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ボーは恐れている

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映画

『ボーは恐れている』ネタバレ考察・ラスト解説|気持ち悪い3時間の悪夢

今回ご紹介する映画は『ボーは恐れている』です。

『ヘレディタリー 継承』『ミッドサマー』のアリ・アスター監督&『ジョーカー』のホアキン・フェニックス主演によるスリラー映画。

本記事では、ネタバレありで『ボーは恐れている』を観た感想・考察、あらすじを解説。

『ボーは恐れている』作品情報・配信・予告・評価

『ボーは恐れている』

ボーは恐れている

5段階評価

ストーリー :
キャラクター:
映像・音楽 :
エンタメ度 :

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あらすじ

不安症の男ボーは、ある日、母が突然、怪死したことを知る。母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、そこは“いつもの日常”ではなかった…。

作品情報

タイトルボーは恐れている
原題Beau Is Afraid
監督アリ・アスター
脚本アリ・アスター
出演ホアキン・フェニックス
ネイサン・レイン
エイミー・ライアン
音楽ボビー・クーリック
撮影パヴェウ・ポゴジェルスキ
編集ルシアン・ジョンストン
製作国アメリカ
製作年2023年
上映時間179分

予告編

↓クリックでYouTube が開きます↓

配信サイトで視聴する

映画館で公開中(公式サイトへ

『ボーは恐れている』監督・スタッフ

監督:アリ・アスター

アリ・アスター
PunkToad, CC BY-SA4.0
名前アリ・アスター
生年月日1986年7月15日
出身アメリカ・ニューヨーク州

監督・脚本は『ヘレディタリー 継承』『ミッドサマー』で世界中に名を知らしめたアリ・アスター

撮影監督は、前2作でも撮影監督を務めたパヴェウ・ポゴジェルスキ

音楽は、『ミッドサマー』と同様に、LAを拠点にする作曲家兼プロデューサーの「ザ・ハクサン・クローク」名義で活動するボビー・クルリックが担当。

中盤のシーンで描かれるアニメーション表現は、チリに実在したコミューンから着想を得て制作されたストップモーションアニメ映画『オオカミの家』のクリストバル・レオン監督が手掛けています。

さらに本作は、予算が3,500万ドルのA24の最も高額な作品(公開当時)となりました。

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『ボーは恐れている』キャスト・キャラクター解説

キャラクター役名/キャスト/役柄
ボー・ワッサーマン(ホアキン・フェニックス)ボー・ワッサーマン(ホアキン・フェニックス)
主人公。不安障害と母親との関係に問題を抱える。
ロジャー(ネイサン・レイン)ロジャー(ネイサン・レイン)
ケガしたボーを自宅に運び休息させる。
グレース(エイミー・ライアン)グレース(エイミー・ライアン)
ロジャーの妻。
セラピスト(スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン)セラピスト(スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン)
ボーのセラピスト。
エレイン・ブレイ(パーカー・ポージー)エレイン・ブレイ(パーカー・ポージー)
ボーと子供の頃に出会い、ある約束をする女性。MWの社員。
モナ・ワッサーマン(パティ・ルポーン)モナ・ワッサーマン(パティ・ルポーン)
ボーの母親。大企業MW社のCEO。

主演:ホアキン・フェニックス

ホアキン・フェニックス
Harald Krichel, CC BY-SA3.0
名前ホアキン・フェニックス
生年月日1974年10月28日
出身プエルトリコ・サンフアン

主な出演作

  • 『グラディエーター』(2000)
  • 『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005)
  • 『ザ・マスター』(2012)
  • 『her/世界でひとつの彼女』(2013)
  • 『ジョーカー』(2019)
  • 『カモン・カモン』(2021)
  • 『ボーは恐れている』(2023)

ネタバレあり

以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。

【ネタバレ解説】『ボーは恐れている』ってどんな話?あらすじとラスト

実家へ向けて出発のはずが…

不安障害を抱えるボー・ワッサーマン(ホアキン・フェニックス)は、セラピスト(スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン)のもとを訪れ、母親モナ(パティ・ルポーン)との関係について打ち明ける。

