今回ご紹介するのは映画『透明人間』です。
リー・ワネル監督によるこの映画、ただのホラー映画とは一線を画しています。
冒頭からビクッとチビりそうになるほど驚かされたと思ったら、「透明人間」という見えない対象への恐怖心だけではない社会的テーマも垣間見えるすごい映画でした。
夏の暑い日を背筋が凍るほど涼しくさせてくれる良質ホラー映画です!
映画『透明人間』の作品情報とあらすじ
作品情報
原題 | The Invisible Man |
---|---|
監督 | リー・ワネル |
脚本 | リー・ワネル |
出演 | エリザベス・モス |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2019年 |
上映時間 | 124分 |
おすすめ度 | [jinstar4.5 color="#ffc32c" size="16px"](4.5点/5点) |
あらすじ
天才科学者で富豪のエイドリアンの恋人セシリアは、彼に支配される毎日を送っていた。
ある日、一緒に暮らす豪邸から逃げ出し、幼なじみで警官のジェームズの家に身を隠す。
やがてエイドリアンの兄で財産を管理するトムから、彼がセシリアの逃亡にショックを受けて自殺したと告げられるが、彼女はそれを信じられなかった。
映画『透明人間』のスタッフ・キャスト
リー・ワネル監督
本作の監督は大ヒットスリラー『SAW/ソウ』の脚本を務めたリー・ワネル。
監督した前作『アップグレード』では、謎の組織に愛する妻を殺された男の復讐劇を描いた良質SFアクションを見せてくれました。
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そして前作同様、製作には『ゲット・アウト』『US/アス』『ハッピー・デス・デイ』などの名作スリラー映画を手掛けるプロデューサー、ジェイソン・ブラムが担当しています。
このスリラー映画の夢のタッグがまたもや実現し、そしてちゃんと面白いとうのだからすごい。
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主演はエリザベス・モス
主演にはドラマ『ハンドメイズ・テイル 侍女の物語』にてエミー賞主演女優賞・ゴールデングローブ賞女優賞の受賞経験があるエリザベス・モス。
本作での彼女の演技は言うまでもなく素晴らしいもので、詳しくはネタバレ部分で書きますが、前半と後半で全く違う印象を与えてくれます。
「透明人間」という見えない相手に対する恐怖を、観客にリアルに伝えてくれるその演技は見事でした。
そして彼女がだんだんと狂気じみていく姿には別の恐怖を感じるところでした。
彼女はジョーダン・ピール監督作『US/アス』にも出演して存在感を示しています。
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注目のブラムハウス・プロダクションが製作
先にご紹介した『ゲット・アウト』『US/アス』『アップグレード』などの製作でも知られるブラムハウス・プロダクション。
設立したのは本作のプロデューサーでもあるジェイソン・ブラム。
コストを抑えながらヒット作を次々と打ち出している注目の映画プロダクションなんです。
※以下、映画のネタバレに触れていますのでご注意してください。
【ネタバレなし感想】『透明人間』の“アップグレード”
ホラー映画の新たな傑作がまたもや生まれました。
『透明人間』
透明人間といえば、もともとはイギリスの作家H・G・ウェルズの小説『透明人間』が最初ですが、映画や漫画などあらゆるところで使い古された題材ですよね。
個人的に透明人間作品で印象的なのが2000年の映画『インビジブル』です。
昔は地上波でたまに放送していて、男なら誰もが考える「透明人間になったら」というちょっぴりエロい内容が幼い僕にとって刺激的だったのを覚えています。
一方で2020年版の透明人間は、文字通り今の時代に“アップグレード”されていました。
『透明人間』の“アップグレード”
本作で特徴的なのは、透明人間になった側を描いていないところ。
これまでの透明人間が題材の作品は、「透明人間になった側」の視点で描かれていることが多いです。
そこではいわゆる「男の欲望」のようなものが描かれていました。
先ほど紹介した『インビジブル』(2000)でもエロい描写があったり、透明人間といえば男性が女性にちょっかい出すという印象が強いですよね(AVなんかはまさに特徴的です)。
しかし、本作の透明人間は一味違います。
ソシオパス(反社会性パーソナリティ障害)な男性からの心理的虐待やDVを受けている女性に焦点を当てて、そのウラに男性上位社会と戦う女性の姿を映し出しているのです。
それにより、実態の見えない透明人間としての恐怖と、男性上位社会で苦しみ声を上げられない女性の行き場のない見えない恐怖を同時に描いているんです。
[chat face="twitter-icon.jpg" name="まめもやし" align="left" border="gray" bg="none" style="maru"] エンタメ性を担保しつつ社会的テーマもしっかり伝えているのがすごぎました。 [/chat]
秀逸なカメラワークがなせる恐怖
僕は恐怖について常々考えていることがあります。
それは「人は見えないことに対して恐怖を抱く」ということ。
お化けが代表的なように、実態の見えないものに対して人は恐怖を抱くと考えています。
例えばコロナウイルスでも、ワクチンが開発されておらず対策が見えないから怖いんです。
SNSの誹謗中傷も同様に、その先には人がいるのに姿が見えないことで恐ろしいナイフと化してしまうのです。
このように、見えないということの恐怖心を最大までに活かしたのが本作のカメラワークだったと考えます。
透明人間というのは文字通り透明で見えません。「もしかしたら今自分のとなりにいるのかも知れない」という底知れぬ不安感からくる恐怖をカメラワークで巧みに演出していました。
本作ではこれでもかと言うほど、何もない空間を映す時間が多いんです。
[chat face="twitter-icon.jpg" name="まめもやし" align="left" border="gray" bg="none" style="maru"] ホラー映画特有の「いよいよ来るよな」という生殺し状態をジリジリ続ける、いい意味で性格の悪い演出が最高でした。 [/chat]
