新海誠監督の集大成にして最高傑作!
今回ご紹介する映画は、『すずめの戸締まり』です。
『君の名は。』『天気の子』で知られる新海誠監督による8作目の劇場アニメーション映画。
本記事では、『すずめの戸締まり』をネタバレありで感想を含めて解説・考察していきます。
劇場で購入できるパンプレットや、小説版などで新海誠監督本人が丁寧に製作背景について明かしてくれているので、合わせてチェックしてみてください。
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作品名 | U-NEXT | プライムビデオ |
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すずめの戸締まり (2022) | ポイント利用で無料 | レンタル |
天気の子 (2019) | ポイント利用で無料 | レンタル |
君の名は。 (2016) | ポイント利用で無料 | レンタル |
言の葉の庭 (2013) | 見放題 31日間無料 | 見放題 30日間無料 |
星を追う子ども (2011) | 見放題 31日間無料 | 見放題 30日間無料 |
秒速5センチメートル (2007) | 見放題 31日間無料 | 見放題 30日間無料 |
雲のむこう、約束の場所 (2004) | 見放題 31日間無料 | 見放題 30日間無料 |
ほしのこえ (2002) | ポイント利用で無料 | レンタル |
映画『すずめの戸締まり』の作品情報とあらすじ
おすすめポイント
新海誠監督の集大成にして最高傑作であり問題作!
『君の名は。』『天気の子』に続き、描いたのはまたしても「災害」がテーマ。とりわけ東日本大震災を直接的に描いた本作。
エンターテインメントとして「震災」扱うことの意味。そこに込められたクリエイターとしての想いが込められた力作。
主軸はこれまでと同じような、ボーイ・ミーツ・ガール的な作品ですが、決定的に違ったのが、誰かに救われる話ではないこと。それをあの公開規模でやってくれたことにこそ、この映画の意義があると思います。
エンターテインメントとして「震災」扱うことの意味、それが決して消化するような物語になっていない。扱うテーマのセンシティブな難しさ、エンタメ性と作家性をすべてをまとめ上げた新たな名作。映像も声優たちも素晴らしい。
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『すずめの戸締まり』のキャスト・スタッフ
キャスト
役名 | キャスト |
---|---|
岩戸 鈴芽(いわと すずめ) | 原 菜乃華(はら なのか) |
宗像 草太(むなかた そうた) | 松村 北斗(まつむら ほくと) |
岩戸 環(いわと たまき) | 深津 絵里(ふかつ えり) |
二ノ宮 ルミ(にのみや るみ) | 伊藤 沙莉(いとう さいり) |
海部 千果(あまべ ちか) | 花瀬 琴音(はなせ ことみ) |
芹澤 朋也(せりざわ ともや) | 神木 隆之介(かみき りゅうのすけ) |
岡部 稔(おかべ みのる) | 染谷 将太(そめたに しょうた) |
岩戸 椿芽(いわと つばめ) | 花澤 香菜(はなざわ かな) |
宗像 羊朗(むなかた ひつじろう) | 松本 白鸚(まつもと はくおう) |
主演のすずめを演じたのは、1700人超えのオーディションを勝ち抜いた原菜乃華さん。そして、旅をともにする“閉じ師”の草太役には松村北斗さん。
2人とも素晴らしい演技で、全くストレスなく映画の世界に没入することができました。また、深津絵里さんや伊藤沙莉さん、花瀬琴音さん、すずめが旅の道中で出会う女性たちも、とても魅力的。
さらに、2013年の『言の葉の庭』から花澤香菜さん、2016年『君の名は。』から神木隆之介さんが、それぞれ新海誠監督の過去作を彩ってきた方も別の役柄で登場しています。
神木くんにあのチャラくて優しい芹澤役を当てるところ、新海誠監督らしさが出ていていいですよね!笑
スタッフ
原作・脚本・監督 | 新海誠 |
キャラクターデザイン | 田中将賀 |
作画監督 | 土屋堅一 |
美術監督 | 丹治匠 |
撮影監督 | 津田涼介 |
CG監督 | 竹内良貴 |
助監督 | 三木陽子 |
音楽 | RADWIMPS 陣内一真 十明(とあか) |
『君の名は。』からキャラクターデザインを担当している田中将賀さん(『とらドラ!』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』など)や、土屋堅一さん(『言の葉の庭』キャラクターデザイン・作画監督)など、新海アニメを支えるスタッフたちは、監督も信頼を寄せる安定したメンバーがそろっています。
音楽は、『君の名は。』『天気の子』につづいて3作目のタッグとなるRADWIMPSが参加。さらにゲーム「メタルギアソリッド」シリーズの作曲家である陣内一真さんや、TikTokerの十明さんといった幅も利かせています。
制作費やスタッフの多さもありますが、アニメーションのクオリティは間違いなく日本、世界を代表するレベルに到達していますよ…!
