絶対に空を見上げてはいけない・・・
今回ご紹介する映画は、『NOPE ノープ』です。
田舎町に突然降り注いだ巨大な異物を巡り、想像を絶する事態が展開していくスリラー映画。『ゲット・アウト』『アス』に続く、ジョーダン・ピール監督の3作目となる注目作。
本記事では、映画『NOPE ノープ』を観た感想と気になった点などをネタバレありで解説・考察していきます。
ジョーダン・ピール監督作、今回も意欲的で面白い作品になっていました!
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作品名 | 配信状況 |
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ゲット・アウト (2017) | 31日間無料 600円分のポイントGET 無料で見る |
アス (2019) | 31日間無料 600円分のポイントGET 無料で見る |
NOPE ノープ (2022) | 31日間無料 600円分のポイントGET 無料で見る |
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映画『NOPE』作品情報・配信・予告・評価
『NOPE ノープ』
5段階評価
ストーリー :
キャラクター:
映像・音楽 :
エンタメ度 :
あらすじ
半年前に事故死した父から牧場を受け継いだOJは、事故の際に一瞬目にした飛行物体を忘れられずにいた。一方、OJの妹・エメラルドは、その飛行物体を撮影してバズらせようとするが…。
作品情報
タイトル | NOPE ノープ |
原題 | Nope |
監督 | ジョーダン・ピール |
脚本 | ジョーダン・ピール |
出演 | ダニエル・カルーヤ キキ・パーマー ブランドン・ペレア マイケル・ウィンコット スティーヴン・ユァン キース・デビッド |
音楽 | マイケル・エイブルズ |
撮影 | ホイテ・ヴァン・ホイテマ |
編集 | ニコラス・モンスール |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2022年 |
上映時間 | 131分 |
予告編
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配信サイト | 配信状況 |
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おすすめポイント
映画への愛と皮肉が絶妙にブレンドされた意欲作!
『ゲット・アウト』『アス』のジョーダン・ピール監督が描くスペクタクル映画。
ジョーダン・ピール監督作品の中で最も製作費がかかっている本作は、非常に大きなスケールで見ごたえある映像が楽しめました。
やはり、撮影監督のホイテ・ヴァン・ホイテマの存在は大きく、舞台となる渓谷での昼夜それぞれで描かれる物語を説得力ある映像で描き出しています。
規模は大きくなったものの、監督ならではの作家性はそのままに、過去作の成功があってこその本作だと改めて感じました。
映画『NOPE ノープ』の監督・キャスト・スタッフ
監督・脚本:ジョーダン・ピール
名前 | ジョーダン・ピール |
生年月日 | 1979年2月21日 |
出身 | アメリカ・ニューヨーク州 |
『NOPE ノープ』の監督と脚本を務めたのは、ジョーダン・ピール監督。
元々はコメディアンや俳優として活動していましたが、2017年の『ゲット・アウト』で初監督、脚本、製作、出演まで務め、見事アカデミー賞で脚本賞を受賞しました。
その後、2019年には、自らと同じ容姿をもつドッペルゲンガーに襲われる様子を描いたホラー映画『アス』に続き、本作で3本目の監督作品となります。
どの作品も、奇想天外なアイデアと裏にある社会問題への描き方が絶妙なんですよね!
ダニエル・カルーヤ
名前 | ダニエル・カルーヤ |
生年月日 | 1989年2月24日 |
出身 | イギリス・ロンドン |
『NOPE ノープ』の主演は、イギリス出身の俳優ダニエル・カルーヤが務めています。
Netflix配信のオムニバスドラマ『ブラック・ミラー』の1エピソードで注目され、ジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』で主演に抜擢されました。
アメリカで黒人解放運動を展開した「ブラックパンサー党」の指導者を演じた2021年の映画『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』では、アカデミー賞助演男優賞を受賞しています。
キキ・パーマー
名前 | キキ・パーマー |
生年月日 | 1993年8月26 |
出身 | アメリカ・イリノイ州 |
共演は、歌手活動や『ハスラーズ』などに出演した俳優キキ・パーマー。
スティーブン・ユァンほか
名前 | スティーヴン・ユァン |
生年月日 | 1983年12月21日 |
出身 | 韓国・ソウル(国籍はアメリカ) |
その他にも、『ミナリ』でアカデミー主演男優賞にノミネートされたスティーヴン・ユァンが共演。
スタッフ
製作 | イアン・クーパー ジョーダン・ピール |
撮影 | ホイテ・ヴァン・ホイテマ |
美術 | ルース・デ・ヨンク |
衣装 | アレックス・ボーベアード |
編集 | ニコラス・モンスール |
音楽 | マイケル・エイブルズ |
視覚効果監修 | ギョーム・ロシェロン |
中でも注目は、ホイテ・ヴァン・ホイテマ。
クリストファー・ノーラン監督作品のカメラマンとしても知られ、『ダンケルク』ではアカデミー賞撮影賞にノミネートされています。
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ネタバレあり
以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ感想】ホラーと思いきやUFO、UFOと思いきや…
(C)2021 UNIVERSAL STUDIOS
恐らく、『NOPE ノープ』で最も期待され、ひた隠しにされていた「空に一体何がいるのか」という点については、驚く事実はありません。
最新の予告編でもチラッと映っていた通り、“それ”の正体は、UFOであることがわかります。
ホラー映画と思いきや…
『NOPE ノープ』は、ジャンルで言えば、UFOを描いたSF作品でした。
念のため、劇中でも登場した言葉UFOとUAPの違いも説明しておきます。
- UFO(Unidentified Flying Object)=未確認飛行物体
- UAP(Unidentified Aerial Phenomena)=未確認航空現象
広義で厳密いえばUAP(未確認航空現象)の方が近いかもしれませんね!
