今回ご紹介する映画は、『ナイト・オン・ザ・プラネット』です。
ジム・ジャームッシュ監督による映画で、世界の5都市を舞台に、タクシー内の会話劇を描いた作品。
「なんてことない」話を映した映画ですが、なぜか心に残る素敵な映画です!
『ナイト・オン・ザ・プラネット』の作品情報とあらすじ
『ナイト・オン・ザ・プラネット』
ストーリー | |
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満足度 |
あらすじ
ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキの5つの都市の5人のタクシードライバーが、同じ夜にそれぞれ体験する5つの物語を綴った作品。
作品情報
タイトル | ナイト・オン・ザ・プラネット |
原題 | Night On Earth |
監督 | ジム・ジャームッシュ |
脚本 | ジム・ジャームッシュ |
出演 | 【ロサンゼルス】 ウィノナ・ライダー ジーナ・ローランズ 【ニューヨーク】 アーミン・ミューラー=スタール ジャンカルロ・エスポジート ロージー・ペレス 【パリ】 イザック・ド・バンコレ ベアトリス・ダル 【ローマ】 ロベルト・ベニーニ パオロ・ボナチェリ 【ヘルシンキ】 マッティ・ペロンパー カリ・ヴァーナネン サカリ・クオスマネン トミ・サルミラ |
製作国 | アメリカ イギリス フランス ドイツ 日本 |
製作年 | 1992年 |
上映時間 | 129分 |
予告編
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監督:ジム・ジャームッシュ
ジム・ジャームッシュ監督は、1980年の映画『パーマネント・バケーション』で長編映画監督デビューしました。
「明確なオチのない映画」という一つのジャンルを確立したうちの一人でもあります。
舞台のすべてをコーヒーショップの中だけで完結した『コーヒー&シガレッツ』がその際たる例だとすると、本作もかなりオフビートで、世界中の5つの都市の「真夜中のタクシーの中の出来事」を描いています。
ロサンゼルス
© 1991 Locus Solus Inc.
ロサンゼルスの物語で、運転手役を務めたのはウィノナ・ライダー。
主な出演作
- 『シザーハンズ』
- 『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』
- 『17歳のカルテ』
- 『ブラック・スワン』
- ドラマ『ストレンジャー・シングス』シリーズ
近年では、『ストレンジャー・シングス』で知った方も多いと思います。
乗客のキャスティングエージェント役には『こわれゆく女』『グロリア』で知られるジーナ・ローランズ。
ニューヨーク
© 1991 Locus Solus Inc.
ニューヨーク編で運転手を務めたのが、ドイツ生まれのアーミン・ミューラー=スタール。
映画の中とリンクするように、東ドイツで数多くの映画に出演する人気俳優として活躍していました。
主な出演作
- 『くたばれアマデウス!』
- 『マイセン幻影』
- 『13F』
乗客役のヨーヨーは、ジャンカルロ・エスポジート。スパイク・リー監督の常連俳優です。
ヨーヨーの義妹にはロージー・ペレス。同様にスパイク・リー監督『ドゥ・ザ・ライト・シング』で映画デビューし、ジム・ジャームッシュ組として『デッド・ドント・ダイ』にも出演しています。
パリ
© 1991 Locus Solus Inc.
パリのエピソードで運転手を務めたのが、コートジボワール出身の俳優イザック・ド・バンコレ。
本作でジム・ジャームッシュ組の一員となり、他の監督作でも出演しています。
主な出演作
- 『ゴースト・ドッグ』
- 『コーヒー&シガレッツ』
- 『リミッツ・オブ・コントロール』
乗客となる盲目の女性役には、『ベティ・ブルー』の主演、ベアトリス・ダル。
ローマ
© 1991 Locus Solus Inc.