ネタバレあり
以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ解説】なぜ「震災」をストレートに描いたのか
新海誠監督といえば、今の日本においてジブリの宮崎駿を除き、最も広く認知されたアニメーション映画監督の一人と言えるでしょう。
日本を代表する監督ですが、描く物語の多くが「セカイ系」と言われるような、世界を揺るがす大問題が個人に直結する物語を主軸に置いています。
独特の作家性をもった監督であるため、作品によって好みが大きく別れやすいのもポイント。本作も例に漏れず賛否両論が想像できる物語でした。
『すずめの戸締まり』では、映画を鑑賞する方に向けて上記のような注意喚起が行われていました。そう、本作では「震災」が描かれているのです。
新海誠監督の前2作『君の名は。』『天気の子』の共通点のひとつに「災害」が挙げられます。災害を前にした主人公の取る行動が対象的なアプローチで描かれていました。
具体的には『君の名は。』では、彗星の衝突により落下した隕石被害を受けた田舎町を描き、『天気の子』では、異常気象による雨で水没する東京を描いています。
そんな災害に対して、『君の名は。』では500人以上が亡くなってしまった糸守町を、過去を変える(来たるべき災害へ備えて避難する)ことで町の人々を救いました。
一方、『天気の子』では、「水没していく東京」と手を差し伸べてくれた天気を変える力をもつ「陽菜という一人の女性」を天秤にかけ、陽菜を救う選択をするのです。
東日本大震災後の災害を描く映画として、『君の名は。』によって災害からの救いを、『天気の子』によって災害と向き合い生きていく様子を描いたのだと感じました。
しかしながら、『すずめの戸締まり』を観てみると、今作も同様に災害を描いた映画だったのです。
これは正直、とても意外でしたね!
震災と鎮魂
『すずめの戸締まり』をご覧になった方の中には、改めて「セカイ系」のフォーマットで災害を描くことに対して不思議に思う方もいるかと思います。
アプローチこそ違いますが、災害を防ぐ役割を一人の人間が背負う様子は『天気の子』、結果的に世界を救う結末へ向かう意味では、『君の名は。』というように、前2作の語り直しに感じてしまうのも否定できません。
しかしながら、『すずめの戸締まり』は前の2作とは大きく異なる点があるのです。それは、「直接的に東日本大震災そのものを描いている」こと。
パンフレットに掲載されていたインタビューで、新海監督は以下のようにコメントしています。
とにかく『君の名は。』は震災をどこか迂回しながらも遠回しに触れていたような映画でした。
(中略)
ずっとわだかまりというか、課題のようなものは自分の中に残り続けていた。描くべきことを描けないままにしてしまっているような気分が残っていた。そこにもう一度手を触れるべきではないのか、触れるならばもう今しかないのではないか。
(中略)
これが震災の映画であることに気づかない人ですら、今の若い観客の中には少なくないはずですから。
『すずめの戸締まり』公式パンフレットより
『君の名は。』も『天気の子』も災害がテーマの一つではありましたが、『すずめの戸締まり』は物語の徹頭徹尾に「震災」が伴うのです。
映像でも岩手県大槌町を彷彿とさせる屋根の上に船が乗り上げている様子や、遠くに見える原発らしき施設、極めつけは日記に登場する3月11日の日付などでも明らかです。
なぜ改めて「災害(震災)」を描くのか。それはひとえに「観られていないから」に尽きます。
事実、2011年の震災以降、「災害や喪失」をテーマにした映画は、新海誠監督に限らず多くの監督や映画で描かれています。同時期に公開された北村龍平監督の『天間荘の三姉妹』も、東日本大震災を受けて作られた髙橋ツトムさんの漫画が原作であったり。
