今回ご紹介する映画は『アンカット・ダイヤモンド』です。
コメディ俳優としても有名なアダム・サンドラーが主演を務めた犯罪映画。
本記事では、ネタバレありで『アンカット・ダイヤモンド』を観た感想・考察、あらすじを解説。
観ていてイライラする場面もたくさんあり、好みが分かれる作品ですが観て損のない面白い作品です!
『アンカット・ダイヤモンド』作品情報・配信・予告・評価
『アンカット・ダイヤモンド』
5段階評価
ストーリー :
キャラクター:
映像・音楽 :
エンタメ度 :
あらすじ
宝石商のハワードはギャンブル中毒により多額の借金を抱えていた。借金取りの用心棒からも監視されている状況の中、ある日ハワードはエチオピアで採掘されたブラック・オパールを入手する。窮地に立たされたハワードはオパールを使って彼は起死回生の一手を狙う…。
作品情報
タイトル | アンカット・ダイヤモンド |
原題 | Uncut Gems |
監督 | ベニー・サフディ ジョシュ・サフディ |
脚本 | ベニー・サフディ ジョシュ・サフディ ロナルド・ブロンステイン |
出演 | アダム・サンドラー ラキース・スタンフィールド ジュリア・フォックス ケヴィン・ガーネット イディナ・メンゼル エリック・ボゴシアン |
音楽 | ダニエル・ロパティン |
撮影 | ダリウス・コンジ |
編集 | ロナルド・ブロンステイン ベニー・サフディ |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2019年 |
上映時間 | 130分 |
予告編
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配信サイト | 配信状況 |
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おすすめポイント
イラつくけど面白い。
監督:サフディ兄弟&主演:アダム・サンドラーによる、一攫千金を狙う宝石商の姿を描いたドラマ。
宝石と賭け事に人生を捧げる主人公が、大胆かつ危険な賭けに身を投じ、その過程で自身の家族、事業、そして最終的には生命さえも危険に晒す様子はスリル満点。
冒頭から雪崩れ込むように登場人物と情報が入り乱れてストレスが溜まる一方で、いつの間にかキャラクターの魅力にハマって展開が気になってしまいました。
『アンカット・ダイヤモンド』監督
名前 | ジョシュ・サフディ(兄・画像左) ベニー・サフディ(弟・画像右) |
生年月日 | 1984年4月3日(ジョシュ) 1986年2月24日(ベニー) |
出身 | アメリカ・ニューヨーク |
本作の監督を担当したのはジョシュ・サフディとベニー・サフディによる監督ユニット“サフディ兄弟”。
監督作は『トワイライト』シリーズで知られるロバート・パティンソンと、サフディ兄弟の弟ベニーが主演の映画『グッド・タイム』や、東京国際映画祭でグランプリ&最優秀監督賞受賞の映画『神様なんかくそくらえ』などがあります。
『アンカット・ダイヤモンド』キャスト・キャラクター解説・相関図
キャラクター | 役名/キャスト/役柄 |
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ハワード・ラトナー(アダム・サンドラー) ニューヨークで宝石店KMHを経営する宝石商。ギャンブル中毒。 | |
ドマニー(キース・スタンフィールド) ハワードの仕事仲間。 | |
ジュリア(ジュリア・フォックス) ハワードの店の従業員で恋人。 | |
K・G(ケビン・ガーネット) NBA選手。ハワードの店にやってきてブラック・オパールに興味を示す。 | |
ダイナ(イディナ・メンゼル) ハワードの離婚を控えている妻。 | |
アルノ(エリック・ボゴシアン) ハワードの義兄の高利貸し。 | |
フィル(キース・ウィリアムズ・リチャーズ) アルノの用心棒。 |
ネタバレあり
以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ解説】『アンカット・ダイヤモンド』あらすじとラスト
© 2019 Netflix
エチオピアの鉱山とハワードの苦闘
2010年、エチオピアのウェロ鉱山でユダヤ人鉱夫たちが希少なブラックオパールを採掘する。
2012年、ニューヨークで宝石店KMHを経営するハワード・ラトナーは、ギャンブル中毒で、義弟アルノから借りた10万ドルを含む多額の借金に苦しんでいた。彼の家庭生活は、子供たち、離婚を控えた妻ダイナ、そしてKMHの従業員で恋人のジュリアとの間で複雑に絡み合っていた。
オパールとケビン・ガーネット
ハワードの仕事仲間ドマニーは、NBA選手のケビン・ガーネットをKMHに連れてくる。そこで、ハワードが密輸したオパールが届き、ガーネットはこのオパールに強く興味を示す。彼は試合の幸運のためにオパールを持ち続けたいと主張し、ハワードは渋々承諾し、ガーネットのチャンピオンリングを担保に取る。ハワードはリングを質屋に入れ、ガーネットのプレーに賭ける。
トラブルと家族の問題
翌日、ドマニーはオパールを返さず、ハワードは彼とガーネットを追ってフィラデルフィアへ行くが、ドマニーに見捨てられる。その夜、ハワードは娘の学芸会でアルノとその手下に襲われ、アルノが彼の賭けを止めたことを知る。彼は裸にされ、車のトランクに閉じ込められ、妻ダイナに助けを求める。
オパールの行方と家庭の危機
