今回ご紹介するのは映画『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』です。
アメリカ人小説家、ルイーザ・メイ・オルコットによる自伝的小説『若草物語』を女優であり監督でもあるグレタ・ガーウィグ監督がリメイク。
これまでに何度も原作を題材とした作品がある中のリメイクとなる本作ですが、実に豪華なキャストと素晴らしい演出、そして登場人物みんなが愛おしく、心地の良い作品になっていました。
そして本作は名作を現代版に昇華しているのはもちろんのことですが、その展開は女性監督ひいてはグレタ・ガーウィグだからこそできた手腕が光る傑作でした。
映画『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』の作品情報とあらすじ

作品情報
原題 | Little Women |
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監督 | グレタ・ガーウィグ |
原作・脚本 | 『若草物語』ルイザ・メイ・オルコット |
出演 | シアーシャ・ローナン エマ・ワトソン フローレンス・ピュー エリザ・スカンレン |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2019年 |
上映時間 | 135分 |
おすすめ度 | (4.5点/5点) |
あらすじ
しっかり者の長女メグ(エマ・ワトソン)、アクティブで自由な次女ジョー(シアーシャ・ローナン)、音楽の才能がある三女ベス(エリザ・スカンレン)、人懐っこくて頑固な四女エイミー(フローレンス・ピュー)。
愛情に満ちた母親(ローラ・ダーン)マーチ一家の中で、ジョーは女性というだけで仕事や人生を自由に選べないことに疑問を抱く…。
豪華キャスト陣を解説
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出典:https://www.imdb.com/
本作は、かなり豪華なキャスト陣が素晴らしい演技をしているのも印象的でした。
シアーシャ・ローナン(次女 ジョー)
13歳でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされてから、その後の出演映画で数々の賞を受賞する「賞レースの常連」と言われたシアーシャ・ローナン。
ゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞した『レディ・バード』でもその存在感は見事でした。
本作でもその演技力は安定で、物語の主軸となる次女・ジョーを演じ、冒頭の背中越しのショットからの町を駆けるシーンですでに惹きつけられるものがありました。
エマ・ワトソン(長女 メグ)
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出典:https://www.imdb.com/
皆さんご存じエマ・ワトソン。『ハリー・ポッター』シリーズを終えてからも着実にキャリアを重ねている彼女。
美しさを穏やかさを兼ね備えたマーチ家の長女メグを好演しています。
幸せそうに見えてよく考えるとなかなか辛いメグの悲壮感を上手く表情で伝えていて、素晴らしかったです。
フローレンス・ピュー(四女 エイミー)
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出典:https://www.imdb.com/
アリ・アスター監督のホラー映画『ミッドサマー』において強烈な印象を残したフローレンス・ピュー。
本作でも一番やっかいな役どころと言える四女エイミーを好演しています。どこか嫌われがちなエイミーを独特の魅力で愛らしさも感じられるキャラクターにしていました。
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エリザ・スカンレン(三女 ベス)
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音楽の才能をもち、内気だけどみんなからも好かれる三女ベス役にはエリザ・スカンレンが配役。
彼女は他の三姉妹の女優に比べるとキャリアは浅く知名度も低いですが、ストーリーで重要な立ち位置と起点となるベスという役柄を上手く演じています。
目立ちすぎてもダメで、なおかつ、みんなの印象に残るという難しいバランスを好演していて今後の活躍にも期待が高まりました。
ティモシー・シャラメ(ローリー)
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いま、最も乗りに乗っている俳優、ティモシー・シャラメはマーチ家の隣家に住むローリー役を担当。
この配役が絶妙で、彼が持つ独特の中性的でアンニュイな表情が、四姉妹の中に入ってくるローリーという役柄に違和感なく溶け込んでいるのです。
『君の名前で僕を呼んで』でのアカデミー賞主演男優賞ノミネートの実力は申し分なく発揮されていて、やりすぎなくらいにイケメンに描かれていました。
ローラ・ダーン(四姉妹の母親)
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四姉妹を支える強くて優しい母親役にはベテラン女優のローラ・ダーンが配役。
個性の強い四姉妹をまとめ、精神的な支えとなる彼女ですが、まさに賢母の鑑というような存在で、たくましく美しい母親として四姉妹をサポートしていました。
メリル・ストリープ(マーチ伯母)
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出典:https://www.imdb.com/
