今回ご紹介するのは、Netflixオリジナル番組『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』です。
ギレルモ・デル・トロ監督がナビゲートする、ホラー・アンソロジー・シリーズ。
本記事では、Netflix『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』を全話ネタバレありで解説、内容の感想と考察をしていきます。
先に私の好きなエピソードランキングを発表します。
- 第1位:ざわめき
- 第2位:解剖
- 第3位:外見
- 第4位:ピックマンのモデル
- 第5位:観覧
- 第6位:墓場のネズミ
- 第7位:ロット36
- 第8位:魔女の家での夢
1話1時間以内の個別のエピソードで、どれも面白かったので、観る人によって好みも全然変わってくる良質なホラー作品でした!
Netflix『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』
『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』は、2022年10月25日からNetflixで配信されたホラー・アンソロジー・シリーズ。
このシリーズの特徴を簡単にご紹介。
『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』の特徴
- 1話完結型の作品(全8話)
- 1エピソードの長さは約40〜60分
- 様々なジャンルの怖くて奇妙なエピソード
- 『世にも奇妙な物語』風のデル・トロ監督によるストーリーテリング
毎回、エピソード前にストーリーテラーとしてギレルモ・デル・トロ監督が登場する様子は、日本ではタモリさんの語りがおなじみの『世にも奇妙な物語』を彷彿とさせます。
エピソードは全8話。奇妙な悪夢から紡ぎ出される背筋も凍るような恐怖の物語を美しいビジュアルで描いた良質なホラー作品でした。
どのエピソードも基本グロいので、ご飯食べながら観られないですね…!笑
『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』のキャスト・スタッフ
『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』では、デル・トロ監督をはじめ、様々な製作者によるエピソードで紡がれています。
話 | タイトル | 監督 | 原作 | 長さ |
---|---|---|---|---|
1 | 『ロット36』 | ギレルモ・ナヴァロ | ギレルモ・デル・トロの短編 | 45分 |
2 | 『墓場のネズミ』 | ヴィンチェンゾ・ナタリ | ヘンリー・カットナーの短編 | 37分 |
3 | 『解剖』 | デヴィッド・プライアー | マイケル・シェイの短編 | 57分 |
4 | 『外見』 | アナ・リリー・アミールポアー | エミリー・キャロルの短編 | 63分 |
5 | 『ピックマンのモデル』 | キース・トーマス | H・P・ラヴクラフトの短編 | 62分 |
6 | 『魔女の家での夢』 | キャサリン・ハードウィック | H・P・ラヴクラフトの短編 | 61分 |
7 | 『観覧』 | パノス・コスマトス | パノス・コスマトス アーロン・スチュワート=アンによる脚本 | 56分 |
8 | 『ざわめき』 | ジェニファー・ケント | ギレルモ・デル・トロの短編 | 63分 |
8エピソード中、女性の監督は4話、6話、8話の3人というのも近年の作品にしてはバランスがいい方ではないでしょうかね。
特に原作者でいえば、5話6話のH・P・ラヴクラフト、2話のヘンリー・カットナーの2人は、20世紀にアメリカで創作された架空の神話「クトゥルフ神話」の作家でもあります。
クトゥルフ神話の要素にも注目
クトゥルフ神話は、最初にH・P・ラヴクラフトによって作られ、その特徴的な要素の一つに「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」が挙げられます。
コズミック・ホラーとは、広大な宇宙においてあらゆる理解を超えた超常的存在を前にしたら、人間のもつ価値観や概念など取るに足らないもので、それらと対峙したときに感じる恐怖や孤独を描いたもの。
クトゥルフ神話について詳しく知りたい方は、以下の文献も参考にしてみてください。
それでは早速、各エピソードをネタバレありで解説していきます。
ネタバレあり
以下では、作品の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
