今回ご紹介する映画は、『トゥルーノース』です。
清水ハン栄治監督による作品で、北朝鮮の強制収容所を舞台に、過酷な毎日を生き抜く人々の姿を3Dアニメーションで描いた作品。
【ネタバレ解説/考察】映画『トゥルーノース』
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監督・脚本・プロデューサー | 清水ハン栄治 |
製作総指揮 | ハン・ソンゴン |
制作 | アンドレイ・プラタマ |
撮影監督 | メリータ・ブディマン |
美術 | ディアン・レスタリス・スパンディ |
音楽 | マシュー・ワイルダー |
音響 | コン・ソヌク |
清水ハン栄治監督
https://www.nippon.com/ja/japan-topics/c030132/
本作を手掛けたのは、清水ハン栄治監督。
横浜生まれの在日コリアン4世である監督は、経歴が少し変わっています。
サラリーマンから監督へ
清水ハン栄治監督は、アメリカでの留学経験を経たあと、大手企業でメディア事業を担当していたサラリーマンでした。
脱サラした後に作ったのがドキュメンタリー映画『happy -しあわせを探すあなたへ』です。
その後、『マンガで読む、世界の偉人伝』シリーズの企画・プロデュースなどもしています。
そんな中、人権をテーマにしたマンガ制作をしているときに出会ったのが、申東赫(シン・ドンヒョク)さんの『収容所に生まれた僕は愛を知らない』でした。
「幸せとは何か、生きるとは何か」について追求していた監督だからこそ描ききれた圧巻の内容でした!
音楽監督には、ディズニー長編アニメ映画『ムーラン』(1998年)のマシュー・ワイルダーが担当しています。
政治の話ではなく、家族の話
(C) 2020 sumimasen
『トゥルーノース』はTEDトークでスピーチする男性のシーンから始まります。
これは、家族の話
「政治の話はしませんよ。かわりに物語をお伝えします。私の家族の物語です。」
その言葉から始まる本作のストーリーは、北朝鮮の強制収容所が舞台。
明らかに政治的な要素があるにもかかわらず、この導入の一言があるおかげで、観客はこれから始まる物語に違和感なく溶け込むことができるのです。
とはいえ、その後まもなく、金日成(キム・イルソン)と金正日(キム・ジョンイル)の二人の写真がデカデカと映し出される光景には、強烈なインパクトを残し、この話が決してただの物語ではない現実味をもたせています。
ネタバレあり
以下では、映画『トゥルーノース』の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ解説/考察】 人間らしく生きること
(C) 2020 sumimasen
清水ハン栄治監督は、幸せや人権をテーマにした映画やマンガの制作をしていたこともあり、本作は政治的背景よりも、「生きるとはなにか」についてフォーカスしていることが特に印象的。
北朝鮮のリアル
「人権」とは、生きるための権利で、人種や民族、性別を超えて万人に共通した一人ひとりに備わった権利のこと。
それが、この国では軽んじ、危ぶまれている。
映画では、TEDトークの現在とヨハンたちが連行されてしまう1995年、そしてその9年後、つまり2004年までを時系列として明示しています。
そう、これは決してナチスのアウシュビッツのような戦時下の話ではないのです。まさに今、起きていることなのです。
時間軸で言えば、2002年には日韓ワールドカップ、2004年にはアテネ五輪が開催された同じ頃の話なんです。
北朝鮮が、いかに世界とかけ離れているかが分かると思います。
ドラマチックな語り口は監督の“意思”の表れ
(C) 2020 sumimasen
『トゥルーノース』で描かれるのは、飢餓、暴力、過酷な労働、強姦、密告、虐殺といった非常にハードなもの。
それにも関わらず、この映画に圧倒的に惹きつけられ、心が揺さぶられるのです。
絶望に次ぐ絶望の中で、主人公の内面の変化と成長、友情、恋愛、家族、そして思いがけないラストに至るまで、非常にドラマチックな展開でエンタメ性が高い描き方をしている本作。
監督はインタビューで、本作を「一般の人に届くものにする」ことに尽力したと語っています。
- エンターテイメント性の高いストーリー
- ポリゴン風のアニメーション
- 言語は英語で制作
これらは『トゥルーノース』、つまり北朝鮮の真実を届けるための要素なのです。
『偉人伝』のマンガで多くの人に作品を届けた監督だからこそ、アニメ(それもポリゴンの)という描き方でより多くの人に本作を届けようとしているのです。
