今回は、劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影』をご紹介します。
青山剛昌による『週刊少年サンデー』連載中の大人気コミック『名探偵コナン』の映画版。劇場版シリーズとしては26作品目となります。
本記事では、劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影』をネタバレあり解説・感想・考察していきます。
八丈島を舞台に、「黒の組織」と灰原哀の過去をめぐるストーリー。
映画で黒の組織を描くバランスと、エンタメ映画として最高に楽しい一本となっていました!
映画は、テレビシリーズ「漆黒の特急」に灰原哀の過去と新規映像を加え再編集した特別編集版「名探偵コナン 灰原哀物語~黒鉄のミステリートレイン~」を観ておくと理解しやすい内容になっています。
灰原の過去を振り返ろう!
劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影』の作品情報とあらすじ
劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』
ストーリー | |
感動 | |
面白さ | |
テーマ性 | |
総合評価 |
あらすじ
東京・八丈島近海に建設された世界中の防犯カメラをつなぐ海洋施設「パシフィック・ブイ」。ホエールウォッチングに来ていたコナンは、沖矢昴(赤井秀一)から連絡を受け、黒の組織との関連を感じて施設に潜入する。そこで女性エンジニアの誘拐事件が起こり、灰原の元に黒の組織の影が忍び寄る…。
作品情報
タイトル | 劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』 |
監督 | 立川譲 |
脚本 | 櫻井武晴 |
出演 | 高山みなみ(江戸川コナン) 山崎和佳奈(毛利蘭) 小山力也(毛利小五郎) 林原めぐみ(灰原哀) 堀之紀(ジン) 立木文彦(ウォッカ) 小山茉美(ベルモット) 古谷徹(安室透/バーボン) 池田秀一(赤井秀一) 沢村一樹(牧野洋輔) 緒方賢一(阿笠博士) 岩居由希子(吉田歩美) 高木渉(小嶋元太) 大谷育江(円谷光彦) |
製作国 | 日本 |
製作年 | 2023年 |
上映時間 | 109分 |
予告編
↓クリックでYouTube が開きます↓
ネタバレあり
以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ解説】『黒鉄の潜水艦』あらすじ
ドイツ・フランクフルト
ドイツ・フランクフルトの、ある夜。黒の組織のキールが、1人の女性を追跡していた。彼女はユーロポール防犯ネットワークセンター職員のニーナ。
ニーナはFBIのジョディ・スターリングに、「センターに侵入した犯人の仲間に追われている」と連絡。追い詰めたキールは銃口を向けながらもニーナを逃がそうとする。しかし、背後からやってきたジンの放った弾丸がニーナに命中する。
ベルモットとバーボン
都内某所。白のRX-7(安室透の愛車)の車内にはベルモットとバーボン(安室透)の姿があった。ベルモットは、計画が順調であること、残すは「ある人物を例のシステムを使って探すだけ」と話していた。
八丈島へ
コナンら少年探偵団は、米花デパートで開催している福引きに参加していた。お目当ては1等のホエールウォッチング。一方、灰原は、フサエブランド※の限定ブローチを狙って整理券の最後の1枚を手にするが、後に続く年配の女性に譲ってあげることにする。
福引きは全員ハズレてしまうも、灰原の気遣いを見ていた園子の取り計らいで、コナンらは鈴木財閥が所有するハ丈島のリゾートホテルに招待される。
※「フサエブランド」は阿笠博士の初恋の相手フサエ・キャンベル・木之下が立ち上げたイチョウ柄のブランド。灰原はブランドのファンでもあり、彼女がアメリカで生活していた頃の差別の経験と灰原の過去がリンクします。(40巻「イチョウ色の初恋」事件より、アニメは#421)
パシフィック・ブイ