第1話『ロット36』
第1話『ロット36』あらすじ解説
退役軍人のニック・アプルトンは、亡くなった老人ウォルマーが所有していた貸し倉庫の権利を落札する。借金返済のため、倉庫の金目の物を売りさばいていた。
その後、亡き老人の親族であるメキシコ人移民のアメリアが手違いで売られてしまった倉庫を取り戻させてほしいとお願いする。「家族の写真だけでも」と懇願するアメリアに対し、ニックは無残にも断り、以前使っていた南京錠だけを渡すのだった。
ニックは金になりそうなものを骨董品専門のアガサのもとへ持ち込むと、それがオーストリア製の降霊用テーブルとその中にあった「悪霊」「シンボル」「災禍」の3つの書だとわかる。
アガサが紹介した専門家ローランドによると、第4の書「七つの秘跡」も揃えば、30万ドルの価値があると聞かされる。ニックはすぐさまローランドを連れて倉庫へ探しに向かう。
2人で一緒に倉庫内を探していると、倉庫の奥に隠し通路があることに気づく。
中に進むと、長い間行方不明になっていた老人の妹の死体が、六芒星のサークルに張りつけられ、顔面には悪魔が封印されていた。ニックが近くにあった第4の書を取りに行くと、封印が解かれてしまい、触手の塊のような悪魔が現れ、ローランドに襲いかかる。
ニックは一目散に飛び出し、倉庫から逃げ出そうとする。暗い倉庫の中を悪魔に終われながらも出口を見つけたニックだったが、扉には鍵がかかっていた。
外にいたアメリアに扉を開けるように頼むが、アメリアは南京錠をかけ、ニックは悪魔に食べられてしまうのだった…。
第1話『ロット36』感想・考察
『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』のはじまりの物語。純粋に面白かった!
貸し倉庫の直線的な廊下が迷路と化し、タイマー式の照明装置がいい働きをしてくれました。
主人公のニックは、退役軍人で“白人の権利”を主張するラジオに賛同するような白人至上主義と思われる人物像。ちょうどラッパーのカニエ・ウエストが“ホワイト・ライブズ・マター”のTシャツを着て大炎上している奇行のひとつとして記憶に新しいですね。
倉庫の所有者であった老人ウォルマーは、裕福な家庭育ちで、ナチス下のドイツからアメリカに移住し、その後オカルトに傾倒し、妹トッディを捧げることで霊体を呼び出したのです。
そんなウォルマーをローランドは「完全に邪悪な人間」と表現しました。同様にニックもローランドも確実に悪い人間といえるでしょう。
借金取りに追われるニックは1万2000ドルが必要で、ローランドから3冊分の1万ドルを回収していたので、残りは2000ドル(20数万円)でよかったのです。
ローランドが車の中で「悪魔は常にささやきかける」と語っていましたが、欲望に取り憑かれた邪悪な人間が悪魔に殺されるというエピソードになっていました。アメリアに家族写真を渡していれば、運命は少なくとも変わっていたのかもしれません。
「笑ゥせぇるすまん」と「世にも奇妙な物語」をあわせたような物語でしたね!この世界だとカニエは食べられてしまうでしょうね。
第2話『墓場のネズミ』
第2話『墓場のネズミ』あらすじ
墓地の管理人を任されているマッソンは、埋葬された死体から貴重品を盗む墓荒らしを稼業にしていた。しかし、ネズミが墓地で異常発生したことで邪魔されていた。
墓地管理をさせている仲介者は、マッソンに借金の利息分の催促を求める。ネズミを駆除するまで時間をもらおうとするマッソンだったが、1週間のみの猶予を与えられ、さもなくば命の保証はないと告げられてしまう。
マッソンは急いで友人の検視官ドゥーリーの元へ訪れる。そこで裕福な貿易商人の遺体があると知り、さらに家族が葬式で埋葬する時に、ジョージ国王から贈られた貴重なサーベルを添えると耳にするのだった。
埋葬されてからすぐに取り出せば、ネズミよりも早く貴重品を手に入れられると計画するマッソンだったが、棺を開けると遺体がまさにネズミに引き連られているところだった。
閉所恐怖症のマッソンだったが、決死の思いでネズミが掘った穴の中を進んでいく。穴を進んでいくと、恐ろしい巨大な女王ネズミに出くわしてしまう。必死に逃げ出すマッソンは、その道中で深い穴に落ちてしまうのだった。
落ちた穴の先には無数の骸骨と宝石類、そして暗黒の教会があった。マッソンはそこで見つけた死体の首にかけられた輝かしいネックレスに魅入られてしまう。マッソンがネックレスを外して手にすると、なんと死体が動き出すのだった。
再び必死に逃げるマッソン。さらに、死体に加えて女王ネズミまで追いかけてくる絶望的な状況。しかし、岩を崩して行く手を阻むことに成功する。
