今回ご紹介するドラマは『リプリー』です。
これまでに繰り返し映像化されているアメリカの小説家パトリシア・ハイスミスによる小説を、アンドリュー・スコット主演でNetflixドラマ化。
本記事では、ネタバレありで『リプリー』を観た感想・考察、あらすじを解説。
主演のアンドリュー・スコットの演技と、白黒なのに美しすぎる映像美に夢中になりました!
『リプリー』作品情報・配信・予告・評価
リプリー
5段階評価
あらすじ
ニューヨークでケチな犯罪に手を染めるトム・リプリーは、裕福な男からヨーロッパにいる道楽息子を連れ戻すよう依頼を受けたことで、思わぬ方向へ向かい始める。
作品情報
タイトル | リプリー |
原題 | Ripley |
原作 | パトリシア・ハイスミス |
監督 | スティーヴン・ザイリアン |
脚本 | スティーヴン・ザイリアン |
出演 | アンドリュー・スコット ダコタ・ファニング ジョニー・フリン |
音楽 | ジェフ・ルッソ |
撮影 | ロバート・エルスウィット |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2024年 |
話数 | 全8話 |
配信サイト
配信サイト | 配信状況 |
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『リプリー』監督・スタッフ・原作
監督・脚本:スティーヴン・ザイリアン
Netflixドラマ『リプリー』で監督・脚本を手掛けたのは、スティーヴン・ザイリアン。
これまでに『レナードの朝』『シンドラーのリスト』『ハンニバル』『マネーボール』『ドラゴン・タトゥーの女』『アイリッシュマン』など、数多くの名作で脚本を執筆し、実話に基づいたドラマや、犯罪ドラマを多く手掛けています。
リズ・アーメッドがプライムタイム・エミー賞のリミテッドシリーズで主演男優賞を受賞したドラマ『ザ・ナイト・オブ』では脚本・監督を手掛け、TVドラマの脚本・監督としては本作が2作目となります。
撮影監督はロバート・エルスウィット。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』で、アカデミー撮影賞を受賞しています。
ちなみに、『シンドラーのリスト』と同様に、モノクロ映像の本作ですが、1箇所だけカラーになっている場面があるのも注目ポイント。
オスカー受賞者による圧巻の物語と映像でしたね!
原作:パトリシア・ハイスミス
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『リプリー』キャスト・キャラクター解説
キャラクター | 役名/キャスト/役柄 |
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トム・リプリー(アンドリュー・スコット) 小切手詐欺などを生業とする詐欺師。ディッキーの父に息子の捜索を依頼されてイタリアへ向かう。 | |
ディッキー・グリーンリーフ(ジョニー・フリン) 裕福な実業家の息子。画家を夢見ながらアトラーニで悠々自適に暮らしている。 | |
マージ・シャーウッド(ダコタ・ファニング) ディッキーの恋人。小説家を志している。 | |
フレディ・マイルズ(エリオット・サムナー) ディッキーの裕福な友人。劇作家。 | |
ピエトロ・ラヴィーニ(マウリツィオ・ロンバルディ) ローマ警察の刑事。事件を捜査してリプリーに近づいていく。 |
ネタバレあり
以下では、ドラマの結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
第1話「見つけにくい男」
思いがけない依頼
第1話は、1961年のローマで、トム・リプリーが死体を引きずって階段を下りる場面から幕を開ける。
ローマでの出来事の6ヶ月前、トムはニューヨークで常習的に詐欺を繰り返して何とか生計を立てていた。ある日、バーで私立探偵から声をかけられ、裕福な造船技師のハーバート・グリーンリーフ氏がトムに会いたいと伝えられる。