四姉妹の大おばで、母親のサポートとして四姉妹を厳しく育てるマーチ伯母には、大女優・メリル・ストリープが配役。
強い女性像の象徴でもあるメリルは、この配役もピッタリで、抜群の存在感を発揮しています。
とはいえ目立ち過ぎないように四姉妹の間に絶妙に入ってくる感じはさすがでした。
【感想】登場人物誰もが愛おしくなる
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出典:https://www.imdb.com/
登場人物の全員が愛おしい
全体的に印象的だったのは登場人物の誰に対しても嫌な気持ちを抱かないこと。
少しやっかいな性格の四女・エイミーですら愛おしく見えてくるのは、フローレンス・ピューの醸し出す演技がなす技のようにも感じました。
マーチ家の四姉妹の青春時代はなぜかずっと見ていられる感覚になります。決して裕福というわけではないけど心は豊かに、そして家族でいることの多幸感が映像から伝わってきます。
原作を知らなくても十分楽しめる
『若草物語』の物語を全く知らない人にとっても楽しめる作品だと感じます。
読後感の爽やかさが深い余韻を残すので、映画を通して改めて原作を楽しむという人も多いのではないでしょうか。
本作、現在と過去が頻繁に入れ替わる構成になっているので、最初は驚くかもしれません。
その入れ替えも混乱するほどではなく、むしろ現在とそれにつながる過去がリンクしてみることができるので、その時々のキャラクターの心情がより伝わってきて、うまい演出でした。
同時に、青春時代の永遠に続かない儚さと、現在の対比という誰にも共感できる描き方は見入ってしまいます。
※以下、映画のネタバレに触れていますのでご注意してください。
【ネタバレ感想】ラストに監督の優しさがにじみ出る
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出典:https://www.imdb.com/
幾度となくリメイクされてきたアメリカ文学の名作『若草物語』ですが、本作は非常に丁寧に、そして原作者に寄りそった優しい映画でした。
原作への愛のある解釈
改めて原作の『若草物語』を読んでみましたが、大筋は忠実に描いているように感じました。
大きく異なるのはジョーの描き方です。冒頭からすでにニューヨークで小説家を目指しているところから始まる本作。
そんな彼女が、過去を回想しながら自分と家族の物語(まさしくストーリー・オブ・マイ・ライフ)を執筆するという流れになっています。
この描き方が非常に巧みで、映画の尺に収めるだけではなく新しい『若草物語』としての解釈を現代的に描いているんです。
原作でジョーはニューヨークで出会ったベア教授と結婚をします。本作でもその物語は描かれるのですが、コレがすごいんです。
『若草物語』は原作者オルコットの自伝的小説ですが、オルコット自身は生涯結婚していません。
グレタ・ガーウィグ監督は上記のように解釈して描いたのです。
- 原作通りのベス教授と結婚するジョー
- 小説内でジョーを結婚させた小説家としてのジョー
このある意味メタ的な描き方をすることによって、2通りの生き方を描いたのでした。
これが原作と異なって時系列を変えたことに対する理由にもなり、よくできた脚本だと痛感させられます。
誰の生き方も否定せず、受け入れる寛大さ
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出典:https://www.imdb.com/
また、本作で大きなテーマとなるのが“結婚観”への考え方です。
どんな生き方も間違いじゃない
四姉妹がそれぞれ異なった性格であるように、結婚観に関しても考えは異なります。
ましてや原作はアメリカ南北戦争の1860年代が舞台。
女性が経済的に成功するには娼婦になるか、女優になるかしかない
劇中メリル・ストリープ演じるマーチ伯母の強烈な上記のセリフがあるように、当時の女性にとっては画一的な生き方を強いられる世の中でした。
そんな世の中に疑問を感じ、自分の感じるように生きるジョーの姿はたくましく、美しいです。
そんな強く生きるジョーであっても、心の声を漏らす終盤のシーンが素晴らしい。
女の幸せが結婚だけなんておかしい。そんなの絶対間違ってる!でも…どうしようもなく寂しいの。
このセリフには心震えました。
現代でも、いろんな形の生き方があるでしょう。結婚する人にとってもそれぞれに抱えた理由が、結婚しない人にもそれぞれに抱えた理由があります。
単に結婚はいい、結婚しない生き方もあるというような画一的な描き方ではなく、四姉妹の生き方を通してどんな生き方でも自分らしく生きていけばいいんだ、美しいんだというメッセージが伝わってくるのです。
グレタ・ガーウィグ自身も投影
もちろん本作は、ジョーというあの時代に力強く生きた原作者のオルコットありきのストーリーですが、そこには監督のグレタ・ガーウィグ自身の姿も投影されているように感じます。
現代では男性・女性と分ける必要性すら無意味ですが、事実、男性が圧倒的に多い映画監督という職業で、彼女が一人の映画監督・表現者として伝えたかったものが映像からよく伝わります。
特に物語のラスト、ジョーが執筆した『若草物語』が活版印刷によって製本されていく様がじっくり描かれるシーンは感慨深いです。
じっと眺めるジョーの眼差しからは、原作者のオルコット、そして監督のグレタ・ガーウィグが浮かんで見えました。
人生の賛美歌となる傑作リメイク
グレタ・ガーウィグだったからこそできたリメイクであり、名作を現代にアップデートするという意味でも確実に功を奏した本作。
アカデミー賞受賞した衣装デザイン面でも申し分なく、構成・演技も素晴らしい。
女性にとって希望に溢れた、そして前向きに背中を押してくれる素敵な映画でした。