上には地上の灯りと思しき光が見えて、希望を見出しながら這い上がっていくと、そこは別の閉じられた棺の中であることがわかるのだった。
絶望するマッソン。その後、死体荒らしの大量のネズミたちが彼に襲いかかるのだった…。
第2話『墓場のネズミ』感想・考察
第2話は、閉所恐怖症の方は苦しくなる展開でした。
巨大ネズミの造形の素晴らしさはもちろんのこと、そこで終わらせずに地下にある黒い教会というカルト要素を絡めていくのも楽しめたポイント。
面白かったのは、マッソンが歴史研究家であるという設定。冒頭で、墓荒らしする2人組から奪う時に言っていたセリフが印象的です。
死体という監獄の上に社会の基盤は成り立っている。
最初の墓を掘った時 サルが進化して文明が始まったのだ。
起源を尊重しなければ終りが来るぞ。
もっともらしい説教をするマッソンでしたが、エピソードのオチとしては自分へブーメランが返ってくる話になっていました。
キリスト教の信心深そうな一面もみせたマッソンでしたが、欲にくらみ、亡き者たちへの敬意を冒涜してしまったことの罰が描かれていました。
地下神殿で祀られていたのは、クトゥルフ神話の中でも代表的な超常的存在として有名なクトゥルフでしたね。奪ったネックレスもクトゥルフをモチーフにしたものでした。
閉所恐怖症やネズミの集合体などの恐怖と、カルト要素を組み合わせたエピソードでした!
第3話『解剖』
第3話『解剖』あらすじ
舞台はペンシルベニア州の炭鉱の町。ベテラン保安官のネイトは友人である検視官のカールに、ジョー・アレンという男が炭鉱内で謎の物体を持ち込み爆発を起こした事件の検死を依頼する。
町では2ヶ月前から謎の失踪事件が起きていた。さらに森では、体から一滴残らず血を抜かれた変死体も見つかる。その変死体の身元がアベル・ドハティという男だと明らかになり、彼が最後に発見された酒場で、同僚だったエディ・サイクスに出会うが、エディは自らをジョー・アレンと名乗るのだった。
エディ・サイクスは、森に流星雨を見に行った後に行方不明になっていたが、名前をジョー・アレンに変えて町に戻ってきていたのだった。
ネイトがジョー・アレンの家宅捜索をすると、部屋で謎の動く球体を見つけて回収する。同時にアベルやエディの身分証も見つかり、不審に思ったネイトは急いでジョーのいる炭鉱へ向かう。
鉱山でジョー・アレンを見つけたものの、彼はパトカーから球体を奪い取り、炭鉱内へ降りていき10人が死亡する爆発を引き起こすのだった。
ネイトは事件の概要を説明した上でカールを死体安置所へ連れて行く。道中、カールは末期がんに侵されていることを打ち明け、疲れているネイトを気づかい、翌朝まで家で休むように伝える。
早速カールは記録を取りながら一人ずつ解剖して検視を始める。2人分調べ終わり、どちらも血が抜かれていることを発見し、カールはジョー・アレンの遺体に血があるのではないかと推測する。
ジョーの遺体の解剖に取り掛かろうとすると、ジョーはうめき声を上げながら起き上がり、自らを「トラベラー、地球外生命体(エイリアン)」と名乗り、がんを最適な食料源と判断し、カールの体を新たな宿主にするべく襲いかかる。
エイリアンは、カールの脳神経を生かしたまま体の移植を始め、その苦痛を味わわせていた。一方、カールは死を覚悟の上、体を乗っ取られる中、メスで自らの目と耳、喉をかっ切っるのだった。
エイリアンは体を乗っ取ったものの、視覚も聴覚も失い混乱する。カールは意識下で、録音機に記録していることを伝える。
そんな中、朝になってネイトがやってくると、倒れているカールの胸に血で「テープを聞いて私を燃やせ」という文字が残されていることを見つける。カールは体の中に閉じ込めたエイリアンをネイトに燃やして殺すように指示していたのだった。
第3話『解剖』感想・考察
傑作のエピソードでした!同時に全エピソードの中で最もグロいエピソードでもありました。
解剖シーンはグロすぎ注意。胸をメスで開いて肋骨を一本ずつパキパキと折って丁寧に外し、臓器を取り出していく過程を克明に見せていきます。
その上、ヌルヌルした斑点模様のエイリアンが体内へ移植されていく様子も気持ち悪い。
少し複雑なミステリー展開の前半と、それがエイリアンによるものであると分かり、サディストなエイリアンvs頭のいい検視官の戦いになる後半。非常に見ごたえがありました。
流星群に乗ってやって来た感覚を持たないエイリアンが人間に寄生し、まさにがんのように人間を巣食っていくのです。時折り差し込まれるクモもいい演出。カールは結果的に、がんにもエイリアンにも屈せず、自らの死をもってエイリアンの侵略を防いだのでした。友人である保安官ネイトに託すラストも上手い。
SFホラー要素とミステリーが上手く重なり合った上質なエピソードでした!