トムはグリーンリーフ氏の名刺を受け取りつつ、探偵を追い払う。しかしその後、誰かに尾行されているような感覚に襲われ、結局グリーンリーフ氏に会うことを決意する。
グリーンリーフ氏は、イタリアで放浪生活を送る息子、ディッキーを連れ戻すようトムに依頼する。彼はトムがディッキーと親しいと勘違いしていた。ディッキーは豊富な信託財産を背景に働かずに生活しており、画家になることを夢見ている。
グリーンリーフ氏はトムに経費を支払うことを約束し、その夜、夫妻と共に夕食をとる。ディッキーの子供時代や恋人の話題が出る中、トムは自分の両親がボートの事故で亡くなったことを打ち明ける。
イタリアへ
トムはこの好条件の依頼を受け、自宅で詐欺に関連する品々を処分し、ディッキーを探しにイタリアへと旅立っていく。ナポリに到着した彼は、タクシーでぼったくられ、バスでアマルフィ海岸を通ってアトラーニにたどり着く。
階段の多い町を上り下りしながらディッキーとその恋人マージをビーチで見つけると、トムは現地で水着を手に入れ、さりげなく2人のそばに近づき、ディッキーに話しかける。
ディッキーは、トムのことを覚えていなかったが、彼を家に招き入れ、3人で気まずい雰囲気の中で食事を共にする。その後、トムはディッキーの万年筆を盗み、ディッキーが勧める高級ホテル「ミラマーレ」に宿泊し、部屋からヨットで遊ぶディッキーとマージの姿を眺める。
そしてトムは鏡を見つめながら、ディッキーになったかのように彼の真似をする。
第2話「七つの慈悲」
カラヴァッジョの絵
第2話は、トムがディッキーに、アトラーニに来た本当の理由を明かす場面から始まる。トムは、ディッキーの父親からの依頼でやって来たことを打ち明けるが、ディッキーは怒ることなく、トムが正直に事実を話したことに対して理解と信頼を示す。
ディッキーはトムに自分のアトリエを見せると、ディッキーの絵には才能がないことは明らかだったが、トムは機転を利かせて適切に反応する。トムがアトラーニにしばらく滞在すると伝えると、ディッキーは自分の家を使うよう提案する。
2人の関係は、ナポリへの旅行でさらに深まっていく。ディッキーはトムを連れて、彼が愛するカラヴァッジョの絵画を鑑賞に行く。カラヴァッジョが犯罪を犯しながらも傑作を描いたという話をディッキーがすると、トムは興味津々で、ローマにある彼の最高傑作を見に行くことを楽しみにする。
フレディ
カフェで2人が会話していると、ディッキーの友人フレディが偶然通りかかる。フレディはボブ・デランシーという人物のパーティーでトムと会ったことがあると言うが、トムはそれを否定する。フレディはクリスマスをイタリア・アルプスのコルティナで過ごすことをディッキーに提案する。
その後、2人は酒場に行き、トムは歌手の歌声に涙するほど感動する。ディッキーが足をくじいた女性にタクシー代を渡すシーンでは、トムはそれが詐欺ではないかと心配するが、ディッキーはそれを気にかけない。
アトラーニに戻った際、トムはカルロと名乗る男から尾行されていることに気づく。カルロはスーツケースをパリに運ぶことで大金を稼げるという話を持ちかける。トムはこの仕事を受けようと提案しますが、ディッキーはカルロがマフィアと関係していると指摘して断る。
都合の良い誤解
トムは、マージからの冷たい態度を和らげるために、彼女の小説執筆を手伝うことを申し出る。これまでに多数の原稿を読んできた経験を生かし、マージの作品に対して細かいアドバイスを提供する。その結果、マージはトムに感謝し、彼に対する見方が改善される。
一方で、トムは密かにディッキーの郵便物を開封し、重要な口座番号をメモしていた。さらに、グリーンリーフ氏に手紙を書き、ディッキーの説得が順調に進んでいると偽り、さらなる資金の支援を要請する。
ディッキーが海で泳いでいる間、トムは彼の部屋でイタリア語の勉強をしつつ、ディッキーのタイプライターを使うと、「e」の文字がずれていることに気付く。
その後、トムはディッキーの寝室に忍び込み、ディッキーの服に着替えて彼の言葉遣いを真似し、マージと別れる想像上の会話を演じていた。しかし、不運にもディッキーが部屋に戻って来てしまう。
トムはディッキーに対して弁明を試みるが、ディッキーはマージからの話を聞いて、トムが同性愛者であると誤解していた。トムは同性愛者であることを否定し、それがマージの嫉妬によるものだと説明する。
