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『イカゲーム3』赤ちゃんを抱くソン・ギフン

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韓国ドラマ

ネタバレ考察『イカゲーム3』つまらなくなった理由と感想

シーズン1で世界中に衝撃を与え、シーズン2でテーマの深さを掘り下げた『イカゲーム』。しかし、物語の完結編となるシーズン3については、「つまらなかった」との声も少なくない。

未回収の伏線、理不尽すぎる展開、あまりに胸糞な描写。確かにそうした批判は理解できる。一方で、私が「つまらない」と感じたのは、そこではなかった。

先に結論から言うと、『イカゲーム3』がつまらない理由は、「あまりにもよく出来すぎていること」 にある。つまり、あまりにも残酷な皮肉に満ちていて、視聴者として感情の逃げ場がないのだ。

完成度が高いがゆえに、逆に楽しめる余地がなかった。本記事ではその意味を具体的に掘り下げて感想と考察を書いてみた。

まめもやし
まめもやし

ファン・ドンヒョク監督、さすがに皮肉屋すぎるって!

カン・デホ殺害によって一線を超えたギフン

シーズン3の序盤、本シリーズの主人公であるソン・ギフンは、かつての面影をほとんど失っていた。それもそのはずだ。

前シーズンで彼は再びイカゲームに身を投じ、仲間を集めて内部からの反乱を試みた。しかしその計画は無残にも失敗に終わり、ギフンの親友チョンベは、彼の目の前でフロントマンによって射殺された。

そしてギフン自身は、なぜか殺されることなく生きたままゲームへと戻された。当然フロントマンの狙いだ。

しかしギフンは抜け殻のように呆然と立ち尽くすことになる。そして仲間を救えなかった後悔、無力感、怒り、そのすべてが向かったのが、弾薬を届けるはずだったカン・デホだった。

デホは本来、素朴で正義感の強い若者だった。ギフンにも敬意を払い、反乱にも加わった。それでも、戦場で恐怖にかられ、引き返してしまった。その一瞬の「逃げ」が、反乱の失敗に直結したと、ギフンは信じたのだ。デホの内面にあるトラウマや葛藤など、ギフンにはもう見えなかった。見ようともしていなかった。

デホは、四人の姉に囲まれて育った。幼い頃から女の子の遊びや手芸が得意で、手先の器用さには自信があった。第二ゲーム「ゴンギ」でその技が活きたのも、そんな背景があったからだ。

しかし、男らしさを求める社会で育った彼にとって、それは隠すべき一面でもあった。軍隊の刺青も、実際には社会服務要員だった過去を隠すための嘘だった。強く見せようと、ずっと無理をしてきたのだ。有害な男らしさの犠牲者ともいえる。

だからこそ、戦場の恐怖に打ちのめされて逃げた彼を、ただの“裏切り者”と断じるのはあまりにも酷だった。

そして第4ゲーム「かくれんぼ」が始まり、ギフンはついにデホを見つける。怒りと喪失感に駆られたギフンは、自らの手でデホを絞め殺す。これまで「人を殺さない」ことに固執してきた男が、自らの意志で命を奪った瞬間だ。

ギフンにとって、それは「人間としての一線」を越えたことを意味していた。「全部、お前のせいだ。」デホの最期の言葉は、まるで刃のようにギフンの心を裂く。

以降、ギフンの運命は決まったように思えた。彼がゲームに勝ち残れるかどうかではない。再びゲームに参加し、戦っていたはずのギフンが、誰かを殺す側に回ってしまったのだから。

「かくれんぼゲーム」という名の“リアル鬼ごっこ”

シーズン3の最初に登場するゲームが、「かくれんぼ」。このゲーム、もはやゲームとは言えない。

第4ゲーム「かくれんぼ」

ゲームのルール

  • 制限時間は30分
  • プレイヤーはガチャ(カプセルトイ)型のマシーンを引いて赤/青の2チームに分かれる
    • 赤い球体 → 赤チーム(ハンター)
    • 青い球体 → 青チーム(逃走者)
  • チームは開始前に相手との交渉が成立すれば変更可能
  • 赤チーム(ハンター)
    • ナイフを1本支給される
    • 勝利条件:青チームの誰か1人以上を殺す
    • 制限時間内に誰も殺せなければ脱落
  • 青チーム(逃走者)
    • 鍵を1本支給される(実は3種類の形がある)
    • 鍵は迷路内のドアを開けるために使用可能
    • 勝利条件:制限時間30分以内に脱出するまたは生き残る
    • 実は出口を開けるには3種類の鍵が必要

上記のルールを見ればわかるように、プレイヤー同士が、あからさまに殺し合いを強いられる凄惨なゲームなのだ。この点が大きく好みが分かれるポイントだろう。これまでのゲームは、ゲーム的要素を保ちながらもデスゲームとしての残酷さが象徴的に描かれてきた。しかし、「かくれんぼゲーム」はあまりにも露骨なのだ。

