今回ご紹介する映画は『イコライザー THE FINAL』です。
アントワン・フークア監督×デンゼル・ワシントン主演のアクションシリーズ第3弾にして最終作。
本記事では、ネタバレありで『イコライザー THE FINAL』を観た感想・考察、あらすじを解説。
このシリーズならではの面白さと、締めくくるにふさわしい幕引きになっていました!
第1作目、第2作目については以下の『イコライザー』『イコライザー2』の解説記事を参考にしてください。
『イコライザー』ネタバレ考察|「老人と海」の文学的メッセージを解説
『イコライザー2』ネタバレ解説・考察|善悪の境界線を跨ぐダークヒーロー
『イコライザー THE FINAL』の作品情報・予告
『イコライザー THE FINAL』のキャスト・キャラクター解説
キャラクター | 役名/キャスト/役柄 |
---|---|
ロバート・マッコール(デンゼル・ワシントン) 元DIAの凄腕エージェント。“イコライザー”として自らの正義で人助けする。 | |
エマ・コリンズ(ダコタ・ファニング) CIAエージェント。マッコールからの通報でイタリアで起きた事件を捜査する。 | |
ジオ・ボヌッチ(エウジェニオ・マストランドレア) アルトモンテの地元憲兵。マフィアに目をつけられる。 | |
アミーナ(ガイア・スコデラーロ) マッコールが通うカフェのスタッフ。マッコールに親切に町について教える。 | |
エンツォ・アリシオ(レモ・ジローネ) 怪我を負ったマッコールを助けたアルトモンテの医者。 | |
ヴィンセント・クアランタ(アンドレア・スカルドゥツィオ) マフィアのボス。アルトモンテをリゾート地にしようと企んでいる。 | |
マルコ・クアランタ(アンドレア・ドデロ) ヴィンセントの弟。粗暴でアルトモンテの町人から金を巻き上げている。 |
ネタバレあり
以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ解説】『イコライザー THE FINAL』のあらすじ
シチリア島のブドウ園
© 2023 - Sony Pictures Entertainment
映画はイタリア・シチリア島のブドウ園に、犯罪組織のボス・ロレンツォ・ヴィターレが孫を連れてやってくるところから始まる。ブドウ園の屋敷には死体の山が転がっていた。
ロバート・マッコールは、建物の内部でロレンツォの部下3人に銃を突きつけられて座っていた。ロレンツォがマッコールにやって来た理由を尋ねると、「奪われたものを取り返しに来た」と言う。
マッコールは9秒だけ時間の猶予を与え、部下3人を瞬殺し、ロレンツォを撃つと、這いつくばって逃げようとするロレンツォに歩み寄り、ショットガンで頭を撃ち抜いて殺す。
マッコールが建物からリュックを背負って出てくると、車の中にいるロレンツォの孫を見つける。その場から動かないように伝えて立ち去ろうとするマッコールだったが、少年は背後から銃弾を放って逃げていく。
アルトモンテ
背中に銃弾を受けて負傷したマッコールは、自ら命を絶とうとするが弾が切れていることに気づく。その後、本土に戻って車を走らせるも、アマルフィ海岸で意識を失う。
海岸沿いの田舎町アルトモンテで国家憲兵をしているジオ・ボヌッチは、負傷したマッコールを発見して地元の町医者のエンツォ・アリシオのもとへ連れて行く。
エンツォの治療を受け、マッコールは3日後に目を覚ます。エンツォはマッコールに住む場所を提供し、マッコールは傷が回復するまでの間、町に滞在することになる。
ジオと娘のガビ、地元のカフェの店員アミーナなど、親切な町の人々と交流していくマッコールは、アルトモンテの町と人が好きになっていく。
一方で、エンツォに「善人か悪人か」を尋ねられたマッコールは「わからない」と答え、スーザンの姿やブドウ園で敵を抹殺した自分の姿を思い返していた。
マッコールはCIAに匿名で連絡し、電話を受けた捜査官のエマ・コリンズにシチリアのブドウ園の調査を依頼する。
エマは上司のフランク・コンロイに相談し、CIAチームを率いてブドウ園を調べることにする。すると、ブドウ園から大量の麻薬と多額の金を発見する。
彼女はアルトモンテにいるマッコールの居場所を突き止め、マッコールの目的とブドウ園の実態について連絡を取り始める。
イタリアンマフィア