ボーは翌日に実家に帰省して母に会う約束をしているが、幼少期に母親から受けた仕打ちの悪夢を見ていることを明かし、不安を抱いていた。

ボーは犯罪が多発する危険な地域に暮らしており、街には無差別に歩行者を刺す裸の狂人男(ブラッドリー・フィッシャー)もいた。翌朝のフライトに向けて就寝しようとするが、隣人の騒音とその勘違いによって寝不足となる。

飛行機の時間が迫り、急いで部屋を出ようとすると、部屋の鍵と荷物を何者かに盗まれてしまい、飛行機に乗り遅れてしまう。ボーはモナに電話して事情を説明するが、彼女に帰らないための口実を作っていると思われてしまう。

その後、ボーは薬を飲もうとして水道が止められていることに気づき、向かいのコンビニまで水を買いに行くことにする。鍵を盗まれたボーはオートロック扉に雑誌を挟み、水を買いに向かうが、その間に通りにいた無法者たちが部屋に入ってしまい、締め出されてしまう。ボーは仕方なく外の仮設工事の階段に座って一夜を過ごす。

翌朝、自分の部屋に戻ると、部屋は荒らされ、暴れていた男は毒グモ噛まれて死亡していた。ボーは再びモナに電話するが、UPSの配達員(ビル・ヘイダー)が電話に出る。その男は玄関が空いていた家の中に入り、シャンデリアの下敷きとなった顔のない遺体があると言う。ボーは母親が心でしまったと信じ込み、ショックを受ける。

その後、ボーが風呂に入るが、頭上に侵入者がいることに気づき、落下した彼と突き放し合いになり、全裸のままアパートを飛び出してしまい、警察官に助けを求めるが、銃を向けられる。たまらずボーは逃げ出し、フードトラックに轢かれた後、狂人男に刺されてしまう。

治療と逃亡

2日後、ボーはフードトラックを運転していたロジャー(ネイサン・レイン)とグレース(エイミー・ライアン)夫婦の家で手当を受けて目を覚ます。2人には10代の娘トニ(カイリー・ロジャース)がおり、戦死した息子の戦友でPTSDを抱える退役軍人のジーヴス(デニス・メノシェ)の世話もしている。

ボーは、弁護士のドクター・コーエン(リチャード・カインド)に連絡するが、彼からユダヤ人の習慣で遺体は迅速に安置しなければならないと伝えられる。さらに彼は、モナが遺体の埋葬にはボーの立ち会いを希望していたことを明かす。

ボーは一刻も早く帰ろうと夫婦に手伝ってくれるよう頼むが、彼らは怪我が治るまで安静にしてほしいと主張する。ボーはトニのノートパソコンで母親のニュースを調べると、大企業のCEOである母の死と、かつての知り合いの女性であるエレイン・ブレイ(パーカー・ポージー)が、モナの下で働いている映像を見て、ノートパソコンに嘔吐し、その瞬間をトニに見られてしまう。

その後、トニは友人のリズ(アリシア・ロザリオ)と一緒にボーを連れて行こうとするが、それは見せかけで、ボーは彼女らにドラッグを強要される。ドラッグによってボーは、幼い頃(アルメン・ナハペシャン)に、エレイン(ジュリア・アントネッリ)と初めて会った時のことをフラッシュバックする。休暇中の船の上で出会った2人は、キスをするまでに近づくが、母親に引き離されてしまい、お互いの初体験を将来のためにとっておくことを約束する。

フラッシュバックから目覚めたボーは、トニに連れられて兄の部屋に入り、ペンキを飲むように要求される。ボーが拒否すると、トニはペンキを自分で飲み込み自殺してしまう。その姿をグレースに見られてしまい、ボーは家を飛び出して森の中に逃げ込み、グレースはジーヴスに追いかけるように命じる。

