今回ご紹介する映画は『望み』です。
幸せな家庭を築いていた家族に訪れる、息子の殺人事件への関与の疑い。「愛する息子は被害者なのか、犯人なのか」という不安に苛まれる家族の心理を描いたドラマ。
雫井脩介さんによる原作を、堤幸彦監督が映画化し、主演には堤真一さんと石田ゆり子さんが務めました。
映画『望み』の作品情報とあらすじ
作品情報
原題 | 望み |
---|---|
監督 | 堤幸彦 |
原作 | 雫井脩介 「望み」 |
出演 | 堤真一 石田ゆり子 岡田健史 清原果耶 |
製作国 | 日本 |
製作年 | 2020年 |
上映時間 | 108分 |
おすすめ度 | [jinstar3.5 color="#ffc32c" size="16px"](3.5点/5点) |
あらすじ
建築士として働く石川一登は、妻の貴代美、高校生の息子・規士と中3の娘・雅とともに幸せに暮らしていた。
そんなある日、規士が無断外泊したまま帰らず、連絡も途絶えてしまう。
家族が心配する中、規士の同級生が殺されたというニュースが流れ、規士が事件へ関与している可能性が浮上する。
そして次第に、父、母、妹、それぞれの「望み」が交錯していく…。
『望み』のスタッフ・キャスト
堤幸彦監督
© 2020「望み」製作委員会
本作を手がけたのは、ドラマ『TRICK』『SPEC』シリーズなどでも知られる堤幸彦監督。
近年では『人魚の眠る家』『十二人の死にたい子どもたち』といった映画を手がけています。
良くも悪くもクセある監督なので、作品によって印象が大きく異なり、好みも別れやすいですね。
[chat face="twitter-icon.jpg" name="まめもやし" align="left" border="gray" bg="none" style="maru"] そういう意味で僕としては、本作は堤幸彦監督の中では好きな方に入りました。 [/chat]
原作:雫井脩介
原作は、雫井脩介さんの小説「望み」。
彼の小説が映画化されるのは『犯人に告ぐ』『クローズド・ノート』『検察側の罪人』に次いで本作で4作目となります。
ミステリー作家としてもさまざまな賞を受賞したり、ランキング上位になる人気の作家です。
石川一登役:堤真一
© 2020「望み」製作委員会
建築士であり、石川家の大黒柱となる父親・一登を演じたのは堤真一さん。
主役から脇役まで幅広い役柄でドラマや映画で活躍しているため、本作でも安定の演技を見せてくれました。
石川貴代美役:石田ゆり子
© 2020「望み」製作委員会
母・貴代美役には石田ゆり子さんが配役。
息子の事件の関与をきっかけに変化していく母親の姿が非常に印象的に映っていました。
[chat face="twitter-icon.jpg" name="まめもやし" align="left" border="gray" bg="none" style="maru"]本作で一番印象的に映っていたのが石田ゆり子さんの演技でしたね。[/chat]
石川規士役:岡田健史
© 2020「望み」製作委員会
失踪した息子・規士役には岡田健史さん。
2018年のドラマ『中学聖日記』でデビューしたばかりですが、その後さまざまな映画やドラマに出演している若手でも実力のある役者の印象があります。
本作では疾走する側なので、そこまで演技が見られなくて残念ですが、何を考えているか分からない多感な時期の息子を好演しています。
石川雅役:清原果耶
© 2020「望み」製作委員会
規士の妹役には清原果耶さんが配役。
15年の朝ドラ『あさが来た』でデビューして注目を集め、2020年公開の『宇宙でいちばんあかるい屋根』では映画初出演をつとめます。
本作でも兄が事件に関与している可能性の中で、揺れ動く感情を上手く表現していました。
音楽(主題歌):森山直太朗
比較的に暗い内容がつづく本作ですが、主題歌には森山直太朗さんの『落日』が採用されました。
🎬『#望み』映画化への道
~ 音楽のこだわり🎼~未来の明るい光を照らすものにしたいと、
主題歌を依頼された #森山直太朗 さん。日常が奪い去られた今の気持も反映され、
聞く者が前を向いて生きていこうとする
足がかりになるバラード
「#落日」が誕生しました。#映画望み #製作陣の望み pic.twitter.com/G2UFAWtNyK— 映画『望み』 (@nozomimovie) October 9, 2020
※以下、映画のネタバレに触れていますのでご注意してください。
【ネタバレ感想】登場人物たちの「望み」の行方
© 2020「望み」製作委員会
本作の面白いところは、物語の主軸が、規士の事件への関与の可能性によって、それぞれの「望み」が浮き彫りになっていく点。
登場人物たちの「望み」
帰ってこない息子と、同級生の殺人事件。家族は息子への心配から、次第に息子に対する「望み」が現れてきます。
- 父:たとえ被害者でも無実であってほしい
- 母:たとえ加害者でも生きていてほしい
- 妹:自分の人生を壊さないでほしい