© 2023 - Sony Pictures Entertainment
アルトモンテでは、イタリアンマフィア「カモッラ」のファミリー、マルコ・クアランタが、地元の鮮魚店を営むアンジェロから暴力的に金を巻き上げ、マッコールはその様子を気にしていた。
その後、マルコは兄でカモッラのボスであるヴィンセントのもとを尋ねる。ヴィンセントはアルトモンテをリゾート地にして金儲けするため、地元のホテルの譲渡権を譲るように交渉していた。
ホテルオーナーの夫婦がそれを拒むと、夫婦の父親をホテル上層階から投げ吊るして殺害し、住民たちに見せしめとして警告する。
マフィアの恐怖支配
© 2023 - Sony Pictures Entertainment
ある夜、マッコールは鐘の音を聞いて走り出す人々を目撃すると、その先でアンジェロの店が放火され、アンジェロと妻が絶望に打ちひしがれていた。マッコールは、マルコと仲間たちが近くでその様子を見ているのを発見する。
ジオは監視カメラで放火の映像を確認し、イタリア警察に捜査を依頼していた。しかしその後、ジオの家にマルコらが押しかけ、妻と娘を人質に脅迫し、ジオは暴行を受ける。マッコールはエンツォの手当を受けるジオの姿を見て、町の人達がマフィアの恐怖に脅かされながら生活していることを確信する。
その後、レストランで家族と食事をしていたジオのもとに、マルコらが現れ、ソマリア人からボートを手配するように脅迫する。そこでマルコは自分を見つめるマッコールの視線に気づいて詰め寄る。
マッコールはジオたちへの脅迫をやめるように伝えるが、マルコが拒否すると、素早く彼の手首を掴んで神経を圧迫し、レストランから彼らを追い出す。
マルコは報復を企てるが、マッコールが先手を打って部下たちを殺し、マルコの腕をへし折った上で殺害する。
ジハード・ドラッグ
その頃、エマはローマで起きたシリアのテロリストによる犯行だと思われる爆破テロのニュースを目にする。
ブドウ園で見つかった麻薬が「ジハード・ドラッグ」と呼ばれるアンフェタミンで、シリア人が活動資金を得るために売っているものであることが判明する。エマはマッコールの助言を受けて、シリアのテロリストとカモッラの関与を疑い、捜査していく。
一方、弟の葬儀をするヴィンセントのもとに、ナポリの警察署長が現れる。カモッラと関係のある署長は、CIAが捜査に乗り出していることを危惧するが、ヴィンセントはCIAには対処すると言い、署長の手首を切り落とし、弟殺しの犯人を突き止めるように命令する。
エマはドラッグ販売のディーラーから捜査しようとしていたが、ヴィンセントが手配した爆発に巻き込まれて負傷する。
アルトモンテの反抗
ヴィンセントらが弟殺しの犯人を見つけるためにアルトモンテにやってくる。ヴィンセントはジオを暴行し、犯人が現れなければジオと家族を殺すと脅す。するとマッコールが「弟を殺したのは自分だ」と言って現れる。
マッコールは自分ひとりを連れて行けばいいと言うが、ヴィンセントは見せしめに町人たちの前で殺そうとする。するとエンツォが銃で牽制し、「マッコールを殺すなら自分も撃て」と名乗り出る。するとそれに続いて町の人々が次々と名乗り出る。
その状況をスマホで録画している者もいたことで、ヴィンセントはマッコールを殺しに戻って来ることを誓い、警察が来る前に逃げていく。
マッコールの夜襲
© 2023 - Sony Pictures Entertainment
ヴィンセントは自分の屋敷に戻り、翌日にアルトモンテを攻撃する計画を立てていた。しかし、マッコールはその夜、先回りしてヴィンセントの屋敷を襲撃する。
眠っていたヴィンセントは、ガラス天井を突き破って落ちてきた部下の死体で目を覚まし、逃げようとするも、マッコールに気絶させられる。ヴィンセントはマッコールによって自分が取引していたドラッグを致死量分投与され、泡を吹きながら屋敷を抜け出すが、車に轢かれ、這いつくばって死んでいく。
マッコールはヴィンセントをじっくりと追い続けて彼の死ぬ瞬間を見届ける。
マッコールの目的
事件が収束した後、マッコールはエマが入院する病院を訪れる。マッコールはシチリアに来た理由が、タクシーで一度乗せた乗客が盗まれた年金を取り戻すためだったと明かし、取り戻した金をエマに託す。
エマはボストンで金を持ち主に返すと、持ち主は見ず知らずの人に助けられたことを心底感謝する。その後、エマの職場にマッコールから小包が届けられる。