森の中の劇団

暗い森の中をさまよったボーは、若い妊婦ペネロペ(ヘイリー・スクワイアーズ)に出会う。ボーが彼女に助けを求めると、「森の孤児たち」と呼ばれる、旅をしながら演劇を行う劇団のもとに案内される。

ボーは、洪水によって両親と離れ離れになった主人公の人生を描いた演劇を見ているうちに、いつの間にか自分自身を重ね合わせるようになっていく。彼は主人公の姿に、自分の青年期から老年期までの容姿を投影する。

その中で、ボーは3人の息子たちに出会ったり、モナとの会話を通じて、ボーがセックスをすると、心雑音によって死んでしまう遺伝的な疾患を抱えており、そのために肉体的な接触を避けていることなどが描かれる。

その後、演劇を見ていると、ボーの父親を知っているという男(ジュリアン・リッチングス)に出会うが、追いかけてきたジーヴスが現れ、劇団を襲撃する。ボーはジーヴスに、足首に取り付けられたセンサーを作動され、意識を失ってしまう。

実家へ帰省

ボーは意識を取り戻し、森を抜けてヒッチハイクしてモナのいる実家がある故郷ワッサートンにやってくる。モナの家に入ると、すでに葬儀は終わっており、棺には首のない遺体が安置されていた。

ボーは仮眠を取った後、ある女性が遅れてやってくると、彼女がエレインであることに気づく。ボーは自分がボーであることを明かし、2人は再会を喜び合い、2人はかつて約束していた初めてのセックスを行う。

ボーは、自分が絶頂に達すると死んでしまうのではないかと不安になるが、その心配は無用だった。しかし反対に、エレインが行為の最中に絶頂に達して死んでしまう。ボーがパニックに陥いると、その様子を見ていたモナが現れる。彼女は生きており、ボーをずっと監視していたことを明かす。

セラピストはモナのもとで働いていることが判明し、ボーのカウンセリング内容は録音されていた。一方、ボーも棺の遺体に、長年家で働いていた家政婦の特徴的なアザがあったことで、モナが生きていることに気づいていた。

ボーは父親についての真実が知りたいと要求すると、モナは、ボーが子供の頃に恐れていた屋根裏部屋に連れて行く。そこでボーは、双子の兄弟がいること、自分の父親が巨大なペニスの形をした怪物であることを知る。

次の瞬間、屋根裏部屋の窓から侵入したジーヴスが、ペニスの怪物に攻撃するが、怪物はジーヴスの頭を突き刺して殺害する。パニックになったボーは屋根裏部屋から転げ落ち、モナに許しを乞う。しかし、モナはボーを非難し、いまでは憎んでいると言い放つと、ボーはモナの首を絞めようとして、彼女は倒れ込んでしまう。

ボーの裁判

ショックを受けたボーは外に飛び出し、ボートに乗って実家を離れていく。洞窟に入った後、ボーはいつの間にか人で埋め尽くされた円形ホールの中心にいることに気づく。

間もなく、モナが検察側としてドクター・コーエンとともに現れ、ボーを裁判にかけ、息子の悪事を仕立て上げる。ボーにも弁護人がついており、異議を唱えるが、モナの部下によってすぐに突き落とされてしまう。

ボーはモナに助けを懇願するが、彼女は応じず、さらにボートに自分の足が固定されていることに気づく。ボートのエンジンは出火し始め、ボーは絶望的な状況を目の当たりにして自分の運命を察する。その後、モーターが爆発してボートは転覆し、ボーが溺死すると、モナとコーエン、ホールにいた人たちが会場を後にする。

母親の歪んだ愛情

アリ・アスター監督の新作である『ボーはおそれている』は、前2作『ヘレディタリー 継承』『ミッドサマー』と比較しても、非常に分かりづらい上に、エンタメ性も控えめになり、さらに3時間という長尺という挑戦的な映画といえます。