「起きた出来事を題材にすること」は、ある意味クリエイターの宿命ともいえますが、そのほとんどが「見られていない」という現実も突きつけられるのです。
ニュースメディア『VOIX』が2022年10月に行った「映画館の利用に関する調査」によると、映画館の利用頻度で最も多かったのが「年に1回」という結果でした。日本人の多くが、年に一回映画館で映画を観るかどうかというのが現実。
この「年に1回見る作品」のうちに、新海誠監督の映画があることは間違いないでしょう。それは『君の名は。』の大ヒットによって、監督のファンや映画好きだけでなく広く一般層にまで届けることができるようになったから。
だからこそ、心残りに感じていた「震災」を改めて直接的に描くことで、監督自身のケジメとしての作品であり、より多くの人に震災を描く映画を観てもらいたい願いが込められていたように感じました。
場所を悼むロードムービー
『すずめの戸締まり』は、九州から愛媛、神戸、東京、そして東北へ向かう日本縦断のロードムービーでもあります。
最初にあったのは、「場所を悼む」物語にしたいということでした。
『すずめの戸締まり』公式パンフレットより
企画段階から本作を「場所を悼む」物語にしたかったと話す新海監督。その言葉の通り、かつて栄えていた町や遊園地など、災害や過疎によって廃れていった場所をめぐる物語になっています。
地鎮祭のように、何かを興す際には祭事がある一方で、葬式のような見送る際の儀式が場所にはないことに着目した新海監督。同時に、取り残されたように廃れていく町や寂しい風景などを、日本が衰退していくのではないかという虚無感や閉塞感に投じたのです。
この着眼点、本当に素晴らしいですよね!
日本列島の地下に潜む“ミミズ”と呼ばれるエネルギーが蓄積されて、“後ろ戸”という現世とつなぐ扉を通して大地を揺るがす地震を引き起こす。その扉を閉めることで地震を防ごうとしているのが、“閉じ師”である草太の仕事。
そんな中、“要石(かなめいし)”というミミズ(地震)を抑えるストッパーの役割を、主人公の鈴芽が意図せず抜いてしまったことにより物語は始まります。
要石はダイジンという、人間の言葉を話す猫の姿になり、草太をイスに変えてしまうのです。そしてダイジンの行く先に出現するミミズを止めるべく、鈴芽とイスになった草太が日本各地を回って旅をする物語。
ロードムービーとして、鈴芽が各地で出会う人々との交流も印象的に物語を彩ります。
九州からフェリーに乗り込み、到着した愛媛で出会ったのは同い年の千果(ちか)。その後の神戸では、双子を育てるシングルマザーでスナックのママであるルミと出会います。
それぞれ一期一会の刹那的な出会いながらに、別れる際にはハグを交わす様子はエモーショナル。行く先々で鈴芽が料理を食べるシーンも印象的で、ジブリ映画を思い浮かべた人も多いと思います。
ジブリと新海誠
少女が旅に出て成長する物語にしようと思っていたときに、最初に先行作品として思い浮かんだのは、やはり『魔女の宅急便』でした。
『すずめの戸締まり』公式パンフレットより
鈴芽が旅すがら出会う人々を意図的に女性にしたと話す新海監督。年齢に幅を利かせたのも、『魔女の宅急便』から少女の成長物語へのインスピレーションを受けていたから。
さらに、東京で出会った草太の友人である芹澤。車に乗って鈴芽の実家を目指す道中で芹澤がかける音楽の一つが荒井由実の「ルージュの伝言」でした。言わずと知れた1989年のジブリ映画『魔女の宅急便』のオープニングで使用された楽曲です。
ここまで明確にジブリ作品を描写したのはビックリしましたよね!
