今回ご紹介する映画は『私のトナカイちゃん』です。
ストーカー被害に遭ったコメディアンの実話を、当事者であるリチャード・ガッド本人が脚本・主演・製作した衝撃作。
本記事では、ネタバレありで『私のトナカイちゃん』を観た感想・考察、あらすじを解説。
鑑賞には要注意ですが、ものすごい作品でした…!
鑑賞上の注意
Netflixドラマ『私のトナカイちゃん』には、性暴力やストーカー被害、グルーミングの様子が描かれています。フラッシュバック誘発の可能性もあるため、鑑賞の際には注意してください。
『私のトナカイちゃん』作品情報・配信・予告・評価
私のトナカイちゃん
5段階評価
あらすじ
売れない芸人のドニーはある日、自分が働くパブで寂しそうな女性と出会う。弁護士だというその女性に紅茶を無料で提供したところ、執着されるようになり…。
作品情報
タイトル | 私のトナカイちゃん |
原題 | Baby Reindeer |
監督 | ヴェロニカ・トフィルスカ ヨゼフィーネ・ボルネブッシュ |
脚本 | リチャード・ガッド |
出演 | リチャード・ガッド ジェシカ・ガニング ナヴァ・マウ トム・グッドマン=ヒル |
製作国 | イギリス |
製作年 | 2024年 |
話数 | 全7話 |
配信サイト
配信サイト | 配信状況 |
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『私のトナカイちゃん』キャスト・キャラクター解説
キャラクター | 役名/キャスト/役柄 |
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ドニー・ダン(リチャード・ガッド) パブで働くコメディアン志望。 | |
マーサ・スコット(ジェシカ・ガニング) ドニーに過激にアプローチする女性。ストーカーで実刑となった過去がある。 | |
テリー(ナヴァ・マウ) トランスジェンダーのアメリカ人セラピスト。マッチングアプリを介してドニーと出会う。 | |
ダリアン・オコナー(トム・グッドマン=ヒル) テレビの有名な脚本家。とあるパーティでドニーと出会う。 | |
キーリー(シャローム・ブルーン=フランクリン) ドニーの別れた元カノ。ドニーと一緒にリズの家で同棲していた。 | |
リズ(ニーナ・ソーサニャ) キーリーの母親。キーリーと別れた後もドニーが住むことを許している。 |
ネタバレあり
以下では、ドラマの結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ感想・考察】ストーカー被害と性暴力被害の実話
© 2024 Netflix
『私のトナカイちゃん』は、コメディアンでクリエイターのリチャード・ガッドが体験したストーカー被害とレイプ被害の実体験に基づいたドラマです。
ドラマは、2016年に行われたエディンバラのフリンジ・フェスティバル(演劇やパフォーマンスアート、音楽、ダンスなどの芸術祭)でのガッドのワンマンショー『Monkey See Monkey Do』と、2019年に行われた世界最大のパフォーマンスアートフェスティバル「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」で上演された舞台『Baby Reindeer』に基づいています。
物語は、コメディアンとしての成功を目指すドニーが受けたストーカー被害と、過去の性暴力被害の様子を描いています。
特に第4話で明かされる、ドニーの過去のトラウマは本当に観るのが辛いです。成功を目指すドニーにとって、テレビで活躍する脚本家ダリアンからの誘いは、業界とのつながりを掴むきっかけとして、希望に見えたことでしょう。
しかし、ダリアンはドニーをドラッグ漬けにしてレイプするという極悪非道な性的暴行を行いました。意識朦朧とするドニーが、ゴム手袋をはめたダリアンの姿を目撃する様子や、シャワーを浴びて肛門の激痛に襲われる表現など、あまりにもリアルで、ゾッとする描写でした。
SurvivorsUKの調査では、同性愛者およびバイセクシュアルの男性のほぼ半数(45%)が性的暴行を経験していることが判明したと報告しています。
