今回ご紹介する映画は、『三姉妹』です。
イ・スンウォン監督による映画で、韓国の主要な映画祭で多数の賞を受賞した人間ドラマ。
ソウルに暮らす三姉妹それぞれの生活と不幸、そして明かされていく過去を通して姉妹の絆を描く映画です。
本記事では映画『三姉妹』をネタバレありで解説、考察していきます。

重めなストーリーですが、観る価値のある映画でした!
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映画『三姉妹』の作品情報とあらすじ
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映画『三姉妹』のスタッフ・キャスト

監督:イ・スンウォン
『三姉妹』を監督したのは、韓国出身のイ・スンウォン。
劇作家・演出家としても活躍し、本作が3本目の長編映画となります。
男性優越主義がはびこっていた韓国において、過去のトラウマと向き合う女性たちのリアルな心情を描いた本作。
本作は、男性の監督ですが、プロデューサーに女優のムン・ソリが入っていたり、監督のパートナーでもあるキム・ソニョンといった要素も映画に活きているように感じます。

男性に苦しめられた女性の三姉妹を描く本作ですが、とても信頼できる描き方をしていました。
ムン・ソリ
次女ミヨンを演じたのは、ムン・ソリ。
主な出演作
- 『ペパーミント・キャンディー』
- 『オアシス』
- 『お嬢さん』
イ・チャンドン監督の1999年の映画『ペパーミント・キャンディー』で主演のソル・ギョングの相手役として映画デビューし話題となりました。
2002年『オアシス』ではヴェネツィア国際映画祭で新人俳優賞を受賞したり、その後も多くの映画祭で受賞するなど演技に定評があります。
キム・ソニョン
長女ヒスク役はキム・ソニョン。
大ヒットNetflixドラマ『愛の不時着』で村の人民班長役を演じたことで知られています。
監督のイ・スンウォンとは夫であり、共同でに劇団を設立しています。
チャン・ユンジュ
三女ミオク役は、チャン・ユンジュ。
世界で活躍する韓国のトップモデルであり、最近では、Netflixで話題となったドラマ『ペーパー・ハウス・コリア: 統一通貨を奪え』ではナイロビ役で出演しています。

韓国の女優賞を総ナメにしているだけあって、みなさん素晴らしい演技でした!
韓国映画では、2020年『はちどり』や、2016年の韓国ベストセラーを映画化した『82年生まれ、キム・ジヨン』など、女性の生きづらさに焦点を当てた作品が近年多く描かれているので、合わせてチェックしてみてください。
ネタバレあり
以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ解説】いまを生きる不幸な三姉妹

三姉妹それぞれの生活と不幸を振り返ってみます。
長女:ヒスク

花屋をひっそりと営む長女のヒスク。いつも飄々とした笑顔を見せる一方で、すべてのことを自分の責任のように捉えて、何かとすぐに謝る性格。
娘のボミは、売れないロックバンドに片思いをし、常にイライラしている。
夫が残した借金の返済に明け暮れ、ヒスクは頻繁に食事を抜いてしまうほどに生活は困窮し、母親や妹にもお金を借りている。
さらに、ガンに冒されていることが分かるが、その性格から、打ち明けることもできず、密かに自傷行為もしている。
次女:ミヨン

高級マンションで夫と二人の子どもと暮らす次女のミヨン。
キリスト教会の模範的な信徒であり、聖歌隊の指揮も務めている彼女は、社会でも家庭でも自分の感情を内に押し殺して秩序的に振る舞っている。
学校教師である夫が、聖歌隊メンバーの若い学生に浮気していることに気付いても、感情を表には出さずに淡々と夫と浮気相手に対処する。
一方で、食事の際に祈りを捧げない娘に対しては執拗に怒りをぶつける様子もみられる。
三女:ミオク

金髪ショートヘアの三女ミオクは、しがない脚本家。一日中酒を飲んでお菓子を食べる生活をしている。
青果店の社長の夫と義理の息子と共に暮らしているが、義理の息子の世話はほとんどしていない。
次女ミヨンに頻繁に連絡を取るも、まともに相手にされず、義理の息子からは電話帳に「クレイジー女」と登録され、学校の面談も避けられてしまっていた。

