今回ご紹介する映画は、『母性』です。
ある未解決事件の顛末を母と娘の視点から振り返っていくミステリー。
ベストセラー作家、湊かなえの原作小説を廣木隆一監督が映画化し、戸田恵梨香と永野芽郁が母娘役を演じています。
本記事では、映画『母性』を、ネタバレありで結末まで感想を含めて解説・考察していきます。
原作小説を読み直して映画を鑑賞した率直な感想をつづっていきます!
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映画『母性』の作品情報とあらすじ
『母性』
5段階評価
ストーリー :
キャラクター:
映像・音楽 :
エンタメ度 :
あらすじ
女子高生が自宅の庭で首を吊る事件が起きた。発見したのは少女の母で、事故なのか自殺なのか真相は不明なまま。物語は、悲劇に至るまでの過去を母と娘のそれぞれの視点から振り返っていく。
作品情報
タイトル | 母性 |
原作 | 湊かなえ「母性」 |
監督 | 廣木隆一 |
脚本 | 堀泉杏 |
出演 | 戸田恵梨香 永野芽郁 高畑淳子 大地真央 三浦誠己 山下リオ |
撮影 | 鍋島淳裕 |
音楽 | コトリンゴ |
編集 | 野木稔 |
製作国 | 日本 |
製作年 | 2022年 |
上映時間 | 115分 |
予告編
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配信サイト | 配信状況 |
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映画『母性』のスタッフ・キャスト
廣木隆一監督
監督は恋愛映画を多く手掛けてきた廣木隆一監督。毎年コンスタントに映画を撮り続けている監督の一人。
主な監督作
- 『余命1ヶ月の花嫁』(2009)
- 『ストロボ・エッジ』(2015)
- 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(2017)
- 『彼女の人生は間違いじゃない』(2017)
東京国際映画祭においても『あちらにいる鬼』『母性』『月の満ち欠け』の3本が同時期公開で、3回登場する様子が印象的でした。
監督自ら原作小説を書いた『彼女の人生は間違いじゃない』が名作と感じた一方で、Netflix映画『彼女』や『ノイズ』はヒドかったり。近年は恋愛映画以外も積極的に撮っていて、とにかく多忙な監督の印象があります。
誤解を恐れずに言えば、本作は廣木隆一監督である必要はなかったようにも感じます!
原作:湊かなえ
原作は、湊かなえの同名小説。
主な著作
- 『告白』(2008)
- 『贖罪』(2009)
- 『白ゆき姫殺人事件』(2012)
- 『高校入試』(2013)
湊かなえさんと言えば、“イヤミス(読んだ後に嫌な気分になるミステリー)”の代名詞ともいえる作家の一人で、デビュー作にして代表作『告白』のイメージを持っている人も多いと思います。
しかしながら、本作『母性』は、湊かなえ作品の中では読後感が悪くないのも特徴。そこには、彼女が作家を辞めてもいいとまで語るほど描きたかったテーマがありました。
映画をご覧になった方もぜひ原作を読んでみてほしいです!
戸田恵梨香&永野芽郁
主演は、戸田恵梨香さんと永野芽郁さんのダブル主演。
この2人は2021年の日テレドラマ『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』で同じくダブル主演しています。
戸田恵梨香の主な出演作
- 『SPEC』シリーズ
- 『コードブルー』シリーズ
- 『あの日のオルガン』(2019)
戸田恵梨香さんは3年ぶりとなる映画出演となりましたが、本作で一番重要ともいえるルミ子を、いい意味で気味悪く演じていました。
母親への眼差しと、娘へ眼差しの違いがとりわけ上手くて、特に娘を産んだときの内面の感情が表に出てしまう表情はとても印象的。
一方の永野芽郁さんは、近年立て続けに映画・ドラマに主演しているまさに旬の俳優。同時期に公開の『マイ・ブロークン・マリコ』でも主演を務めていて、従来のイメージを脱却するような役柄にも挑戦しています。
永野芽郁の主な出演作
- 『ひるなかの流星』(2017)
- 『地獄の花園』(2021)
- 『そして、バトンは渡された』(2021)
- 『マイ・ブロークン・マリコ』(2022)
母娘役をやるには年齢が近すぎると懸念されていた2人ですが、永野芽郁さんが高校生役をやることに対する違和感はそこまで感じませんでした。
どちらかと言うと、『マイ・ブロークン・マリコ』での配役の方が合っていない印象はありましたね。
その他に、嫁いびりする姑役に高畑淳子さん、ルミ子の母親役に大地真央さん。ルミ子の夫役を三浦誠己さんが配役。
全体的にキャスティングはすごく良かったように感じますね!特に高畑淳子さんや大地真央さんは原作のイメージ通りに感じました!