主要な登場人物は5人ほどで、物語の展開にしても、UFOを目撃した兄妹がなんとかしてその証拠を撮影しようとするシンプルなもので、それ以上の大きな展開はありません。
しかしながら、過去最大の製作費をもって描く“夏のSF大作映画”の表向きとは裏腹に、ジョーダン・ピール監督らしい社会批判が描かれたすごい映画でした。
UFOと思いきや…
主人公となるのが、ダニエル・カルーヤ演じるOJと、キキ・パーマー演じる妹のエメラルド。
2人はロサンゼルス郊外の父親が経営する牧場で働いていましたが、空からの謎の落下物によって父が死に、残された2人が牧場の経営を担っています。
寡黙で人付き合いが苦手なOJに対して、エメラルドの性格は社交的で明るく、2人の性格は対照的。
馬を売ったりして、経営難の牧場をなんとか成立させようとするOJと、自由奔放にやりたいことをやるエメラルド。
そんな2人が、「UFOの撮影」によって名声を手に入れることを目的に力を合わせていくのです。
物語が面白くなっていくのは、ホラー展開するかと思いきや、SF展開していくその後。
雲の影に潜むUFO、その銀色の円盤状の母船からは、一体どんなエイリアンが出てくるのかと期待してしまいます。
しかしながら、UFO映画だと思っていたら、これまた違った展開になっていくのでした。
物語が進んでいくにつれて、空に見え隠れするUFOの実態は、宇宙船ではなく、それ自体が生物であると判明するのです。
ホラー展開と思いきやUFO、UFOと思いきや巨大生物(エイリアン)だった!
表現し難い生物の造形
後に「Gジャン」と名付けられるその生物、通常状態の銀色の円盤状の造形は、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』の宇宙船を横にした感じに似ています。
しかし、物語の終盤では、それまでの円盤状の造形から全く違う造形へと変化していくのです。
監督が『新世紀エヴァンゲリオン』も参考にしたというその造形は、クラゲやイカ、タコ、マンボウなどの海洋生物に近い印象。
この造形が素晴らしくて言葉で表現できないので、ぜひ観て欲しいです!
いわゆるUFOとしての硬そうな円盤状の無機質な物体が、生物だとわかり、有機的な生命を感じるように見えてくるのも面白い点。
ジョーダン・ピール監督はインタビューにおいて、スティーブン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』を挙げ、海への恐怖を、空でやりたいと話していました。
Gジャンの動きも、まさに空を泳ぐ魚のようにヌルっとした動きでしたね!
【ネタバレ解説】見世物としての搾取
(C)2021 UNIVERSAL STUDIOS
ジョーダン・ピール監督は、エンタメとしての映画の面白さの裏に社会批判をしっかりと描く作家性が印象的な監督。
『ゲット・アウト』では人種差別を、『アス』では格差社会を根底にしていましたが、本作『NOPE ノープ』で描かれるのは、「見世物のとしての搾取」がテーマになっています。
ジュープとトラウマ
本作のキーポイントでもあるのが、スティーヴン・ユァン演じるジュープ。
ジュープは、かつて子役とて活躍していたものの、「ある事件」をきっかけにその後のキャリアは暗転。
現在は自身が出演した映画を元にした「ジュピターズ・クレーム」というゴールドラッシュにちなんだテーマパークを切り盛りしています。
テーマパークでの最大の見せ場が、馬蹄状の会場でUFOと接触するショーでした。
OJはジュープに馬を売って金を手にしていましたが、ジュープはその馬をUFOへのエサ(生贄)に捧げ、それを見世物として利益を得ようとしていたのです。
そんなジュープのキャリア暗転が決定的となった事件が、ホームドラマ「ゴーディ 家に帰る」です。
「ゴーディ 家に帰る」
(C)2021 UNIVERSAL STUDIOS
「ゴーディ 家に帰る」は、80〜90年代のホームドラマで、シットコム(シチュエーション・コメディ)風の番組。
『フレンズ』をイメージすればわかりやすいですね!