舞台は、天井に青空が描かれた迷路のような空間。一つ一つの通路はすれ違うことは難しいほど狭く、遭遇すれば逃げるか戦うかしかない。

緊張感があって良いと言う人もいるだろうが、その緊張感は単なるデスゲームの緊張感に過ぎない。『イカゲーム』の強みでもある“ゲーム性と寓話性”のバランスが、このゲームではほとんど失われている。一方で、登場人物たちの本性が剥き出しになる構造としては、あまりにも見事だった。シーズン3の中でも、最も強烈に記憶に残るエピソードだ。

クムジャとヨンシク

「かくれんぼゲーム」で印象的なのが、クムジャとヨンシクの親子。人間の本性をあぶり出すように設計されているこのゲームでも、ヨンシクは自分の手で誰かを殺すことはできなかった。

時間が迫り、焦ったヨンシクは、キム・ジュニと赤ちゃんに刃を向けようとする。そのとき、クムジャは自らの命を差し出そうとする。しかし、ヨンシクはそれを拒み、母ではなく、他人を選ぼうとする。

そしてその冷酷さを、母であるクムジャは見逃さなかった。、クムジャは自らの手で、息子を刺し止める。愛情ゆえに、そしてそれ以上に“人としての一線”を越えさせないためだろう。ヨンシクは「身近な人を殺せない」という当たり前の感情と、「他人なら仕方ない」という合理化の間で揺れた末、自らの母に裁かれたのだ。

ヒョンジュ

「かくれんぼゲーム」で最も胸を打たれたのは、ヒョンジュの姿だった。

出産間近のジュニと、高齢のクムジャを守るために、彼女は最後まで自らの命を賭けて闘った。ナイフを持った男にも一歩も引かず、迷いなく立ち向かう。その信念の強さは、トランスジェンダーである彼女がこれまで社会からどれだけ否定され、自らの存在を懸命に肯定してきたかを物語っている。

脱出口を見つけたあとも、自分だけ逃げることなく、ヒョンジュは仲間を迎えに戻った。ようやく光が見えたその瞬間、背後からミョンギに刺され命を落とす。あまりにも皮肉で、残酷な幕切れだった。

そんな中でも、忘れられないのが、ジュニの赤ん坊を彼女が最初に抱いたときの表情だ。そこには、この血まみれのゲームの中で唯一、静かな優しさが宿っていた。彼女がその手で新しい命を抱けたこと、それは、彼女自身の人生を肯定するかのような、あたたかく、美しい一瞬だった。

赤ちゃんという「勝ち確プレイヤー」の登場と「モブおじさん」たちの民主主義

シーズン3の後半、物語の流れを大きく変えた存在がある。それが、キム・ジュニが産んだ赤ちゃんだ。シーズン2の時点でジュニが妊娠していることは判明していたので、この展開はある程度予想できた。同時に、それは物語の帰着を予感させてしまう要素にもなっている。

というのも、フィクションにおいて赤ちゃんという存在は、往々にして「無垢であり、殺してはいけない」という絶対的な価値を背負わされており、物語上の“免罪符”になりやすい。もちろんデスゲームにおいても同様だ。赤ちゃんが無惨に殺されるという描写は、倫理の一線を超える表現として、作者側もほとんど踏み込まないことは容易に想像できる。

結果的に、ジュニの赤ちゃんの存在は「守るべき命」として、物語後半の軸そのものを支配していくことになる。ギフンは、デホを殺したことで「加害者」となったが、赤ん坊を守る存在となることで、再び「守る者」へと立ち戻る。この“贖罪の旅”が、彼の物語の終着点となっていくのだ。

実際に、監督のファン・ドンヒョクはNetflixの特番『イカゲーム:監督・出演陣が語る』の中で、「ジュニの子どもを誕生させ、ギフンがその命を守るために命を捧げる」という構想が、最初からシーズン3の中核だったと語っている。

良くも悪くも、この“計算された構造”は、最終ゲーム「天空イカゲーム」に集約されていた。

印象的だったのは、この最終ゲームに残ったのが、ギフンと赤ちゃん、ミョンギを除けば、物語上ほとんど存在感のない「モブおじさん」だったこと。さらにこのゲームでは、プレイヤー自身がボタンを押さない限りゲームが開始されないという仕組みが導入されている。

やはりこれは、赤ちゃんを中心にギフンの物語を終わらせるための“お膳立て”のように思えてしまった。

一方で、シーズン2でも描いてきた「民主主義への痛烈な風刺」という意味では、強烈なインパクトを与える。

ゲームで、モブおじさんたちは結託して話し合い、多数決によりギフンを排除しようとするのだ。ここで描かれているのは、最小多数の意見によって極端な決断がなされてしまう民主主義の欠陥そのものだ。ご丁寧なことに、“借金100億おじさん”ことイム・ジョンデらは、「これは話し合いで民主的に決めたことだ」と、ゲーム存続の投票アナウンスをなぞるかのように宣言している。

