今回ご紹介する映画は『望み』です。
幸せな家庭を築いていた家族に訪れる、息子の殺人事件への関与の疑い。「愛する息子は被害者なのか、犯人なのか」不安に苛まれる家族の心理を描いたドラマ。
本記事では、ネタバレありで『望み』を観た感想・考察、あらすじを解説。
誰もが自分に置き換えて考えることができる、心理描写が巧みな一本でした!
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『望み』作品情報・配信・予告・評価
『望み』
5段階評価
ストーリー :
キャラクター:
映像・音楽 :
エンタメ度 :
あらすじ
一級建築士の一登と校正者の妻・貴代美は、高1の息子・規士と中3の娘・雅と共に幸せに暮らしていた。だが規士はけがでサッカー部を辞めて以来無断外泊が多くなり、ある晩、家を出たきり戻らなくなってしまう。そしてその翌日、同級生殺害のニュースが流れる。
作品情報
タイトル | 望み |
原作 | 雫井脩介 |
監督 | 堤幸彦 |
脚本 | 奥寺佐渡子 |
出演 | 堤真一 石田ゆり子 岡田健史 清原果耶 加藤雅也 市毛良枝 松田翔太 竜雷太 |
音楽 | 山内達哉 主題歌:森山直太朗『落日』 |
撮影 | 相馬大輔 |
編集 | 洲﨑千恵子 |
製作国 | 日本 |
製作年 | 2020年 |
上映時間 | 108分 |
予告編
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配信サイト | 配信状況 |
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『望み』監督・スタッフ
監督:堤幸彦
名前 | 堤 幸彦(つつみ ゆきひこ) |
生年月日 | 1955年11月3日 |
出身 | 日本・愛知県 |
監督は、ドラマ『TRICK』『SPEC』シリーズなどでも知られる堤幸彦監督。
良くも悪くもクセある監督なので、作品によって印象が大きく異なり、好みも別れやすいですね。
原作:雫井脩介
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原作は、雫井脩介(しずくいしゅうすけ)氏による同名小説。
彼の原作が映画化されるのは『クローズド・ノート』『犯人に告ぐ』『検察側の罪人』に次いで本作で4作目となります。
ミステリー作家としてもさまざまな賞を受賞したり、ランキング上位になる人気の作家です。
映画を観る前のチェックリスト
レイティングは?
映倫によるレイティングは、「G」、一般の誰でもご覧になれます。
気まずい場面(性描写・キス・ラブシーンなど)はある?
気まずい場面はありません。
暴力・グロテスク・怖いシーンはある?
鉄パイプによって殴られるシーンはありますが、流血やグロテスクな表現はありません。
ネタバレあり
以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ感想】登場人物たちの「望み」の行方
(C)2020「望み」製作委員会
本作の魅力は、物語の主軸が、息子の事件への関与の可能性によって、家族各自の「望み」が浮き彫りにされる点にあります。帰宅しない息子と、同級生の殺人事件が交錯し、家族は息子への心配から、それぞれの「望み」を抱くようになります。
これら三者三様の「望み」が一つ屋根の下で交錯する様子が、本作の面白さの一つです。
特に印象的なのは、石田ゆり子さん演じる母・貴代美の姿。彼女は、息子が生きていれば、たとえ殺人犯であっても受け入れる「覚悟」を決めます。
その覚悟を決めた後の、一心不乱に料理を作る姿が非常に印象的です。被害者であれ加害者であれ、救いがないという選択肢に直面した親の立場は、視聴者にも深く考えさせられます。
妹の「お兄ちゃん、犯人じゃないほうがいい。犯人だったら困る」という言葉に現れた複雑な心情も印象的です。
しかし、物語は「被害者か加害者か」という究極の選択に焦点を当てているように見えますが、実際には他の可能性も考えられます。
息子が何らかの理由で監禁されていたり、身を隠している可能性もあるのです。この点については、マスコミや世間の誤った正義感が影響していると考えられます。