【ネタバレ感想】真実すら“見えない”秀逸なラストの演出
本作には冒頭から色んな意味でやられました。
冒頭からクライマックス感
まず、タイトルの登場の仕方。
暗すぎる画面に映し出される海岸。波が激しく岩にぶつかり飛沫を上げると、タイトルが浮かび上がります。
正直このオープニング演出だけでもシビレましたね。
そしていきなり始まる脱出劇。状況が一切分からないまま観客はいきなり息を潜めて見守るしかない状況にさせられます。
そしていきなりの爆音。犬のエサ皿にあれほど驚かされるとは思いませんよ。
[chat face="twitter-icon.jpg" name="まめもやし" align="left" border="gray" bg="none" style="maru"] 映画館の一番うしろの席で見たのですが、自分を含めてみんな同じタイミングでビクッっと肩を叩かれたように驚いていたのが見えたのも面白かったです。 [/chat]
そして脱出できたかと思いきや、森からいきなり出てきて車のガラスを突き破るパンチを見せる異常な男。怖すぎますって。
その異常性と怪力が後にも活きてくるからまた面白い。
中盤では前作『アップグレード』を彷彿とさせる切れのあるアクションを見せてくれたりもしました。
真実すら“見えない”秀逸なラストの演出
本作の内容を整理してみます。
- セシリアはエイドリアンからのDVに苦しみ、脱走する
- エイドリアンが自殺(を装う)
- トムはエイドリアンの遺産をセシリアに相続する
- 透明人間がセシリアや彼女の周囲を襲う(セシリアの妹が殺害される)
- 倒した透明人間はトムだった
- エイドリアンはトムに監禁されていた
- セシリアはエイドリアンを自殺を装い殺害する
ストーリーを追っていくと、DV男に苦しめられたセシリアが復讐を遂げて束縛から解放される物語として見ることができます。
しかし、プロットを見ていくとエイドリアンがセシリアを透明人間になって襲ったということは定かではないんです。
むしろ、トムがエイドリアンを監禁して死亡したことにして、透明人間となりセシリアを苦しめることで、遺産相続を放棄させることが狙いだったと考えるほうが至って普通なのです。
現にトムはセシリアに対して遺産相続が放棄される条件を「犯罪を犯す」か「精神錯乱」だとしっかり説明しています。
この演出が見事すぎてシビレました。
「サプラ~イズ」という言葉のタイミングや、妹を殺された方法と同じやり方でエイドリアンに復讐を果たすセシリア。
それまで誰にも理解されずに苦しんできたセシリアに対して感情移入していた観客は、ふと我に立ち返ってしまうのです。
つまり、真実ですら見えないものになっているのです。
エイドリアンのセシリアに対するDVがあえて描かれていないことも上手いです。
透明人間ズルくない?気になった点も
非常に面白かった本作ですが、気になった点もチラホラありました。
一番は「透明人間がズルすぎるレベルのチートキャラ」ということ。
これまでの透明人間映画でも描かれていた透明人間を実体化させる方法なんですが、例えば息が白くなることや、液体や気体をかけて形を現せる方法だったりがあります。
本作でもそれは描かれるのですが、いかんせんあまり役に立たない。
具体的に挙げると、、ペンキで実体化させるも速攻で綺麗サッパリ落としていることの不自然さや、天気予報で大雨となり「セシリアの復讐のチャンスだ」と思いきや全く雨が活かされないことの不自然さなど。
あとはワンちゃんのゼウスも申し訳程度でしたね(鳴き声にはビビりましたが) 。
[chat face="twitter-icon.jpg" name="まめもやし" align="left" border="gray" bg="none" style="maru"] 透明人間スーツがチート級に万能すぎてなんとも言えない点ではありますね。 [/chat]
しかしながら本作は伏線も丁寧で、登場するアイテムを先出ししておくことで観客に意識づけしている上手さは感じました。
例えば監視カメラやペンキ、脚立、消化器など。その後の透明人間との戦いに活かされるアイテムを上手く伏線として配置しているのは丁寧でした。
疑問点を考察
[jin_icon_questionbox size="30px" color="#75BBFF"]セシリアを途中で車に乗せた男性は誰?
[jin_icon_answerbox size="30px" color="#FF8D8D"]これは恐らくUberのドライバーですね。その前にセシリアがスマホを触っていたので手配したのだと思います(タイミングは良すぎますが)。
[jin-tensen color="#9e9e9e" size="1px"]
[jin_icon_questionbox size="30px" color="#75BBFF"]トムはなぜ透明人間となったか?
[jin_icon_answerbox size="30px" color="#FF8D8D"]エイドリアンのマインドコントロールが原因だと考えます。
[jin-tensen color="#9e9e9e" size="1px"]
[jin_icon_questionbox size="30px" color="#75BBFF"]エイドリアンのセキュリティ甘くない?
[jin_icon_answerbox size="30px" color="#FF8D8D"]彼はセシリアに自分の元へ帰ってこさせる状況をわざと作っていたからです。彼女の周りの人間を攻撃するのも精神的に追い詰めて戻ってこさせるため。
[jin-tensen color="#9e9e9e" size="1px"]
[jin_icon_questionbox size="30px" color="#75BBFF"]ラスト、ジェームズはなぜセシリアを見逃したの?
[jin_icon_answerbox size="30px" color="#FF8D8D"]状況的に断定できないのと、彼女から受け取った娘の奨学金も影響があると考えます。そして、それを分かった上でセシリアはあの行動をしていたと考えられます。
『透明人間』ネタバレ感想まとめ
リー・ワネル監督が描いた『透明人間』は脚本とカメラワークが見事なまでに活きて現代版にちゃんと“アップグレード”した作品でした。
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