その過程で、ディッキーがマージをそれほど愛していないことを認めさせることに成功する。トムは2人の関係を悪化させたくないとして、去ることを提案するが、ディッキーはその必要はないと言って部屋に戻っていく。
一人外に残ったトムは、ディッキーに見てはいけない姿を見られたにもかかわらず、2人が自分に都合の良い思い込みをしていることを知り、笑みを浮かべる。
第3話「SOMMERSO」
グリーンリーフ氏からの手紙
第3話は、トムのイタリア語が上達していく様子から始まる。
トムはグリーンリーフ氏からの手紙を受け取る。そこにはディッキーが帰国する気配がなく、トムの任務が失敗であると綴られていた。トムはこの手紙に苛立つが、同時に彼がディッキー宛てに手紙も出していることに気づく。
ディッキーはその手紙を眉をひそめながら読んでいた。トムは彼がマージと会話している様子を遠くから眺め、2人が自分を追い出そうとしている想像上の会話を1人で演じる。
夕食時、ディッキーはサンレモへの短期旅行を提案するが、マージは小説執筆のために参加を辞退する。トムは2人の間の微妙なやり取りに気づきつつも、旅行の提案を受け入れる。
サンレモの事件
サンレモに到着した後、ディッキーはマージのための香水を購入し、その後トムと海岸で合流する。ディッキーがボートに乗ることを提案し、2人は沖へと向かう。海上で、ディッキーはフレディのクリスマス旅行の話を持ち出し、それをきっかけにトムにイタリアを離れるよう暗に促すと、トムはこの提案を受け入れ、自分が出ていくことを告げる。
しかし、ディッキーがボートを岸に戻そうとした瞬間、トムは突然彼をオールで殴打し始める。ディッキーは驚きと痛みに満ちた表情で反応し、トムは彼を死ぬまで殴り続ける。その後、トムはディッキーの遺体を海に沈めようとしするが、操作ミスで自身も海に落ちてしまう。
何とかボートに戻ったトムはディッキーの遺体を海に沈め、証拠隠滅のためにボートを燃やして近くの岩場の沖合に沈める。
事件後、トムはホテルに戻り、荷物をまとめてチェックアウトを済ませる。ボートのレンタル主が警察に通報している様子を目撃するが、トムは気づかれずにサンレモを後にして、ディッキーの指輪をはめる。
第4話「LA DOLCE VITA」
ディッキーの後始末
第4話は、トムがディッキー・グリーンリーフとしてナポリに戻り、新たな生活を始める場面からスタートする。
トムはディッキーの家で荷物をまとめ始め、マージからの質問に、ディッキーがローマで一人の時間を過ごしたいと述べ、荷物を彼のもとに送る準備をしていると説明する。
続いて、トムはカルロの仕事場を訪れ、ディッキーのヨットを売りに出そうとする。ディッキーのハウスキーパーには契約終了を告げ、報酬を支払おうとするが、疑念を抱く彼女はお金を受け取らずに去っていく。トムはディッキーが所有していたピカソの絵画など、高級品を次々と回収していく。
ローマでの新生活
ローマへの列車の中で、トムはディッキーの署名の練習を重ね、ディッキーの衣服を身に纏ってローマに到着する。高級ホテル・エクセルシオールにディッキーのパスポートを使用してチェックインする際、高価な万年筆と見た目のおかげで、フロントスタッフはパスポートの写真を追及しなかった。
しかし、ディッキーの行方を追っているマージがホテルを特定し、連絡を待っているというメッセージを残していたため、トムはホテルに留まることができなくなる。彼は住所を変えて、スタンダードクラスのホテルにチェックインし、ディッキーのパスポート写真を自分の新しい写真で偽造する。さらに、ローマの銀行でディッキーになりすまし、口座から金を引き出すことにも成功する。
ローマを散策し、カラヴァッジョの絵画を鑑賞した後、トムはディッキーのタイプライターを使用してマージに手紙を書き、彼女の懸念を和らげようとする。マージがグリーンリーフ氏からの警告の手紙を引き合いに出し、ディッキーを心配する様子を見せると、トムはさらに計画を練る。