八丈島のホテルに向かう車中、コナンはハ丈島近海にインターポールの海洋施設「パシフィック・ブイ」が建設されたニュースを見る。それは世界中の警察が持つ防犯カメラを監視できる世界初の施設であり、責任者の牧野洋輔とシステム開発者の直美・アルジェントが説明していた。
ホテルに到着すると、コナンに沖矢昴(=赤井秀一)から電話が入り、ユーロポール防犯ネットワークセンターに侵入したのは、黒の組織No.2のラムの側近であるコードネーム・ピンガで、目撃者の職員(ニーナ)はジンに暗殺されたという。
さらに「パシフィック・ブイ」は、ユーロボールネットワークセンターと回線を繋いで本格始動するという話を聞く。コナンは嫌な予感を感じていた…。
老若認証
コナンらはホエールウォッチングをするために港に来ていた。近くで警視庁の黒田兵衛(捜査一課の管理官)と白鳥警部が乗った船が出発しようとしていることに気づいたコナンは、コッソリと乗り込む。船は「パシフィック・ブイ」に到着し、仕方なく同行を許されたコナンは、黒田らとメインルームへと案内され、システムを運営するメンバーを紹介される。
名前 | 役割 |
---|---|
牧野洋輔 | 「パシフィック・ブイ」責任者 |
直美・アルジェント | システムエンジニア(イタリアと日本のハーフ) |
グレース | システムエンジニア(フランス) |
レオンハルト | システムエンジニア(ドイツ) |
エド | システムエンジニア(インド) |
「パシフィック・ブイ」のシステムは、海中にある膨大なサーバーをもとに、直美が開発した「老若認証(ろうにゃくにんしょう)※」とAIの顔認証による解析で、防犯カメラの情報を元に、あらゆる場所で犯罪者を追跡できるというもの。
「老若認証」は、過去の写真から現在の顔をCGで作成する技術。直美が開発。
灰原の正体が…
その後、休憩に出た直美が帰ってこず、動向を調べると、2人組の清掃員に拉致され、海中へ逃亡したことが判明する。施設から海中へ脱出するポットを開ける権限を持ち、共犯の可能性があるのは牧野とエンジニアの3人だけだった。
コナンらは気づいていないが、その清掃員はベルモットとバーボン(安室透)であり、すでに2人はウォッカとキールと合流していた。黒の組織が直美を誘拐したのは、「パシフィック・ブイ」のシステムを通して組織の人間の姿や犯罪の様子を帳消しにする目的があった。
ベルモットらは、直美が身につけていたネックレス型のUSBを発見し、中身を調べると、そこには「老若認証」にかけられた灰原の姿があった。
ミステリートレイン「ベルツリー急行」※にて爆死したはずのシェリー(灰原のコードネーム)が、子どもの姿となって生きている可能性があると知ったウォッカ・ベルモット(本当は既知)・バーボン・キールの4人。
ウォッカはその旨をジンに伝える。ジンは直接確認すると言い、システムを利用して灰原を見つけ、拉致するように命じるのだった。しかし、「計画にない行動はすべきでない」と、他の3人は乗らない。
単行本78巻「漆黒の特急[ミステリートレイン]」事件より。
灰原の拉致
コナンはホテルに戻り、阿笠博士に黒の組織の関与を報告すると、隠れて灰原もそれを聞いていた。コナンは灰原に、少年探偵団らと明日になったら帰るように伝え、念の為のお守りとして追跡メガネ(第1号)を掛けて渡す※。
単行本24巻「黒の組織との再会」事件で、コナンが「かけると正体がバレない」と灰原を勇気づけたシーンのオマージュとなっています。
しかしその夜、黒の組織の気配を感じた灰原が部屋を出ようとしたところ、待ち受けていたウォッカとピンガに連れ去られてしまう。それに気づいたコナンと蘭が止めようと奮闘し、蘭はピンガの首に蹴りを食らわせる。蘭はスナイパーのキャンティに狙われるも、コナンが間一髪で助ける。
その後、コナンは阿笠博士と共に、灰原を乗せたウォッカとピンガの車を追跡して追い詰める。しかし、灰原を乗せた車は崖から海中と飛び出していく。コナンも海に飛び込み必死に追いかけるが、海中から組織の巨大な潜水艦が現れ、灰原を連れ去っていく。