第4話『外見』
第4話『外見』あらすじ
銀行員で働くステイシーは、夫で警察官のキースと二人暮らしをしている。剥製が趣味のステイシーだが、職場でもっぱら周囲がする美容やゴシップの話題にはついていけないでいた。
同じの職場のイケてる女性ジーナのクリスマスパーティに招待されたステイシーは、ジーナへ手作りの剥製のプレゼントをする一方で、ジーナから“アログロ”という高級美容ローションをもらう。
その場にいた同僚たちと一緒に顔に塗ると、ステイシーの顔は赤く荒れてしまうのだった。家に帰りキースに打ち明けると彼は優しく同情し、今のままのステイシーが好きだと伝えてくれる。
しかし、痒みで眠れないステイシーは深夜にテレビでアログロのCMを見て、発疹が副作用であると信じ込んでしまい、美しくなるためにアログロを大量購入し、使用も続けるのだった。
日に日に全身に渡ってひどい発疹が現れていくステイシー。仕事に行けなくなるほど無残にただれた皮膚の様子を心配してアログロをやめるように諭すキースの行動も虚しく、ついにステイシーは、変わりたい自分を理解してくれないと夫を殺してしまう。
その後、アログロのローションで満たされた浴槽に全身浸かり、美しくなっている実感を覚えたステイシーはキースに報告するも、すでに彼は死んでいたため、その死体を剥製化にしてしまう。
実際に斜視や歯並び、肌荒れがなくなり、美しくなったステイシー。髪を切り服を着飾り化粧を整えて仕事へ向かう。すると、同僚たち全員がその変化に驚いていた。同僚たちの輪の中心となったステイシーは、美の秘訣やゴシップで同僚たちと盛り上がるのだった…。
第4話『外見』感想・考察
ある意味一番怖いエピソードだった第4話。画一的な美を掲げる美容業界や広告業界への皮肉と、女性が美へ執着する裏にある家父長制への皮肉も込められた見事な脚本でした。
何と言っても本作を面白くしているのは、夫のキースの描き方。心優しく心配するキースに対してステイシーが言うセリフが印象的。
男だからよ。
太って毛深くて不細工で老けても誰も気にしない。皆 変わらず接してくれる。
─ 中略 ─
でも私は変わる。変化してる。だから私を支えてよ。
ステイシーが美へ執着してしまう根源的な部分には、家父長制に象徴されるような男性が“女性は常に完璧で美しくあるべき”としてきた歴史にあるんですよね。
そんな家父長制の要素を全く感じない理想的な夫の姿が描かれる一方で、ステイシーが「支えてよ(please be supportive)」つまり、夫が支えていないような前提の言葉を使うことで、キースが当惑してしまう様子も印象的。
「変わりたい」という人間に対して「そのままでいい」という言葉がもたらす優しい残酷さ。
主人公の趣味が剥製という点も上手い。剥製とは、言ってしまえば外見の美を永遠のものとすること。アログロのCMがステイシーに語りかける描写も、日々ユーザーに最適化され、パーソナライズされた現代の広告にリンクします。
家父長制による美の基準、美容・広告業界による画一的な美意識。プレゼントされる美容グッズ。果たして自分が美しくなりたいと思うのは主体的なことなのか。
ステイシー役を演じた主演のケイト・ミクッチの演技、80〜90年代風の美術やファッション、そして脚本も素晴らしい。
まさに“外見”も“内面”も素晴らしいエピソードでした!