その中には、マッコールのブラック・ブック(機密情報などを記したもの)と、「君の母は君を誇りに思うだろうね」と描かれたメモが添えられていた。
エマが机の上に飾っている写真を見ると、彼女がマッコールの元同僚スーザンの娘であることが判明する。一方、マッコールはアルトモンテに留まり、地元のサッカーチームの勝利に歓喜する町の人々に混じって喜びを表現する。
【ネタバレ感想・考察】マッコールは死神か、守護聖人か
© 2023 - Sony Pictures Entertainment
「デンゼル・ワシントンの好きな作品は?」と聞かれると、挙げる作品にキリがありません。
それほどに数多くの映画に出演し、これまでも9回のアカデミー賞ノミネート、『グローリー』(1989)と『トレーニング デイ』で2度受賞(助演/主演男優賞)するなど、まさに名実ともにアメリカを代表する俳優のひとり。
一方で、デンゼルはこれまでの長いキャリアの中で意外にも本作『イコライザー』シリーズ以外のフランチャイズに参加していません。多くの俳優たちが様々なシリーズ作品に参加する中で、デンゼルは同じ役を演じていないのです。
「デンゼルはシリーズものが嫌いなのか?」と思えますが、本作の言葉を借りるのであれば「タイミング」なのでしょう。
Variety誌のインタビューでは、ほかにも続編の依頼はあったものの、実現には至らなかったと明かしています。
そんな中、『トレーニング デイ』から本作で5作目のダッグとなるアントワン・フークアという信頼できる監督だからこそ、本シリーズが3作目までも実現したのだと思います。
邦題では『THE FINAL』と銘打っていますが、“イコライザー”ことロバート・マッコールの物語を締めくくるにふさわしい映画となっていました。
シリーズの魅力が存分に発揮された『THE FINAL』
いわゆる「舐めてた相手が殺人マシンでした」のジャンル映画でもある本シリーズですが、その筆頭でもある『ジョン・ウィック』シリーズやリーアム・ニーソン主演映画のようなアクションを重点を置いた作品ではありません。
【ナーメテーター】「舐めてた相手が実は殺人マシンでした」映画まとめ
1作目では、亡き妻の果たせなかった「死ぬまでに読むべき本100冊」を肩代わりし、世の中のバランスを取る“イコライザー”として生きていくことを決意しました。
2作目では、DIA(日本語字幕ではCIA)の元同僚で唯一の理解者であるスーザンが殺されたことで、マッコールが善悪のラインを行き来する復讐者になりそうなところが描かれています。
マッコールはコミュ力も高く、人付き合いもそつなくこなすことができる人間ですが、一方で孤独でもあります。彼が身にまとう全身黒の服装が物語るように、組織や個人と深い関係になることはなく、それは妻を亡くし、スーザンを亡くしたことでも強まっていきます。
本作は、前2作とは違い、マッコールが暮らすボストンから遠く離れたイタリアが舞台。当然知り合いもいない異国の地ですが、3作目にして意図せず安息の地を見つけ、コミュニティに属すること、自分が骨を埋めてもいいと思える場所や人間たちとの出会いが描かれていました。
デンゼル・ワシントンとダコタ・ファニング
© 2023 - Sony Pictures Entertainment
CIAの若き捜査官として共演したのはダコタ・ファニング。デンゼル・ワシントンとダコタ・ファニングは、トニー・スコット監督の『マイ・ボディガード』(2004)で共演しています。
元CIAエージェント役のデンゼル・ワシントンが、当時10歳のダコタ・ファニング演じる少女を護衛する物語ですが、本作のデンゼルとダコタの関係が、まるで別のユニバースの成長した後の物語のようにも思える面白さがありました。
マッコールの運転するLyftのタクシードライバーの乗客が奪われた年金を取り戻そうとしてシチリアに来たこと、ダコタ・ファニング演じるCIA捜査官のエマがマッコールの元同僚スーザンの娘であることを最後に明かすのも、このシリーズらしい粋な演出。
マッコールの行動を通して、助けられた人の反応を通してエマが赤の他人を助けることの意義を知る様子は良い。その一方で、エマの活躍がほとんど見られないのは残念なポイント。それにしてもエマが負傷する爆発シーンには心臓が止まるかと思いました。