灰原の拉致を防げなかったコナンは、博士と共に悔しさを滲ませ、「ぜってぇ助けに行く」と胸に誓う。
潜水艦内の灰原と直美
灰原は潜水艦内で直美と共に監禁されていた。直美は灰原の姿にかつて面識があった宮野志保(灰原の本名)の面影を感じるが、灰原は警戒心を強くする。
そんな中、灰原が組織を「彼等」と表現することがシェリーと同じだと、ウォッカは灰原=シェリーの可能性の高さを確信し始めていた。
直美はかつてアメリカ生活時代に人種差別を受け、それを助けてもらった宮野志保への思い、人種や年代による差別をなくすために「老若認証」を開発した経緯を灰原に打ち明ける。
その後、組織は直美の父親であり、EU議会議員のマリオ・アルジェントをモニターに映し出し、協力しなければ父親を殺すと、スナイパーのコルンが今まさに狙撃しようとする瞬間を見せて脅しかける。
FBIは逆探知によりマリオの居場所を突き止め、ジョディらがコルンの元へ向かう。しかし、協力を拒否する直美に対し、組織は容赦なく父親マリオを狙撃してしまう。
直美は自分のせいで父を殺し、灰原にも危険が及んでいると嘆く。しかし、灰原は直美を勇気づけ、一緒に潜水艦から脱出しようと動き出す。その様子をキールは密かに聞いていた。
レオンハルトの死
灰原が拉致された翌日、安室透から連絡を受けたコナンは、ジンが潜水艦に合流すると聞き、潜水艦が浮上するタイミングで助ける計画を立てる。潜水艦が浮上したことで、コナンは探偵団バッチを通して灰原と連絡が取ることができていた。
コナンは防犯ネットワークで灰原の拉致犯や、博士と共に追跡した様子を確認するが、警察管理の防犯カメラに映っているはずの映像が映っていなかった。そこでコナンは、犯人の逃走ルートをマップで示し、別の防犯カメラから追跡するようにエンジニアたちに協力を仰ぐ。
エンジニアのレオンハルトは、何かに気づき、ある人物の部屋へ訪れる。しかし、その人物こそ黒の組織の共犯者であり、レオンハルトは殺されてしまうのだった。
その後、コナンらはレオンハルトが共犯者であることを自白する手紙を残していることに気づく。カメラで現在位置を追うと、皆が見ている防犯カメラの前でレオンハルトが服毒自殺するのだった。遺体に駆けつけたコナンは、微かにシンナーのような匂いがあることを妙に感じていた。
レオンハルトは自殺と見られてしまうが、ジンの到着により潜水艦が浮上する時間が迫り、コナンは灰原救出へと向かう。
灰原の帰還
その後、ジンが潜水艦に到着する。キールに仕掛けた盗聴器を通して海中へと脱出する方法を知った灰原は、直美と共に潜水艦から海中へ脱出しようとしていた。
潜水艦と海中へ通じる前室から出ようとする灰原と直美だったが、やってきたジンが空気圧縮レバーを引き、殺そうとする。しかし、キールが必死に説得したおかげで時間を稼ぎ、2人は海中へ脱出することができた。
そこへ博士の電動モーターを使って助けにやってきたコナンが灰原と直美を救出する。その後、コナンはレオンハルト殺害の犯人であり、黒の組織ピンガの正体を突き止めるべく「パシフィック・ブイ」へ戻っていく。
眠りの小五郎推理ショー
コナンは小五郎を麻酔銃で眠らせ、メインルームで推理を展開する。
正体を暴かれたグレースは、変装を解いてピンガとなり、周りを振り切って逃げ出す。コナンは後を追い、追い詰める。
ピンガはコナンが工藤新一であることを「老若認証」を使って突き止めており、そのネタでジンよりも組織で上の立場に成り上がろうとしていた。驚きを隠せないコナンだったが、ジンを引き合いに出し、ピンガを煽って引き留めようとする。しかし、コナンの制止を振り切り、ピンガは海中へと逃げ出していく。
組織の裏の目的
今回の事件において、黒の組織No.2のラムは、裏の目的として、ボスである「あの方(烏丸蓮耶)」の居場所を突き止めようとしていた。(ラムは長い間会っていないと言葉にしています)
一方、作戦に参加していたベルモットは、単独で個別にボスからの指示を受けるやりとりをしていた。ベルモットは世界中で自らシェリーの姿に変装して「老若認証」のテストに引っかかり、システムの脆弱性を報告していたのだった。
