今回ご紹介する映画は『青くて痛くて脆い』です。
住野よるの原作を、狩山俊介監督が映画化。
主演は国宝級イケメンの吉沢亮さんと多くの作品で存在感を発揮する杉咲花さん。
予告編を観た人はいい意味で裏切られると思います。

2020年の鬱屈で閉塞した世の中で多くの人に刺さる、見るべき作品になっていました!
映画『青くて痛くて脆い』の作品情報とあらすじ
『青くて痛くて脆い』はhuluで無料視聴できます!
作品情報
『青くて痛くて脆い』の原作・スタッフ・キャスト
住野よるの同名小説が原作
本作は、『君の膵臓をたべたい』でも著名なベストセラー作家の住野よるの同名小説が原作となっています。
彼女の5作目となるこの小説は、『君の膵臓をたべたい』で描いた世界観とはガラッと変わり、大学生を題材としたリアルなコミュニケーションの有り様を描いていました。
そんな本作を映像化したのは、TVドラマ「怪物くん」「Q10」や「妖怪人間ベム」などを手がけてきた狩山俊輔監督。
吉沢亮(田端楓役)
出典:2020 映画「青くて痛くて脆い」製作委員会
コミュ障で他人と距離をとり、その人の人生に立ち入ろうとしない大学生。
国宝級イケメンとして大人気の吉沢亮ですが、本作のような役柄はかなり合っていると感じます。
インタビューでも学生時代は陰キャラだったと話していましたが、他のイケメン俳優のキラキラした感じとは違ったアンニュイさを持っているいい俳優だと思います。
杉咲花(秋好寿乃役)
出典:2020 映画「青くて痛くて脆い」製作委員会
大きな理想を掲げ、空気の読めない発言で周囲から浮いてしまっている大学生。
すでに多くの作品で印象的な役柄を演じてきた杉咲花ですが、本作でもそれは健全。

彼女のスイッチが入った時の演技はいい意味で鳥肌が立つんですよね!
本作での「気持ちわるっ」という言葉のインパクトも中々のものでした。
主題歌はBLUE ENCOUNT『ユメミグサ』
本作の主題歌には4人組ロックバンドBLUE ENCOUNTの『ユメミグサ』が使用されています。
原作者の住野よるはBLUE ENCOUNTのファンでもあり、原作小説の特設サイトには同バンドの「もっと光を」が使われていました。
どちらも本作のテーマに合っていて、疾走感のあるメロディが気持ちがいい曲です。
ネタバレあり
以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ感想】思い当たる人にとって突き刺さる痛さ
出典:2020 映画「青くて痛くて脆い」製作委員会
本作は、いい意味で想像とは違う展開が楽しむことができました。
「何者」でもない大学生
本作、プロットが朝井リョウの『何者』に非常に似ているんですよね。
- 大学生、就活絡みの話
- SNSでのアレコレ
- 本心を言わない主人公
- ラスト
主には上記のようなところ。
義務教育を終え、子供でもなく、社会人でもない、いわば「何者」でもない大学生。
彼らはなんでもできる自由さを持っていながら、何をしたら良いのかも分からない不安さを同時に抱えています。
そして自然と「意識高い系」と「流されて生きるもの」に2極化していくのです。