第5話『ピックマンのモデル』
第5話『ピックマンのモデル』あらすじ
1909年。ミスカトニック大学に通う美大生のウィリアム・サーバー(以下ウィル)は、裕福な家庭育ちの恋人レベッカと仲睦まじく過ごしていた。
大学では、学生芸術大賞の締め切りが迫り、評論家や後援家からの支援の道も拓く機会で、昨年の受賞者であるウィルは教師からも期待されていた。
そんな中、新しい生徒ピックマンが加わる。彼は「見たものを描く」という人物画の課題で、腐った人体を描いていた。ウィルは彼の絵に強烈な興味を感じていたが、教師たちはピックマンの絵を認めなかった。
ピックマンに興味を示したウィルは、彼の家を訪れて作品を鑑賞する。ピックマンは自分の先祖に魔女がいたという話をして、魔女集会の言い伝えから描いた作品をウィルに見せるが、その恐ろしい絵を見たウィルは部屋を飛び出して吐いてしまう。
それからというもの、ウィルは悪夢や魔女の幻覚に悩まされるようになってしまう。同じくしてピックマンは姿を消してしまうのだった。
時は流れ1926年。レベッカと結婚して息子のジェームズと3人で暮らし、美術委員会の一員として順調に仕事をするウィル。しかし、自宅に贈られていた絵を見ると、それがピックマンの作品であり、悪夢を思い出してしまう。さらに息子のジェームズもピックマンの絵を見てしまうのだった。
そんな中、美術委員会メンバーの一人であるジョーが、ピックマンを新たに美術館に展示する作品の候補者として紹介する。ピックマンは作品を見てほしいと、ウィルの家にも訪れていた。
ウィルと息子ジェームズは悪夢に悩まされるようになり、危惧したウィルは、二度と家族に近づかないようにピックマンに警告する。ピックマンは作品を壊してもいいからウィルに新作を見てほしいと申し出て、受け入れたウィルは彼のアトリエへと向かう。
ピックマンの家の地下にあるアトリエで恐ろしい絵画のコレクションを目の当たりにするウィル。ウィルは彼を止める必要があると作品を燃やし、さらに危険を感じたことでピックマンを銃で撃ち殺してしまう。
しかし、ピックマンは死ぬ間際、「見たものを描いただけ」と言い残し、彼の作品に登場していた恐ろしい怪物が実際に地下に潜んでいたことを知るのだった。
その後、ウィルは美術館での展示会に家族3人で参加するが、燃やすように指示していたピックマンの絵画が、作品に取り憑かれた委員会のジョーによって至るところに展示されていた。急いで廃棄するように指示するウィルだったが、レベッカとジェームズもピックマンの絵画を見てしまう。
ピックマンの絵の処理の終えて家に着いたウィル。レベッカは夕飯の支度をしていた。「すべて終わった」と語りかけるウィルだったが、レベッカの顔は目がくり抜かれて血だらけになっていた。さらに彼女は息子のジェームズの首をはねてオーブンで調理していたのだった…。
第5話『ピックマンのモデル』感想・考察
ラヴクラフト作品である第5話も非常に面白い作品でした。アートとホラーの相関関係を描いた本作。アートはキレイで、ポジティブなものしか認められないのか。
ピックマンが描いた魔女集会の絵が、ウィルの家族で現実に起きてしまうラスト。恐ろしい作品が作者の創造物ではなく、「見たものを描いた」だけだったとき、それが何を意味するのか。
ピックマン、そしてその先祖である魔女たちの目的は、絵画を通して悪魔信仰を広く世に知らしめることにあったと感じます。ピックマンは悪魔崇拝の伝承者の一人として受け継いだのです。
家族やジョーが呪われてしまったにもかかわらず、ウィルは呪いを受けているようには感じません。それはウィルがピックマンの後の伝承者となるからだと考えられます。
それと対象的に、ジョーやレベッカは目を傷つけられたり、えぐり取られていました。2人とも「恐怖を見た」と言っており、その闇を覗いた目からは光が奪われています。
冒頭のストーリーテリングで、デル・トロ監督は以下のように語ります。
美しいものは目に見えるが 恐怖はどうか?
