世界中で大人気のリアリティ番組。その先駆けでもあったのが、1987年のアメリカのリアリティ番組『デート・ゲーム(The Dating Game)』です。
独身女性が3人の独身男性に質問し、最終的に1人を選んで番組側が費用を負担してデートの約束をする内容。
そんな番組でデート相手に決めた出演者が、なんと連続レイプ殺人犯だった・・・。
今回ご紹介する作品はNetflix映画『アイズ・オン・ユー』です。
本記事では、Netflix映画『アイズ・オン・ユー』を実在の事件から詳しく、わかりやすく解説します。
時代背景とシリアルキラーを通じて、女性が常態的に受けている差別や感じている恐怖を疑似体験しているような恐ろしい映画でした…!
Netflix映画『アイズ・オン・ユー』は、性的暴行の様子が描かれています。トラウマやフラッシュバックを誘発するおそれがあるため、鑑賞の際には注意してください。
作品情報・配信・予告・評価
監督・スタッフ
監督・主演:アナ・ケンドリック
名前 | アナ・ケンドリック |
生年月日 | 1985年8月9日 |
出身 | アメリカ・ポートランド |
Netflix映画『アイズ・オン・ユー』で監督・主演を務めたのはアナ・ケンドリック。
1998年のブロードウェイ・ミュージカル『ハイ・ソサエティ』で主演としてデビューし、史上3番目の若さでトニー賞にノミネートされると、その後は、ジョージ・クルーニー主演の映画『マイレージ、マイライフ』で野心的な新入社員役を演じ、アカデミー賞助演女優賞にノミネート。
その後も人気ミュージカル映画シリーズ『ピッチ・パーフェクト』の主演や、ディズニー映画『イントゥ・ザ・ウッズ』でシンデレラ役を演じています。
そして今回、主演であり初監督作品となるのが本作『アイズ・オン・ユー』です。
キャスト・キャラクター解説
キャラクター | 役名/キャスト/役柄 |
---|---|
シェリル・ブラッドショー(アナ・ケンドリック) ハリウッドでの活躍を夢見てオーディションの日々を送る。エージェントからの提案でテレビ番組『デート・ゲーム』へ出演し、アルカラと出会うことになる。 | |
ロドニー・アルカラ(ダニエル・ゾヴァット) 連続強姦殺人犯。女性や少女を写真家と信じ込ませて暴行・強姦を繰り返す。テレビ番組『デート・ゲーム』に出演し、シェリルのデート相手に選ばれる。 |
ネタバレあり
以下では、映画『アイズ・オン・ユー』の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
『アイズ・オン・ユー』は実話に基づいた映画
Netflix映画『アイズ・オン・ユー』は、人気リアリティ番組に出演したハリウッドで女優を夢見る女性が、思いがけず連続強姦殺人犯の男性と遭遇することになる恐怖を描いた映画です。
2人は番組でデートを決めますが、実は相手の出演者の男性が連続強姦殺人犯だったことが明かされます。実はこの映画は、実際の出来事を元にした作品なんです。
人気リアリティ番組『デート・ゲーム』
『デート・ゲーム』は、1965年12月に放送が始まり、人気を博したアメリカのリアリティ番組です。番組の主な内容は以下の通りです。
映画では、実際に1978年に番組に出演したシェリル・ブラッドショーをアナ・ケンドリックが演じ、彼女が遭遇することになる連続強姦殺人犯ロドニー・アルカラをダニエル・ゾヴァットが演じています。
ファラ・フォーセットやサリー・フィールド、アーノルド・シュワルツェネッガーやマイケル・ジャクソンなど、後のハリウッドスターらが出演したことでも、番組の人気ぶりは想像に難くありません。
連続強姦殺人犯ロドニー・アルカラの人生と逮捕・その後
ロドニー・アルカラは、テキサス州のサンアントニオでメキシコ系アメリカ人の夫婦の間に4人兄弟の3番目として生まれました。
アルカラの父親は家族をメキシコに移住させましたが、3年後に家族を捨て、1954年、1954年、アルカラが11歳のとき、母親は子どもたちを連れてロサンゼルス郊外に移住します。
アルカラは学業優秀で、陸上競技やクロスカントリーチームに所属していました。1961年、17歳の時、アルカラはアメリカ陸軍に入隊します。この時、アルカラは若い女性に暴行したとして何度か懲戒処分を受けています。