新海誠監督は過去作でもジブリを意識したと言われる作品があります。それが2011年の『星を追う子ども』です。
監督自身も「自覚的にやっている部分もある」と答えた『星を追う子ども』は、同時に、新海作品の中で『すずめの戸締まり』に最も近い印象を受けた映画でもあります。
『星を追う子ども』は、主人公の少女アスナが、大切な人を亡くし、その人に会いに行くため、アガルタという願いが叶う場所への扉を開けて旅立つ様子を描いていました。
構造的にも『すずめの戸締まり』に近い印象があるので、合わせてチェックしてみてください!
さらに、鍵や扉を開く閉じるの関係性は、日本の神話からもインスピレーションを受けていました。
【ネタバレ解説】日本の神話を元にした「開く・閉じる」の関係
新海誠監督は、『すずめの戸締まり』の主人公・岩戸鈴芽の名前が、天細女生命(アメノウズメノミコト)に由来するとパンフレットで明かしています。
アメノウズメノミコトは、日本最古の書物「古事記」に記されている日本神話のエピソードのひとつ「天岩戸隠れ」に登場します。
「古事記」は純粋に物語が面白いので、まずは以下のマンガなどで学ぶのがおすすめ!
古事記では、天照大神が隠れてしまった天岩戸の扉を開けることで平和を取り戻しました。一方で、『すずめの戸締まり』では、後ろ戸からやってくるミミズ(つまり厄災)を扉を閉じることで防ごうとする物語。
鈴芽は九州の宮崎県で暮らしていることが映像から分かりますが、「天岩戸隠れ」で天照大神が隠れたのは宮崎の高千穂。さらにダイジンは、大事な役割をもつ大臣と、大神(ダイジン・オオカミ)という日本神話の神を表す言葉でもあります。
草太の名字、宗像は日本神話で天照大神によって生み出された宗像三女神から由来するものでしょう。
日本の神話をベースにした物語である上で、扉の戸締まりを対照的に描く面白さもありましたね。
さらに、その戸締まりを被災者としての心の扉とも重ねていくのです。
余談ですが、おすすめのマンガ『天国大魔境』でも古事記のインスピレーションが強くあるので合わせてどうぞ。
最新話ネタバレ『天国大魔境』あらすじ徹底解説・考察
ボーイ・ミーツ・ガールとエゴの先に「自分を救う」物語
今作も例に漏れず新海作品の特徴の一つ「ボーイ・ミーツ・ガール(ガール・ミーツ・ボーイ)の物語」ではありますが、恋愛要素はそれほど感じられません。
各方面からイケメンと言われる草太は、劇中のほとんどをイスにされてしますし、チャラい見た目とは裏腹に優しくて気が利く芹澤とも恋愛にはなりません。
これは好みの問題ですが、私は恋愛要素が少ないからこそ本作がとても好きでした。
直接的な恋愛要素を薄くしてまで、伝えたかったのは、『すずめの戸締まり』が誰かに救われる話ではなく、自分を救う物語であるから。
他者に救ってもらう物語となると、まず救ってくれる他人と出会わなければいけないわけです。
でも本当に自分を救ってくれるような他者が存在するのかどうか、わかりませんよね。
誰もが『君の名は。』の瀧に出会えるわけでも、『天気の子』の陽菜に出会えるわけでもない。でも、誰でも少なくても自分自身には出会えるじゃないですか。
『すずめの戸締まり』公式パンフレットより
『すずめの戸締まり』で伝えたいこと
鈴芽は4歳の頃、実家のあった東北で被災し、母を失い孤児となり、叔母の環に引き取られて育てられました。劇中、草太とバス停のベンチで、イスについて聞かれるもあまり思い出せないと言っていた鈴芽。
震災により行方不明になった母が死んでいることに本当は気づいていながらもその気持ちに蓋をしていたのです。実家の跡地に埋まっていたタイムカプセルには当時の日記がありましたが、3月11日以降、黒く塗りつぶされた日々が続きます。
そして終盤、“常世”へ向かった鈴芽は、その中の光景に驚きます。
まだ燃えていたんだ。十二年間、ずっと──
あの日の夜の町は、私の足元に在り続けていたのだ。深い地面のそこで永遠にあの日のまま、燃え続けていたのだ。
小説『すずめの戸締まり』より
「常世は見る者によってその姿を変える」と草太の祖父が言っていたように、鈴芽の心の奥は“(被災した)あの日”で時計の針が止まっていたのです。
そんな気持ちに蓋をしながら生活していた十二年。物語の前半、後ろ戸を閉める草太を反射的に手伝った鈴芽は「(死ぬのは)怖くない!」というのでした。
それは決して生まれ持った勇気から来るものではなく、幼い頃に被災して、たまたま生き残っただけだから。
しかし、鈴芽は終盤、要石となった草太を救うために心の内を叫ぶのでした。
私だって、もっと生きたい!声を聞きたい。ひとりは怖い。死ぬのは怖いよ──草太さん……!