同時に、タイトルコールの背景にはピックマンの描いた2枚の絵が映されますが、そこには地下にいた怪物が地上へ出て来ている様子が描かれています。これは物語のラストの後の世界を描いているかもしれません…。
余談ですが、ウィルが通っていたミスカトニック大学は、クトゥルフ神話に度々登場する有名なモチーフのひとつ。
アートとホラーの相関を描いた面白いエピソードでした!
第6話『魔女の家での夢』
第6話『魔女の家での夢』あらすじ
ウォルター・ギルマンは、双子の妹エパリーを幼くして亡くし、彼女が死んだ時に幽霊となって森に魂を引き連られてしまう瞬間を目撃する。
大人になったウォルターは、スピリチュアリスト協会に所属し、エパリーがいる異次元の世界に行く手段を探していた。
ある日、バイトするバーで異次元の話をする男たちに声をかけると、ウォルターが探しているのが「迷える魂の森」だと言われる。金を支払い、彼らについていき、渡された「金の液体」を飲むと森の中でエパリーと再会することができたのだが、友人のフランクは話を信じてくれなかった。
ウォルターは、再度エパリーに会いに森へ行くと、エパリーの服の一部を持ち帰ることに成功し、彼女を異次元から連れ戻せるのではないかと考える。その後、キザイア・メイスンという故人の女性が別の世界と現世をつなげる鍵を知っていると調べ、彼女が住んでいた家で生活を始める。
そこで双子が異次元を超える鍵になると突き止めたウォルターは、魔女となったキザイアから襲われるもエパリーを森から連れて帰ってくることに成功する。
隣の部屋に暮らしていた画家によると、死者を蘇らせるためには代わりに誰かが死ななければならず、絶対に当たる彼女の予言の絵画によれば、ウォルターとエパリーは共存できない関係で、日の出前にウォルターが死ぬ運命にあると告げるのだった。
画家に連れられて教会のシスターのもとへ逃げ込むウォルターたちだったが、キザイアが教会を取り囲み、襲いかかりウォルターを連れ去ってしまう。キザイアが鍵でウォルターの体を乗っ取ろうとする間一髪のところで、エパリーが防ぎ、助けるのだった。
キザイアは自分に鍵が刺さったことで消滅し、それに伴いエパリーの魂も消えていくのだった。
その後、フランクと画家の女性が屋根裏でキザイアの骨を発見する中、ウォルターの腹を突き破って人面ネズミのジェンキンスが出てきて殺してしまう。
画家の予言が的中したことで友人のフランクも絶望して去っていくと、人面ネズミのジェンキンスはウォルターの腹の中に入っていき、ウォルターの人生を代わりに生きていくのだった。
第6話『魔女の家での夢』感想・考察
第6話もラヴクラフト原作の物語。主演は『ハリー・ポッター』シリーズのロン・ウィーズリーで有名なルパート・グリントです。
正直、全エピソードの中で一番イマイチ。薬草療法師だったキザイアは、異次元へ移動する能力があると主張し魔女裁判にかけられて処刑され、魂が現世へ戻ろうと森でさまよい、器を探していた。
冒頭で「主人公は俺と俺、ハッピーエンドを約束する」と始まる本作。妹のさまよう魂を追い求め、自分の人生を生きられなかった主人公が、文字通り抜け殻となり、人面ネズミに体を乗っ取られるという皮肉な物語でした。
概ねはラヴクラフトの原作と同じなのですが、本作、ある意味ルパート・グリントへの皮肉にも感じられるんですよね。『ハリー・ポッター』ファンならルパート・グリントとネズミと聞けば、ロン・ウィーズリーとスキャバーズを意識してしまいます。
スキャバーズといえば、その正体がヴォルデモート卿に仕えていたピーター・ペティグリューという裏切り者でしたね。
まさに、本作のキザイアに仕えるネズミのジェンキンスと非常に似た関係性になっているのです。それだけならキャスティングとして確かにルパート・グリントを選びたくなる気持ちも分かります。
しかし、本作のラストで、ネズミに体を乗っ取られるラストを描くことで、ルパート・グリントが『ハリー・ポッター』役者である呪縛に囚われているように思えてしまうのです。
実際に『ハリー・ポッター』シリーズ以降、ダニエル・ラドクリフやエマ・ワトソンらの活躍とは裏腹に、目立った活躍ができていないのも事実ですので、よく引き受けたなと感じてしまいました。
第7話『観覧』
第7話『観覧』あらすじ