1964年、アルカラは健康上の理由で軍を除隊しますが、同じ頃、彼は軍の精神科医から反社会性パーソナリティ障害であること、IQ135相当だと診断されています。
陸軍除隊後、アルカラハアUCLAことカリフォルニア大学ロサンゼルス校で美術を学び、その後、ニューヨーク大学では、映画監督ロマン・ポランスキーのもとで講義を受けています。
その後、アルカラはニューヨークからカリフォルニアへ戻ってくると、プロのファッション写真家を名乗り、何百人もの若い男女に自分のポートフォリオ用の写真撮影をしています。
アルカラは当時、一時的にロサンゼルス・タイムズで植字・組版の仕事をしていました。この時、警察から「ヒルサイド・ストラングラーズ事件」の捜査の一環で事情聴取を受け、犯人ではなかったものの、マリファナ所持で逮捕されています。
当時、ロサンゼルス・タイムズでアルカラの同僚だった人物は、彼のポートフォリオの写真の多くが若い男女の裸の写真が掲載されていたことを明かしています。
そして、1978年9月13日、アルカラは人気テレビ番組『デート・ゲーム』に出演することになります。
番組出演時、アルカラはFBIの最重要指名手配犯だった
信じられない話かもしれませんが、1978年の番組出演時、すでにロドニー・アルカラは5人の女性を殺害し(後の捜査で有罪判決となった数)、FBIから「最重要指名手配犯10人」の一人に加えられていました。
アルカラは最終的に8人の女性(うち一人は12歳の少女)を殺人したことで有罪判決を受けましたが、推定では130人以上の女性と少女を殺害した疑いがあるとされています。以下では、映画で描かれる『デート・ゲーム』出演までのアルカラの動向を解説します。
1968年、アルカラはタリ・シャピロという8歳の少女を昏睡状態に陥れ、暴行・強姦します。アルカラが少女を自宅に連れ込もとうしている様子を目撃した市民が警察に通報したことで、警察がアルカラの自宅へ向かいますが、アルカラは裏口から逃げ出し、警察の手から逃れます。
その後、アルカラはニューヨークに移住し、「ジョン・バーガー」という偽名を使ってニューヨーク大学に入学します。一方、1969年、FBIはアルカラを最重要指名手配犯10人の一人に加えます。
指名手配ポスターが貼られてから数カ月後、キャンプに参加していた2人の少女が、アルカラに気づいて警察に通報したことで彼は逮捕されます。しかし、彼が逮捕された時、すでに被害者であるシャピロの家族はメキシコに移住しており、家族は娘に裁判で証言させるためにロサンゼルスへ連れ戻すことを拒みました。
事件の主要証人が不在となったことで、アルカラは強姦殺人未遂ではなく、児童性的虐待で有罪判決となり、わずか34ヶ月で仮釈放されています。
その後の1971年、アルカラは当時23歳の客室乗務員だったコーネリア・クリリーを首を絞めて殺害。彼女は新しいアパートに引っ越した時にアルカラに家具の移動を手伝ってもらっていました。1971年当時のニューヨークは、年間2000件以上の殺人事件が発生し、今のような鑑識ツールがなかったこともあり、捜査は難航し、この事件は2011年まで未解決でした。
1977年には、ハリウッドの有名なナイトクラブのオーナーの娘だったエレン・ジェーン・ホバーが行方不明となり、後に遺体として発見される事件が起こりました。彼女が残した手帳には、最後に目撃された日に「ジョン・バーガー」という人物と会って写真撮影する予定が記載されていました。
そんな中で、1978年、すでに前科者であり、FBIでの指名手配も受けていたアルカラが『デート・ゲーム』に出演します。番組が事前に出演者の身元調査を行っていなかったため、アルカラは全国放送の人気番組に出演し、あろうことか「魅力的な男性」として、シェリル・ブラッドショーによってデート相手の一人に選ばれたのです。
Netflixの映画では、シェリルが台本カードから外れて自分が考えた質問をする場面が描かれていますが、実際の番組では、全年齢対象の番組である一方で、性差別的なネタが笑いとして提供されています。アルカラも自身を「バナナ」に例えたりするなど、気味の悪い回答をしています。