私も楓の感覚に非常に近い気持ちを抱いていたことがあったので、本作は非常にグサグサと心をエグッてきました…!
【ネタバレ考察】楓と秋好の嘘
出典:2020 映画「青くて痛くて脆い」製作委員会
「この映画には嘘がある」という宣伝文句はプロモーションの部分もありますが、楓と秋好の嘘について考察してみます。
- 秋好が死んだという嘘
- 世界を変えるという嘘
秋好が死んだという嘘
この映画は楓が秋好と共に作り上げたサークルが、「秋好が死んでしまったこと」で別のものになってしまったというミスリードを誘っています。
実際、「秋好が死んだ」というのは嘘で、この映画の場合、「楓にとっての秋好」がサークルの拡大とともに変わってしまったことで彼女を消えたものにしていたのです。
世界を変えるという嘘
劇中の後半、楓と秋好が対面して言い争う場面。
楓は秋好が「世界を変える」という理想を掲げて奔走していた当初の彼女が、ただの就活サークルへと成り下がったいったことに失望したのです。
そして事実、「世界はなにも変わっていない」。だから楓は秋好のあの発言は嘘だったと言うのでした。
コミュニケーションの難しさ
この2人のすれ違いはなぜ生まれてしまったのか。
それが分かる感情をぶつけ合う2人のやり取りが非常に印象的でした。
- 態度から察してほしい楓
- なんでもすぐ口にする秋好
この対極にある2人だからこそ生まれてしまった見えない溝。
とはいえ、映画を観ていると楓の性格に共感できる私ですら明らかに彼に対して違和感を覚えるタイミングがあるんです。
それは秋好が脇坂が入ってから少しずつ変わっていったモアイについて、ちゃんと面と向かって楓に「今のモアイをどう思うか」を質問するとき。
それに対しての楓の答えが「秋好がいいならそれでいい」というもの。
ここが一番の過ちであり、始まりでもあります。
秋好とモアイに対して思うことがあっても伝えることができず、それを察しろというのは明らかに無理があるのです。
しかしながら、同時にリアルな現実社会でもこういうことは普通に起こっていると痛感するのが本作の怖いところ。
- 応援していたバンドが売れて大きくなると「なんか変わっちゃったな」と感じること
- 好きだった芸能人が不祥事を起こし、「そんな人だと思わなかった」と感じること

人は誰しも、今まで少なからず誰かに対する勝手な印象を抱いたことがあるのではないでしょうか
“ちゃんと傷つく”こと
物語の終盤、楓はモアイを解散へと追い込むことに成功するものの、それまでの「怒り」が、秋好を傷つけたという「後悔と恥」へと変わっていきます。
まるで『ラ・ラ・ランド』のラストのような「もしも」の映像が流れるのですが、その違和感も気持ち悪くて良かったです。
仮に楓が秋好に想いを伝え、ともにモアイを作り上げていったとしても恐らく「世界は変えられない」と思います。
自分の都合のいい理想像を秋好だけではなく、脳内でも描いてしまう虚しさに共感できるのが悲しいです。
本作と対称的な作品として『僕たちは世界を変えることができない。』という映画を思い出しました。
その映画では理想を掲げても世界を変えることはできないと気づいた大学生が、それでも目の前の人を笑顔にすることはできると模索しながらも道を見出した作品でした。
そしてラストシーン、並木道を歩く秋好を見つけた楓は、弱くてズルくて傷つきたくなかった「青くて痛くて脆い」自分を受け入れ、そして彼女に拒絶されてもいいから「もう一度ちゃんと傷つけ」と自分を律し、彼女の前に現れるのでした。

これも『何者』における、扉を開くラストシーンに通じるものがありましたね!
サイドストーリーの必要性
モアイの活動先の施設で登場する森七菜さんが演じる瑞希というキャラクターがいるのですが、どうやらこのキャラクターは原作には登場しないようで、彼女の背景が分からないため、立ち位置がよく分からないんですよね。
彼女が担任の先生から明らかに異常なほど追い詰められるシーンに見られる他人への押し付けの気持ち悪さと、それを楓と秋好の会話にかぶせる映像表現は上手いと思いましたが。

ただ、森七菜さんが歌うサメの歌は非常に頭に残りました!
まとめ:青春とは痛みを知ること
今回は、住野よるさんの原作小説を映画化した『青くて痛くて脆い』をご紹介しました。
一見サスペンスのように進むかと思いきや、痛すぎる青春の傷にフォーカスしたほろ苦い青春映画となっていました。
私は「青春とは痛みを伴うこと」だと思っていて、楓もその痛みを知ることで、前に進むきっかけとなったのでした。
SNS社会で匿名性が増す現代社会において、「相手に対する勝手なイメージ」を植え付けてしまう怖さは、誰にでも思い当たるテーマでした!
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