小説『すずめの戸締まり』より
それに呼応するように、ミミズに要石を打ち込むシーンで草太は唱えます。
死が常に隣にあると分かっています。それでも私たちは願ってしまう。いま一年、いま一日、いまもう一時だけでも、わたしたちは永らえたい!
小説『すずめの戸締まり』より
生きることにはさまざまな困難が伴う。自然の脅威やコントロールできない事態に直面すると人間はあまりにも虚しい。
それでも『すずめの戸締まり』は、辛さを抱えながらも生きていく、生きていたいと強く思わせてくれるのです。
そして何より、鈴芽が4歳のすずめと出会うシーンにこそ、この映画のハイライトがあるのでした。
あのね、すずめ。今はどんなに悲しくてもね──
すずめはこの先、ちゃんと大きくなるの
小説『すずめの戸締まり』より
鈴芽は自分自身に「あなたはちゃんと大きくなる」と伝えるのです。それはつまり、4歳のすずめが12年間過ごしてきた日々を肯定する言葉。
そして、4歳の自分に「私は、すずめの、明日」と答えた鈴芽は、常世から現世へ続く後ろ戸を「行ってきます」と言って戸締まりするのです。
これは、決して震災の記憶を封印する意味ではなく、過ごしてきた十二年を大事に胸のうちに閉まっておく意味が込められていたと感じます。
本編が終わり、エピローグで草太と別れ、九州に戻った鈴芽。
冒頭と同じように、自転車で坂を下る中、「必ず逢いに行く」と言っていた草太がやってきます。鈴芽は目一杯の気持ちをのせて「おかえり」というのでした。
「行ってきます」「行ってらっしゃい」「おかえり」
それは、震災のあの日、帰ることができず交わされることがなかった言葉だったのです…。
『すずめの戸締まり』はまさに新海誠監督の集大成にして最高傑作
今回は、新海誠監督の『すずめの戸締まり』をご紹介しました。
正直、今までの新海誠作品で一番好きになった作品でした…!
