今回ご紹介する映画は、『あのこは貴族』です。
山内マリコさんの原作小説を、長編商業映画2作目となる岨手由貴子監督が映画化。
東京を舞台に2人の異なる人生が交わる様子を、門脇麦さんと水原希子さんが好演していました。
映画『あのこは貴族』の作品情報とあらすじ

作品情報
原題 | あのこは貴族 |
---|---|
監督 | 岨手由貴子 |
脚本 | 岨手由貴子 |
出演 | 門脇麦 水原希子 石橋静河 山下リオ 高良健吾 |
製作国 | 日本 |
製作年 | 2021年 |
上映時間 | 124分 |
おすすめ度 | (4.5点/5点) |
あらすじ
東京で箱入り娘として生まれ育った華子は、20代後半にさしかかり結婚を考えていた恋人に別れを告げられてしまう。
一方、都内で働く富山生まれの美紀は恋人もなく、仕事にもやりがいを感じていなかった。
そんなある日、とあるきっかけでふたりは出会う……。
『あのこは貴族』のスタッフ・原作
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
岨手由貴子(そで ゆきこ)監督
- 『グッド・ストライプス』
本作で長編商業映画が2本目となる岨手由貴子監督。
劇場1本目の映画『グッド・ストライプス』では、TAMA映画祭にて最優秀新藤兼人賞を受賞されています。
山内マリコ
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
- 『ここは退屈迎えに来て』
- 『アズミ・ハルコは行方不明』
原作は山内マリコさんの同名小説。
映画化もされている上記2作など、富山生まれの山内マリコさんならではの地方の閉塞感をリアリティあるタッチで描いてきました。
『あのこは貴族』のキャスト
キャスト | 役名 |
門脇麦 | 榛原華子 |
水原希子 | 時岡美紀 |
高良健吾 | 青木幸一郎 |
石橋静河 | 相楽逸子 |
山下リオ | 平田里英 |
門脇麦
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
- 『愛の渦』
- 『二重生活』
- 『止められるか、俺たちを』
- 『さよならくちびる』
門脇麦さんといえば、演技の上手さと個性的な存在感では若手女優の中でも頭一つ抜けていると思います。
小松奈々さんとダブル主演の『さよならくちびる』では素晴らしい歌唱力も披露していて、ますます今後が楽しみな俳優の一人です。
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水原希子
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
- 『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』
世界で活躍するモデルの水原希子さんですが、上記の『奥田民生〜』以外はガッツリ映画出演しているわけじゃないので、スクリーンで見るのは久々でした。
高良健吾
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
- 『蛇にピアス』
- 『横道世之介』
- 『きみはいい子』
高良健吾さんは安定の演技力で、名家でイケメンだけどどこか問題がある男性がバッチリハマっていて、キャスティングが絶妙だなと感じました。
石橋静河
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
- 『夜空はいつでも最高密度の青色だ』
- 『いちごの唄』
コンテンポラリーダンサーとしても活動する石橋静河さんですが、本作における立ち位置は超重要で、主演の2人をつなげる潤滑剤として素晴らしい演技をしていました。
石橋さん演じる逸子のキャラクターが本作においては目立っていて、彼女をサイドストーリーとして観ていきたい部分も感じるいい役柄でした。
山下リオ
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
- 『書道ガールズ!! わたしたちの甲子園』
- 『寝ても覚めても』
主演こそ少ないですが、数々のドラマや映画に出演して存在感を見せている山下リオさん。
本作においても、物語に溶け込み実在のキャラクターのような親近感がありました。
※以下、映画のネタバレに触れていますのでご注意してください。
【ネタバレ感想】最高の日もあれば、最低の日もある
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
まず、率直な感想を言うと素晴らしいの一言です。
東京を舞台に描かれる人々の物語がクロスオーバーし、スクリーンを通して現実が見え、爽やかな読後感も残る素敵な作品でした。
5章構成で描かれる女性の物語
本作のあらすじをザックリと説明すると、東京で生まれ育った「箱入り娘」と、田舎育ちの「上京組」が邂逅(かいこう)し、その後の生き方を描いた作品でした。
観る前までは、自分の余計なバイアスで、主演の門脇麦さんと水原希子さんの役柄が逆のようにどこか感じていましたが、本当にそれが余計な心配だったと思う素晴らしい演技をしていました。
映画『あのこは貴族』は5章構成で描かれます。
- 第1章 東京(とりわけその中心の、とある階層)
- 第2章 外部(ある地方都市と女子の運命)
- 第3章 邂逅
- 第4章 結婚
- 第5章 一年後
劇中でも明確に章立てされ、区分けされていました。
初めの1章では「箱入り娘」のお嬢様、華子の姿を描き、2章では富山から上京した美紀の姿を、3章ではそんな2人が邂逅する様子を描き、4章で結婚を、そして最後にはその後を描いています。
印象的な2つの邂逅
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
特に印象的なのが、華子と美紀が邂逅する2つのシーン。
高良健吾さん演じる名家生まれの青木幸一郎という男性を通して、華子と美紀が邂逅するのです。
- ホテルラウンジでのシーン
- 美紀の自宅のシーン
実は、劇中で華子と美紀が交わるのは上記の2回だけですが、どちらも非常に印象的に劇中を彩っていました。
まず、幸一郎をきっかけにして2人が初めて邂逅するホテルラウンジのシーン。
バイオリニストの逸子を通し、華子と婚約している幸一郎が美紀と関係を持っていることが分かったことで引き合わせられる2人。
本来、修羅場となり得る場面ですが、本作ではそうはなりません。