大富豪ライオネル・ラシターは、ミュージシャンのランドール、天体物理学者のシャーロット、超感覚的知覚(ESP)を持つターグ、小説家のランドンを自宅へ招待する。
主治医のザーラも合わせた6人で、驚異の瞬間へ立ち会うために同じ波長にする必要があると、酒やドラッグ、音楽やそれぞれの仕事の話などをする。
いよいよ見せる準備ができたといい、ラシターは彼らを別室に案内する。そこには、いかなる解析も通さない、人類がいまだかつて遭遇したことのない異形の石だった。
ランドールがマリファナを吸った煙が石の中に入っていったことをきっかけに、異音を立てながら石が割れて中から角の生えた奇妙な生物が登場する。
全員がトランス状態になり、ターグとランドン、ザーラが体の内部から破裂し、液体となった生物はラシターの体と同化する。
シャーロットとランドールのみが屋敷から脱出するが、ラシターと合体した生物は、下水道を通って街へゆっくり歩き始めていた…。
第7話『観覧』感想・考察
第7話は、不明瞭なストーリーと言えばそれまでですが、先に説明したクトゥルフ神話を代表する要素、「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」を体現するストーリーになっていました。
他のエピソードとは異なり、会話が中心で構成されます。それでも面白くなっているのは、サイケデリックな音楽や赤い照明に円形の空間、酒や金色のAK-47といったアイテムまで、非常に優れたプロダクションデザインになっているからでしょう。
頭部が内側から弾け飛ぶ描写は、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『スキャナーズ』を彷彿とさせます。
登場するアイテム「原哲夫のウイスキー」の原哲夫とは『北斗の拳』の著者であり、漫画で描かれる北斗神拳の内部破壊描写にも影響を与えたと言われています。さらには、クローネンバーグ監督の『裸のランチ』で主演を務めたピーター・ウェラーが、謎の大富豪ラシター役を演じているのもポイント。
『観覧』の物語が何を意味していたのか、ストーリーテリングでデル・トロ監督が言っていた言葉に注目して考えます。
もし収集家が収集されてしまったら?
冷酷なハンターが見つけた得体のしれない何かが自分よりも強い欲望を持っていたら?
まさに「収集家が収集される」エピソードでした。「狩人罠にかかる」ということわざが日本にもありますね。
大富豪ラシターは、自らを既知を超越した存在だと語り、彼の自宅には世界中のあらゆる一級品がコレクションされた家となっていました。そんな彼が、最終的に謎の生物の器としてコレクションされる結末。
ニーチェの深淵の話ではないですが、見る・見られる関係性でいえば、ジョーダン・ピール監督の『NOPE』にも通じる部分がありましたね。
優れたプロダクションデザインによる意欲作でした!
第8話(最終話)『ざわめき』
あらすじ
鳥類学者のナンシーとエドガーの夫妻は、集団で群れをなす習性をもつハマシギの研究をしていた。2人はハマシギ研究のため、準備していた調査旅行を敢行する。
小さな離島に滞在する予定の2人に、管理人が気を利かせて空き家になっている屋敷を寝床に提供してくれることになる。日々、野鳥の研究に取り掛かる中、仲の良い夫婦なのだが、ナンシーはエドガーに対してどこか心理的な距離感をあらわにしていた。
そんな中、ナンシーは屋敷の中から不思議な声や人影を見聞きするようになる。同時に屋根裏部屋でハマシギが群れで低木に止まるというかつてない瞬間に立ち会うのだった。
その後も、声や人影を見聞きしていたナンシーは、次第に屋敷に住んでいた家族について興味を持ち始める。屋敷で見つけた手紙から、屋敷で暮らしていた女性は、既婚者との間に子どもを身ごもり、屋敷で息子と2人で暮らしていたことが明らかになる。
さらに、その息子は母親に溺死させられ、母親も自殺した過去を知るナンシー。野鳥研究よりも屋敷の家族が気になってしまうナンシーに、エドガーも困惑し、口論になり、1年前に夫婦が娘のエヴァを亡くしていることが明らかになる。
エドガーは悲しみを一緒に乗り越えたいと努力していると伝えるが、ナンシーは心をずっとふさぎ込んでいた。