これは男性全体に比べて、同性愛者やバイセクシュアルの男性が性暴力を経験している可能性が2倍以上高いことがわかり、彼らが経験している性暴力被害への深刻さを浮き彫りにしています。
ドラマでは、ドニーの受けた性暴力のトラウマが、彼の人生に長く暗い影を落としている様子が描かれています。ドニーは自分のトラウマを内に秘めたまま、苦しみ続けていました。
ガーディアン紙によると、ガッドは「We Are Survivors」というレイプ被害や性的搾取された男性サバイバーらを支援する慈善団体と長年協力しています。
そして彼らの支援に救われたガッドは、「沈黙を破ることが最初のステップ」だと明かし、話すのが難しい場合は、文字にするなど、吐き出すことを提案しています。
ドラマ内でも、繰り返しドニーが自分のトラウマを言えずに抱え込んでいる様子が描かれています。その背景には、レイプされたことを「恥」と捉えてしまうドニーの「有害な男らしさ」との闘いも映されています。警察にストーカー被害を相談するドニーですが、男性が女性からストーカーされることを信じない警官の姿などにも「有害な男らしさ」が現れています。
そしてこれらの物語を当事者であるガッドが演じていることの凄みは、筆舌に尽くし難いものがあります。ガッドはそれでも「自己犠牲を払う価値がある」と。ドラマが多くの人に届くことの意義を話しています。
一方、ジェシカ・ガニング演じるマーサの演技も見事でした。実はストーカー加害者のマーサが実際に人間として演じられるのは本ドラマが初めてのこと。『Monkey See Monkey Do』はワンマンショーで、舞台の『Baby Reindeer』ではストーカーはスツールで表現されていたそう。
マーサは単なるストーカーの加害者としてだけではなく、ドニーと共依存関係になっていく様子や、それがドニーのトラウマを深ぼっていく物語としてのきっかけにもなっていて、ラストでドニーがマーサと同じ状況に立たされる様子の描き方も、このドラマがストーカーに打ち勝つ物語ではないことを示唆しています。
第1話のあらすじ
© 2024 Netflix
2015年、ロンドンのパブで働いていた売れないコメディアンのドニー・ダンは、思い詰めた表情の客にドリンクをサービスする。それをきっかけに、その客、マーサ・スコットはパブの常連となる。彼女は自らを弁護士だと名乗り、ドニーは半信半疑だったが彼女の話を楽しんでいた。
しかし、彼女のアプローチは次第に過激になり、ドニーを「トナカイちゃん(Baby Reindeer)」と呼び、1日に何百通ものメールを送り始めるようになる。ドニーはしぶしぶマーサをカフェに誘うが、周囲を来にせず大声で笑ったり、暴言を吐いたりして困らせる。
ドニーはマーサがどんな生活をしているのかを調べるために尾行すると、彼女は公営団地の安アパートに住んでいることを知る。しかし、尾行したことをマーサに知られると、彼女はドニーが自分に興味があると考えてしまう。
ドニーはその後、地元のスタンダップコメディの大会に出場すると、いつものように笑いを取ることに苦労するが、会場に来ていたマーサが茶々を入れたことで笑いを取り、準決勝に進むことができた。
終演後、マーサはドニーに愛を告白し、ドニーが困惑すると取り乱してしまう。帰宅後、ドニーはFacebookでマーサから友達リクエストが来ていることを知り、彼女が過去にストーカーで懲役4年半の実刑を受けていたことを知る。しかし、それでもドニーはマーサの友達申請を受け入れる。
第2話のあらすじ
© 2024 Netflix
ドニーはマッチングアプリを通じて、トランスジェンダーのアメリカ人セラピスト、テリーと密かにデートしていた。ドニーは彼女のことが好きになっていたが、周りに知られることを恥じて、自分の名前と職業を偽り、建設現場勤務のトニーと名乗っていた。
一方、マーサのストーカー行為はますます激しくなり、ドニーのFacebookのすべての写真にコメントを残したり、元恋人のキーリーに嫌がらせのメッセージを送っていた。テリーに相談すると、彼女は警察に行くよう勧めるが、ドニーはそこまでではないと考えていた。