ハワードはオパールを取り戻すため、R&Bシンガーのザ・ウィークエンドのパーティーでデマニーに会うが、ガーネットがまだオパールを持っていることを知る。ジュリアがウィークエンドと一緒にいるのを見て、ハワードは彼女にアパートから出て行くよう要求する。
オパールの売却と新たな賭け
ガーネットはオパールを返し、購入を申し出るが、ハワードは断る。ガーネットが去った後、ドマニーはハワードのオフィスを破壊する。過越祭のディナー後、ダイナはハワードの懇願を拒絶する。オークションでオパールの価値が低いことが判明し、ハワードの計画は失敗。彼はアルノたちに襲われる前にオパールを渡す。
悲劇の結末
ハワードはKMHに戻り、ジュリアと和解する。彼はガーネットの指輪を取り戻すが、大切なニックスの指輪を失う。ガーネットは現金でオパールを購入し、ハワードはジュリアに賭けのための現金を託す。
アルノたちが店に来てハワードを脅す中、ジュリアはカジノへ向かう。ハワードは男たちを閉じ込め、試合を観戦し、勝利するが、解放したフィルによって射殺されてしまう。アルノも射殺され、ジュリアは賞金を持って去っていく。フィルとニコは警察のサイレンが聞こえる中、店を略奪する。
ギャンブル中毒と歪んだアメリカン・ドリームの末路
© 2019 Netflix
『アンカット・ダイヤモンド』は一般的な映画とは一線を画する描き方をしている映画です。映画では、アダム・サンドラー演じる主人公ハワードが、ギャンブル依存症(自分では気づいていない)であることで制御不能なカオスへ向かう様子が描かれます。
恐らく本作を観た人のほとんどが、感情移入もしなければ、カタルシスや満足感もないでしょう。むしろストレスを感じる人も多いと思います。その一方で、アダム・サンドラーの見事な演技もあり、どうしようもなく惹きつけられる魅力がある映画でした。
時代感とアメリカン・ドリームの末路
映画のラストは、ギャンブル中毒のハワードが一世一代の大勝負に勝利した一方で、死んで終わるというなんとも言えないラストシーンになっています。本作のハワードはアメリカン・ドリームを追い求める制御不能な野心を象徴しています。
ハワードは、手にしたブラックオパールを使った大勝負で夢を現実にしようとしますが、これが彼の破滅につながります。彼の死は、無謀な欲望と物質主義の危険性を示し、物質的な成功を求めることが人間関係や道徳を破壊するリスクを浮き彫りにしています。
時代設定となっている2012年のアメリカは、2008年のリーマンショック以後における不安定な社会を反映しています。多くの人々にリスクを冒してでも早く富を築こうとする心理を生み出し、それが歪んだメリカン・ドリームとして描かれています。
映画の冒頭では、ハワードが手に入れたオパールがエチオピアの貧しい鉱山労働者によって採掘され、それがハワードの体内と繋がる映像となっています。デヴィッド・フィンチャー監督の『ファイト・クラブ』を彷彿とさせるオープニングシーンである一方で、社会的・経済的不平等の問題への言及にもなっていました。
オープニングシーン・ラストシーンの意味
一方、ラストシーンでは、ハワードが撃たれた傷跡にクローズアップし、それが宇宙や星々へと広がっていく描写となっていました。これは冒頭のシーンと繋がるような表現となっています。
これらはハワードの野心と末路を象徴しています。オープニングシーンでは、人間の飽くなき欲望が持つ無限の可能性を表している一方で、ラストシーンでは、ハワードが致命傷となる傷口にズームインすることで、飽くなき欲望のために払うことになった代償を描いています。
より広い意味では、一人ひとりが「原石」のように可能性に満ちた存在である一方で、物質的な豊かさを追い求めすぎた人間たちが破滅へと繋がる危険性を強調しています。
オープニングシーンとラストシーンが繋がるようになるのは、とりわけ資本主義社会において人間たちが繰り返し、同じ自己破壊的なサイクルを辿っていることを示唆しています。
『アンカット・ダイヤモンド』のタイトルの意味
© 2019 Netflix
邦題は『アンカット・ダイヤモンド』ですが、原題は『Uncut Gems』つまり「カットされていない宝石=原石」を意味しています。これは表面的な意味では、映画で登場するブラックオパールを表しています(邦題のダイヤモンドではない)。
「ダイヤの原石」という言葉もあるように、原石とは、宝石としての価値を持っていながら、まだ磨き上げられていない状態の宝石を表しています。
これは主人公ハワードにも当てはまります。彼は欠点だらけで問題が山積みです。しかしながら、彼の執着と嗅覚は成功する可能性を秘めた原石そのものです。実際に、映画の最後で彼は大勝負に勝ちますが、殺されてしまいました。
原石は、その潜在的な価値を持つ一方で、それを正しく加工しなければ価値をもたらしません。これは人間へのメタファーと受け取れます。人々にはあらゆる可能性が秘めている一方で、欲に目がくらみ、誤った選択をすると取り返しのつかない代償を払うことになるのです。
ハワードの儚き人生を通して、人間の野心の広大な可能性と、それを正しく磨き上げられるかどうかを目の当たりにする映画でした。
まとめ:まさに原石のような映画
今回は、サフディ兄弟、アダム・サンドラー主演の『アンカット・ダイヤモンド』をご紹介しました。
クセが強くて観ていてストレスが溜まる映画ですが、アダム・サンドラーの見事な演技と得も言われぬ魅力に虜になる作品で、まさに本作が「Uncut Gems(原石)」のひとつと言えるような映画でした。