『君の名は。』『天気の子』でも触れていた「災害」を、「震災」として物語の主軸に置いて改めて描きなおした本作。新海誠監督が小説版のあとがきで語った本音をご紹介しておきます。
僕にとっては三十八歳の時に、東日本で震災が起きた。自分が直接被災したわけではなく、しかしそれは四十代を通じての通奏低音となった。
(中略)
あの後も世界が書き換わってしまうような瞬間を何度か目にしてきたけれど、自分の底に流れる音は、二〇一一年に固定してしまったような気がしている。
小説『すずめの戸締まり』あとがき より
自ら自分の作品を「あまり代わり映えのしない話」と表現するも、その根底にクリエイターとしての責務や宿命を感じました。
正直、東日本大震災をここまで直接的に描いているのは驚きましたし、それによって見る人によっては辛い記憶を蘇らせてしまうのは間違いないと思います。
エンターテインメント映画として東日本大震災をテーマに描くというのは、これまでの作品で最も挑戦的で問題作ともいえるでしょう。賛否両論があるのはしかるべきだと思います。
道中で神戸を訪れるところも、妙にドキドキしてしまったりと、「震災」へのナーバスな描写が多々ある映画でした。
芹澤の車で東北へ向う道中、車を止めて丘の上から田園風景に広がる整備された道路の様子を見て芹澤は「このへんって、こんなに綺麗な場所だったんだな」と言います。
「ここが──きれい?」
被災者である鈴芽にとっては日記を黒く塗りつぶすほどだった場所を、芹澤は綺麗だというのです。
上記のあとがきにあるように、直接的な被災者でない新海誠監督が、それでも描きたかった意味を感じる重要なシーンでした。
私自身、当時茨城県の高校生で、辛い記憶を思い出すようなシーンが多々あり、自分が流している涙が感動ではないことにも気づきながら映画を観ていました。
しかし、本作は決して震災を消化するような物語になっていません。場所を悼む、鎮魂の物語なのです。
あの日、「行ってきます」と言ったまま、空けられた扉を閉じる物語であり、言えなかった「おかえり」を言うための物語なのです。
公開された2022年は、東日本大震災から11年の年。そして私たちは今まさにコロナ禍を経ていこうとしています。
海に囲まれた島国であり、国土の70%が森林である日本。美しい四季や自然を持つ一方で、同時に自然の脅威、災害は付いて回ります。これからも「災害」を前に、辛いことは起きてしまうでしょう。
それでも生きていたい。私たちは生きてけるんだと、強く感じさせてくれる力がありました。そしてそれを選択するのは誰かではなく、自分なんだと。
時は無情にも過ぎていきます。かつてそこにあったはずの景色、そこに暮らしていた人々。
『すずめの戸締まり』は、場所と人々の声に耳を傾ける物語でした。
『君の名は。』が好きな方、『天気の子』が好きな方、はたまた『言の葉の庭』や『秒速5センチメートル』が好きな方など、新海誠作品は一貫した作家性がありながらも本当に幅広い層に好みが別れていますよね。
ある意味、挑戦的であり監督の意志を強く感じた『すずめの戸締まり』が一番好きな作品になりました。
それと同時に、酷な話ですが、心残りを見事に描ききった本作に続く次回作への期待をしないわけにはいかないですね。
これを機に、新海誠監督の過去作を振り返ってみてください。
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最後に:震災と喪失を描いた日本映画
最後に、私が近年観た中で印象的だった震災を描いた映画を紹介しておきます。
震災以降、新海誠監督に限らず、多くの映画監督や作家、クリエイターが「震災」をテーマにした物語を制作しています。
果たして、「震災」を描くことはタブーなのだろうか。被災者や被災者でないにしても、どこか「震災」を描いた映画を敬遠してしまう気持ちも理解できます。
東日本大震災、そしてコロナ禍を経ている今、改めて新海誠監督を始め、多くの作り手たちが決して見て見ぬ振りはできないと製作してきた作品のように感じます。
『風の電話』2020年
岩手県大槌町に実在する電話ボックス“風の電話”をモチーフにしたヒューマンドラマ。
『浅田家!』2020年
三重県津市出身の写真家・浅田政志さんの写真集を原案に、中野量太監督が映画化した作品。
『天間荘の三姉妹』2022年
漫画家・高橋ツトムの代表作「スカイハイ」のスピンオフ作品「天間荘の三姉妹」を実写映画化。
劇場で公開中。
『やがて海へと届く』2020年
東日本大震災の前日に消息を絶った友人の行方と、彼女の秘密を探す旅に出た女性の人間模様を描く彩瀬まるの小説を映画化。
『岬のマヨイガ』2021年
東北の民話・マヨイガをテーマにしたノスタルジック・ファンタジー。居場所を失った17歳の少女が海の見える古民家で、血のつながりのない新しい家族たちとの生活を描く。