今回ご紹介する映画は、『すばらしき世界』です。
西川美和監督による作品で、実在した男をモデルに「社会」と「人間」の今をえぐる問題作。
ひとりの人間を通して社会をみる、誰にとっても他人事ではない物語になっていました。
映画『すばらしき世界』の作品情報とあらすじ
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作品情報
原題 | すばらしき世界 |
---|---|
監督 | 西川美和 |
脚本 | 西川美和 |
出演 | 役所広司 仲野太賀 橋爪功 六角精児 北村有起哉 |
製作国 | 日本 |
製作年 | 2021年 |
上映時間 | 126分 |
おすすめ度 | [jinstar4.5 color="#ffc32c" size="16px"](4.5点/5点) |
あらすじ
出所した元殺人犯・三上は、保護司の庄司夫妻に支えられながら自立を目指していた。
そんなある日、テレビディレクターとプロデューサーがとある内容で、彼にテレビ番組のオファーを持ちかける。それは、社会に適応しようともがく三上を捉えるというもので……。
『すばらしき世界』のスタッフ・原作
©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
西川美和監督
- 『ゆれる』
- 『ディア・ドクター』
- 『夢売るふたり』
- 『永い言い訳』
是枝裕和監督に見出されて、その後、是枝監督と共に映像制作集団「分福」を立ち上げた西川美和監督。
前作『永い言い訳』から5年ぶりとなる本作は、これまでのシニカルな社会の描き方は変わらずも、表現的なこれまでの作品とは異なり、現代社会にメッセージを問いかけるような作品となっています。
[chat face="twitter-icon.jpg" name="まめもやし" align="left" border="gray" bg="none" style="maru"] これまで自身によるオリジナル作品を撮ってきた西川監督が、本作では小説を原案として描いるのにも注目ですね。 [/chat]
本作の制作過程を綴ったエッセイも連載しています。
原案:佐木隆三「身分帳」
佐木隆三が1990年に講談社より刊行した小説が原案。
人生の大半を獄中で暮らした男には、戸籍がなかった。出所して改めて日常社会と向かい合い、純粋な魂の持ち主であるこの人物はどう生きたか。
彼に代ってその数奇な“身分帳’'(刑務所内の個人記録)を精緻に構成して、鮮烈な文学作品に結実させた労作。
本作の公開にあたって、絶版状態だった小説が復刻されました。
『すばらしき世界』のキャスト
キャスト | 役名 |
役所広司 | 三上(人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯) |
仲野太賀 | 津乃田 (TVディレクター) |
橋爪功 | 庄司(弁護士・三上の身元引受人) |
梶芽衣子 | 敦子(庄司の妻) |
六角精児 | 松本(スーパーの店長) |
北村有起哉 | 井口(役所のケースワーカー) |
長澤まさみ | 吉澤(TVプロデューサー) |
安田成美 | 西尾久美子(三上の元妻) |
役所広司
©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
- 『Shall we ダンス?』
- 『うなぎ』
- 『CURE』
- 『三度目の殺人』
- 『孤狼の血』など
日本を代表する名俳優、役所広司さんが主演の本作。
これまでにも役所さんの素晴らしい演技は何回も観て来ましたが、本作もまた同様。
元殺人犯という危うさの一方で、繊細さや優しさも持ち合わせている三上という男を完璧ん演じていました。
関連記事映画『孤狼の血』は実話?モデルやキャスト・続編を解説!【ネタバレ感想】
仲野太賀
©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
- 『南瓜とマヨネーズ』
- 『生きちゃった』
- 『泣く子はいねぇが』など
近年、若手俳優の中でもメキメキと頭角を現し、その独特の世界観を作り上げているのが、俳優・仲野太賀さん。
宮藤官九郎脚本のドラマ『ゆとりですがなにか』でゆとりモンスターを演じて話題になり、近年では『生きちゃった』や『泣く子はいねぇが』など主演作で確固たる存在感を発揮して評価されています。
[chat face="twitter-icon.jpg" name="まめもやし" align="left" border="gray" bg="none" style="maru"] 日本を背負っておく俳優なると思います! [/chat]
役者たちの“すばらしき演技”
©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
その他にも、六角精児さんや橋爪功さんの安定感や、ちょい役だけど強烈に印象が残る長澤まさみさんなど、キャスト陣の演技が素晴しい!