翌朝の早朝、ナンシーは再び幽霊を目撃する。息子が母親から逃げている様子で、ナンシーは息子を助け、暗闇から光の中へ抱きしめようとすると、幽霊の息子の姿は消えていくのだった。一方で息子を殺した後の母親が自殺する瞬間も目撃する。
外に出たナンシーを無数のハマシギが取り囲み、自由を感じるのだった。その後、無線でエドガーに連絡したナンシーは、「自分を見失っていた。愛してる。エヴァの話がしたい」と伝えるのだった。
感想・考察
最終話にしてギレルモ・デル・トロ監督の短編を元にした本作、傑作でした。正直、この作品があることで怖いだけのホラーシリーズ以上のレベルに引き上げていると感じたエピソードでした。
『ざわめき』は幽霊を描いたゴーストストーリーをベースに、喪失と向き合う夫婦の姿を丁寧に描いています。
夫婦に起きた悲しい出来事が子どもの喪失であることをゆっくりと明かしていく構成。印象的なのは、亡くした子どもに対する悲しみとの向き合い方。
ナンシーとエドガー、どちらにとっても子どもを亡くした悲しみは同じように思えますが、夫婦間で、言い換えれば男女間で、悲しみとの付き合い方が異なるのです。
エドガーが妻想いの優しい夫であることは間違いありません。しかし、彼はナンシーとのセックスが、心理的な距離を埋めるきっかけになると思っているのです。
エヴァの死因は明かされませんが、ナンシーは我が子を亡くしたことで罪悪感が刷り込まれていたのだと考えます。
状況は全く異なるものの、屋敷の幽霊の母親が既婚男性に欺かれた悲しみ、そして母が息子を殺してしまった罪悪感、さらに殺された息子への同情の気持ちを一気に自分ごとに感じていたのでしょう。
そのこともあり、セックスを求めるエドガーに対して、少なからずその既婚男性と重ねてしまったのかもしれません。
恐らく時代的にも女性の鳥類学者が少ないと思わしき中、ナンシーは自らの努力で積み上げきた自信と、そんな中で幽霊という非科学的な超常現象に自分が悩まされていることに苦悩する様子も描かれるのです。(冒頭の発表シーンでエドガーの周りにだけ人が集まっている様子も効果的でした。)
ナンシーは、“女性は感情的”という男性による画一的な印象に立ち向かいうべく、理性的に生きることを貫いてきたのだと思います。それもあって、娘を亡くしてから1適も涙を流すことがなかったのでしょう。
終盤に少年に語りかける「あなたは悪くない。完璧だった。」の言葉は、そのまま天国の娘エヴァへ向けた気持ちにも思えます。
そんな彼女が、ハマシギの群れに囲まれて、自由を感じるシーンはカタルシスを感じます。
古代の人々は 鳥が人間の魂や願いを神に届けると信じていた
ストーリーテリングでこう語るデル・トロ監督。ナンシーの想いは亡き娘エヴァに届いたことでしょう。
娘を亡くした共通の悲しみに向き合う2人に必要だったこと、それは体を合わせることでも話題を変えることでもなく、「エヴァについて話し合うこと」だったのです。
悲しき喪失の物語を屋敷の幽霊話に織り込んだ見事なエピソードでした!
Netflix『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』は怖くて面白い!
今回は、Netflixオリジナル番組『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』をご紹介しました。
どのエピソードも間違いなく面白かったので、ぜひ気になったエピソードからチェックしてみてください。
改めて私の好きなエピソードランキングは以下になります。参考にしてみてください。
- 第1位:ざわめき
- 第2位:解剖
- 第3位:外見
- 第4位:ピックマンのモデル
- 第5位:観覧
- 第6位:墓場のネズミ
- 第7位:ロット36
- 第8位:魔女の家での夢
Netflixを代表するホラーシリーズといえるクオリティで、グロさと怖さはありますが、良質なホラーアンソロジー作品になっていました。
ぜひとも、シリーズ化してほしいと思える番組でした。
Netflixには、ほかにも面白いアンソロジー作品があるので、以下の作品も参考にしてみてさい!
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