サスペンスを期待する視聴者には意外な展開かもしれませんが、本作の魅力は「息子の事件の真相」ではなく、「宙ぶらりんの心理描写」に焦点を当てている点にあります。
このアプローチにより、視聴者は不快な感情を長く抱えることになります。時間軸を追うと、クリスマス前から正月終わりまでの約3週間のストーリーが、現実味を帯びた描写で展開されます。
結果的に、息子は事件の被害者であり、既に亡くなっていました。
息子の死体を前にした家族の「望み」の行方は、深く心に刺さります。この真実により、家族は「被害者家族」としての立場を明確にしますが、視聴者は加害者であった場合を想像し、複雑な感情を抱きます。
最終的に、息子によって救われた家族は、再生への希望を見出しますが、残るもどかしさが、答えのない深い感情を映し出していました。
【ネタバレ考察】自分の都合の良いように信じたい「望み」
(C)2020「望み」製作委員会
ご覧のように、『望み』は、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞したポン・ジュノ監督の映画『パラサイト/半地下の家族』を意識したポスターとなっています。
貧困と格差社会を如実に描いた『パラサイト』と本作は、内容で言えば全然違う話になりますが、「家」という舞台を効果的に使った意味では似通った部分も感じられました。
本作では、ドローンからの空撮から始まり、家の外観、内観を広い画で見せるシーンが印象的に描かれます。
父親は自分の「家」というものを、どこか家族の外見的な象徴として捉えているように映ります。
建築家である父・一登にとって、自らがデザインした「家」は、自分の仕事・家族を養ういわば社会的立場を象徴したものでもあります。
だからこそ、息子が無実であってほしいという彼の「望み」の裏側には、築き上げたキャリアと「家」を失うことへの恐怖が見えるのです。
それらは、マスコミがいる中でも家の周りを掃除をしたりするシーンから効果的に見えてきました。
家族が加害者の疑いをかけれるミステリーでは、その疑いを晴らすために、家族自らが主体的に動いて事実関係を探っていくという軸が多い印象があります。
しかし、実際のところ家族にできることはたかが知れている訳で、本作のように、マスコミに囲われ、身動きが取れない状況になるという方がよっぽどリアルに感じます。
家の中にいるしかない状況で、インターネットの根も葉もない噂やマスコミの不透明な情報をもとにしか判断ができず、不安だけが募っていく。
ラストでは、規士の「望み」が明らかになり、父親の言葉を受けて新たな目標を見つけていたことが明かされます。
「言わなきゃわからないよ」という話なんですが、実際、同じ家で暮らす家族であっても、親は子どもが何をして、どんな友人と遊んで、どれくらいの成績なのかといった、社会性の中でどんな子に育っているかを判断しています。
規士の「望み」も、病院のトレーナーという社会の一員から知る訳で、社会に出るまでの幼少期の子どもの印象が、そのままとは限らないのです。
だからこそ、自分の都合の良いように信じたい「望み」が交錯する姿は、誰もが自分ごととして置き換えられる普遍的なストーリーとして見ることができるのでした。
まとめ:それぞれの「望み」が映る良作ミステリー
今回は、堤幸彦監督の映画『望み』をご紹介しました。
いい意味で、堤幸彦監督らしさがなく、丁寧な心理描写をフラットに見られた一方で、父親が被害者の葬儀に行く流れや写真をスライドショーのように映す演出など、余計に感じる部分もチラホラありました。
全体的には、ミステリーのように誘導しつつ、それぞれの「望み」にしっかりフォーカスしていたのが好印象でした。
そして「望み」というタイトルには、家族それぞれのうちに秘めた「望み」だけではなく、視聴者も当事者目線で何が正しい「望み」なのかを考えずにはいられなくなる効果がありました。
ぜひ、原作・映画ともにチェックしてみてください。
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