ドニーが距離を取ろうと年齢差を指摘すると、マーサは生殖能力があることを誇示して大量のメールを送り付ける。ドニーはパブで待ち伏せするようになったマーサを遠ざけようと同僚に相談するが、同僚は悪ふざけでマーサにアナルセックスを求める返信を送ってしまう。
その後、ドニーはコカインでハイになりながらテリーとのデートを楽しむが、その帰り道、彼女から電車内でキスを求められると、ドニーはパニックになり彼女を置いて去っていく。ドニーは家に帰ろうとすると、マーサが待ち伏せしており、彼女はドニーを壁に押しつけ、体が硬直したドニーの股間を触る。
第3話のあらすじ
© 2024 Netflix
ドニーはテリーに謝罪するために彼女の家を訪問し、偽っていたことを明かして謝罪するが、テリーは怒って彼に出て行くよう伝える。
ドニーは元恋人キーリーの実家で暮らしており、自分がセックスができないことが原因で彼女と別れてからも、彼女の母リズと一緒に暮らしている。ドニーが家に帰ると、マーサは偽名でリズと親しくなって上がり込んでいた。ドニーは警察に通報すると脅して彼女を追い出すが、マーサはドニーの寝室に自分の下着姿の写真を残す。
その後、マーサはドニーの家の前のバス停に常駐するようになる。ドニーは無視し続けるが、彼女の体を心配して彼女の家に送り、けじめをつけさせようと、付き合っていないが別れ話を切り出す。
それによってマーサからの連絡は一時的に途絶える。しかし、ドニーがスタンダップコメディの準決勝の舞台に立つと、会場に来ていたマーサがテリーもいる中で罵声を浴びせ始める。
彼女は会場から追い出されるが、その後、楽屋でテリーと話していると、無理やり押し入ろうとする。テリーはドニーとの関係を修復することを決めるが、激昂したマーサがテリーに襲いかかり、彼女の髪の毛を引っこ抜いてしまう。
第4話のあらすじ
© 2024 Netflix
半年後、ドニーはマーサを警察に通報する。時間がかかった理由を警官に尋ねられると、ドニーは5年前の出来事を思い出す。
コメディアンの夢を見てエディンバラへやってきたドニーは、売れっ子テレビ番組の脚本家ダリアン・オコナーと偶然出会う。ダリエンからのアドバイスによってパフォーマンスは良くなるが、ある時、突然ダニーの前から姿を消す。
オックスフォードに移り住んだドニーは、演劇学校に通い始めて、そこでキーリーと出会って同棲する。ダリアンから連絡を受け、テレビの共同脚本の話を持ちかけられると、ドニーは喜んでそれに応じる。
しかし、ダリアンはドニーにドラッグを勧め、彼がハイになっている間にドニーに性的暴行を加える。ドニーはダリアンからグルーミングされていることに気づかず関係を続け、あらゆるドラッグを乱用するようになり、同時にダリアンからレイプされる。それによってキーリーとの関係も悪化すると、ドニーはダリエンのもとを去るが、キーリーとの関係は破綻する。
それ以降、ドニーは自分が男性に惹かれていることに気づくが、一方でその感情と自分のレイプ被害を恥じ、その感情を埋めるように、無数の相手とセックスを繰り返すようになる。そして恋愛感情が消失しかけていた中で、テリーと出会い、彼女に恋をする。一方、突然現れたマーサは、いとも簡単に自分の心の闇に触れて光に変えた。
ダニーはダリアンの犯罪の悪質さを認識しながらも、当時は通報できなかったことから、マーサを通報することで彼の話もしないといけないことを察知し、彼女への罪悪感や同情心もあり、結果的に警察に本心を打ち明けることはできなかった。
第5話のあらすじ
© 2024 Netflix
マーサはドニーのパブで騒ぎを起こして出入り禁止になる。しかし、マーサの行動は過激化し、キーリーに路上で襲いかかる事件を起こすと、ドニーはリズから家を出ていくように伝えられる。
ドニーは演劇学校時代の友人たちのアパートに引っ越すが、彼らが毎晩ドラッグ漬けのパーティーを開いており、テリーの家で過ごす時間が増えていく。ドニーはそこで初めてバイセクシャルであることをカミングアウトする。
2人はセックスしようとするが、ドニーはダリアンのトラウマでセックスができなくなっていた。それによって2人の関係は悪化し始めると、テリーはマーサから暴行を受けたことを警察に通報していないことを指摘する。彼女はマーサに言われた「男みたい」という言葉と、ドニーがセックスができないことに傷ついていた。
