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ドラマ

【ネタバレ感想/考察】『コーダ あいのうた』言語としての手話と家族のつながり

今回ご紹介する映画は、『コーダ あいのうた』です。

シアン・ヘダー監督による作品で、家族の中でひとりだけ耳が聞こえる少女が、自分の夢と家族との関係で揺れ動く様子を丁寧に描いた感動作。

サンダンス映画祭で史上最多の4冠と、史上最高額での落札という快挙を成し遂げた話題作です。

本記事では、『コーダ あいのうた』のネタバレありの感想と、内容の解説や考察をしていきます。

まめもやし

とある家族の絆を描いた、笑って泣ける爽やかな感動作でした!

『コーダ あいのうた』の作品情報とあらすじ

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面白さ
 
9
満足度
 
10

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あらすじ

4人家族の中で一人だけ耳が聞こえる健聴者のルビー。

彼女は幼い頃から家族のために“通訳”となり、家業の漁業も手伝っていた。

歌が好きな彼女は、高校の合唱クラブで先生に歌の才能を見出され、名門音楽大学への受験を勧められるが…。

作品情報

タイトルコーダ あいのうた
監督シアン・ヘダー
脚本シアン・ヘダー
出演エミリア・ジョーンズ
トロイ・コッツァー
マーリー・マトリン
ダニエル・デュラント
フェルディア・ウォルシュ=ピーロ
製作国アメリカ・フランス・カナダ合作
製作年2021年
上映時間112分

サンダンス映画祭で史上最多受賞&史上最高額落札

“世界最大のインディペンデント映画祭”として有名なアメリカのサンダンス映画祭

本作『コーダ あいのうた』は、サンダンス映画祭にて史上最多の4冠受賞、史上最高額での落札を成し遂げました

ちなみに、サンダンス映画祭で2大主要部門「グランプリ」と「観客賞」をダブル受賞した作品は以下になります。

開催年受賞作品
2013年『フルートベール駅で』
ネタバレ感想記事はこちら >
2016年『バース・オブ・ネイション』
2020年『ミナリ』
ネタバレ感想記事はこちら >
2021年『コーダ あいのうた』
ネタバレ感想記事はこちら >
まめもやし

どれも素晴らしい作品なので合わせてどうぞ!

最高のリメイク作品

本作、実は2014年にフランスで製作された『エール!』という作品のリメイク作品です。

オリジナル作品と比較すると、家業を酪農から漁業に変更していて、耳の聞こえない状況をより理解しやすくする構成がなされていますが、話の大筋は基本的には同様です。

まめもやし

本作を鑑賞した人は、合わせて観てみることをおすすめします!

その中で、大きな違いとなっているのが「キャスティング」です。

『コーダ あいのうた』のキャスト

『コーダ あいのうた』の特筆すべきことのひとつが、「耳の聞こえない人の役を、耳の聞こえない俳優が演じている」こと。

以下では、キャストとスタッフを簡単にご紹介します。

エミリア・ジョーンズ

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© GAGA Corporation. All Rights Reserved.

主演のルビーを演じたのは、2002年生まれのイギリス出身の俳優、エミリア・ジョーンズ

2020年のテレビシリーズ「ロック&キー」で3人の主人公の一人を演じたことで、広く知られるようになりました。

本作では、アメリカ式手話(ASL)の取得人を魅了する歌声、そして幼い頃から家族を“通訳”として支えてきた年齢以上に成熟した雰囲気という重要な役どころの主人公となっています。

まめもやし

この、あまりにもハードルが高い役柄を、完璧にやってみせたエミリア・ジョーンズは、本当に素晴らしいです!

トロイ・コッツァー

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ルビーの父、フランクを演じたのは、アメリカ出身の聴覚に障がいのある俳優、トロイ・コッツァー

フランクは、役柄としてもコミカルですが、実際のトロイ・コッツァーもユーモアがあるようで、みんなを笑わせて和ませていたそうです。

まめもやし

そして劇中でも特に印象的な父とのシーンが、本当に素晴らしいんですよね!

マーリー・マトリン

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ルビーの母、ジャッキーを演じたのは、アメリカ出身で、はしかによって1歳半で聴力を失った俳優、マーリー・マトリン

1986年の映画『愛は静けさの中に』で主演、映画デビューし、アカデミー賞とゴールデングローブ賞に輝きました。

彼女のインタビューで印象的だったのが、デビュー作でオスカー俳優となった彼女ですら、当事者の役柄を演じる機会に恵まれないと語っていたこと。

まめもやし

彼女の言葉と存在が、真実味と説得力をもって本作を観ることができる確かな一つの要素でもありますね!

ダニエル・デュラント

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ルビーの兄、レオ役を演じたのは、アメリカ出身の聴覚に障がいのある俳優、ダニエル・デュラント

レオの役柄の自然な描かれ方が素晴らしく、本作がただの感動作以上のものになっていることにも注目です。

まめもやし

物語の上でも、お兄ちゃんのセリフと立場が重要なポイントになっていて、素晴らしい演技でした!