その報告を受けたボスは、ベルモットに「〜をつぶせ」というメールの指示を送っていた。
ベルモットがやり取りしていたボスとのメール(七つの子メロディ「♯969♯6261」)、派手なネイル(ラストの伏線でもある)で隠れていましたが「〜をつぶせ」は「パシフィック・ブイ(老若認証)をつぶせ」ということになりますね。
そしてベルモットからの報告を受けたジンは「老若認証」を「クソシステム」と失望し、魚雷による「パシフィック・ブイ」の破壊を命じる。
バーボンとライ
コナンは公安警察の降谷零(=安室透=バーボン)とFBIの赤井秀一(=沖矢昴=ライ)と連絡をとり、2人に協力を仰ぐ。
組織は潜水艦から魚雷を放つ。「パシフィック・ブイ」側は、一度はデコイ(誘導しておとりとなる的)を使って防ぐも、ベルモットがシステムを遠隔操作してデコイを封じてしまう。成す術をなくした責任者の牧野は「パシフィック・ブイ」からの全員退避を指示する。
一方、コナンは潜水艦の位置を探るために海中に入る。阿笠博士の発明品「花火ボール射出ベルト※」を使い、海中から潜水艦の位置をヘリで上空にやってきた赤井に知らせる。赤井は上空からロケットランチャーを潜水艦目掛けて発射するのだった。
「花火ボール射出ベルト」は劇場版限定のアイテム。第18作の『異次元の狙撃手』にて初登場してから、頻繁に登場しています。かなりのチートアイテムです。笑
コナンと灰原
爆発の衝撃により、海中にいたコナンは意識を失ってしまう。そこへ、灰原が助けにやってくるのだった。灰原は海中でコナンに人工呼吸し、目覚めさせ、2人はなんとか岸までたどり着く。
一方その頃、「パシフィック・ブイ」を脱出していたピンガは潜水艦へ乗り込もうとする。しかし、ジンたちは赤井の攻撃で損傷を受けた潜水艦からすでに退避していた。ジンは証拠隠滅のため、残した潜水艦を爆破し、それに巻き込まれたピンガは死亡する。
潜水艦爆発の衝撃により、岸にいる灰原に津波が押し寄せるが、コナンが「キック力増強シューズ」によってなんとか相殺する。しかし、灰原は減圧症にかかったのか、意識がない様子だった。
コナンは人工呼吸しようとするが、灰原はそれを制止し、駆け寄ってきた蘭にキスをする。コナンと蘭は混乱していたが、灰原は「唇は返したわ」と胸の内を語っていた。
エンドロール/ポストクレジット
事件が収束し、コナンらはコルンに狙撃された直美の父親マリオ・アルジェントが一命を取り留めて意識を回復したことをニュースで知る。
直美は防犯ネットワークセンターの別の支部での仕事が決まり、空港で灰原と会話する。直美は宮野志保に対する過去の感謝、そして監禁中にかけた灰原の言葉への感謝を伝えて別れを告げる。
コナンはベルモットが変装によって「老若認証」の脆弱性を示し、組織が興味を失ったことを安室透から聞く。しかし、コナンは、ベルモットが灰原(シェリー)をかばう行動をしている理由が理解できずにいた。
ベルモットは、米花デパートの福引で灰原と接触した老婆に変装しており、「その謎を解くのが探偵の役目」だとつぶやき、イチョウのブローチを手にした様子を見せて幕を閉じる。
【ネタバレ感想・考察】コナン&灰原哀の最高なバディムービー!
最高に面白かった…!
近年の作品の中でも特に面白い一本でした。
黒の組織との対決を全面的に描いているので、誰もが楽しめる作品というよりは、原作やアニメを知っているファン寄りの立ち位置になっています。また、内容としても大人向け。一方で、推理サスペンスは薄く、黒の組織とのアクションに大きく振っています。
映画で新しく登場するものは、最終的に必ずと言っていいくらいに破壊されることで有名なコナン映画ですが、お約束とも言える大規模アクションが今回も健在でした。
黒の組織との戦いを描く多くの場合、事件の背景に関与し、それがストーリーの後半で描かれますが、今回は最初からガッツリと黒の組織との戦いを描き、緊張感のあるテンポ良いアクションが見られました。
コナンがホエールウォッチングをせずに「パシフィック・ブイ」へ向かう様子は、まるで事件が「2回目」のような判断の早さなんですよね。展開が早くて面白かった!