ローマのエピソードで強烈な印象を残しているのが、イタリア出身の俳優ロベルト・ベニーニ。
アカデミー賞主演男優賞を受賞した『ライフ・イズ・ビューティフル』で彼を知っている人も多いとともいますが、ジム・ジャームッシュ組の一人です。
主な出演作
- 『ダウン・バイ・ロー』
- 『ライフ・イズ・ビューティフル』
- 『コーヒー&シガレッツ』
『ダウン・バイ・ロー』では英語が苦手なイタリア人を演じていた一方で、本作ではひたすら彼のマシンガントークを聞くことになるのも面白いポイント。
ヘルシンキ
© 1991 Locus Solus Inc.
ヘルシンキのエピソードで運転手を務めたのが、ヘルシンキ出身の俳優マッティ・ペロンパー。
(ミカ・アキ)カウリスマキ兄弟の映画の常連でもある彼が演じる役名が「ミカ」というのもポイント。
そして酔いつぶれて眠ったままの男の名前が「アキ」。
ジム・ジャームッシュ監督ならではの、愛のあるイジりなんでしょうかね!笑
音楽:トム・ウェイツ
『ナイト・オン・ザ・プラネット』にて全編の音楽を担当したのは、シンガーソングライターであり俳優のトム・ウェイツ。
ジム・ジャームッシュ監督の『ダウン・バイ・ロー』で初主演を務めた彼は、独特のしゃがれた声で“酔いどれ詩人”の愛称を持ちます。
オープニングからエンディングまで、彼の手掛ける音楽に乗せてタクシーの中の群像劇を見守るのですが、その心地のいいこと。
ネタバレあり
以下では、映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ解説】「なんてことない」タクシー内の会話劇
まずは、それぞれの物語を振り返ってみていきましょう。
ロサンゼルス
© 1991 Locus Solus Inc.
最初の舞台は、アメリカ・ロサンゼルス。
整備工の夢を持つ運転手のコーキーのタクシーに、映画のキャスティングエージェントであるヴィクトリアが乗車します。
新作の映画に出演する新人探しに苦労するヴィクトリアは、口は汚く、荒っぽくも自分をしっかりもっているコーキーに惹かれるのです。
最終的に映画の出演依頼を打診するヴィクトリアでしたが、コーキーは「自分の生きる道じゃない」と断ります。
住む世界の違う2人ですが、どこか心を通わせたようにも感じるのです。
最後にコーキーから「Take It Easy(気をつけて)」と言われると、ヴィクトリアが「Sure, Mom」と答えるのもおしゃれ。
はじめは「一生タクシー運転手をするつもり?」などとおせっかいな質問をしていたヴィクトリアでしたが、コーキーの芯の通った生き方を尊敬した証のようにも思えます。
ガムをクチャクチャと音を立てながら噛み、タバコを吸いまくり、「You know」を連発しながら話し、背が足りなくて電話帳を運転席のかさ増しに使う。
夢見がちなロサンゼルスという街で、自分の計画通りに生きようとするコーキーの姿が逞しく映ります!
そして、それを受け入れるヴィクトリアもまた然りでした。
ニューヨーク
© 1991 Locus Solus Inc.
2つ目のエピソードの舞台は、アメリカ・ニューヨーク。
黒人と新米タクシー運転手が繰り広げる奇妙なニューヨーク物語。
タクシーに乗車拒否される黒人のヨーヨーの前に、一台のタクシーが停車する。
しかし、そのタクシーの運転手は、どうやって免許が取れたのか疑問レベルの運転下手で、東ドイツから来た言語も片言な運転手だったのです。
ヨーヨーは仕方なく、運転手に代わって自分が運転することにします。
タクシーの運転手は、元々サーカスのピエロであることが分かり、名前は「ヘルムート」だという。
意外な経歴と「ヘルメット」のような名前に爆笑する一方で、ヘルムートも「ヨーヨー」という名前も同じだと笑います。
そんな中、ヨーヨーは夜の街で義理の妹を見つけて無理やり乗車させるも、車内は2人の口喧嘩「Fack you」の嵐に。
タクシー運転手のヘルムートが、客であるヨーヨーの運転でニューヨークの街を教えてもらい、ヨーヨーもヘルムートの人柄から優しさをみせるのです。
心温かい物語を見せたかと思えば、帰り道をさまようヘルムートの目線を通してニューヨークの夜の姿をサラッと映すところもさすが。
新参者にそれらすべてがニューヨークなんだと教えてくれるように…。
純粋に面白さだけで言えば、ニューヨーク編が一番面白かった!