北村有起哉さんは、同時期公開の『ヤクザと家族』ではガラッと状況の異なる役柄を演じていて面白いです。
※以下、映画のネタバレに触れていますのでご注意してください。
【ネタバレ感想】この世界の“温かさ”と“生きづらさ”
©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
殺人を犯し、人生の大半を刑務所で過ごした三上という男が、出所して社会に復帰するも、不寛容な社会の生きづらさと対面していくというストーリー。
同じ時期に公開された藤井道人監督の『ヤクザと家族』と似たプロットになっています。
描くテーマは同じでも、『ヤクザと家族』がひとりの男の生涯を3つのパートに分けて映したのに対し、本作『すばらしき世界』はひとりの男の出所後の生きづらさにフォーカスして描いていました。
[chat face="twitter-icon.jpg" name="まめもやし" align="left" border="gray" bg="none" style="maru"] どっちの作品も素晴しいのでぜひ合わせて観て欲しいですね! [/chat]
関連記事【ネタバレ考察】『ヤクザと家族 The Family』と唯一無二の俳優・綾野剛【相関図も】
この世界の“温かさ”と“生きづらさ”
©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
『すばらしき世界』が面白いのは、不寛容な社会の生きづらさだけを描くのではなく、そこに人間のつながりの温かさも描いているところ。
この両面性は、至るところで感じられるんですよね。
特に三上はそれが顕著で、殺人を犯したという事実や、瞬間湯沸かし器と言われるような、カッとして力で解決しようとしてしまうところだけではなく、彼の優しさや誠実さも映されます。
TVディレクターの津乃田も、三上が見せた凶暴性を前に逃げ出してしまうも、カメラを捨ててちゃんと向き合うことを決めたり。
この津乃田という人物を通して、観客は三上と、そして三上が生きる社会を観ていくことになるのです。
その他にも、反社とは保護は下りないと突き放そうとするも積極的に関わっていくケースワーカーや、万引きを疑ってしまうも、誤って意気投合していくスーパーの店長など。
また、色味としても変化していましたね。
冒頭のシーンでは、鉄格子越しに映される閉塞的な映像と、一面が雪で真っ白な色の抑えた世界。
それが次第に、少しずつ色が加わっていき、ラストにはコスモスの花を握る手で締めくくられていました。
そして、両面性の極めつけは、タイトル『すばらしき世界』ですよね。
【ネタバレ考察】 “すばらしき世界”に生きる私たち
©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
『すばらしき世界』というタイトルに込められた両面性について考えていきます。
私たちの暮らす世界は“すばらしい”のか
「こんな社会じゃダメだよ」
口で言うのは簡単です。
この社会はリスタートする人にとってあまりに不寛容です。
一度社会のレールから外れてしまうと“普通”の暮らしをすることができなくなってしまうような生きづらい世の中。
だから人々は、「自分はレールから外れまい」と内向きになり、他人が落ちても手を差し伸べることもなく、レールから外れたものは置いていかれてしまうのです。
レールから外れた人は、そんな社会に嫌気が差し、ますます孤立していきます。
『すばらしき世界』では、三上という男に焦点を当てていますが、彼が生きづらさを感じる社会は、紛れもなく私たちの暮らす社会なんです。
三上の就職先でのシーンはあまりにも辛い。
彼のように力で解決しようとするのは極端ですが、彼がそうなってしまったのにも環境を感じさせます。
理不尽なことも周りに合わせて我慢することが社会で生きることなのでしょうか。
そんな社会でも、「つながり」を持つことが大切だと語られます。
三上は、身元引受人やケースワーカー、スーパーの店長といった優しい人々と出会うことができました。
生きづらさを抱えるのは三上だけではありません。
例えば、三上が「うるさい」と注意した下の階に住む人たち。彼らは東南アジア辺りからの外国人労働者のようでした。
さらに、三上の就職先の障がいのあるアルバイトスタッフも。
もっと広げて考えると、あらゆることにおいて生きづらさを抱える人が存在し、それに対して社会はあまりにも不寛容になっていっています。
本作を観たからと言ってすぐにでも社会が変わるわけでもなければ、僕たち一人ひとりが何かをできるわけでもありません。
しかし、「すばらしい世界」を生きる一員として、意識を変えるきっかけになる作品でした。
そして思うのです。
劇中で効果的にインサートされる美しい空や街の様子。
卵かけご飯を食べる、洗濯をしてゴミを出す、人と挨拶を交わす。
この、“ありふれた日常”こそ、「すばらしい世界」じゃないかと。
僕たちは同じ空の下で、どうして勝ち負けを争ったり、誰かを蹴落として生きるのでしょうか。
【まとめ】紛れもなく「すばらしき映画」
以上、西川美和監督『すばらしき世界』をご紹介しました。
「この世界は生きづらく、あたたかい」
誰もが他人事ではない、社会の一員として考えさせられる映画でした。
長澤まさみさん演じるプロデューサーの吉澤の立ち位置が、少ししか登場しないものの強烈に刺さります。
当初の津乃田は、暴力に走る三上を映すこともできなければ、止めることもできませんでした。
その中途半端さが、吉澤から「あんたみたいなのが一番なにも救わない」と言われてしまいます。
この言葉はメディアだけじゃなく、僕たちひとりひとりに向けられているようで辛いのです。
「すばらしき世界」にするために、僕らになにができるだろうか。
役所広司さん、仲野太賀さんを始めとした役者陣のすばらしい演技が織りなす骨太な人間ドラマでした!
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