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ソルトバーン

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スリラー

【ネタバレ解説】『ソルトバーン』ネタバレ感想・考察|ラストの意味やギリシャ神話の引用

今回ご紹介する映画は『ソルトバーン』です。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』のエメラルド・フェネル監督、『聖なる鹿殺し』のバリー・コーガン主演によるドラマ。

本記事では、ネタバレありで『ソルトバーン』を観た感想・考察、あらすじを解説。

まめもやし
まめもやし

気持ち悪い生々しいシーンがある一方で、物語のひねりやラストも印象的な良作でした!

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『ソルトバーン』作品情報・配信・予告・評価

『ソルトバーン』

ソルトバーン

5段階評価

ストーリー :
キャラクター:
映像・音楽 :
エンタメ度 :

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あらすじ

オックスフォード大学に入学したオリヴァーは大学生活になじめないでいた。そんな彼が、貴族階級の魅力的な学生フェリックスの世界に引き込まれていく。そしてフィリックスに招かれ、彼の風変わりな家族が住む大邸宅ソルトバーンで生涯忘れることのできない夏が始まった。

予告編

↓クリックでYouTube が開きます↓

作品情報

タイトルソルトバーン
原題Saltburn
監督エメラルド・フェネル
脚本エメラルド・フェネル
出演バリー・コーガン
ジェイコブ・エロルディ
ロザムンド・パイク
リチャード・E・グラント
アリソン・オリバー
アーチー・マデクウィ
キャリー・マリガン
音楽アンソニー・ウィリス
撮影リヌス・サンドグレン
編集ビクトリア・ボイデル
製作国イギリス・アメリカ
製作年2023年
上映時間131分

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『ソルトバーン』監督・スタッフ

エメラルド・フェネル
Mark Jones, CC BY 2.0

名前エメラルド・フェネル
生年月日1985年10月1日
出身イギリス・ロンドン

監督は、前作『プロミシング・ヤング・ウーマン』で鮮烈な映画監督デビューを飾ったエメラルド・フェネル

撮影は『ラ・ラ・ランド』や『バビロン』などのライナス・サンドグレンが担当。美術監督を統括するのは、これまで『女王陛下のお気に入り』や『ブラック・ミラー』を手がけたキャロライン・バークレー。

『ソルトバーン』キャスト・キャラクター解説

キャラクター役名/キャスト/役柄
オリバー・クイック(バリー・コーガン)オリバー・クイック(バリー・コーガン)
オックスフォード大学に奨学生として入り、フェリックス出会う。
フェリックス・カットン(ジェイコブ・エロルディ)フェリックス・カットン(ジェイコブ・エロルディ)
オックスフォード大学の生徒で人気者。
エルスペス・カットン(ロザムンド・パイク)エルスペス・カットン(ロザムンド・パイク)
フェリックスの母親。
ジェームズ・カットン(リチャード・E・グラント)ジェームズ・カットン(リチャード・E・グラント)
フェリックスの父親。
ヴェネシア・カットン(アリソン・オリバー)ヴェネシア・カットン(アリソン・オリバー)
フェリックスの妹。
ファーリー・スタート(アーチー・マデクウィ)ファーリー・スタート(アーチー・マデクウィ)
フェリックスのいとこ。
パメラ(キャリー・マリガン)パメラ(キャリー・マリガン)
エルスペスの友人。

ネタバレあり

以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。

【ネタバレ感想】スタイルと本質

『ソルトバーン』は、2020年のキャリー・マリガン主演の映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』に続く、エメラルド・フェネルが監督・脚本を務めた作品です。

前作『プロミシング・ヤング・ウーマン』では、レイプされて失った親友の復讐に奔走する主人公の様子を、鮮烈なイメージで映したスリラーでした。一方、本作はオックスフォード大学の奨学生として入学したオリバーが、上流階級の学生フェリックスと出会い、彼の家族の邸宅で夏を過ごすうちに彼に執着していくブラックコメディスリラーです。