もちろんこれは、A24の成功には欠かせない監督の一人であること、そして前2作の世間的な評判の良さがあってこそで、「より羽を広げたアリ・アスター監督による好き放題映画」ともいえるでしょう。そのため、観客は置いてけぼりをくらい、文字通り悪夢の3時間耐久レースをすることになります。

一方で、監督が描くテーマは一貫していて、「家族関係や喪失が与えるメンタルへの影響」を描いています。『ヘレディタリー 継承』では、精神障害の遺伝的影響を描き、『ミッドサマー』では、両親を失った主人公の不安定な精神状況を映していました。本作は、そのハイブリットとも言える作品ですが、前2作のようなホラー映画ではありません。

本作は難解で分かりづらい映画なのは間違いありませんが、ボーと母親の関係に問題があることは明らかでした。物語が進んでいくと、ボーが不安障害を抱えるようになった根本的原因は、母親モナによってコントロールされてきたことによる影響だとわかります。そんなモナも母親から愛を受けておらず、『ヘレディタリー』のように、歪んだ愛情が世代間のトラウマとして受け継がれています。

映画の中でも特に印象的なのは、「セックス・性」に関する表現です。本作において、セックス(初体験/脱・童貞)は、大人へのメタファーや通過儀礼としての表現に感じられます。

ボーは、母親に刷り込まれた「セックスで絶頂を迎えると死んでしまうという強迫観念」によって、長い間童貞で、誰かと肉体的関係を結びませんでした。それは、セックスによる快楽という表面的なものを奪われただけではなく、母親によってボーが体と心を支配されていたことを意味しています。

このアプローチは、同時期に公開されているヨルゴス・ランティモス監督の『哀れなるものたち』や、2023年に大ヒットした『バービー』とは真逆ともいえて、母親の支配下によって抑圧されたボーは、不安障害を始めとする社会と断絶した状態となり、最後には悲惨な末路が訪れています。

モナとの会話シーンでも、自分で意思決定できず、母親に意見を委ねる様子が描かれており、ボーの発育過程に根深い影響を及ぼしていることが伝わります。

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タイトルの意味と実家版『オデュッセイア』

タイトルの意味

『ボーはおそれている(Beau is Afraid)』というタイトルの本作ですが、実は2011年に監督が発表した短編映画『Beau』が元になっています。

一方で、監督はインタビューで「短編のリメイクでも拡張版でもない」と言い、「この物語は私にとって、キャラクターが成長を遂げているだけで謎めいたものになった」と明かしています。

母親によって発育を阻害されてきたボーですが、一方で、「ボーはおそれている」ことは、ボーの成長、つまり彼がなぜ「恐れているのか」という恐怖の感情を、実家に帰るというドラマの中で探求していく映画でした。

実家版『オデュッセイア』

さらに、アリ・アスター監督はインタビューで、本作について、「ユダヤ人の『ロード・オブ・ザ・リング』のようなもので、ボーはただ母親の家に行くだけ」と語っています。

本作は、『指輪物語』や『ホビットの冒険』を書いたトールキンに代表的されるような、多くの物語で描かれている「行きて帰りし物語」のフォーマットを採用しています。

これはさらに遡ると、ホメロスによるギリシャ神話の叙事詩『オデュッセイア』の物語に通じています。この物語は、トロイア戦争の英雄オデュッセウスが、故郷への帰路に就くまでに10年を要し、その間にさまざまな脅威と直面するという物語です。これは「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」という物語構造としても広く知られています。

公式サイトの宣伝文にも「オデッセイ・スリラー」と記されているように、『ボーはおそれている』は、実家版『オデュッセイア』の物語でした。ボーは、オデュッセウスのように、実家に帰省するまでにさまざまな場所(自宅→郊外→森→過去と未来→海)を移動し、困難と立ち向かいました。

しかし、オデュッセウスが怪物と戦ったように、ボーが男性器の怪物(父親)と対峙するとは誰が想像できたでしょうか。

ラストシーンの意味とカフカ風の展開、あれは現実か悪夢か?