ネタバレあり
以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ解説】映画は原作と別物に感じる理由
言葉を選ばずに率直な感想を言えば、映画は原作のダイジェストという印象でした。
原作のポイントとなるところを矢継ぎ早に繋げていくため、原作の「真綿で締め殺すような空気感」が感じられず、宣伝の通り良くも悪くも“激情エンタテイメント”になっています。
そのため映画の体感時間は短く、あっという間に感じる一方で、同じ内容にも関わらず、原作とは別物のように感じてしまいました。
実際、原作のあの空気感を映画で伝えるのは難しいと思いますね…!
信用できない語り手の物語
原作は、手記と独白によって進んでいく湊かなえさんの得意とする「信用できない語り手」による物語。
原作では、「母の手記」と自殺未遂によって意識不明になった「娘の回想」を繰り返していきます。同じ場面を繰り返し描くことによって、母と娘による捉え方の違いが原作の大きな見どころのひとつ。
そして2人のズレはキーポイントとなる、ある出来事で大きな溝となるのです。
映画を観て原作と別のように感じたのは、母親が都合よく記憶を捻じ曲げているように見えてしまうこと。
確かに原作でも、母親の手記の信用できなさが全体を覆っていますが、この原作で語られる物語は、真実を明らかにするミステリーとは少し違うのです。
一方で、映画はミステリー要素を強めているように見えて、「母の手記」「娘の回想」が、それぞれ「母の真実」「娘の真実」、そして「母と娘の真実」と描かれていくこともあり、原作の物語の不安定な面白さが、映画では真実が明らかになっていく物語のように見えてしまうんですよね。
最後の章立てを「母と娘の真実」にしてしまうのは、やっぱり違う気がします…!
原作は、あくまでも「娘の回想」であり、意識不明となっている娘の頭の中の回想として描かれるのです。
さらに、母と娘の2人に加えて、「母性について」と題された、事件のニュースを見た教師たちの会話が挟み込まれています。
「母性について」→「母」→「娘」がセットでひとつの章となり順番で描かれていく原作ですが、終盤で「母性について」を語る教師が、娘本人であることが明らかになります。つまり、教師が語っている事件は本編とは別の事件であり、最終章である娘のその後へと流れていく展開に。
この母性について考察する教師を、映画では最初から娘(永野芽郁)が演じているので、特に驚きはない上に、自殺を図った娘が生きていて、教師となり子どもができて、なんだかんだハッピーエンドという流れになっているのです。
原作は語り手が回想する娘であるという「信用できない要素」があり、ともすると「ずっと娘は意識不明のままではないのか」という娘の幻想を見せられている可能性も感じる独特の気味悪さもあるのです。
映画では、原作の「信用できない語り手」を映像化するに当たり、ひとつの出来事を複数の視点で描く、いわゆる「羅生門効果」で描かれます。
羅生門効果とは
ひとつの出来事において、人々がそれぞれに見解を主張すると矛盾してしまう現象。黒澤明監督の映画『羅生門』に由来。
映画だけを見ると、母と娘の明らかな人間性の違いを感じると思います。
しかし、原作が面白いのは、母と娘の絶妙に噛み合わない様子を描きつつも、それと同時に、2人が非常に似ていることにもあると思っています。
具体的に言うと、娘が母親に愛されたい、子から親への愛情を求める矢印は共通していること。さらに広げると、いびり倒す姑も我が子は溺愛していたり。
そこには、ミステリーよりも母性を通した2種類の女性を描いた本作の面白さがあるのでした。
【ネタバレ考察】母性にまつわる2種類の女性
「これが書けたら、作家を辞めてもいい。」
原作者の湊かなえさんが、ただならぬ想いを持って書き上げた『母性』は、まさしく「母性」についての物語でした。
母と娘、2種類の女性を通して、「母性を持たない女性」もいることを描いたのです。
“イヤミスの女王”と称される湊かなえさんですが、『母性』は胸クソ悪い姑の嫁いびりなどもありますが、不思議と読後感が悪くないのも特徴。
女性であれば誰でも「母」になれるのでしょうか。そもそも、形もなく目にも見えない「母性」は、本当に存在しているのでしょうか。
直感的に、私は違うと思いました。誰もが「母性」を持ち、「母」になれるとは限らないのではないか。
湊かなえ『母性』新潮社インタビューより
子どもを産んだ途端に「母親らしさ」を求められる女性たち。子どもができたら、いつの間にか一人称も「私」から「ママ」になり、「お母さん」と呼んでいた母を「おばあちゃん」と呼ぶ。まるで主人公が変わってしまったかのように。
母親なら当然「母性」があり、無条件で子どもを愛さなければいけない、愛すべきだ。果たして本当にそうなのでしょうか。
母であるよりも娘でいたい母と、母親からの愛情が感じられないからこそ、愛情を深く求めてしまう娘を描いた『母性』。
