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アップルサイダービネガー

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海外ドラマ

【衝撃の実話】Netflix『アップルサイダービネガー』インフルエンサーの嘘と末路

SNSの黎明期、「がんを克服した奇跡のインフルエンサー」として、健康ブームの波に乗り、一躍スターダムにのし上がった女性がいた。しかし、その感動的な物語は、すべてが嘘だった——。

彼女の名はベル・ギブソン。末期の脳腫瘍を自然療法で治したと語り、書籍を出版し、アプリをヒットさせ、多くの人々を魅了した。しかし、彼女が語る「奇跡」には、医学的な証拠が一切なかった。SNSの光の中で輝いていた彼女の嘘は、やがて崩れ落ちていくことになる。

今回紹介する作品は、Netflixドラマ『アップルサイダービネガー』だ。

このドラマは、メル・ギブソンがどのようにウェルネス業界で名声を得て、そしてどうやって嘘が暴かれたのを描く「実話を基にしたフィクション」だ。

ドラマのタイトル『アップルサイダービネガー』は、健康ブームの中で万能薬のように語られるリンゴ酢を指している。「飲めば健康になれる」と信じる人が多いように、ベル・ギブソンの作り上げた「自己治癒の神話」もまた、多くの人々を魅了したのだ。

余談だが、ブロガーなら周知の事実のひとつである「YMYL(Your Money or Your Life)」という概念。これは、健康・医療・金融など、読者の生活や命に直結するジャンルを扱う際、特に正確な情報が求められるというGoogleの方針だ。

そして、このドラマこそまさに「YMYL詐欺」の極み。医学的根拠のない健康法を広め、フォロワーを信じ込ませることで成功を手にしたギブソンは、例えるなら「フェイクニュースでPV稼ぎを狙う悪質サイト(orアカウント)」のような存在と言える。

本記事では、ドラマを深く理解するためにも、何が起こったのか、その元ネタとなったベル・ギブソンの実際の物語を解説するとともに、ドラマが描くテーマについて考察していく。

まめもやし
まめもやし

主演は青春名作映画『ブックスマート』のケイトリン・デヴァーです!

作品情報・配信・予告・評価

『アップルサイダービネガー』

アップルサイダービネガー

あらすじ

Instagram誕生の初期、ヘルス&ウェルネスを通じて世界中のオンラインコミュニティに影響を与え、自身の命に関わる病気を治そうとする2人の若い女性がいた。すべてが真実であれば、大変な感動を巻き起こすはずだったが...。

5段階評価

予告編

↓クリックでYouTube が開きます↓

作品情報

タイトルアップルサイダービネガー
原題Apple Cider Vinegar
監督ジェフリー・ウォーカー
脚本サマンサ・ストラウス
アーニャ・ベイヤースドルフ
アンジェラ・ベッツィエン
出演ケイトリン・デヴァー
音楽コーネル・ウィルチェク
製作国オーストラリア
製作年2025年
話数全6話

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脳腫瘍を克服したインフルエンサー”としての成功

2012年、Instagramが急成長する中で、一人の若い女性がウェルネス業界の新たなスターとして脚光を浴びた。彼女の名はベル・ギブソン。彼女は、自身のInstagramアカウント(現在は削除済み)「@healing_belle」(癒しのベル)で、「脳腫瘍を自然療法で克服した」という驚くべき物語を発信し、多くのフォロワーを獲得していった。

彼女のストーリーは、人々の心をつかんだ。

「医者から『余命4ヶ月』と宣告された」
「化学療法や放射線治療を拒否し、食事療法や代替医療で回復した」
「私が生きているのは、オーガニック食品と自然治療のおかげ」

こうした言葉とともに、スタイリッシュで健康的なライフスタイルを見せつける投稿が並んでいた。彼女のSNSには、カラフルなスムージー、ヴィーガン料理、ヨガや瞑想の写真が投稿され、彼女自身も健康的な美しさを誇っていた。

健康ビジネス業界の新星

ギブソンの発信は瞬く間に広まり、2013年にはInstagramのアカウント解説から1年を経たずに20万人以上のフォロワーを獲得する(ドラマでは200万人と脚色されている)。その後の2013年8月、ベルは21歳にして自分の「奇跡の回復」を基にしたレシピアプリ『The Whole Pantry』を開発。

このアプリは、健康的なレシピやライフスタイルガイドを提供するもので、たちまち大ヒット。Apple Storeで「ベストフード&ドリンクアプリ」に選ばれ、翌年には世界最大の出版社であるペンギン・ランダムハウスと書籍化契約を結び、料理本を出版。彼女は一躍、ウェルネス業界のカリスマとなった。

「奇跡の回復」の裏にある嘘

しかし、彼女の成功は、ある一つの大きな嘘の上に成り立っていた。

ベル・ギブソンにはそもそも脳腫瘍などなかったのだ。

彼女の病歴には矛盾が多く、具体的な診断書や証拠は一切出てこなかった。にもかかわらず、「末期のがんを克服した健康の伝道者」としてメディアに取り上げられ、ウェルネス業界で絶大な影響力を持つようになった。