印象的なのは、多くのキャラクターのカッコよさが際立ち、魅力的に描かれていたこと。そのための状況づくりも見事でした。
黒の組織との戦いを描く危険もあり、少年探偵団らを早々に退場させ、灰原に関連する人物にフォーカスして描く語り口が素晴らしい。阿笠博士は過去最高にカッコよかったです。
前半で、灰原を黒の組織に誘拐され、防げなかった悔しさをあらわにするコナンと博士の姿はとてもエモーショナルです。(水滴がコナンの涙のようにも見える…!)灰原が誘拐された焦りから、佐藤刑事に強く当たったり、安直に探偵バッチで連絡を取ろうとするなど、冷静でいられなくなるほど灰原を心配するコナンの姿が印象的。
本作はこういった細かい描写の上手さが、キャラクターの奥行きを感じさせる魅力のひとつになっていました。
女性キャラクターの魅力
『黒鉄の魚影』は、灰原哀を始めとした女性キャラクターたちの魅力が凝縮されたような物語でした。そこには、ただコナンらに「守られるだけ」の関係性を越えた信頼関係の構築がありました。
灰原が拉致される前半シーン。組織の気配を感じて焦りながらも歩美の乱れた布団を掛け直す灰原の姿、連れ去られる灰原を、コナンよりも先に飛び出して止める蘭の姿など、細かい描写が本当に素晴らしいんですよね。
アメリカで生活した経験や両親のルーツなど、共通点のある直美と灰原の関係性も印象的。そしてその話を聞いていたキール※も同様。黒の組織によって家族が被害を受けた3人の過去がリンクするのです。
キール(=水無怜奈=本堂瑛海)の父親との過去は単行本58巻で確認できます。アニメは「赤と黒のクラッシュ」より。
組織に父親を襲撃され、灰原に対しても「子どもに何ができるんだ」と嘆く直美でしたが、灰原は直美に、「子どもの言葉や行動で人生が変わることもある」と勇気づけます。そして直美は、その言葉が「老若認証」開発の理念に通じることだと理解するのです。
直美と灰原の心の交流、そして陰ながらサポートするキールの様子が最高でした…!
そして灰原のその言葉の背景には、これまでのコナンと築いた信頼関係の礎があったのでした。
コナンと灰原の信頼関係
本作では、灰原やコナンの正体が黒の組織にバレたかもしれないという、原作においても根幹を揺るがす問題と対峙します。灰原は自分の正体がバレたことで、コナンや博士らと一緒にいられなくなることを悟ります。
この描写は、原作における灰原と黒の組織の因縁で繰り返し描かれてきました。
単行本24巻「黒の組織との再会」事件において、ジンに追い詰められ、立ち去ろうとする灰原に対し、コナンは「大丈夫だ」と言います。
単行本29巻「謎めいた乗客」事件では、自ら死ぬことでコナンらの組織との関与を消そうとする灰原に対し、コナンは「自分の運命から逃げるんじゃねーぞ」と言いました。
コナンはいつだって灰原を見捨てることはせず、黒の組織と共に戦うことを示すのです。それは本作で訪れる重大なピンチを前にしても同じでした。
しかし、灰原は決して守られるだけの存在ではなかったのです。コナンとの出会いを通して、黒の組織に一人で立ち向かうのではなく、共に戦うこと。そして彼女自身の心境の変化でもありました。
灰原は海中で意識を失うコナンを助けに向かい、そして今度は灰原自身が他人の人生を変える言葉を伝えるのです。
そこには原作で積み重ねてきたコナンとの信頼関係の上にある友情が描かれ、本作がコナンと灰原のバディムービーであることを強く感じさせます。
そして極めつけのシーンがラストにありました。
あなた一体、何者なの…?
コナン「江戸川コナン、」
灰原「探偵よ」
コナンを代表する名台詞の半分を灰原が担う意味。そこに本作の醍醐味が凝縮されていたように感じました。
加えて、灰原の内に秘めた感情をサラリと描くバランスも上手いところでした。
内面を描く上手さが際立つ
“新蘭派(新一と蘭)”、“コ哀派(コナンと灰原)”というようなキャラクターの恋愛模様の楽しみ方もあるコナン。ラストの人工呼吸の描写は、なにかと話題になっていました。
コナン、蘭は気付いていない一方で、「キスをしてしまった」と意識する灰原でしたが、蘭にキスをすることで「唇を返す」という灰原らしさを感じる描写。
正直、コナンのファンでなければ「なんだこりゃ」という独特の空気感なのですが、こちらは劇場版2作目の『14番目の標的(ターゲット)』におけるコナンと蘭のオマージュにもなっています。
一方で、拉致された灰原が助かり、強く抱きしめる蘭の姿や、そこに姉・宮野明美を重ねる灰原の様子など、本作は原作で歩んできた信頼関係を描く様子がやっぱり上手いんですよね。佐藤刑事に感情的になったコナンが、最後に謝罪する様子を描くところも、「信頼」を描く誠実さが伝わります。
映画で黒の組織を描くバランス感や、細かいキャラクターの背景描写、ファンを盛り上げる演出の上手さなど、立川譲監督の作品への思いの強さを感じる一本でした。
2023年公開の『BLUE GIANT』といい、『黒鉄の魚影』といい、立川監督すごすぎる…!
余談ですが、阿笠博士と仲良くなった漁船の丑尾寛治(cv沢木郁也さん)というキャラクター、怪しさMAXでしたが完全に普通の人でした。疑ってすみませんでした!