今まさに12万人もの人々が、収容所での生活を余儀なくされていると言われている中で、監督は本作で観客を“目撃者”とすることにより、将来、虐殺されかねない彼らを救おうとしているのです。
人間らしく生きること
そんな強烈な内容の一方で、本作において見逃せないのが、生きる目的を問う内容であること。
特に、主人公ヨハンの姿にはリアルな人間性を感じました。
父親から強い男として認められたかった幼少期、そして理由もわからず強制収容所で働かされ、次第に家族を守るために体制側へと染まっていく中盤。
そして、結果的にそれが引き金となり母親を失ってしまい、一時は正気を失ってしまう場面もあるのです。
一方で、ヨハンの母ユリは最期まで気丈に振る舞い、子どもたちを励まし続けました。
「誰が“正しい”とか“間違ってる”じゃないの “誰になりたいか”を自分に問いなさい」(C) 2020 sumimasen
地獄としか形容し難い生活の中でも生きる目的はあるのか。
印象的なシーンとしてヨハンとインスの以下の会話シーンがあります。
「飯食って、寝て、クソして この繰り返しの人生になんの意味があるのかな」
(C) 2020 sumimasen
バッタの亡き骸に蟻が群がるように、生命は生まれては死んでいくサイクル(円環)によってまた別の生命へとつながっていく。
収容所という地獄においてもそれは同じであり、たとえ人間以下の扱いを受ける過酷な環境下でも美しいものを美しいと思う気持ちもまた同じなのです。
停電が日常茶飯事の北朝鮮では夜は真っ暗闇に包まれ、美しい星空が顔を出します。(『愛の不時着』でも似たシーンがありましたね)
地獄の中に垣間みえる美しい日常や動植物たちの生命。
このあたりは、『この世界の片隅に』や『火垂るの墓』にも通じるところがありました。
実際に、ヨハンとミヒの関係性は『火垂るの墓』を意識したと監督も語っています!
【ネタバレ解説/考察】「赤とんぼ」が歌われたのはなぜか
(C) 2020 sumimasen
劇中でもとりわけ印象的なシーンのひとつに、日本の童謡「赤とんぼ」をミヒが歌うシーンがありました。
拉致されたと語る日本人女性を看取る時に歌われたのですが、なぜ北朝鮮で日本の童謡が歌われるのか気になった方もいると思います。
在日朝鮮人のアイデンティティ
背景には、ヨハン一家が帰還事業によって北朝鮮に帰国したという設定があります。
北朝鮮と日本を行き来した貨客船、万景峰号(マンギョンボン号)でも知られていますね!
(C) 2020 sumimasen
そのため、ヨハンの家には日本の写真があったり、日本の品(時計など)があった訳です。
同時に、在日の帰国者は異端者とみなされ監視対象でもありました。
帰還事業で帰国した人々は9万人以上にのぼり、彼らが持ってきた日本のモノを目当てに罪をでっち上げられたり、不敬罪を理由に強制収容所へ送られてしまう人も多かったようです。
実際に、帰国者同士が集まると、日本を懐かしんで日本の童謡を歌ったりしたそうで、その様子が本編に描かれた「赤とんぼ」につながるのです。
日本でも北朝鮮でも居づらい環境で自らのアイデンティティすら危ぶまれていたにも関わらず、懐かしみ歌ってしまう。
そんな哀しくも切ない様子が「赤とんぼ」には描かれていました。
【ネタバレ解説/考察】タイトルには2つの意味がある
『トゥルーノース』というタイトルには、2つの意味が込められていました。
ひとつは、「真に重要な目標、絶対的な羅針盤」を意味する英語の慣用句。もうひとつは、文字通り「北朝鮮の真実」です。
このタイトルが絶妙に作用していて、強制収容所での過酷な現状(=北朝鮮の真実)を生きて伝える(=重要な目標)という、冒頭のTEDトークのシーンにつながっていくのです。
トークする人物のサプライズも含めて、見事な演出でした…!
まとめ:“いま”起きている北朝鮮の実態
以上、北朝鮮の強制収容所を描いたアニメ『トゥルーノース』をご紹介しました。
清水ハン栄治監督の意思がにじみ出た意欲的で非常に意義深い作品になっていて、多くの人に観てほしいと感じました。
実際のTEDでも北朝鮮から亡命、脱出した方のスピーチがありますので、合わせて見てみてください。
北朝鮮からの脱出|イ・ヒョン
北朝鮮から亡命、脱出した人のTEDトークです。
TED×Tokyo|清水ハン栄治
監督がドキュメンタリー映画を撮った後にTEDトークに出演した時の映像です。
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