フェルディア・ウォルシュ=ピーロ

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ルビーとデュエットを組んで歌を歌うことになるマイルズ役には、アイルランド出身の俳優、フェルディア・ウォルシュ=ピーロが配役。

子役時代からモーツァルトのオペラ「魔笛」のキャストに参加するなどの経験があり、2016年の映画『シング・ストリート 未来へのうた』では主役を演じています。

まめもやし

『シング・ストリート』では可愛い印象でしたが、爽やかな青年に成長し、魅力的な歌声を披露してくれました!

ただの“笑って泣けるエンタメ”で終わらない傑作

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タイトルの「CODA(コーダ)」という言葉は、「Children of Deaf Adults(“⽿の聴こえない親に育てられた⼦ども”)」のことを指します。

本作の主人公がまさしくCODAで、幼い頃から家族の“通訳”として支えてきた少女なのです。

あらすじだけで判断すると、「少し重めな話なのかな」と思いそうですが、とても明るく、笑えて泣ける楽しい作品になっているのです。

ただ、本作がすごいのは、「笑って泣けて感動する」作品に終わらず、その先に、私たちの生活が地続きであることを描いていること。

手話は、数ある言語のひとつとして当たり前に存在し、それを使って生活している人がいることを、多くの人に確かに感じさせる素晴らしい作品でした。

ネタバレあり

以下では、映画『コーダ あいのうた』の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。

【ネタバレ感想/考察】“両側”を生きる少女の葛藤

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主人公のルビーは、幼い頃から家族の“通訳”となって支えてきたこともあり、娘・妹の立場でありながら、家族を守ってきた存在でもあります。

朝早くから漁業を手伝い、学校では変人扱いされても耐え、両親の性事情までも把握しなければならない。

明るくて楽しげな家族と生活する一方で、自分だけ健聴者であるルビーは、人知れず孤独を抱えて暮らしているのです。

そんなルビーが、歌という才能を見出され、音大進学という夢を抱くことでバランスが崩れていきます。

家族を支え続けるか、自分の人生を歩むか。その葛藤に揺れる主人公の姿が描かれるのでした。

歌が好きで、才能があるのに理解されない。自分の才能を一番知ってほしい家族に伝えることができない。

先生からの才能があるという評価すらも、自分で家族に伝えなければ伝わらないのです。

あえて音を出さずに表現したシーン

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本作は、手話による会話がメインでもあるため、BGMを極力さけて、その場のやりとりに耳を傾けることになります。

これこそキャスティングが活きる部分でもあるのでした。

インタビューで父フランクを演じたトロイ・コッツァーが話していましたが、健聴者の俳優にはできないリアルな手話の表現を知ることができるのです。

感情的な表現では、強く手を叩く音が聞こえたり、手話でコンドームを熱心に表現するシーンでは、字幕で語らずとも伝わってくるものを感じることができる。

音楽を消すことで、そこにある“音”に向き合う。手話が決して無音ではなく、手の擦れる音やリズム、息遣いや振動があることがよく分かりますよね

父フランクが、爆音のベースがお尻に響く感覚が好きだと言っていたのが印象的でしたが、「聴覚障がい者に音楽はあるのか」という問いが愚問であることが分かります。

まめもやし

以前見て印象的だった、聴覚障がい者の方々が奏でる音楽を記録した短編映画『LISTEN リッスン』という映画で、聴こえなくても“音楽が視える”と話していたのを思い出しました。

そして本作でも「あえて音を出さずに表現したシーン」が印象的に劇中を彩ります。

その一つが、ルビーの胸の内を表現したシーン。

ベルナルド先生から「歌うとどんな気分になるのか」をちゃんと表現するように迫られ、言葉に詰まったルビーは、力強い手話でその胸の内を表現するのです。

このシーンは、手話の字幕がつけられていません。それでも彼女の歌への想いが手話を通して確かに伝わってくるのです。

そしてもう一つが、ルビーの歌と、家族の絆を描いたシーンでした。

【ネタバレ考察】“両側”からみせるルビーの歌と家族の絆

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ルビーの歌と家族の反応

劇中では、ルビーが家族を前にして歌うシーンが3回描かれるのですが、その3段階ともいえる怒涛の構成が見事なものになっていました。

1回目は、学校でのコンサートシーン。

合唱クラブでルビーが一生懸命に歌う一方で、両親は夕飯の話をしているのです。

驚くのは、ルビーが歌うシーンを「無音」で映し、家族の視点からルビーをみた様子を観客にも体感させるのです。

家族は、観客が感動している様子や拍手する様子から「ルビーの歌がいいものだった」と想像するしかないのです。

ルビーと家族の間の距離感を明確に感じる悲しさをまとったシーンです。しかし、すぐ後に、さらに印象的なシーンが待っています。

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2回目は、コンサートから帰った夜のシーン。父フランクが、自分のために歌を歌ってほしいとルビーにお願いします。

星がきらめく空の下、トラックの荷台に乗り、父の目の前で懸命に歌うルビー。当然ながら、その歌を父が聴くことはできません。

しかし、フランクはルビーの喉に優しく手を当て、その振動を頼りにルビーの歌を感じ取ろうとするのです。

聴こえるかどうかではなく、汲み取ろうとする、それはまさしく「愛の表現」なのです

まめもやし

素晴らしいシーンですよね…!

