今回ご紹介する映画は『イコライザー』です。
アントワン・フークア監督による作品で、普通の暮らしをしていた元CIAエージェントの男が、ある娼婦の少女との出会いをきっかけに、眠っていた正義感が蘇るストーリー。
主演はデンゼル・ワシントン。
『トレーニング・デイ』でアカデミー賞を獲ったコンビが再タッグを組んで贈るアクション映画。
アクションとしての面白さはもちろんですが、劇中に散りばめられた知的なエッセンスが物語をグッと魅力的にしているおすすめの一本です!
映画『イコライザー』の作品情報とあらすじ
作品情報
原題 | The Equalizer |
---|---|
監督 | アントワン・フークア |
脚本 | リチャード・ウェンク |
出演 | デンゼル・ワシントン |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2014年 |
上映時間 | 132分 |
おすすめ度 | [jinstar4.0 color="#ffc32c" size="16px"](4点/5点) |
あらすじ
元CIAのロバート・マッコールは、生真面目にホームセンターで働いている。
ある夜、娼婦の少女テリーと出会い、彼女を囲っているロシアンマフィアの非道を知ったマッコールは、彼にしかできない“仕事“の遂行を決意する……。
『イコライザー』のスタッフ・原作
出典:https://variety.com/
アントワン・フークア監督
監督はアントワン・フークア。
2001年には映画『トレーニング・デイ』でデンゼル・ワシントンとタッグを組み、アカデミー賞主演男優賞にもたらしました。
本作は、もともと1984年にアメリカのテレビドラマシリーズ『ザ・シークレット・ハンター(The Equalizer)』の映画版リメイクなんです。
『イコライザー』のキャスト
キャスト | 役名 |
デンゼル・ワシントン | ロバート・マッコール |
テディ・レンセン | マートン・ソーカス |
テリー(アリーナ) | クロエ・グレース・モレッツ |
ラルフィ | ジョニー・スコーティアス |
マンディ | ヘイリー・ベネット |
デンゼル・ワシントン
出典:https://www.imdb.com/
- 『マルコムX』
- 『タイタンズを忘れない』
- 『デジャヴ』
- 『マグニフィセント・セブン』他
主演はデンゼル・ワシントン。
彼と言えば、どんな役でもできてしまう万能俳優ですが、本作は闇の仕事人。
これがまたハマり役で、寡黙過ぎると言ってもいいくらいに寡黙。
一切取り乱さずに淡々と悪を排除していく姿がカッコいいんですよね。
※以下、映画のネタバレに触れていますのでご注意してください。
【ネタバレ感想】寡黙な必殺仕事人
出典:https://www.imdb.com/
結論から言うと、めっちゃ面白いし、大好物でした。
ジャンルで言えば、映画ライターギンティ小林さんの名言をお借りすると「ナメてた相手が実は殺人マシンでした映画」なのですが、そのディティールが素晴らしかったです。
イコライザーとは“均等を保つ者”
イコライザーという単語の意味は、均等を表す「=(イコール)」の動詞系「equalize」が派生し、「~する者」という意味の接尾後「er」がついて「equalizer」となっています。
つまり、意味は「均等を保つ者、等しくする者」となります。
また、「イコライザー」はスラングで「銃や武器」といった意味も持っています。
「腕力や体格などの差をなくす武器」という意味で使われているみたいですが、本作ではどちらの意味も当てはまるように感じました。
[chat face="twitter-icon.jpg" name="まめもやし" align="left" border="gray" bg="none" style="maru"] マッコールが自ら武器を使うのではなく、その場の物や相手の武器を使って戦闘するのも印象的ですよね。 [/chat]
敵役、テディの描き方
中盤で登場するテディという始末屋のキャラクター性が良いんですよね。
なんと言っても、彼がタダモノではないということが分かる映像の映し方が素晴らしい。
舐め回すかのようにテディの全身に彫られたタトゥーを映し、背中から胸にかけてを縦に一回りする形で映し、そこにボストンの夜景を重ねます。
体には「TEMHOTA」「CMEPTb」と書かれたタトゥーが確認でき、それぞれロシア語で「黒や悪」「死」を意味する言葉です。
これはまさに、テディという人物の凶暴性や強さを象徴する映像で、彼がマッコールの前に立ちはだかることを示唆していました。
[chat face="twitter-icon.jpg" name="まめもやし" align="left" border="gray" bg="none" style="maru"] このシーンのカッコよさにはシビレました! [/chat]
まるでテディが主人公かのように、マッコールの居場所を突き止めていく様子をじっくり描いているのも面白い。
そして2人が対峙してからは一気にアクセルがかかってくるのです。
知的なエッセンスが物語を引き立てる
出典:https://www.imdb.com/
『イコライザー』はアクション映画として非常にバランスが取れた一本だと感じます。
アクション映画において、登場人物の背景や心情をたっぷり描くことが吉と出る場合と、凶と出る場合がありますよね。
