今回ご紹介する映画は『わたしは光をにぎっている』です。
中川龍太郎監督による映画で、松本穂香さんが主演を務め、銭湯を舞台にした多感な少女の成長の物語を描いた作品。

詩人の山村暮鳥さんの詩を引用した印象的な映画になっていました!
映画『わたしは光をにぎっている』の作品情報
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『わたしは光をにぎっている』のスタッフ・キャスト
本作の監督は、1990年生まれの若き監督、中川龍太郎さんです。
東京国際映画祭スプラッシュ部門にて、『愛の小さな歴史』(2013)『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(2014)が2年連続最年少で入賞した期待の若手監督。
その後も『四月の永い夢』(2017)がモスクワ国際映画祭のメインコンペティション部門に正式出品され、国際映画批評家連盟賞を受賞するなど、今後が期待される監督の一人です。
松本穂香
©2019 WIT STUDIO / Tokyo New Cinema
主演は松本穂香さん。
2017年の朝の連続テレビ小説『ひよっこ』の出演や、ドラマ版『この世界の片隅に』で主演を演じたりと活躍の幅を広げていて、主演映画の公開も続々と続いています。
主な出演作
- 『おいしい家族』(2019)
- 『酔うと化け物になる父がつらい』(2020)
- 『君が世界のはじまり』(2020)
- 『青くて痛くて脆い』(2020)
- 『みをつくし料理帖』(2020)
このように、主演作がどんどん決まっている今後注目の新人女優の一人です。

独特の雰囲気を持った、自然体な方だなという印象があります!
ネタバレあり
以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ感想】「銭湯」という光と居場所
©2019 WIT STUDIO / Tokyo New Cinema
本作で描かれるテーマは「居場所」です。
引っ込み思案な主人公の澪が、長野の田舎から東京へ出てきて自分の居場所を見つける物語でした。
澪はこれといった目標もやりがいもなく生きていて、バイト先でも年下の女子高生から受身の態勢を指摘されたり、言葉数も少なく、どちらかと言えば内向的な人間です。
そんな彼女が見つけた、「銭湯」という小さな光。
澪が銭湯のお湯に反射した光を手でつかむシーンでは、まさにタイトルを具現化したようなシーンで、多くは語らない澪の中の何かが変わっていると感じられる素敵なシーンでした。
『湯を沸かすほどの熱い愛』もそうでしたが、銭湯とその周りの人間関係を描いた映画ってそれだけで画になるんですよね。
ところが、自らの意思でやると決めた銭湯の仕事がなくなってしまうことを知ります。
そんな中、澪は「どう終わるかも大切だと思う」と自ら考え、一歩踏み出してみるのでした。
そこで活きてくるのが、銀次の存在。
本作、東京のメインロケ地となったのは、都市開発で立ち退きが決定している葛飾区立石の商店街。
劇中の終盤で、商店街の人々を映したシーンがありますが、実際そこに住んでいる人々を映画に映しているのでした。
映画監督を夢見る銀次というキャラクターは、まさしく中川監督自身を投影しているように感じます。
フィクションである物語の中で、実際のリアルな街と人々の様子を捉えている、挑戦的な描き方をしていました。
スライドショーによる街の人々の様子を描いた演出は、映画全体をみると少し浮いているように見えます。

しかし、劇中の話のように、この映画自体があの場所で生活している方にとって大切なものになったと思います!
一方で、その再開発で居場所を失った人々がどうなるのは気になるところ。
京介は伸光湯がなくなったあと、どうするのか。立ち退きの直接的な対象者ではない澪が前に進んでいこうとしている分、京介の姿がとても哀しく映ります。
映画全体としては、光の入り方や映し方、引きの画を多めにした構成など、撮りたいもの、伝えたいものを映すという気持ちが伝わってきて、改めて才能の片鱗を感じました。

監督の撮りたい映し方がバシバシ伝わってきて、ますます今後が楽しみな監督です!
山村暮鳥さんの詩を紹介
本作では、詩人の山村暮鳥さんの詩『自分は光をにぎつてゐる』が効果的に引用されていました。
山村暮鳥さんは、明治時代から大正時代にかけて活躍した詩人です。
以下にて、その詩を引用して紹介します。
自分は光をにぎつてゐる
いまもいまとてにぎつてゐる而(しか)もをりをりは考へる
此の掌(てのひら)をあけてみたらからつぽではあるまいか
からつぽであつたらどうしようけれど自分はにぎつてゐる
いよいよしつかり握るのだあんな烈しい暴風(あらし)の中で
摑んだひかりだはなすものか
どんなことがあつてもおゝ石になれ、拳
此の生きのくるしみくるしければくるしいほど
出典:山村暮鳥『自分は光をにぎつてゐる』
自分は光をにぎりしめる
山村暮鳥さんは、詩を書いた当時、不治の病とされていた結核を患っていました。
そんな中でも、捉えようのない光を確かに握っていると表現し、前を向こうとしていたのだと思います。
先の見えない不安定な時代ですが、それでも確かに前を向いて、顔を上げて生きていこうと思える、背中を押される映画でした。
まとめ:移りゆく世界で、確かなものを見つける
今回は、中川龍太郎監督の映画『わたしは光をにぎっている』をご紹介しました。
抑揚が抑えられた映画ですが、映像の美しさと松本穂香さんの醸し出す雰囲気がとてもマッチしていて、引き込まれた作品でした。
松本穂香さん自身、役が自分に近い部分があると話していましたが、本当に演技をしている感じがなく自然体で良かったです。

中川監督と松本穂香さん、今後もますます楽しみです!
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