そして、その素晴らしいシーンに呼応するようになっているのが、ルビーの3回目の家族の前の歌の披露となるオーディションのシーン。

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何の準備もしていなかったルビーは初め、思うように声が出ませんでした。

ベルナルド先生の機転もあって、もう一度歌うチャンスをもらうと、そのタイミングで2階席に両親と兄の姿が現れます。

ルビーは気持ちを切り替え、声の限り家族に届けようと歌います。

そのとき、ルビーは自然と歌詞を手話で通訳していたのでした。

それは紛れもなく、オーディションに受かるための歌ではなく、目の前の家族に自分の歌を届けたい一心からくる愛の表現だったのです。

家族の“通訳”としての手話が、自分の想いを伝えるための手段になっていた。2つの世界が一つに重なるのです。

同時にそれは、ルビーのCODA(コーダ)としてのアイデンティティを証明するものでもあり、聴覚を超えた家族の絆を描いていました

そして、このオーディションで歌っていた楽曲には、ルビーという“両側”で生きる少女の想いが込められていたのです。

【ネタバレ考察】歌詞に込められた“両側”の意味

ルビーがオーディションで歌ったのが、ジョニ・ミッチェルの「Both Sides Now」という楽曲。

邦題では「青春の光と影」とされていますが、直訳だと「2つの立場から」という意味でもあります。

この楽曲、ルビーを象徴するような楽曲になっているのです。

まめもやし

本作における「Both Sides Now」は、完璧としか言いようがない選曲ですよね!

この曲は、「雲のいい面と悪い面」を表現した楽曲で、曲の制作当時、ジョニ・ミッチェルは20代前半でした。

「雲を人生に例え、その両側から眺めた」という哲学的で大人びた歌詞に対して、当時は「若者に何が分かるんだ」という批判もあったそうです。

まめもやし

このあたりも、幼いころから“通訳”として家族を支えてきた、若くして成熟しているルビーにも重なりますよね!

言うまでもなく、この楽曲の「雲」を、本作における「健聴者と聴覚障がい者の世界の両側を知るルビーの視点」に重ねているのです。

オーディションでルビーが歌を手話で自然に表現したように、2つの世界は別々ではなく、重なり合っている。

手話も、歌も、聴こえるものも聴こえないものも、それらは対立するものではない。

本作は、ルビーという“両側”を知る人間を通して、私たちの社会が決して分断されるものではないと伝えてくれているのです。

【ネタバレ考察】あえて描かないラストの余韻

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『コーダ あいのうた』のラストでは、ルビーが音楽大学への進学を決め、家族の元を離れていくシーンが描かれます。

その一方で、残された家族の漁業においては、「ルビーの役割を誰が担うのか」「彼らだけでやっていけるのか」といった、その後を描くことはありません

彼らが上手くやっていくことを描いてほしいと思ってしまう一方で、この、ある意味“信頼した”不確定な描き方だからこそ、障がい者をテーマにしたエンタメで終わらせない、素晴らしい余韻を残すのです。

そして、物語を見届けた観客なら、妹を力強く送り出した兄のレオを中心に、あの家族に何も心配はいらないと確信できるのです。

まめもやし

最後まで見事な作品でした…!

ラストの手話のサインの意味

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ルビーが家族の元を離れていくラストシーン、車から家族へ贈る手話のサイン。

これは、アルファベットの「I」「L」「Y」を組み合わせたもので、「I love you」、そして、ろう者文化を象徴するシンボル「I really love you」を意味します。

まとめ:『コーダ あいのうた』が、映画界を変える作品になるか

今回は、シアン・ヘダー監督の『コーダ あいのうた』をご紹介しました。

誰もが笑って泣ける感動作になっている一方で、私たちに分断を避ける“両側”の目線も与えてくれます。

そこには、監督自身が手話を習得し、耳が聞こえない役を当事者にキャスティングしたことに意義があります。

描き方で言えば、兄・レオの描かれ方が特に良かったのですが、マイノリティをマイノリティとして描かない

本作で言えば、マッチョなイケメンであるレオも、耳が聞こえない人間のひとりなのですが、それをハードルに感じさせないのです。

出会系アプリで女の子を探していたり、バーで出会ってそのままセックスするような、いわゆるよくある映画の恋愛のひとつとして描いているのです。

まめもやし

これがあることで、障がい者との間に壁を感じさせないのです。これが素晴らしい!

加えて、コミュニケーションの手段も手話だけでなく、スマホのメッセージを通して会話するシーンなんかも非常に良かった。

音楽教師のベルナルド先生は、ドラマ「glee」を彷彿とさせますし、マイルズとの青春シーンも爽やかで感じが良い。

そして何より、本作を見れば、当事者が演技することの重要性をまじまじと感じるはず。

雇用機会に不平等があってはならない。障がい者に限らず、セクシャルマイノリティの方々など、当事者が当事者の役を演じることが当たり前になってほしい

まめもやし

日本の映画界でも切実に…!

本作がひとつのきっかけになり、映画界が変わっていくことを望むばかりです。

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