ホテルのフロントマンにマージの写真を見せ、彼女が追いかけてくる元婚約者であると偽り、騒ぎを起こさないように彼女の訪問を隠すよう依頼する。そして、ディッキーとして両親に手紙を書き、帰国しないことを詫びる内容と共に、トム(自分自身)を擁護するメッセージを含める。
第5話「ルーチョ」
すぐに崩れる新生活
第5話では、トムが新聞を通じてディッキーの遺体がまだ発見されていないことを確認する場面から始まる。
これに安堵し、トムはローマで新たな生活を始めるためにアパートを探し、家賃の2か月分を前払いして大家と契約を結ぶ。レコードとガラスの灰皿を購入し、自分で送ったディッキーの荷物を受け取ることで、トムはローマでの新生活をスタートさせる。
しかし、トムの平穏はフレディがアパートを訪れたことで突如終わりを告げる。彼は電話会社を通じてディッキーの住所を突き止めていた。フレディはディッキーがクリスマス休暇の約束を無視した理由を探り、彼の不在とトムがディッキーの服を着ていることに疑念を抱く。
フレディはエクセルシオールに宿泊している伝言を残し、部屋を後にする。しかし、大家からディッキーが部屋にいることを告げられると、再び部屋に戻ってくる。
フレディの後始末
その後、フレディはボブ・デランシーから、トムが便利屋の詐欺師をしていることを聞きつけており、真実を明かすように問い詰める。フレディが警察に通報すると言って立ち去ろうとすると、トムはガラスの灰皿でフレディを殴りつけて殺害する。
トムはフレディの遺体から車の鍵を見つけ出し、彼のフィアット500を特定する。さらに、フレディがアルコールを大量に摂取したように見せかけるため、遺体に酒を流し込む。
深夜、トムはフレディの遺体をアパートから運び出し、ローマからアッピア街道の人里離れた場所へと運転して遺体と車を放置する。フレディのパスポートをアパートに置き忘れたことに気づき、回収した後、自宅前の下水道に捨てる。
トムはアパートの階段やエレベーターについた血痕を懸命に拭き取り、疲れ果ててソファに座り込むが、エピソードの終わりには、彼が拭き取り残した血痕がまだ階段に残っていることが示される。
第6話「鈍器」
警察の訪問
第6話では、フレディの遺体が発見されることで物語は新たな段階に入る。ローマ警察のラヴィーニ刑事が捜査を開始し、フレディの滞在していたホテルを訪れ、そこで得た情報をもとにトムのアパートへとたどり着く。
ラヴィーニは検視結果をもとにフレディの死因を把握し、事件についての調査を深めていく。トムは、自身が関与した殺人事件についての報道がないことに安堵しているが、大家が階段に残された血痕を見つけるなど、証拠隠滅に完全に成功していないことが示される。
ラヴィーニがトムのアパートを訪問し、フレディの死について質問すると、トムはフレディの性的指向や人間関係をほのめかして疑惑を逸らそうとする。
ラヴィーニはトムにパレルモへ行かないよう指示しますが、トムは警察が去った後に証拠を隠滅し、新聞でフレディの殺害が報じられると、ディッキーの名前が証人として記載されていることを知る。
マージの訪問
一方で、サンレモでディッキーを殺害したボートが発見され、マージがディッキーのヨットが売られていることにショックを受けるなど、ディッキーの周りの事情も急速に変化していく。
ラヴィーニが去った直後、今度はマージが部屋を訪れる。トムは以前の自分の服装に着替えて近くのカフェで彼女と会い、ディッキーが行き先を告げずにローマから去ったと伝える。
マージはディッキーの周りで起こっている不可解な出来事について尋ねるが、トムはすべてに曖昧に返答する。結果的にマージは疑問が解消されないままアトラーニに戻り、彼女を見送ったトムはローマからパレルモ行きのフェリーに乗り込んでいく。
第7話「不幸な見世物」
プロの嘘つき
第7話では、トムの逃亡劇が続き、彼の状況はますます複雑になっていく。トムはパレルモのホテルにチェックインする際、ラヴィーニからのメモを通じて、警察の監視下にあることを知らされる。一方で、ラヴィーニはフレディ殺害に関する目撃者を探していたが、決定的な証拠をつかむことはできずにいた。
トムはディッキーを装って彼の両親に手紙を書き続け、警察から疑われている状況を伝える。また、トムは自身についての正当化も忘れずに書き記す。