パリ
© 1991 Locus Solus Inc.
3つ目のエピソードの舞台は、フランス・パリ。
黒人の運転手が、盲目の女性を乗せて繰り広げる会話劇。
コートジボワール出身の運転手は、同じ黒人のVIP2人を乗せて運転するも、彼らから“兄弟”と言いながらバカにされ、耐えかねて途中で下車させます。
新たに乗せたのは、盲目の女性。
運転手は、彼女が気になってしまい、「見えない」ことに関していろいろと質問してしまう。
「見えないのに映画をみるの?」「俺の肌の色は?」「セックスする相手が分かるの?」
あらゆることを全身で“感じる”と答える彼女。
わざと乗車賃を安く伝えたり、川が近くて思わず「気をつけて」と声をかけてしまう運転手。
「あんたこそ気をつけな」と言われると、そのすぐ後に運転手自身が衝突事故を起こし、相手に「お前は盲目なのか」と言われてしまう。
それを耳にした盲目の女性は、ニヤリと微笑むのです。
ブラックユーモアが効いた、上手くまとまった話でした!
最初に乗せた黒人VIP2人から受けた“哀れみ”を、自分もしてしまっているという皮肉な話。
無意識に同情したり、哀れんだりすることが見下しているように映る、他人事ではない話ですね。
ローマ
© 1991 Locus Solus Inc.
4つ目のエピソードの舞台は、イタリア・ローマ。
“おしゃべりクソ野郎”な運転手が、神父を乗せて繰り広げるマシンガントーク。
ひとり言がとにかく多すぎるタクシー運転手のジーノは、神父(司祭)と思わしき男性を乗せます。
タクシー内で「懺悔させてくれ」と過去の性癖の話を延々と話し始めるジーノ。
胸を苦しそうにする神父の姿にもお構いなしで、タバコを吸ったり車を飛ばしたり、ペチャクチャと話が止まらないのです。
最終的には、薬を飲めずにそのままタクシー内で死んでしまった神父を、外のベンチに放置してしまう始末。
クセのありすぎるエピソードに戸惑ってしまうローマ編。
カボチャに羊に義理の姉に、聞きたくもない懺悔の話には思わず「降ろしてくれ」と言いたくなります。
神父が死んでしまった後の態度も変わらずおしゃべりなのには、呆れを通り越して笑ってしまいます。
ヘルシンキ
© 1991 Locus Solus Inc.
最後のエピソードの舞台は、フィンランド・ヘルシンキ。
3人組の酔っぱらいを乗せたタクシーの車内で巻き起こる「不幸話」を描いた物語。
酔いつぶれたアキのことを彼ほど不幸な人はないと語る友人2人。
アキは、遅刻のしすぎでクビを告げられ、新車を壊され、若い娘は妊娠し、妻に離婚を迫られるという不幸が重なったのだった。
そんな話に対して、運転手のミカは、「それが不幸?」と、もっと不幸である自分の話を語り始める。
ミカは、妻との間に念願の娘の命を授かるも、未熟児として1週間の命と告げられてしまう。
悲しまないために愛情を押し殺す覚悟をしたミカ。しかし、娘は1週間を超えても頑張って生きている。
ミカは、娘のためにも「全力で愛情を注がないといけない」と態度を改めるも、そう決心したときには娘は死んでしまっていた。
アキとは比べ物にならない不幸な話を聞いた2人は涙を流し、「君は良い人だよ」とミカに伝えて降車する。
ミカに起こされたアキは、雪の残る道端でひとり寂しく座り込む。
最後の物語は、悲しみに満ちたエピソードでした。
アキの不幸話に関しては、「自分の遅刻が原因だろ」とツッコミを入れたくなるところですが、ミカの話は辛いです。
何かとすぐに揉めてしまう酔っぱらいの2人も、アキとミカそれぞれの不幸話に関してはちゃんと同情したり涙を流すところもどこか憎めない存在。
それにしても全体の物語としてこのエピソードを夜明けのタイミングにもってくる演出にはしびれます。
【ネタバレ考察】それでも夜は明ける
© 1991 Locus Solus Inc.