その結果、ギブソンは多くのフォロワーを獲得し、病に苦しむ者たちの「希望の象徴」として崇められた。彼女の発信を信じ、同じように食事療法に頼るがん患者も現れた。医療の力を借りずに、彼女のように「奇跡の回復」を目指す人々。もちろん自分の意思でそれを選択しているのだ。

だが、彼女の影響が広がるほど、その嘘がもたらす影響も大きくなっていった。ひとつ嘘をつけば、それを隠すために新たな嘘を重ねるしかなくなる。そして、ついに彼女の砂上の楼閣は音を立てて崩れ始めることになる。

どのようにしてベル・ギブソンの詐欺は暴かれたのか

ウェルネス業界のスターとなったベル・ギブソンの栄光の日々は長くは続かなかった。2014年後半から2015年にかけて、いくつかの疑念が浮上し、ついに彼女の嘘は暴かれることとなる。

最初に疑問を抱いたのは、身近な友人だった

2014年、ギブソンの友人であるシャネルは、彼女のがんの話に疑念を抱き始めた。ギブソンの話は一貫性がなく、病状の進行や治療内容が変わることがあった。また、「彼女は病人には見えない」という点も気がかりだった。

ある日、ギブソンは息子の誕生日パーティーの最中に発作を起こした。しかし、彼女は救急車を呼ぶことを拒み、病院にも行かなかった。この不可解な行動を目の当たりにしたシャネルは、ギブソンの病気に関する嘘を確信する。彼女を問い詰めるために、別の友人とともにギブソンの家を訪れた。

「本当に医者から診断を受けたの?」

問い詰められたギブソンは、涙を流しながら話をはぐらかし、確たる証拠を示すことができなかった。この瞬間、シャネルはギブソンの嘘を確信し、ジャーナリストに内部告発することを決意した。

「チャリティ詐欺」の発覚

2015年3月、オーストラリアの新聞『The Age』のジャーナリスト、ボー・ドネリーニック・トスカーノは、ギブソンに関するスクープ記事を掲載した。

彼らはギブソンの慈善活動の実態に注目し、彼女が「チャリティのために集めた」と主張していた寄付金が、一切寄付されていないことを突き止めた。

ギブソンは「アプリの収益の一部をがん患者のために寄付する」と公言し、多くの寄付を募っていた。特に、脳腫瘍を患う少年の治療費として全収益を寄付するとして話題になったが、実際にはその少年の家族に1セントたりとも送金されていなかったことが明るみに出た。

にもかかわらず、ギブソンは高級住宅とオフィスを借り、高級車に乗り、美容歯科治療を受け、ハイブランドの服を身にまとって海外旅行に出かけるなど、浪費的な生活を送っていた。彼女は慈善事業のために集めた金で豪遊していたのだ。

『The Age』の報道を受け、疑念を持った人々が次々と彼女の過去の発言を調べ始める。そして、ついに核心に迫る疑問が浮上することになる。

「そもそも彼女は本当にがんだったのか?」

医学的矛盾と専門家の指摘

ジャーナリストたちは、ギブソンが過去に語っていたがんの進行や治療経過を専門家に分析してもらった。その結果、彼女の語る症状や治療の詳細が医学的にあり得ないことが判明する。

例えば、ギブソンは「化学療法を受けずに脳腫瘍が消えた」と主張していたが、専門家によればそのような自然治癒の事例は報告されていない。さらに、彼女がSNSに投稿していたMRI画像は別の患者のものである可能性が高かった。

この時点で、ギブソンの嘘はほぼ確定的となった。

テレビのインタビューで露見した嘘

報道が加熱する2015年4月、ギブソンはメディア『The Australian Women's Weekly』のインタビューを受け、自身の疑惑について終始曖昧な態度を取り、決定的な証拠を提示することができなかった。

インタビューで露見した矛盾

  • 「誤診された可能性がある」 → しかし、診断書は一切公開されず
  • 「騙すつもりはなかった」 → だが、寄付金詐欺の件については説明できない
  • 「みんなのために良いことをしていた」 → しかし、実際には大金を稼いでいた

彼女は最終的に「私は本当に病気だと信じていた」と弁明するが、当然、世間からは「自己欺瞞の詐欺師」という評価を受けることになる。

ウソ発覚後の後始末と裁判

ギブソンの嘘が公になった直後、当然、関係企業は次々と彼女との契約を打ち切った。

  • ペンギン・ランダムハウス → 彼女の書籍『The Whole Pantry』を絶版に
  • Apple → スマートウォッチ向けアプリ開発契約を破棄
  • The Whole Pantry → アプリをApp Storeから削除