ラヴィーニはマージとの会話を通じて、彼女とディッキーの複雑な関係を知り、ローマでのトムと会ったことを聞きつけ、ローマ中のホテルを探すが、トムの行方を捉えることはできない。
その後、銀行からの詐欺の疑いに関する通知を受け取ったラヴィーニは、マージをローマに呼び出し、彼女の証言を疑う。しかし、マージはトムを「プロの嘘つき」と主張する。
ヴェネツィアへ逃亡
一方、トムは自身の行動が記者らに監視されていることを知ると、滞在先を変更する。ディッキーの署名を練習し、銀行での直接証明を試みるが、最終的には辞めて自分の署名であることを認める手紙を送る。
その後、無断で滞在先を変更したことでさらに怪しまれたトムは、ラヴィーニからの出頭命令を受け、それに応じる姿勢を見せるが、別の策略を練っていた。
トムはフロント係にチュニス行きのフェリーの時間を尋ねることで、北アフリカへの逃亡を示唆しながらも、実際にはナポリ行きのフェリーに乗り、ローマへと戻っていく。
トムは手紙でローマの大家に部屋の解約を伝え、大家が外出している間に部屋に戻って荷物を回収し、ローマからヴェネツィアへと逃げていく。
第8話(最終話)「NARCISSUS」
トム・リプリーの出頭
第8話(最終話)は、1606年のローマから逃亡するカラヴァッジョの物語とトム・リプリーの姿を重ね合わせる様子から始まる。トムがカラヴァッジョのように過去の行動から逃れながらも、芸術と偽りに生きる姿を象徴的に描き出している。
ヴェネツィアに到着したトムは、ハウスキーパー付きの豪華な宮殿を契約し、新たな生活をスタートさせる。彼は豪勢な生活を謳歌し、過去の罪から離れた新しい人生を築こうとしていた。一方で、ラヴィーニは出頭せずに姿を消したディッキーを追い続け、チュニスへ向かおうとした彼の落ち込んだ姿についての情報を受け取る。
ラヴィーニは記者会見を開き、トムとディッキーに公然と出頭を命じる声明を発表し、トムはこれを受けて、警察に出頭し、翌日、ラヴィーニによるヴェネツィアでの事情聴取が行われることになる。
事情聴取のため、トムは宮殿の部屋を薄暗い雰囲気で装飾し、カツラと付け髭を使って自分の印象を大きく変える。ラヴィーニに対して協力的に振る舞うことで、ディッキーとフレディが恋人同士であるというラヴィーニの誤解を利用し、自分が事件に巻き込まれた被害者であるかのように装う。
事件の顛末
トムは自分の生存を明かしたことで、ヴェネツィアの社交界から招待されると、リーブス・マイノット(ジョン・マルコヴィッチ)という人物と出会い意気投合する。彼はトムと同業者であることが示唆される。
マージがヴェネツィアを訪れると、彼女はディッキーの自殺説を信じておらず、トムとの再会で真相を探ろうとする。トムはディッキーが過去に抱えていたプレッシャーを強調し、彼女の疑念をそらそうとするが、マージがディッキーの指輪を発見したことで、事態はさらに複雑になる。
トムはマージを殺す覚悟で、指輪はディッキーから預かったと伝えると、マージはディッキーが自殺を覚悟したことを察する。
グリーンリーフ氏と彼の探偵を含めた4人での話し合いが行われ、トムはディッキーからの愛の告白と自分の拒絶、そして彼の憂鬱な精神状態を巧みに話し、ディッキーの自殺説を強化する。結果的にグリーンリーフ氏はトムの話を信じ、彼を許して指輪を譲り渡す。
その後、トムはマイノットから受け取った偽造パスポート「T・ファンショー」を手に、トムは再び身分を変えて新しい生活を始める。彼はディッキーのピカソの絵を受け取り、酒を片手に眺める。
一方、マージは小説家としてデビューし、ラヴィーニに献本していた。ラヴィーニはそこで初めてディッキーの写真を目撃し、自分がトムの偽装に騙されていたことを知る。
【ネタバレ感想】モノクロの美学とリプリーへの共感性
モノクロの美学
Netflixドラマ『リプリー』は、これまでにも繰り返し映像化されている、パトリシア・ハイスミスの1955 年のサイコスリラー小説を映像化したドラマです。
- 『太陽がいっぱい』(1960)
- ルネ・クレマン監督
- アラン・ドロン(リプリー)
- モーリス・ロネ(グリーンリーフ)
- 『リプリー』(1999)