『ボーはおそれている』のラストの展開は、ボーが実家に帰省し母親と対峙した後、実家から逃げ出して海に出ると、いつの間にか大きな円形のホールで裁判にかけられる様子が描かれています。

このラストシーンは、本作の大部分で描かれる「親子の関係」という個人的な問題を、公的な裁判という社会的な問題へと広げているように感じます。文字通り観客を巻き込む形(円形ホールの反対側はスクリーンを見ている私たち)です。

本作は、実家に帰還するという『オデュッセイア』でしたが、一方で、フランツ・カフカからの影響を感じさせる部分も多くあります。ボーがラストで死を悟るところ、さらに男根の怪物などの要素は、ある日突然、虫に変身してしまう『変身』の物語と通じる部分がありました。

ラストシーンの裁判は、突如として理不尽で不条理な裁判にかけられる『審判』の物語を彷彿とさせます。さらに、ボーの母親との不健全な関係性は、カフカと父親との関係にもリンクします。

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アリ・アスター監督はインタビューで、映画を通じて「ボーの心と感情の中に観客を置くことを意識した」と言っており、悪夢のような3時間は、まさにそれを体現しています。

すると気になってくるのが、ボーに起きたことは「現実なのか、悪夢だったのか」ということ。アリ・アスター作品やA24のスリラーを見ている人なら、彼らがハッキリとした答えを提示しないことは容易に想像ができるでしょう。

現に本作も、観客の解釈次第で思い思いに捉えることができます。中盤の森の中のパートを手がかりに考察してみます。

そこでは、ボーが孤児たちの演劇集団の演目に自分自身を投影している場面が描かれていました。彼は主人公に人生を重ねて年を取った姿が描かれています。これは映画全体を象徴するものと考えられます。つまり、本作は母親に抑圧されて育ったボーの潜在的な欲求や感情が投影された物語なのです。

思うに、映画はボーの目を通した世界だったと考えています。ラストシーンやその前の屋根裏部屋のシーンなど、現実ではないと考えるのが妥当でしょう。ボーの潜在意識の投影であり、ボーの目というフィルターを通してメタファー・誇張化されたものだったと思います。

ボーの潜在意識の反映

  • 家の前の狂人たち
    • 社会への恐怖心や不安障害の反映
  • 演劇での主人公への投影
    • 妻と子供(家庭)を持ちたい
    • 自立した生活をしたい
    • 父親が自分を守ってくれるはず
  • エレインの登場
    • 脱・童貞とセックスへの欲
  • 男根の怪物の父親
    • 父親が期待した人物ではなかった
  • 監視カメラ映像
    • 母親の支配下にいることの反映
  • 双子の兄弟
    • 母親に反抗できる自分の投影
  • 裁判シーン(有罪判決)
    • 母親に対する罪悪感の投影

上記のように、私たち観客は、ボーのフィルターを通した世界を見ており、本当の現実世界は映画でみたようなカオスではなかったと思います。

精神的なストレスが現実と虚構の境界が曖昧になっていく様子は、ケイト・ブランシェット主演の『TAR ター』にも近い部分があり、主演のホアキン・フェニックスは『ジョーカー』の演技でまさにそれを体現しているので、アリ・アスター監督とタッグを組んだときの破壊力は凄まじいものがありました。

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水のモチーフの考察

『ボーはおそれている』は、作品全体を通じて「水」のモチーフが繰り返し描かれています。

先に紹介したように、本作はボーと母親の問題が主要なテーマとなっています。アリ・アスター監督はインタビューで自身の映画について「地獄のようなフロイト的ピカレスク」と表現しています。