湊かなえさんは、これまでにも『告白』や『贖罪』、いわゆる衝撃作といわれる作品の中で、ある意味、異常な愛情を示す母親の姿を描いてきました。
しかし、それらとは一線を画して『母性』では母性を持たない女性を描いていました。
それが何を意味するのか。私は世の中に蔓延する「正しさ、こうあるべき」という社会の見えない圧力からの解放を描いているように感じました。
母性など本来は存在せず、女を家庭に縛り付けるために、男が勝手に作り出し、神聖化させたまやかしの性質を表す言葉にすぎないのではないか。
湊かなえ 小説『母性』より
本来「母性」などないのかもしれません。それを社会が「母性」がある前提で語ることで、「ない」人は絶望の淵に立たされてしまう。
「母性について」の章で娘・清佳が口にする言葉は、湊かなえさんからの直接のメッセージのようにも感じました。
子どもを産んだ女が全員、母親になれるわけではありません。母性なんて、女なら誰にでも備わっているものじゃないし、備わっていなくても、子どもは産めるんです。
子どもが生まれてからしばらくして、母性が芽生える人もいるはずです。逆に、母性を持ち合わせているにもかかわらず、誰かの娘でいたい、庇護される立場でありたい、と強く願うことにより、無意識のうちに内なる母性を排除してしまう女性もいるんです。
湊かなえ 小説『母性』より
これから母になる女性、そして子育て中の女性、すべての女性、そして(本作で圧倒的に存在感のない)男性も。決して気分が良い物語ではないですが、「自分は母親になれるのだろうか、母性はあるのだろうか」と悩む人に刺さる物語だと思います。
【ネタバレ感想】映画化で気になったポイント
繰り返しになりますが、湊かなえさんの原作がとても好きなこともあり、映画化した本作はとても別物のように感じてしまいました。
最後に、気になったところを挙げていきます。
羅生門スタイルを崩した「真実」
先述もしましたが、母と娘の羅生門スタイルを最後に崩して「母と娘の真実」とする語り口は、どうしてもいただけないところでした。
『母性』が真実を明らかにする物語でないからこそ、湊かなえさんの『告白』に引っ張られたような、真相究明のどんでん返しを観客にむやみに期待させるのも違うと思うので。
母親の死のシーン
劇中で最も重要な場面と言える、祖母(大地真央)の死の真相が描かれるシーン。一番の見せ場といえるシーンなのですが、いかんせん迫力がないんですよね。
現実味のない箱庭と化した家のデザインは原作の「夢の家」を意識した良い表現だと思ったのですが、せめて「娘と母を天秤にかける」シーンの緊張感をもっと出してほしかったところ。
どうしようもない状況で「娘の存在を忘れて母を助けようとする姿」が克明に描かれた原作とは違って、映画は2人とも助けられそうに感じてしまいます。
名前と最後のシーン
母が最後にはじめて娘の名前「清佳(せいか)」を呼ぶシーンも、原作の文字ベースで一貫して娘の名前を一切口にしなかったからこそ、最後の最後で名前を呼ぶ意味があります(それも娘の回想の中での話というのも面白いところ)。
映画ではそこまでの展開が早すぎるため、「そう言えば名前呼んでいないな」くらいの印象になっているのが惜しいところ。
さらに、娘の最後のシーンで「娘ができた」と母に報告するシーン。
その後のやり取りで、原作では夫の享に対して母が「愛能う限り、大切に育てた娘を、幸せにしてやってください」と言い、それに対して娘は「わたしのすべてを捧げるつもりだ。だけど、「愛能う限り」とは決して口にしない」と独白するシーンがあるのですが、このシーンは映画でも描いてほしかったです。
そこにこそ「母性」に対する2種類の女性を描いた本作の醍醐味が現れているように思えたので。
エンディング
JUJUさんの楽曲をエンディングにするのは良いのですが、それを終盤のシーンで感動的に差し込む必要はなかったですね。
まるでドラマの最終回のような作られたエンディングになっていて、それまでの辛い場面を茶化すような強引なハッピーエンドに思えてしまいます。
まとめ:あなたは母性をどう捉えるか
今回は、湊かなえ原作の映画『母性』をご紹介しました。
キャスティングは素晴らしいと思ったのですが、どうしても「湊かなえ原作」に引っ張られたようなミスリードを誘う演出が合っていないと感じました。
映画を観た方もぜひ、原作を読んでほしいと心から思います。映画では描ききれない内面描写や、省かれたエピソードなど、とても印象的です。
そして劇中で見事なまでに空気と化していた男性。恐らく男性の多くが「男には理解できない」と感じるかもしれません。
私も男性の一人として、そんな男性にこそ原作を読んでみてほしいと思いました。(巻末の代官山蔦屋書店の間室道子さんの解説が素晴らしいです)
「母性」は決して男は関係のない物語ではないので…。
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