- アンソニー・ミンゲラ監督
- マット・デイモン(リプリー)
- ジュード・ロウ(ディッキー)
- Netflixドラマ『リプリー』(2024)
- スティーヴン・ザイリアン監督
- アンドリュー・スコット(リプリー)
- ジョニー・フリン(ディッキー)
本作は、最も新しいリメイク作でありながら、古典的なモノクロ映像を採用しており、原作に新しい次元を加えています。これが本当に素晴らしく、視聴者がドラマ内で言及される「光と影」に一層注目させ、イタリアのアマルフィ海岸、ローマ、ナポリ、ヴェネツィアなどの名所の美しさ、建物の形状、そして人間の作り出す凹凸に細部まで目を向けさせます。
さらに、このドラマはピカレスクロマンの物語を採り入れており、そのモノクロの雰囲気はノワール映画のトーンに見事にマッチし、所々にヒッチコック映画を彷彿とさせる雰囲気を醸し出しています。
Vanity Fairのインタビューで、監督のザイリアンは、「原作の表紙の白黒写真がのイメージが、この物語にぴったりで美しいと思った」とモノクロにした理由を明かしています。
本作がカラーだったらと考えると、血や海などの色味の強い部分が目立ってしまい、全く印象が違っていたと感じます。近年の作品では、『哀れなるものたち』、『オッペンハイマー』などの話題作でも効果的にモノクロ映像が使われていますが、本作は抜群にモノクロである理由が際立っていたドラマでした。
物語の前半の舞台となるイタリアのアトラーニも素晴らしく、トムが階段を登り降りする様子は、その後の展開でも繰り返し使われています。
これは同じくアマルフィ海岸を舞台にした『イコライザー THE FINAL』にも通じており、両作でダコタ・ファニングが出演していることも関連があって楽しめる要素になっています。
アンドリュー・スコットによるリプリーの魅力
過去作ではアラン・ドロンやマット・デイモンという名優が演じてきたリプリーですが、本作におけるトム・リプリーは、より身近に感じられるキャラクターとも言えます。
本作はよりよい暮らしをするために、上級階級の人間と取って代わろうとする物語で、似たような作品を挙げると『パラサイト 半地下の家族』や『ソルトバーン』があります。
リプリーは詐欺師の悪党ですが、彼の小心者さと素直な感受性は、決して嫌いになることができない共感性があります。
例えば、第2話の酒場でミーナ・マッツィーニの「しあわせがいっぱい」を聞いて涙を流す姿は、彼の素直な感受性を象徴しています。その後の第5話では、フレディを殺害する鈍器となるガラスの灰皿と共に、ミーナのレコードを買っていました。
そういった彼の素直さが、詐欺師としての嘘のクオリティを補完しているのです。「嘘を信じ込ませるためには、少しの真実を混ぜるといい」というのは、心理学や詐欺師のテクニックとしても有名です。本作のリプリーは、まさにそれで、彼は所々に真実(自分の家族に関することなど)を織り交ぜています。
主演のアンドリュー・スコットは、リプリーを見事に演じきっています。彼はベネディクト・カンバーバッチ主演の大人気ドラマ『SHERLOCK/シャーロック』で、宿敵のモリアーティを演じていますが、同じ悪役としても、本作は全く印象が違います。
リプリーは、「憧れの人に成り代わりたい」という欲望の成れの果てであり、最終的にそれを実現することになりましたが、このドラマにおける彼を見ていれば、どれだけ大変なのかを知ります。ドラマ内では、リプリーが死体を処理する手間や、証拠隠滅の重労働を描いており、骨が折れる様子をたっぷりと映しています。
視聴者は、悪人であるリプリーの嘘がバレてしまうことにソワソワするという、彼を応援する側に自然と立たされてしまっているのも、アンドリュー・スコットの名演によるものでしょう。
リプリーの嘘が真実として受け入れられるのが、彼がディッキーとしてではなく、トム・リプリーであるときであるのも興味深いところでした。
最終話で登場したジョン・マルコヴィッチ演じるマイノットというキャラクターは、ハイスミスの続編となる小説『リプリー・アンダー・グラウンド』の登場人物であり、ミニシリーズながらに続編への期待と、つながりを感じられるラストになっています。