ドニーはようやくマーサを警察に通報し、彼女が前科者であることが判明すると、警察も事件に真剣に向き合うようになる。すると、これまで毎日来ていたマーサからの連絡が途絶える。
しかし、ドニーはマーサを恋しく思い始め、彼女が残した写真で自慰行為までするようになる。さらにマーサに会いに行き、セックスをすると、そのおかげで性欲が復活し、テリーとのセックスも成功し、2人の関係は改善する。
そんな中、ドニーの母から留守電が入る。彼女の話では、マーサからドニーが交通事故に遭ったと聞かされ、切羽詰まった様子で心配する声が残されていた。
第6話のあらすじ
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ドニーは実家に帰省すると、マーサがドニーの両親に嫌がらせを始め、精神的に負担をかけていることを知る。警察も役に立たないことから、ドニーは自ら行動に移し、マーサにメールを送らせて刑事に転送し、彼女を陥れようとする。
しかし、マーサはやりとりをすべて録音しており、ドニーは警察から注意を受ける。テリーとの関係も悪化し、彼女はドニーの煮えきらない態度とマーサに怯えて生活することに疲れて別れを切り出す。
その後、ドニーがスタンダップコメディの決勝戦の舞台に出演しようとする中、マーサがパブに現れて嫌がらせをする。ドニーはマーサがストーカーの前科者であることを明かすと、激昂したマーサが襲いかかり、グラスを顔にぶつけられる。パブのオーナーは問題が起きたときに店にいなかったことで、不始末の責任を取らされることを恐れてマーサの暴行を告発しないようドニーを説得する。
ドニーはやつれた状態でスタンダップコメディの決勝戦に臨むが、客はドニーのジョークで笑わない。ドニーは笑わせることをやめてステージで泣き崩れ、これまで自分が受けたレイプ被害や、ストーカー被害、テリーとの関係や罪悪感から羞恥心、自己嫌悪に至るまでを客前で吐露し、劇場を後にする。
第7話(最終話)のあらすじ
© 2024 Netflix
ドニーの舞台上での告白動画はSNSで拡散され、彼のキャリアは大きく前進する。しかし、多くの仕事が舞い込むようになったことで、マーサもドニーの携帯番号を入手してしまう。
マーサはレイプ被害とセクシュアリティについて両親に話すと脅しかけるが、彼女よりも先手を打つため、実家に帰省して両親にすべてを打ち明ける。するとドニーは父親も性的虐待を受けていたこと知って驚愕するが、すべて打ち明けたことで心の負担が軽減され、家族との平穏な数日間を過ごす。
しかし、マーサからの迷惑電話は尽きることがなく、ドニーは改めて警察に相談する。すると警官はドニーに、マーサの残したボイスメールを聞き、脅迫内容があれば警察が動くから報告するように勧める。それによってマーサのボイスメールを聞くようになったドニーは、彼女のメッセージを感情で分類し、カタログ化するようになる。
彼女のメッセージを聞くことが強迫観念となると、ドニーは再びマーサに同情し始める。しかし、彼女が両親を刺すと脅迫したことで、警察に通報し、ついにマーサは逮捕される。そして判決の結果、懲役9ヶ月、執行猶予5年を言い渡される。それからドニーがマーサに会うことは二度となかった。
しかし、ドニーはマーサのいない世界に適応するのに苦労し、家に閉じこもり、彼女とのこれまでの関係のすべてを整理するようになっていく。ドニーの精神状態を心配したキーリーが部屋を訪問し、リズの家に戻るよう彼に頼む。
リズの家に戻ってくると、ダリアンにのために書いていた脚本を発見し、けじめをつけるためにダリアンのアパートを訪問する。ドニーはダリアンと丁重に会話し、ドニーのビデオを見たダリアンは、彼に脚本の仕事を依頼する。
ドニーは依頼を引き受けることにするが、帰宅してからパニック発作を起こしてしまう。心を落ち着かせようとパブに入り、まだ聞いていなかったマーサのボイスメールを聞くと、そこでマーサがなぜ自分を「トナカイちゃん」と呼ぶのかを知る。
ドニーが同情して涙を流していると、家を飛び出てきたために財布を忘れたことに気づく。ドニーの様子を気の毒に思ったバーテンダーは、ドニーとマーサの最初の出会いのような形で、ドニーにドリンクをサービスする。