この映画、オリバーがフェリックスの邸宅に向かってからの内容が多くを占めており、物語の中心でもあるのですが、前半の大学パートが映画全体のトーンを象徴するような印象的な描き方となっています。

オリバーは大学で孤立しかけていましたが、同様に浮いた存在である「数学オタク」のマイケルから話しかけられます。しかしオリバーは、その後にフェリックスのグループに入れそうであるとわかると、彼を容易く切り捨てます。

また、オリバーがファーリーと一緒に受けている論文の個別ゼミでは、真面目に課題図書をすべて準備してきたオリバーよりも、教授がファーリーの母親と同級生で、さらに憧れの存在だったという理由で、ファーリーとの会話が優先されています。

オリバーは、ファーリーから小論文で「thus(したがって、それゆえに)」という言葉を多用していることを指摘されますが、それに対して、オリバーは「議論の内容・本質(the substance)」ではなく、「文章の書き方・スタイル(the style)」に文句を言っていると不満を感じています。何気ないシーンですが、ここまでの一連の前半の流れは、まさにこの映画の本質を表現しているように感じます。

オリバーとフェリックスが繋がるきっかけは、オリバーがフェリックスに自転車を貸したことです。そこからフェリックスと交流を持つと、オリバーは両親がドラッグの売人、依存症であるという話で彼の同情を誘い、惹きつけます。

これらはフェリックスと繋がるためのオリバーのウソであることが後に明かされますが、それよってオリバーはさらに一歩進み、ソルトバーンにあるフェリックスの邸宅へと足を踏み入れて行きます。

そこでオリバーは、フェリックスの両親であるジェームズ卿(リチャード・E・グラント)とエルズペス夫人(ロザムンド・パイク)、妹のヴェネシア(アリソン・オリヴァー)とエルズペスの友人パメラ(キャリー・マリガン)に会うことになります。

フェリックスを含めたカットン一族は、広大な敷地に、博物館のようなアンティークの内装、数多くのハウスキーパーたちを抱える、イギリスの貴族階級の象徴的な暮らしをしています。

しかし貴族階級の暮らしを蓋を開けてみると、中身は空虚そのものです。家族関係は健全ではなく、彼らはオリバーやフェリックス、パメラを屋敷に引き入れたように、「持つもの」として「持たざるもの」を哀れみ、慈悲を与えて満足しています。

彼らは良いものを身に着け、いい暮らしを手にしていますが、オリバーがファーリーの意見に批判したように、それは「スタイル」に過ぎず、本質的な充足とはかけ離れたものなのです。

【ネタバレ感想】執着と狂気じみた愛情、ラストの全裸ダンスの意味

ABCのインタビューで、フェネル監督は本作について、以下のように語っています。

私は、人生のある時期に誰もが経験することのある、あの狂おしいほどの強迫的な愛情を、自分自身が感じた経験から描きました。

この言葉からもわかるように、本作では主人公オリバーの狂気じみた愛情が描かれています。具体的なシーンを挙げて振り返ってみると、次第にオリバーの行動がエスカレートしていることに気付きます。

  • フェリックスに近づくために嘘をつく
  • フェリックスの精液が混じった浴槽の残り水を飲み込む
  • フェリックスを死に追いやる
  • カットン一族を追い出し、邸宅を手に入れる

オリバーは、フェリックスに魅了され、近づきたい気持ちで嘘をついて接点を作ると、徐々に内部侵食していきます。

オリバーが死亡し、カットン家を追い出して屋敷を手に入れるラストの結末をみると「金持ちを食う(Eat the rich)」の物語でもありますが、それは結果的なものであり、本作は、監督が明かすように「誰もが経験しうる狂気じみた愛情」を描いた作品でした。

それは例えば、「推し」を好き過ぎたあまりに、SNSでストーキングしたり、脅迫したりすることなども現実で起きています。

相手に対する支配や、ストーキング、過度な干渉や自己破壊的行動に至るまで、愛情がこれらの一線を超えた狂気じみた行動になることは、誰にとっても起こり得ることです。

本作の場合、オリバーのフェリックスへの愛情は、彼の体液を自分の中に取り込むことを超えて、居場所、屋敷、そして上流階級という生活そのものを手に入れたい執着にまで発展した様子が描かれています。