民主主義が常に正しいとは限らない。そのシステムが歪めば、いとも簡単に「極端な結論」へと転じるのだ。

絵に描いたようなVIPとその皮肉

シーズン3における大きなの違和感のひとつが、VIPたちの描写だ。彼らはシーズン1にも登場していた、イカゲームを観戦し楽しむ特権階級、つまり金で他人の命を弄ぶクズだ。

その役割やキャラクター性には、シーズン1から大きな変化はない。それにもかかわらず、今回はなぜか彼らの出番がやけに多い。黄金の仮面をかぶり、仰々しい言葉でゲームを鑑賞する姿は、もはや「VIPというキャラクター」を演じていること自体が目的化してしまっているようで、演技もどこかチープに映る。

声のトーン、身振り、台詞、どれもが「金持ちってこんな感じっしょ!」というようで記号的であり、逆にリアリティを失ってしまっている。5人もいる割にはキャラの差異もない。これは意図的な演出なのだろうか。

しかし一方で、このVIPたちは明確な“メタファー”として描かれているのも事実だ。匿名の仮面をかぶり、残虐なショーを興奮しながら観戦する彼らは、まさに本シリーズ『イカゲーム』を消費する私たち視聴者の姿そのものに重なる。

『イカゲーム』(シーズン1)はそもそも、残酷な社会の構造をあぶり出す作品だった。しかし気づけば世界的大ヒット。トラックスーツ、ハロウィン仮装の定番、各種グッズなど商品化され、我々はその消費者となっていた。

さらに、2023年にNetflixが制作したリアリティ番組『イカゲーム:ザ・チャレンジ』では、“死なないイカゲーム”として巨額の賞金を競い合った。「週間グローバルTOP10」でも1位にランクインし、多くの人が視聴した。

シーズン3のラスト、ゲームが終わると同時に、VIPたちは何事もなかったようにその場を後にする。当然、誰からも咎められることはない。彼らの背中は、スマホの画面をタップして次の動画へと進む私たちの指先と、どこか重なって見える。

大物のカメオ出演と「イカゲーム:アメリカ」

シーズン3のエピローグでは、フロントマンことファン・イノがアメリカ・ロサンゼルスに現れ、ギフンの娘・ガヨンの家を訪れる場面が描かれる。彼は“父の遺品”と称して、ゲーム時のトラックスーツと、ギフンが手にした賞金が入ったキャッシュカードを手渡す。

その後、ファン・イノはロサンゼルスのダウンタウンで、面子ゲームで遊んでいる二人を目撃する。そのうちの一人は、イカゲームのリクルーターだ。演じているのは、なんとケイト・ブランシェット。彼女は一言も発さず、ただ静かに次の“プレイヤー候補”を選び、淡々とその任務を遂行し、イノに目を合わせると、静かに微笑みかける。

このラストシーンが意味するものは明らかだ。監督はインタビューでこう語っている。

「個人的には、多くの人々の崇高な努力にもかかわらず、世界はまだ以前のまま続いている、と解釈しています」

皮肉屋ファン・ドンヒョク監督らしいエンディングだ。監督はあくまでも「ケイト・ブランシェットは本シリーズ(オリジナル)におけるエンディング」と語っている。さらに「物語はこれ以上語る必要がない形で終わったと思う」とも言っている。

一方で、監督の手を離れた『イカゲーム』というIPは現在、デヴィッド・フィンチャー監督が手がける英語版シリーズとして水面下で進行中とも報じられている。

それを踏まえたうえで、ケイト・ブランシェットのカメオ出演がオリジナルのエンディングに必要あったのかと思うと、なくても十分に成立したと思えるが、そこにこそ最大の皮肉がある。

『イカゲーム』という作品は、本来なら資本主義社会の暴力性や民主主義への疑問、金の価値を問う風刺として機能していた。ところが今や、Netflixの巨大なエンタメシステムに回収され、スピンオフ、カメオ、続編という“お約束の構造”に飲み込まれつつある。そもそもがシーズン1で終わる構想だったシリーズでもあるのだ。

視聴者を風刺していたはずのシリーズが、視聴者に媚びるように変質していくようだ。終わったと見せかけて、まだ続くのか?でも、私もあなたも、きっと見てしまうだろう。

参考文献『イカゲーム3』のインタビューなど

以下は、本記事作成にあたって参考にしたファン・ドンヒョク監督のインタビュー記事・動画です。本シリーズを深く知りたい方は、ぜひ一読してみてください。

『イカゲーム』最終回:クリエイターがギフンの死とスピンオフの可能性について語る|The Hollywood Reporter

イカゲームのVIPの背後にある現実のインスピレーション | TIME

「イカゲーム」の真の勝者はファン・ドンヒョクだ | The New York Times

「イカゲーム」の制作者と主演俳優が、シーズン3の民主主義と貪欲に関するメッセージを語る|Los Angeles Times

イカゲーム・シーズン3のラストシーン、アメリカ人リクルーター役の【ネタバレ】が明らかに|TUDUM

Netflix特番『イカゲーム:監督・出演陣が語る』

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