今回ご紹介する映画は『レディ・マクベス』です。
ウィリアム・オルドロイド監督による作品で、いま大注目となっている女優フローレンス・ピューが初主演を務めた映画でもあります。
「フローレンス・ピューの原点を見た」
この映画で一人の女優の才能の開花を目の当たりにすることになりました。
映画『レディ・マクベス』の作品情報とあらすじ
作品情報
原題 | Lady Macbeth |
---|---|
監督 | ウィリアム・オルドロイド |
脚本 | アリス・バーチ |
出演 | フローレンス・ピュー クリストファー・フェアバンク |
製作国 | イギリス |
製作年 | 2016年 |
上映時間 | 89分 |
おすすめ度 | (3.5点/5点) |
あらすじ
19世紀後半のイギリス。
17歳のキャサリンは裕福な商家に嫁ぐが、年の離れた夫は彼女に興味がなく、体の関係を持たない。
夫の父からは外出を禁じられ、人里離れた屋敷で退屈な日々を過ごしていた。
ある日、キャサリンは夫の留守中に若い使用人セバスチャンに誘惑され、不倫関係をもつと、欲望を抑えきれなくなった彼女は、驚くべき行動に出る…。
『レディ・マクベス』のスタッフ
ウィリアム・オルドロイド監督
出典:https://historica-kyoto.com/2017/films/world/lady-macbeth/
『レディ・マクベス』を手がけたのは、舞台演出家としても活躍しているイギリス出身のウィリアム・オルドロイド監督。
これまで、短編映画を国際映画祭で評価されてきた監督は、本作が初の長編作品となっています。
『レディ・マクベス』のキャスト
キャスト | 役名・役柄 |
フローレンス・ピュー | キャサリン |
コズモ・ジャーヴィス | セバスチャン(使用人) |
ポール・ヒルトン | アレキサンダー(キャサリンの夫・商人) |
ナオミ・アッキー | アナ(家政婦) |
クリストファー・フェアバンク | ボリス(アレクサンダーの父) |
フローレンス・ピュー
出典:https://www.imdb.com/
主演を務めるのは、フローレンス・ピュー。
A24製作のアリ・アスター監督作『ミッドサマー』にて大ブレイクを果たし、『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』ではアカデミー賞助演女優賞にノミネートされるなど、飛ぶ鳥を落とす勢いの彼女。
次々と気鋭の監督たちが彼女にオファーするようになった、原点と言われているのが本作。
- 『ミッドサマー』
- 『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』
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※以下、映画のネタバレに触れていますのでご注意してください。
【ネタバレ感想】“静”のフローレンス・ピュー
出典:https://www.imdb.com/
『ミッドサマー』のフローレンス・ピューが“動”だとすると、『レディ・マクベス』は“静”と言えます。
というのも、全体的に台詞も少なく、劇中の音楽ですらほとんどなく淡々と描かれるのです。
絵画のような前半
全体の構成としては、相手にもされず、ただ漫然と閉じ込められた姿を描く前半と、使用人との不倫をきっかけに抑圧されていたものが解き放たれていく後半となっています。
この前半の抑圧されている描写が非常にゆったりと描かれることで、環境は良くてもどこか居心地が悪い感情を抱かせます。
不自由なく暮らしているけど、ただ朝起きて夜寝るだけの日々。裸にさせるけど触れることもなく自慰で済ませる夫。
義父からは家から出るなと言われ、ただただ一日が終わっていく。
こんな生活だったら自分の存在理由が分からなくなりますよね。
この前半の様子は、固定されたカメラの位置で非常に淡々と描かれていきます。
映画というよりは絵画のように額縁で縁取った様子を見ているかのような映像が続くのです(音も生活音のみ)。
解き放たれていく欲望
自分を抑圧する2人が家を外している間に使用人のセバスチャンと出会います。
彼が同じ使用人の女性・アンナに乱暴にしているところを辞めさせるものの、どこか彼が気になってしまう。
そしてセバスチャンがキャサリンの部屋に忍び込み、襲ってくると、抵抗しようとしていたはずが、いつの間にか自分から刺激を求めるようになってしまいます。
帰ってきた義父を毒キノコスープで殺し、帰ってきた夫と馬を殺し、さらに後見人としてやってきた夫の愛人の子どもまで手にかけてしまう。
固定されたカメラワークからも開放されて、動きのある映像となり、彼女の変化を映しています。
表情の変化
出典:https://www.imdb.com/
セバスチャンからもその異常さを理由に距離を取られてしまい、挙げ句には殺しをバラされてしまいます。
しかし、キャサリンは逆にセバスチャンと使用人アンナに罪をなすりつけることで生き延びることになります。
そして誰もいなくなった屋敷に1人残るラストの彼女の表情はかなり印象的です。
フローレンス・ピューの表情の変化は見ていて面白く、冒頭の嫁いだ際の不安げな表情、不倫が始まってからの和らいだ表情、そしてラストのソファの前で佇むなんとも言えない表情どれも印象的。
ラストの表情は無表情にも見えますが、どこか開放感すら感じ、『ミッドサマー』のラストにも似た感覚を覚えます。
抑圧された環境での前半の生気のない抜け殻のような生活だったのが、解き放たれてからは生きるための選択をしていくのも面白い。
キャサリンはセバスチャンへの愛を求めてたのではなく、自分の本能的な生を求めていたのだと分かります。
【ネタバレ考察】 原作との違い
出典:https://www.imdb.com/
本作はロシアの作家ニコライ・レスコフの小説『ムツェンスク郡のマクベス夫人』に基づいた作品となっています。
原作ではラストが微妙に違っていましたのでその辺りを考察していきます。
原作のラスト
原作では、義父・夫を殺したあと、使用人と結婚することになりますが、そこへ死体を発見したと知らせを受けた警察がやってきて捕まってしまいます。
シベリアへ流刑される囚人となってしまった2人。使用人からは「お前のせいで人生台無しだ」と言われてしまいます。
さらに、彼は他の女性の囚人を口説きはじめて関係をもってしまいます。
それに絶望した主人公は、その女囚を自分もろとも川の急流に突き落とし、2人とも死んでしまうのでした。
原作の現代的なアレンジ
原作でキャサリンにあたる人物はセバスチャンへの思いをもとに嫉妬心が逆上し、死んでしまいますが、映画ではキャサリンは裏切るセバスチャンを切り捨てていたのが印象的ですね。
原作ではセバスチャン(原作の名前はセルゲイ)への愛が憎悪へと変わり、その対象はセバスチャン本人ではなく相手に向けられました。
それが映画ではセバスチャンをあっさり切り捨てていて、自らの生きる道を選んでいます。
『レディ・マクベス』は家父長制のもとである意味“所有”されていたキャサリンという女性が、自ら生きる道を見つける物語でもあります。
いい意味で現代的にアレンジされていて、誰かの“所有”として抑圧されたキャサリンというう1人の人物の“解放”が感じられるラストになっていたと考えます。
その微妙なニュアンスを表情で説得していたフローレンス・ピューはやはり才能に溢れていますね。
【まとめ】フローレンス・ピューの才能を観た
以上、『レディ・マクベス』をご紹介しました。
フローレンス・ピューの原点と言われるだけあって彼女の魅力が溢れていた作品でした。
本作は静と動の映像、極力抑えた「音」とある場面で効果的に使うことで、劇場で見る価値が十分にありました。
今後も目が離せないフローレンス・ピューの才能の開花を目の当たりにした一本です。
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