僕は基本的に説明的に語りすぎるのは好みではないのですが、本作はそれが見事でした。
本作における登場人物のバックグラウンドは詳細に描かれることはありません。
しかしながら、個々のシーンや仕草を追っていけばそれがちゃんと伝わるようになっていて、丁寧かつ映像がスッキリとしているのです。
それにも関わらず上映時間は132分と、この類のアクション映画としては長尺になっています。
そこには、文学によるメッセージ性などの細かいディティールが込められていて、非常に知的なアクション映画となっていました。
【ネタバレ考察】文学によるメッセージ性
出典:https://www.imdb.com/
『イコライザー』では、亡き妻の目標だった「読むべき本100冊」をもとに本を読むマッコールの姿を描いたプロットがあり、それが効果的に物語を演出していました。
ヘミングウェイ『老人と海』
劇中でも特に印象的なのが、マッコールの行きつけのダイナーで彼が読んでいるヘミングウェイの『老人と海』。
娼婦のアリーナとの会話が以下になります。
マッコール「老人は魚を舟に縛り帰途に就くが、海に流れる魚の血でサメが集まり魚は食い尽くされてしまう」
アリーナ「ムダ骨ってわけ?」
マッコール「いや、それは見方による」
マッコール「老人は人生の黄昏で最高の敵に出会い、魚に自分を見た。戦うほどに敬意を覚えた」
アリーナ「なら、逃せば?」
マッコール「老人は老人、魚は魚。自分以外にはなれない。しょせんね。」
出典:映画『イコライザー』
この後の展開を表しているシーンになっていました。
つまり、老人をマッコール、魚をテディに例えています。
死を装ってまで普通の暮らしを選んだものの、揺るがない正義感があって、最終的に強引にでも悪を正す道を選ぶマッコール。
自分を認めてくれる優しい養親と出会っても、本来の自分の狂った異常性は抑えられなかったテディ。
2人は戦うべくして出会うのです。
マッコールは特に象徴的で、不眠症の彼がアリーナを暴行したスラヴィを暗殺したその日、ダイナーに行かずベッドで熟睡できているのです。
彼は暗殺後に「すまない」と言っていましたが、それは亡き妻に向けて自分が本来の自分に戻ってしまうことへの謝罪のように思えますね。
[chat face="twitter-icon.jpg" name="まめもやし" align="left" border="gray" bg="none" style="maru"] こういったシーンをササッと描くのがさすがですよね! [/chat]
あくまでもアリーナはきっかけで、それによりマッコールの本来持っている正義感に火がついたのでした。
セルバンテス『ドン・キホーテ』
再びマッコールとアリーナが会話するシーン。
アリーナ「今度は何を読んでるの」
マッコール「主人公が自分を騎士だと思っているが、現実はもう騎士がいない世界だ」
出典:映画『イコライザー』
これはセルバンテスの『ドン・キホーテ』のことを指しています。
それに対して、アリーナは「まるで私みたいね」と言います。
やめられない娼婦で働きながら、本来の夢である歌手を目指す自分の姿を憐れみ、ドン・キホーテと重ねていることが分かります。
2回目のダイナーからの一連のシーンですが、ここのクロエ・グレース・モレッツの演技が素晴らしかったですね。
互いに偽りの自分の姿を持っている2人の心がリンクしたような瞬間でした。
クロエが演じた娼婦は当初24歳の設定だったところ、15歳のクロエの演技に感銘を受けた監督が彼女を起用したとのこと。
[chat face="twitter-icon.jpg" name="まめもやし" align="left" border="gray" bg="none" style="maru"] 出演シーンはそれほど多くはないのですが、デンゼル・ワシントンにも引けを取らない演技をしていましたね! [/chat]
マーク・トウェインの格言
映画の冒頭ではマーク・トウェインの格言が映されます。
これも、マッコールのことを明確に投影しています。
CIAを辞めて隠居生活を送っていた彼でしたが、娼婦のアリーナや職場の同僚ラルフィたちが夢を持ちつつも不遇な運命になっている者たちと出会うことで、マッコールは生まれた理由を理解するのです。
それがラストシーンのイコライザーとしての人助けへと繋がっていくのでした。
マッコールはラストで、ボスであるプーシキンを抹殺しますが、殺すことで何が得られるのかを聞かれると「平和」と言います。
もちろん、プーシキンを殺したことで世の中が平和になることはありませんが、彼が世の中の格差をなくしたり悪を正す意味でイコライズしていく姿が想像できますね。
[chat face="twitter-icon.jpg" name="まめもやし" align="left" border="gray" bg="none" style="maru"] 冒頭からラストまでの文脈が本当に上手い映画です! [/chat]
【まとめ】新たなヒーローの誕生
以上、アントワン・フークア×デンゼル・ワシントンの『イコライザー』をご紹介しました。
『トレーニング・デイ』で感じた間違いないコンビは、やはり間違いない!
隠居していた最強の男が、ある少女をきっかけにして自分の生きる理由を見つけるというストーリは無条件にワクワクしてしまいます。
新たなヒーロー像の誕生でもありました。