三者三様の「望み」がひとつ屋根の下で交錯していくことが本作の面白いポイント。
この中でも特に印象的なのは、石田ゆり子さん演じる母・貴代美の姿。
彼女は息子が生きてさえいれば、たとえ殺人犯だとしても受け入れる「覚悟」をするのです。
被害者であっても加害者であっても救いのない地獄の2択。
子を持つ親の立場であれば、自分に置き換えて考えてしまうのも本作の面白いところ。
さらには、僕のような独り身の立場からすると、妹の「お兄ちゃん、犯人じゃないほうがいい。犯人だったら困る」というセリフからくる思いが非常に理解できてしまいます。
しかし、実際は究極の2択じゃないはず
一方で引っかかるのは、実際は「被害者か加害者か」の究極の2択ではないはずという点。
冷静さを欠いているからなのか、2択を際立たせるためなのかは分かりませんが(恐らくは後者)、息子を信じるという意味で、その考えもあっていいはず。
しかし、そこまで違和感を感じない作りになっているのは、マスコミや記者、世間から容赦なく降りかかる誤った正義感が効いているから。
宙ぶらりんの心理描写
© 2020「望み」製作委員会
本作は、サスペンスを期待している人にとっては肩透かしに感じるかもしれません。
しかし、本作が面白く、そして新しい視点で見られるのは、焦点を当てているのが「息子の事件の真相」ではなく、真相が分からない「宙ぶらりんの心理描写」である点です。
そのため、本作ではいい意味で不快な時間が長く続くのです。
時間軸で見てみれば、冒頭のクリスマス前から事件の真相が明らかになる正月終わりまでの3週間程度のストーリーですが、それが恐ろしいほど長く感じ、現実味のある描き方をしています。
真相と「望み」の行方
また、本作は事件の真相にフォーカスしていないため、真相は実にあっけないものに感じてしまいますが、それによる家族の「望み」の行方がグッと効いてくるのです。
息子の死体を前にして本来なら望まないはずの「望み」の行方が描かれるシーンは非常に深く刺さります。
この真実により、はっきりと「被害者家族」という枠組みになっていく家族。
一方で、視聴者目線で言えば、どうしても加害者であった場合を想像してしまい、決して喜べるはずのない真実をある意味良かったように思えてしまうのです。
実際、息子に救われた形となる家族は、再生への希望の光を見出していきますが、一抹に残る気持ち悪さが、答えのないもどかしさを巧みに映していました。
【ネタバレ考察】『望み』は『パラサイト』に似てる!?
『パラサイト/半地下の家族』との類似性
本作、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞したポン・ジュノ監督の映画『パラサイト/半地下の家族』をかなり意識したポスターとなっています。
貧困と格差社会を如実に描いた『パラサイト』と本作は、内容で言えば全然違う話になりますが、「家」という舞台を効果的に使った意味では似通った部分も感じられました。
本作では、ドローンからの空撮から始まり、家の外観、内観を広い画で見せるシーンが印象的に描かれます。
建築家である父・一登にとって、自らがデザインした「家」は、自分の仕事・家族を養ういわば社会的立場を象徴したものでもあります。
だからこそ、息子が無実であってほしいという彼の「望み」の裏側には、築き上げたキャリアと「家」を失うことへの恐怖が見えるのです。
それらは、マスコミがいる中でも家の周りを掃除をしたりするシーンから効果的に見えてきました。
社会性の中での「望み」
家族が加害者の疑いをかけれるミステリーでは、その疑いを晴らすために、家族自らが主体的に動いて事実関係を探っていくという軸が多い印象があります。
家の中にいるしかない状況で、インターネットの根も葉もない噂やマスコミの不透明な情報をもとにしか判断ができず、不安だけが募っていく。
ラストでは、規士の「望み」が明らかになり、父親の言葉を受けて新たな目標を見つけていたことが明かされます。
「言わなきゃわからないよ」という話なんですが、実際、同じ家で暮らす家族であっても、親は子どもが何をして、どんな友人と遊んで、どれくらいの成績なのかといった、社会性の中でどんな子に育っているかを判断しています。
規士の「望み」も、病院のトレーナーという社会の一員から知る訳で、社会に出るまでの幼少期の子どもの印象が、そのままとは限らないのです。
だからこそ、自分の都合の良いように信じたい「望み」が交錯する姿は、誰もが自分ごととして置き換えられる普遍的なストーリーとして見ることができるのでした。
【まとめ】「望み」のタイトルに込められた意味
© 2020「望み」製作委員会
以上、映画『望み』をご紹介しました。
いい意味で、堤幸彦監督らしさがなく、丁寧な心理描写をフラットに見られた一方で、父親が被害者の葬儀に行く流れや写真をスライドショーのように映す演出など、余計に感じる部分もチラホラありました。
全体的には、ミステリーのように誘導しつつ、それぞれの「望み」にしっかりフォーカスしていたのが好印象でした。
ぜひ、原作・映画ともにチェックしてみてください。