アルカラとのデートを決めたシェリルですが、番組終了後、彼女はアルカラに対する不気味さと不信感を抱き、デートを辞退しています。映画で描かれているようなバーでの会話は実際にはないものの、その後の駐車場のシーンではアルカラへの恐怖心を効果的に演出していました。
少女の通報とアルカラの逮捕の事実
『デート・ゲーム』出演後の1979年2月、アルカラは当時15歳だったモニーク・ホイトに声をかけ、人里離れた山岳地帯での写真撮影を装い、彼女に性的暴行を加えました。
暴行されて意識を失ったホイトは、意識を取り戻してから自分がレイプされたことに気づきましたが、必死に感情を押し殺し、アルカラとの関係を続けたい意志を伝えます。レイプされて殺されかけた相手であっても、自分が生き残るために気遣わなければなかったのです。このときの彼女の心境は計り知れません。
そして2人は車に戻り、アルカラがトイレに行くためにガソリンスタンドに立ち寄ったとき、ホイトは車から脱出して助けを求めました。映画のラストシーンで描かれているように、これによってアルカラは警察に逮捕されることになりますが、実際には彼の母親が保釈金を支払ったことですぐに釈放されています。
アルカラの死刑判決とその後と現在
『デート・ゲーム』出演から約1年後、ホイト氏の事件の約半年後となる1979年7月、アルカラは当時12歳の少女ロビン・クリスティン・サムソーをターゲットにします。
バレエ教室に通っていたロビンは、スタジオへ向かう途中に友人と一緒にいたところをアルカラに声をかけられ、その後、行方不明となりました。そして12日後、彼女は判別不可能なほど暴行された遺体として発見されることになります。
ロビンの友人ブリジットは、アルカラに声をかけられたときの彼の特徴を警察に伝え、警察は似顔絵を作成。それによって、アルカラの事件を担当していた警察官がアルカラを犯人と認識しました。
そして1979年7月、アルカラはロビン誘拐殺人の容疑で逮捕され、1980年に有罪となり、死刑判決を受けます。
その後、陪審員がアルカラの過去の性犯罪を事前に知らされていたことや、不当に拘束されていることを訴える「人身保護令状」の請求訴訟を起こし、有罪判決が2度覆されることになりますが、DNA鑑定によって新たな証拠が提出され、新たに5件の殺人罪で有罪判決を受け、2010年、3度目の死刑判決を受けます。
2012年にニューヨークに引き渡されると、アルカラはクリリーとホバー殺害容疑で起訴されますが、ニューヨーク州では2007年以降死刑制度が廃止されているため、この事件での判決は25年から終身刑となります。
2016年には、ワイオミング州の検察がクリスティン・ルース・ソーントンの殺人容疑でアルカラを起訴します。ソーントンは当時28歳で1977年に失踪し、遺体は1982年まで発見されませんでした。映画の冒頭で描かれている被害者がソーントンです。
しかし、起訴された当時73歳だったアルカラの健康状態は悪く、ワイオミング州で新たな容疑の裁判を受ける状態ではないと判断されています。
そして2021年7月24日、カリフォルニア州の死刑囚監房に収監されていたアルカラは、77歳で自然死しました。多くの女性と少女を強姦殺人した犯人が、寿命によって最期を迎えるという、怒りが湧いてくるような形で事件は幕を閉じることになります。
アルカラの被害者は、推定では130人以上にのぼるとされていて、彼の犯罪を裏付ける「ポートフォリオ」に掲載された写真には、今でも身元の確認ができていない女性や少女が数多くいます。
番組を観覧していた女性は実在した?
映画では『デート・ゲーム』の番組観覧に来ていた女性ローラ(ニコレット・ロビンソン)が、番組に出演しているアルカラの姿を目撃し、友人をレイプした犯人であることに気づくシーンが描かれています。しかし、これはフィクションであり、彼女は実在していません。
アナ・ケンドリックは、ローラの存在について、「実際に警鐘を鳴らそうとしたが無視されたすべての人々の代表として機能する」と明かしています。
映画では、ローラがアルカラについて必死に訴えても恋人は信じず、番組スタッフや警察は真剣に受け止めない様子が映されています。これらは警察の捜査の怠慢や犯罪を見て見ぬふりをしてしまう人々によって押し殺されてきた人を象徴しているのです。