そして2017年、オーストラリア連邦裁判所はベル・ギブソンを「誤解を招く行為」で有罪とし、約41万オーストラリアドル(約3,800万円)の罰金を命じた。

しかし、彼女にはすでに資産がほとんど残っておらず、2025年の時点でも罰金の大部分は未払いのままとなっている。

ベル・ギブソンのその後と現在

罰金の未払いが続く中、2020年1月22日、ビクトリア州保安官事務所はギブソンの自宅を捜索し、資産差し押さえを実行。その後の2021年5月にも再び家宅捜索されるも、彼女は依然として未払い状態のまま逃げ続けている。

そんな中、彼女が世間を再び騒がせたのが、2019年の「オロモ人への成りすまし」騒動だ。突如として「自分はエチオピア系オロモ人」であると主張し、メルボルンのオロモ人コミュニティに接近した。

「サボントゥ」という名前を使い、オロモ語を話しながら、エチオピアの政治状況について語る動画まで公開された。しかし、実際には彼女はオロモ人ではなく、コミュニティのリーダーであるタレケグン・チムディ博士から「彼女は一員ではない」と公式に否定された。

2025年現在、ベル・ギブソンは公の場にはほとんど姿を見せていない。

  • SNSアカウントは削除され、オンラインでの活動はほぼゼロ
  • 一部のジャーナリストが彼女の行方を追っているが、詳細は不明
  • 罰金未払いのまま、政府機関が引き続き回収を試みている

ジェス・エインスコウとの違い

『アップルサイダービネガー』では、病気を偽っていたベル・ギブソンと、本当に病と向き合いながら自己治癒の可能性を発信したミラというキャラクターが、対照的に描かれている。

このミラという人物は、同じくオーストラリアのウェルネス業界で影響力を持っていたジェス・エインスコウをモデルにしているが、ドラマのようなライバル関係はなく、二人に大きな確執はなかった。

一方で、インフルエンサーの二人が対比して描かれることで、その歩んだ道は決定的に異なっていた。

エインスコウは22歳で珍しいがんと診断され、従来の治療を拒否し、ゲルソン療法を実践。これは食事療法を中心とした代替医療で、彼女はその効果を信じ、発信を続けた。しかし、最終的に病状は悪化し、2015年に29歳で亡くなった

彼女の母親もまた、娘と同じ療法を選択したが、2014年にがんで命を落としている。結果的に代替医療は医学的な成功には至らなかったが、エインスコウ自身は「自分の信じる道を歩んだ」ことに偽りはなかった。

対して、ベル・ギブソンは最初から病気ですらなかった。それなのに「がんを克服した」と嘘をつき、ウェルネス業界でのし上がった。この違いは決定的だ。

ギブソンとミラの対比は、健康ビジネスとSNSの危うい側面をより際立たせる演出となっている。

『アップルサイダービネガー』は、単なる詐欺の暴露にとどまらず、SNS社会の現代において、「私たちは何を信じるべきか?」という根源的な問いを投げかけている。

まとめ:人々はなぜ騙されてしまうのか

Netflixドラマ『アップルサイダービネガー』は、単なる詐欺事件の再現にとどまらず、SNSとウェルネス業界の危うさを描いた作品だ。ベル・ギブソンの物語は、「人々がなぜ嘘を信じるのか?」という根本的な問いを投げかけている。

恐ろしいのは、医師の診断や科学的根拠に基づく治療よりも、「個人的な体験談」や「奇跡の回復ストーリー」のほうが、人の心に響きやすいという現実。

その結果、専門知識のないインフルエンサーが、まるで医療の代替手段のように崇められて、多くのフォロワーが盲信してしまう構図が生まれている。これはSNS社会に生きる私たちにとっても他人事ではない。

ドラマ内でも、出版社の社長がベル・ギブンソンに対して、「物語に価値がある」と話していたのが印象的だった。今後はますます個人が活躍する時代になっていくだろう。確かに、強いストーリーは人の心を動かし、共感を呼ぶ力を持っている。しかし、その物語が真実に基づいているかどうかは別問題だ。情報が溢れる時代において、「魅力的な物語」と「事実の正確性」を見極める力が、今後ますます重要になっていくだろう。

特筆すべきは、このスキャンダルが起きた国・オーストラリア自身が、この事件を題材にしたドラマを制作した点だ。自国で起きた問題を真正面から捉え、エンターテイメントの形で社会に問いを投げかける姿勢は、非常に意義深い。

日本ではこうした「自国の闇」を扱った作品はあまり多くないが、それは文化の違いなのか、あるいは別の要因があるのか。少なくとも『アップルサイダービネガー』のような作品が、社会の反省や議論の場を提供する意義は大きいと感じる。

詐欺師が悪いのはもちろんだが、詐欺が成り立つ背景にも目を向けなければならない。なぜ、彼女のような人物が成功し、多くの人が騙されたのか? それを知ることで、今後同じような被害を防ぐヒントになるかもしれない。

『アップルサイダービネガー』は、エンタメとして楽しめるだけでなく、現代社会に潜む危険をリアルに浮き彫りにした作品である。

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