加えて、ジャンル映画としてのアクションを期待する人にとっては、アッサリ敵を倒す強すぎる主人公に肩透かしをくらうかもしれません。ただ、それが本シリーズの魅力でもあるのです。
マッコールがマフィアに猶予など与えずに壊滅させる終盤には、観たいものを観ている感覚がありました。
そんなマッコールも物語の最後では、あれほど几帳面にもかかわらずテーブルにマイスプーンを置き忘れています。それは彼の“イコライザー”としての物語が終わったことを感じさせる良いラストでした。
死神か、守護聖人か
© 2023 - Sony Pictures Entertainment
スパイダーマンは自分を「親愛なる隣人」と言いますが、マッコールは自分を「憂慮する市民(Concerned Citizen)」と言います。マッコールは、その類まれなる戦闘スキルを持ちながらも、世界を相手に戦うようなスーパーヒーローではないのです。
彼はあくまでも自分の周りの人間を手助けするイコライザー、バランスを取る人間なのです。ただ、あまりも強すぎるだけ。
前2作では、マッコールが手にする小説がモチーフとして物語に深みをもたらしていましたが、本作においては十字架、教会、宗教画やキリストの像などが繰り返し映されていました。
イタリアは国民の8割がカトリック教徒というキリスト教が根ざした国。各都市や町には守護聖人が存在し、守護聖人の日は祝日として祭礼が行われます。
前述の通り、マッコールは別の目的(乗客の奪われた年金を取り戻すため)でイタリアへやってきたため、傷が癒えたら帰る予定でしたが、親切にしてくれた町の人や美しい町を奪おうとするマフィアを見て見ぬふりはできませんでした。
エマが、奇跡を起こした聖母のフレスコ画について話す中で、「奇跡は信じない」と言っていたマッコール。キリスト教における聖人の条件には「奇跡」が必須だと記されています。
撮影舞台となったアトラーニの守護聖人は、「マグダラのマリア」として知られるマッダレーナ。新約聖書に登場し、多くの浮名を流した「罪深き女」とされるも、キリストとの出会いで改心して聖女になった人物です。
イタリアンマフィアのボス、ヴィンセントは弟を殺されたことで怒り狂って町にやってきますが、マッコールは町の人に危害を及ぼさないために武器を捨てて姿を表します。すると、それを見た町の人々が団結してマフィアに立ち向かい、一時帰宅させるのです。
これはまさに奇跡と言える瞬間であり、マッコールの自己犠牲はキリストが罪をかぶって十字架を背負った場面にも重なります。さらに、マッコールがその夜、マフィアを襲撃するシーンと重ねて、町では守護聖人の祭礼が行われる様子を重ねられるのです。まるでマッコールがアルトモンテの守護聖人のように。
一方で、死ぬ瞬間に至近距離で目を合わせられたり、麻薬漬けにさせて死ぬまでをじっくりと追いかける様子は死神そのもの。
『ジョン・ウィック』シリーズで、ジョン・ウィックは「ブギーマン」と恐れられていますが、エマに「幽霊」と言われたロバート・マッコールこそ、ブギーマンなのかもしれません。
まとめ:『イコライザー4』もあるかもよ!
今回は、アントワン・フークア監督×デンゼル・ワシントン主演『イコライザー THE FINAL』をご紹介しました。
このシリーズが確立した洗練されたアクション映画の面白さを担保しつつ、マッコールの怖さがある意味ホラーレベルになっている面白さもありました。
名優デンゼル・ワシントンだからこそ成し得た、シリーズ3作通して完成度高いアクションシリーズになっていました。
邦題では『THE FINAL』とされましたが、デンゼル・ワシントンはインタビューで、「自分にとっては終わった」と明かしていますが、同時に「次があるかもしれない」と話しています。
一方、アントワン・フークア監督は前日譚のアイデアも議論したと語っています。前日譚では、デンゼル・ワシントンの息子ジョン・デヴィッド・ワシントンを起用する可能性についても明かしています。もっと言えば、ダコタ・ファニングのCIAでの活躍を焦点にした展開も考えられますね。
デンゼル・ワシントンは、リドリー・スコット監督の映画『グラディエーター』の続編に出演することが決まっています。前作には出演していませんが、続編作に出演ということで、また違った彼の姿に注目したいです。