三姉妹それぞれの生活は、どれも不幸で辛い展開が続きます…。
そんな三姉妹が父親の誕生日のために実家へ訪れる後半では、彼女たちの過去が現在に影を落としていることが明かされていくのです。
【ネタバレ考察】過去と役割を超えた先に…

三姉妹の過去が明らかになる後半。明かされる過去のポイントは以下の3つ。
「三姉妹」というタイトルですが、実際には「四姉弟」だったのです。
前半で三姉妹の現在の生活における不幸の様子が描かれ、後半ではその根本的な原因が父親からの虐待のトラウマであることが明かされるのです。
三姉妹の関係性が、どこかぎこちなく、歪んだ様子が描かれ、彼女たちは昔の記憶を断片的にしか思い出せずにいるのでした。
三姉妹それぞれの性格形成に明らかに父親の虐待の影響があることが分かるのです。
しかし、そんな父親の誕生日会には出席せざるを得ない家族というしがらみの苦さとその先が描かれた終盤の修羅場はまさに混沌、すごいものになっていました。
修羅場の食事シーン

牧師とともに誕生日会に出席した一同は、父親の挨拶の途中で弟ジンソプが父親に小便をかけてしまうことに始まります。
次女ミヨンは弟ジンソプを叱責し、それを庇う長女ヒスク、さらに三女ミオクはミヨンが父親と同じ家長気取りだと言い放ちます。
ミヨンが夫に浮気されたこと、ミオクがアルコール依存であることなどをそれぞれぶつけ合い、会場はパニック状態に。
「いい加減にしろ」と父親は、家族の失態を牧師に謝罪するも、ミヨンは父親に牧師ではなく私たち(四姉弟)に謝るように怒鳴ります。
しかし、父親が謝ることはなく、見かねたヒスクの娘ボミは、ヒスクがガンを患っていることを明かし、謝罪するように言うのでした。
ヒスクは「尿がかかっていない料理なら食べられる」と話を変えるようにして料理を口にかき込み、ヒスクのガンを知ったミヨンとミオクは、泣きながら彼女を抱きしめるのでした。

この修羅場シーンは言葉で表現するのが難しいほど圧巻でした…!
一筋の光が見えるラストシーン

劇中の8割、いや9割が重く、辛い展開が続く『三姉妹』の物語ですが、それらを払拭するかのようにラストシーンが素晴らしいんですよね。
父親という家族の呪縛によって苦しめられた過去と現在が、姉妹というつながりによって、未来に一筋の希望の光が見えるラスト。
彼女たちの環境は変わっていませんし、それぞれの抱える問題は解決していません。これからも苦しい生活や直面せざるを得ない現実は多々あることでしょう。
しかし、その一筋の希望の光が、とても輝いて見えるんですよね。
三姉妹が揃って写真に写っているのは、彼女たちも「好きではない」と語る幼少期の誰かに取られた写真のみでした。それをラストで自らの意志で撮った自撮りで塗り替えるのです。
冒頭の家から飛び出すミヨンとミオクの背中を映すモノクロのシーンが、ラストでは海をバックに3人が写真を取りながら歩くシーンと、それを追いかけるように子どもたちが走っていく姿で幕を閉じる構成も見事。
過去の止まっていた時計が動き出し、再び三人は心を通じ合えたのです。そんな彼女たちなら、待ち受ける辛い現実もきっと「大丈夫」だと思えるのでした。
まとめ:家族という痛みと苦しみの先の連帯
今回は、イ・スンウォン監督の韓国映画『三姉妹』をご紹介しました。
父親の虐待、家父長制により冷遇されてきた子どもたちのトラウマが現在に影を落とす構図。
こういった映画は近年でも多く描かれるようになってきましたが、その描き方がとても上手いんですよね。
「幼少期の虐待」というセンシティブな要素も映像で直接的に描くことはなく、観客への配慮も行き届いていて、辛い現実と過去が明らかになっていくタイミングも絶妙。
三姉妹それぞれの性格の掘り下げも適切で、目新しさはない物語である一方で、目を離せなくなる独特の魅力がありました。
それはまさしく、韓国で俳優賞を総ナメにした俳優たちの確固たる演技の賜物でしょう。

辛い物語ですが、この映画を観て救われる方もいると思います!観る価値のある映画でした。
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