ラストシーンで、広大な邸宅の中を全裸になって1人でダンスするのは、彼の支配的な所有欲の現れであり、それは貴族が動物の剥製を壁に飾るようなものなのです。

本作が面白いのは、ラストでは仮初めの形ではあるものの、「金持ちを食う(Eat the rich)」こと成功したオリバーの様子が描かれますが、同時に決して手に入れることのできなかったものも描かれていること。

オリバーは決してフェリックスからの愛を手に入れることはできませんでした。それは、フェリックスが死んだ後に彼の墓に慟哭しながらセックスしようとする様子が克明に映しています。

人間は往々にして、「自分が望むように相手に愛してほしい」と願うものですが、それが叶うことはないのです。

【ネタバレ考察】ギリシャ神話との関連

前作『プロミシング・ヤング・ウーマン』では、キャリー・マリガン演じる主人公を「復讐の天使」として描いていたフェネル監督。一方、本作では、ギリシャ神話の「テセウスの物語」を明確に引用していました。

映画の後半、フェリックスは、邸宅の庭園にある、生け垣迷路の中心で死ぬことになります。彼の後ろにはミノタウロスの銅像が置かれています。迷路とミノタウロスは、まさにギリシャ神話におけるテセウスの物語です。

アテナイの王アイゲウスの息子であるテセウスは、クレタ島の王ミノスによる、人間の体に牛の頭を持つ怪物ミノタウロスへの無意味な生贄を止めるため、ミノタウロス退治を志願し、彼がいる迷宮に向かいます。テセウスはクレタ島でミノスの娘アリアドネに出会い、彼女の助けを借りてミノタウロスを倒し、迷宮から抜け出すことに成功します。

しかし、テセウスは恩人であるはずのアリアドネを見捨てて置き去りにして帰路に着きます。テセウスを送り出したアイゲウスは、テセウスが無事であれば彼の乗せた船の帆を白にする約束していましたが、それを忘れて黒色のままで戻ってきたため、息子が死んだとショックを受けたアイゲウスは自ら命を絶ってしまいます。そして結果的にテセウスはアテナイの王となるのでした。

そして、このテセウスの物語から派生したのが「テセウスの船」という言葉です。テセウスが帰還した船は、彼の偉大な業績を称えるため、保存することになりましたが、時間が経つにつれて船の木材が腐り、古い部分を新しい木材で置き換えることにしました。年月が経過するうちに、船のすべての部品が少しずつ交換され、最終的には元の木材は一つもない状態となりました。

ここで哲学的な問いが出てきます。もし船のすべての部品が置き換えられたら、それはまだテセウスの船と呼べるのでしょうか?さらに、元の木材で別の船を組み立てた場合、どちらが真のテセウスの船といえるのでしょうか?

『ソルトバーン』は、執着と愛情を描いた物語である一方で、ギリシャ神話のテセウスの物語を引用し、アイデンティティを問いかける物語でもあります。

カットン一族を追い出して邸宅を手にしたオリバーは、本当に彼が望んだものを手にしたといえるのでしょうか。

まとめ

今回は、エメラルド・フェネル監督の映画『ソルトバーン』をご紹介しました。

本作は、「ゴシックスリラーを撮りたい」という監督の意向が感じられる、良質な不気味さを兼ね備えた作品でした。そして、その実現には主演のバリー・コーガンの演技が大きく貢献しています。

ジュエリーデザイナーと作家の娘であり、自身の18歳の誕生日には錚々たる上流階級の人々が出席するほど、監督自身もアッパー層の出身です。そのため、描かれる現代のイギリス貴族の姿は大変興味深いものがありました。

描くテーマのエッジを際立たせつつ、砂糖でコーティングするようなスタイルは、前作にも見られ、彼女の今後のフィルモグラフィを追い続けたいと思わせる作品でした。

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