オーストリアの心理学者ジークムント・フロイトは、著書『夢判断』において、夢は欲望の達成として解釈され、潜在意識の内容が象徴的に表現されると述べています。

フロイトによれば、夢の中の象徴は、しばしば抑圧された性的な欲望や恐れを表しており、これらの象徴は普遍的なものから個人的なものまで様々です。

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本作をボーの悪夢とするのであれば、彼の悪夢の中の「水」はモナを象徴していると考えられるでしょう。たびたび水に翻弄されるボーの姿は、母親の羊水の中で溺れているようなもの。

それを象徴するシーンは、中盤の森の中の劇中で描かれています。巨大な津波がボーに襲いかかり、家族と離れ離れになり、長い間にわたって家族を探し続け、ようやく家族を見つける様子が描かれます。しかし、ボーは、子どもたちから、童貞であることでどうやって産まれたのかという現実を突きつけられます。

母親モナのついた嘘が、ボーの潜在的な欲求(家族・子孫・性的欲望)から妨げているのです。

映画の冒頭シーンでは、ボーの母親モナがボーを出産していると思われるシーンが描かれています。不快な音楽とともに、モナが看護師か医者にボーを落としたとパニックになっている様子が想像できます。その後、一瞬だけ映る赤ん坊の尻を叩くと、赤ん坊が泣き声を上げました。このシーンは、映画の中でも特に不快なシーンのひとつであり、母親の歪んだ愛情を象徴しています。

水が必要な薬を飲むシーンでは、アパートの水が出なくなってコンビニまで買いにいかなくてはなりませんでした。これは、水を欲するボーと水がでなくなった様子という、アンビバレントな母親との愛憎関係のメタファーとして象徴的です。

ボーが過去の悪夢を思い出す場面では、バスタブの中に浸かっている主観的な目線で、自分の双子(母親に反抗できる自分の象徴)を眺めています。同様に、部屋を荒らされてからボーが真っ先にすることが、入浴でした。これは彼にとって水に浸ることが防衛本能(母親の羊水に浸かっている状況)を表しているように感じます。

その後、侵入者の男が天井から落下して浴槽で暴れる場面では、ボーのセーフティスペース(水)に侵入者が入ってきたことを表し、母親の死が彼に与える影響を映しています。

ボーの母親がCEOを務めるMW社のブランドスローガンは「完璧に安全(Perfectly safe)」でした。彼女のもとで働いていたことがわかるセラピストは、ボーに薬を渡すときに、「必ず水と一緒に飲むこと」を伝えます。物語の大部分がモナによって仕組まれていたことがわかるように、ボーは「母親なしではつらい現実と向き合えない」とコントロールされているのです。

そしてラストシーン。母親が手を置いていたフェンスのポールが壊れて落下する奇妙なカットが映されています。あのポールは、その後のボーを象徴するように、母親が自分の息子という支柱を折り、見放したことを表しています。結果的に、ボーは最後も水の上で、自分の運命を悟ったかのような表情で溺死していきます。ボーは最初から最後まで、母親の羊水の中で溺れ続けたのでした。

まとめ:正直、おすすめはしません

今回は、アリ・アスター監督の長編3本目となる映画『ボーはおそれている』をご紹介しました。

まさしくA24を牽引している監督の1人ですが、前2作で信頼を勝ち取った彼による実験的・挑戦的な映画ともいえる内容でした。

一貫して家族を通じたホラー・スリラー映画を描いている監督。私は本作が好きかどうかは別として、アリ・アスター監督の1人のファンとして、独創的な表現や演出力など、毎回驚かされています。

しかし、家族関係に問題を抱えている人や、精神的に不安定な状態で見ると、とても地獄のような映画なので、到底おすすめはできません。アリ・アスター監督の家族観、一体どうなってるんだよ…。

記事の中でも言及しましたが、アリ・アスター作品は往々にして「考察を要する」映画であるので、『バービー』で描かれていたような「(特に男性が)解説したがる映画」でもあり、それが好き嫌い別れるとこでもありますよね。自分自身で解説記事を書いておきながら感じています。

私としては、同じく不安症の主人公を描いた同時期に配信されているNetflixアニメ映画『オリオンと暗闇』をおすすめします。

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