、ブラック・ダヴの掟を破りながらもスパイ活動を継続する道を選びます。そして、夫のウォレスが次期首相に選出されたことで、彼女はファーストレディという新たな立場でスパイとしての活動を続けることが示唆されます。
一方、サムは自分の行動がマイケルに迷惑をかけたことを悔い、彼から身を引く決意をします。さらに、アレックスとトレントを殺害したことで、クラーク家の報復を受ける可能性が高まったため、自身の安全も危ぶまれる状況に。しかし、その彼の前に現れたのが、二度に渡って殺さずに見逃したヘクターでした。ヘクターは、サムの能力を信じ、彼を身辺警護に雇う代わりに新たな仕事を提供することを提案。サムはこの提案を受け入れ、危険な世界で新たな道を歩み始めます。
その頃、ブラック・ダヴのリーダーであるリードのもとには意外な人物が姿を現します。それはウォレス家で家事代行を務めていたマリーでした。実は、ヘレンを密かに監視していたのは彼女だったのです。続きはシーズン2へ…!
【ネタバレ感想】二重生活の葛藤を丁寧に描いたスパイ作品
「ロンドンを舞台にしたスパイ・アクションドラマ」と聞いただけで観る価値がありそうだと感じるのは、私だけではないでしょう。
Netflixの新作ドラマ『ブラック・ダヴ』は、クリスマス前のロンドンを舞台に、イギリスらしい皮肉とユーモアが散りばめられたスパイ・アクションです。主演は、イギリスを代表する俳優キーラ・ナイトレイとベン・ウィショー。特にベン・ウィショーの皮肉めいた台詞回しとイギリス英語には、観ていてクセになる魅力がありました。
本作の大きな見どころは、「スパイ活動とプライベートの両立」というテーマです。
主人公ヘレンはスパイとして、サムは殺し屋としてそれぞれの秘密を抱えながら、家族や恋人との関係を維持しようと葛藤します。その中で国際社会を揺るがす事件や陰謀が次々と絡み合い、彼らの選択肢をさらに狭めていきます。特に印象的なのは、ヘレンとサムが人間的な弱さや失敗を抱えながらも、それをお互いに補い合い、国家的危機と個人的問題の両方に全力で立ち向かう姿です。
一方で、このドラマはプロットの粗雑さも目立ちます。たとえば、時系列の混乱を招く描写や、ロンドンの街中で銃撃戦を繰り広げる非現実的な展開、さらには英国政府が保身を優先し、米中間で戦争を誘発しかねない危険な行動など、ツッコミどころが多いのも事実です。
全6話というコンパクトな構成ながら、絡み合った複雑な人間関係を解いていくと、拍子抜けするような真相が待っています。
注目すべきは、すでにシーズン2の製作が決定していること。Netflixでの全世界配信開始(2024年12月5日)を前にこの判断が下されるのは異例ともいえる形です。
とはいえ、シーズン更新が本当に必要だったかどうかは意見が分かれるところ。
シーズン2では、ウォレスが首相に就任することで物語のスケールがさらに大きくなることは間違いありません。そうなったときに、本作の大味っぷりから想像するに、ありがちなスパイドラマのような型にはまってしまわないか心配でなりません。