黒の組織のフルコース
コナンはいろんな楽しみ方ができる作品(ミステリー/恋愛/アクションなど)だと思っているのですが、コナンにおける柱とも言える面白さは、やっぱり「黒の組織との対決」だと改めて感じました。
今作では黒の組織のフルコースと言えるほど、まさに“黒ずくめ”な作品になっていました。
今回の陰の立役者とも言えるのはキールでしたね。灰原が仕掛けた盗聴器に気付き、あえて逃げ道を教えたり、縄を解けるようにしたり、探偵バッチを回収しなかったり、ジンを止めたり、彼女がいなければ灰原は大変なことになっていました。
キールの活躍が描かれて嬉しく感じる人も多いと思います!
一方、ジンはウォッカに甘いです。“すぐ消すマン”として知られるジンですが、捕らえていた灰原と直美が逃亡したにもかかわらず、「どういうことだ?」で終わる一方で、レバーを止めるキールには「ネズミじゃねぇだろうなぁ!」とキレていましたね。そしてピンガをシカトするラスト。ある意味ジンらしい。
ウォッカはヨイショするジンの舎弟のイメージが強いですが、今回は灰原を追い詰める意味で大活躍していたように思います。一方でキールに魚雷のトリセツを話すくだりはコントのようで笑えました。
また、潜水艦内に黒の組織の手下?らしき工作員がいたのは面白いポイント。彼らの立ち位置は何なんでしょうね。まぁアレだけデカい潜水艦なら数人で回すのは無理か…。
そして、映画初登場であり、コナン=新一を突き止めるまで行ったコーンロウの髪型のピンガ。死亡フラグ立ちまくりで見事に死んだピンガでしたが、本編に出てきてほしいと思えるくらいに魅力のあるキャラクターでした。
ピンガの声優を演じた村瀬歩さんが最高。役の通りピンガとグレース、エンドロールでどちらも吹き替えていたことを知って驚愕でした。
死に際はジンの既読スルーからの爆死という、ちょっと可愛そうとすら思える最期。松田陣平の殉職シーンを彷彿とさせて真っ白に散っていました。
ベルモットはなぜ隠蔽したのか
黒の組織でも重要人物であり、謎の多いベルモットですが、今回もいい意味で振り回してくれました。
ベルモットは灰原がシェリーであること、加えてコナン=新一であることも知っています。何度もシェリーを殺そうとしていたベルモットが、最終的には灰原の正体を隠す行動を取ったのです。言ってみれば、一時的に見方についたとも思えます。
ベルモットは「ベルツリー急行」(78巻)にてシェリー殺害を企て、ジンらに抹殺成功を報告するも、結果的に失敗しています。ジンは「ベルツリー急行」にて、シェリー暗殺の名目を使い、秘密主義で疑わしく思っていたベルモットやバーボンもろとも、保険として爆殺する予定でした。
つまり、ベルモットは自身の命にも関わるので、シェリーの暗殺失敗をジンや組織に知られるわけにはいかなかったのです。加えて、その裏にはベルモットと「あの方」とのただならぬ関係性が浮かび上がります。
これはベルモットと「あの方(烏丸蓮耶)」が、シェリーの開発したAPTX(アポトキシン)4869、つまり若返りに関与しているからと思われます。さらに、コナン=新一であることが明らかになるのは、ベルモットにとっても得策でないと感じたのでしょう。
単行本42巻巻「黒の組織と真っ向勝負 満月の夜の二元ミステリー」にてコナンがベルモットから"銀の弾丸(シルバー・ブレット)"と呼ばれる意味などが理解できます。
「あの方」の若返りは濃厚…!一体誰なんでしょうね…!
黒の組織内でのパワーバランスや立場のせめぎ合い、映画でできる範囲の黒の組織の描き方は、見事としかいえない脚本だったと感じました。
まとめ:『黒鉄の魚影』はコナンらの「信頼関係」を描いた傑作
今回は、劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影』をご紹介しました。
劇場版26作品目となりますが、近年の公開作品の中でも特に面白い傑作となっていました。
ミステリー要素を求める人にとっては薄味かも知れませんが、一方で映画おなじみの大規模アクションの濃さは濃密。劇場版でできる本筋への絡ませ方が絶妙で、キャラクターの魅力が光る一本となっていました。
原作も100巻を超えてますます気になる展開を見せていくところ。ぜひ、劇場で公開中に観に行くことをおすすめします!