『ナイト・オン・ザ・プラネット』は、「5つの都市におけるのタクシーでの話」であって、それぞれの物語は独立し、つながりはありません。
良くも悪くも、タクシーで目的地に届けるまでの刹那的な人間同士のやり取りを映しただけの映画なんです。
言ってしまえば、どの話を切り取っても問題のない映画なのですが、5つの流れで観ることで心を掴まれてしまうのです。
ロサンゼルスでは、住む世界の違う2人の間に奇妙なつながりが見え、爽やかな後味を残します。
ニューヨークでは、言語を超えたつながりとユーモア溢れる会話が微笑ましく、純粋に物語として面白い。
この流れで観ていけば、映画全体が「タクシー内の心温まる面白い話」のようにも予想できるのですが、後半へ進むにつれて物語はブラックでダークなものになっていくのです。
パリでは、黒人VIPに“兄弟”といってバカにされたコートジボワール人運転手が、盲目の女性に対して自分も似たような態度をしてしまう苦いエピソード。
ローマは、ロベルト・ベニーニの独壇場とも言えるひとり語りがメイン。特殊な性癖の懺悔を神父に向かってひたすら語っていき、後味の悪い結末になっています。
最後のエピーソードとなるヘルシンキは、悲しき不幸のマウント合戦。ラストは雪で覆われた路上で、うつむき座り込む姿を映しています。
それでもこの物語が心に残るのは、「最後に夜が明けるから」なんですよね。
ヘルシンキの雪が残る道端でうつむく男に、「アキ、おはよう」と声がかかる。あたりを見渡せばすっかり夜は明けているのです。
「夜明け前が一番暗い」という言葉があるように、たとえ不幸に打ちひしがれる夜でも「明けない夜はない」。
トム・ウェイツの奏でるエンディングとともに、得も言われぬ充足感で満たしてくれました。
タクシーという“箱”と境界線
© 1991 Locus Solus Inc.
各都市で繰り広げられる、タクシー内の会話劇。
調べてみると、劇中で登場する言語はこんなにもあるそう。
- 英語
- スペイン語
- ドイツ語
- フランス語
- イタリア語
- フィンランド語
- ラテン語
都市も変われば言語も変わる。当たり前ですが、旅をしているようで、これもまたいいんですよね!
さらに、キャスト紹介にあるように、監督はその国で生まれた俳優を起用しています。それもあってより一層物語に没頭できるのです。
本作でもそうですが、ジム・ジャームッシュ監督の描く映画のオフビート感が心地いいんですよね。
ただ、それがある人にとっては「つまらない」と感じてしまう部分ではあると思うのですが、「なんてことない」話の中に、日常でハッと気付かされる部分もあるんです。
ジム・ジャームッシュ監督は、タクシーという閉鎖された“箱”の中で、言語や人種、貧富といった境界線を曖昧にしました。
目的地へ運ぶ・運ばれるだけの短い間の関係性。しかし、タクシーの中にはそこにいるものだけの世界が確かに存在する。
あの時間、タクシーだからこそ起こり得た物語である一方で、本来その境界こそ無意味であり、人間の根本的なコミュニケーションの尊さを感じるのです。
コロナ禍でより一層感じた部分でもあります!
まとめ:深夜に観たい映画です
今回は、ジム・ジャームッシュ監督の『ナイト・オン・ザ・プラネット』をご紹介しました。
もし「午前3時の映画祭」なるものがあれば、ぜひこの映画を上映して欲しいです。観終わった後は、夜が明けていることでしょう。
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