「女性同士の対立や分断は嫌だ」と話す逸子の計らいによって巡り合った華子と美紀は、生まれも育ちも違いながらに共鳴する何かを感じるのです。
その後、美紀は幸一郎との関係を絶ち、第4章へ入ると、華子は幸一郎と結婚します。
幸一郎は結婚後、議員秘書の仕事をするようになり、夫婦の時間はわずかとも言えないものとなっていくのです。
そんな中、華子と美紀が再び邂逅するシーン。
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
タクシーで帰宅しようとする華子の前に、自転車で帰る美紀の姿が現れるのです。とっさに引き止めた華子は、そのまま美紀の自宅へと訪れます。
これまでずっと実家暮らしの華子にとって、「全部自分のもの」で溢れる美紀の部屋が心地よく映るのです。
慌ただしくも起業という新たな目標に向けて奔走する美紀の姿を目の当たりにした華子。
そんな美紀からかけられる言葉にハッとさせられます。
そんな帰り道、華子はタクシーを使わず自分の足で帰路につくのでした。
たった2回の邂逅ですが、それぞれの人生に少なからず影響を及ぼしあった印象的なシーンとなっていました。
【ネタバレ考察】 階層は違えど、同じ空の下の世界
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
東京にある見えない“階層”を描いた本作ですが、それらを描く印象的なモチーフも面白いものがありました。
劇中を彩る対比のモチーフ
観ていて感じたの印象的なモチーフたちが以下の3つ。
- 写真と笑顔
- 雨と傘
- タクシーと自転車
写真と笑顔
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
華子と美紀それぞれ、写真の被写体としての表情の変化を印象的に描いていました。
華子は冒頭、家族写真撮影の後に一人用の写真を撮られますが、その時の作られた笑顔と、物語のラストに見せる笑顔には明確に違いが伺えます。
はじめと終わりで華子のクローズアップの笑顔で切り取られる本作ですが、その表情が全く違って映るのです。
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
一方、美紀の場合は、高校の同級生である里英に撮ってもらった慶應義塾大学入学時の写真と、ラストの里英と一緒に起業して仕事しているときに撮った写真が印象的に対比されていました。
華子と美紀、それぞれが人から促されることなく自ら笑顔で写真に映る姿が描かれているのです。
雨と傘
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
雨男、幸一郎とのシーンは降りしきる雨が印象的でした。
華子と幸一郎が初めて会うシーンで、華子がさしている傘は恐らく「フルトン」の傘。
この傘、英国王室御用達のメーカーで、その形状から「バードゲージ(鳥かご)」と呼ばれているのですが、まさに「箱入り娘」の華子の姿を象徴しているようでした。
そんな華子が後半、タクシーを使わずに自らの足で東京の街を歩くシーンでは、安っぽいビニール傘に変わっているのも印象的。
帰路につく頃には雨も上がり、華子のこわばった表情も雨に流されていったように見えます。
タクシーと自転車
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
タクシーと自転車も同様に印象的。
華子はタクシーでの移動がメインの一方で、美紀は自転車で移動し、2人の住む“階層”の違いを移動手段を通して描かれます。
そんな中、美紀と里英が自転車で二ケツするシーンは、印象的で美しく、2人で起業して漕ぎ出していく人生を映しているようでした。
そんな異なった世界が、先述した華子と美紀の2回目の邂逅シーンでは、タクシーと自転車を介して交わるのです。
階層は違えど、同じ空の下の世界
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
『あのこは貴族』が面白かった要因のひとつに、「交わることのない人の交わり」があると考えます。
見えない“階層”というものは確かに存在しつつも、多くの人が暮らしている東京という街。
世界トップクラスの都市人口密度を誇る東京ですが、不思議なもので、これほど多くの人がいるにも関わらず、人々の関係性は決して濃いものとは言えません。
自分の周りを見渡しても、関わりのある人は多くの場合、自分と同じ“階層”にいる人だと思います。
異なった階層の人たちが交わるとき、現実世界においてもそれは大抵の場合、対立と分断が訪れます。
しかし、本作ではそれを明確に避け、異なる階層でも共鳴する何かを感じさせるのです。
それこそが、美紀が華子にかけた言葉に集約するのだと思います。
たとえ、生まれた家庭や環境は変えられなくても、自分がどう生きるかは選択できる。
そんな人生の一喜一憂を共有できる人との出会いこそが素晴らしいと思える、人生讃歌の映画なんだと感じました。
本来、誰もが対立なんて望んでいないはずなのに、人知れず見えない線引きをしてしまっているのです。
必死に自分をよく見せようとし、他人と比較して悩み、東京という街で溺れるくらいに苦しみもがいて生きる。
東京で生まれようが地方で生まれようが、それは同じなのかもしれません。
階層は違えど、同じ空の下、抱える息苦しさは共通する。
そんなカオスである東京という街で邂逅し、自分の足で歩んでいく道を選択する2人の姿はとても爽やかな読後感がありました。
【まとめ】それでも東京という街が好きです
以上、山内マリコさん原作、岨手由貴子監督『あのこは貴族』をご紹介しました。
東京を舞台にクロスオーバーする2人の人生を通して、現実世界を垣間見た素敵な作品でした。
また、華子が山中崇さん演じるおじさんとのシーンで、瓶からジャムを指で取って舐めるシーンとか、石橋静河さん演じる逸子の自由な動きなど、細かいシーンにもキャラクターの奥行きが見えてすごく良かったです。
東京で生まれ育った人、地方から上京した人、上京して地方へ戻った人、地方で生まれ育った人の誰もが共感するポイントがあると思います。
地方から上京して仕事している私にとっても共感する場面が多々あり、背伸びしたくなる危うくも魅力的な東京という街が好きになる映画になっていました。
ぜひ、劇場でご覧ください。
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