番組の出演者であるチンパンジーのゴーディが、番組中に暴走して出演者を襲ってしまったのでした。
ジュープは結果的にゴーディからの被害を受けずに済んだものの、一部始終を目撃し、ゴーディが目の前で射殺される姿を目の当たりにしています。
人気番組だったにもかかわらず打ち切りとなり、テレビ局によって事故も隠蔽され、ジュープのキャリア暗転が決定的となったのです。
ジュープは、この話を半ば冗談交じりに話しますが、彼の語り口とは裏腹に、そのシーンは劇中でも一番怖い場面になっています。
ゴーディの暴走、実は2009年にアメリカでほぼ同じ事故が起きています。
映画では、被害女性が顔を隠す形のベールで登場していましたが、これも実際の事件後のインタビューで同じ格好で話している様子が伺えます。
参考動画を以下に貼りますが、実際の事件は映画以上にエグいです…。
また、「ゴーディ 家に帰る」は劇中の架空番組ですが、番組紹介の映像が制作されているので合わせてチェックしてみてください。
打ち上げを見守っていた人たちは誰もが、チャレンジャー号の最悪の結末を“見上げる”形でしたね。
ハリウッド周辺の物語
『NOPE ノープ』は、UFOを描いた夏のSF大作映画でありながら、スケールはとても小さく、カリフォルニア、もっといえばハリウッド周辺の物語でした。
UFOとの攻防を描いたSF大作映画で言えば、『インデペンデンス・デイ』をイメージしますが、実際は『未知との遭遇』に近い内容の本作。
大作SF映画にありがちな、「世界を救う」話じゃないところがいいんですよね!
実際に劇中でも、UFO、Gジャンの撮影を決行するときに、デジタル撮影担当のエンジェルが「これからやろうとしていることが世界を救うことに繋がるんだよな」と確認していたことも印象的。
登場人物たちが何らかの形で、ハリウッドの映像産業に携わっているのです。
映画産業は、そのものが見世物として成り立っている産業。ハリウッドはその最たる例です。
Eadweard Muybridge, via National Gallery of Art
映画の冒頭、ハリウッドの撮影スタジオで、エメラルドが家業の背景について説明していました。
それは、19世紀にエドワード・マイブリッジが制作した「The Horse in Motion(動く馬)」という映画。
「映画の父」と呼ばれ、世界最初の映画投影装置「ズープラクシスコープ」の発明をしたマイブリッジは有名にもかかわらず、その映画に出演した馬の騎手については誰も知らず、しかもその騎手が黒人だったことも知られていないとエメラルドは語ります。
そして本作では、OJとエメラルドがその黒人騎手の子孫である設定にされています。
黒人も、調教師も、ハリウッドの映画産業を支えてきた存在。しかし彼らの名前に光が当たることはなく、無下にされている実態。昔も今も変わらない業界を皮肉ります。
ハリウッド周辺の物語にすることで、業界に見過ごされてきた人間にスポットを当てています!
Muybridge's Zoopraxiscope
オープニングシーンは、実はエイリアン・Gジャンの吸い込み口の内部を表していて、海綿状の四角形の側面から地上を見下ろした形になっており、覗き込む「ズープラクシスコープ」と重ねられます。
そんなUFOをジュープは「The Viewers(視聴者)」と呼びます。自分が見世物として「見ている」エイリアンを、逆に「見られている」表現にするところ、絶妙ですよね。
確かに、円盤の中心に空いた吸い込み口が、目のようにも見えますよね!
ジュープの物語も業界を痛烈に批判します。
子役として活躍していたジュープも、一回の事件(しかも不可抗力)でそのキャリアが暗転してしまう。いわば、業界に使い捨てされた存在。
ハリウッドの華々しい成功と、それらがもたらすスペクタクル(見世物)の裏に、個々人が抱えるトラウマや痛みがあるという事実。
近年の映画業界での告発やムーブメントをみれば誰もが感じるはず。そして、それはハリウッドだけに限ったものではないということも。
ジョーダン・ピール監督はGQのインタビューで以下のように語ります。
悪役は異世界の脅威なのです。そしてそれは、誰もが共通して持っているもの、つまりスペクタクル(見世物)との関係でもあるのです。
GQ|Jordan Peele and Keke Palmer Look to the Sky
ソーシャルメディアを中心に、現代では誰もが発信者となれる時代。それはつまり、誰もが「見るもの、見られるもの」でもあるということ。
自分が知らないことや、常識外の“未知との遭遇”を経験した時、人は「見る」好奇心という根源的な欲求に抗えるのか。
カメラマンのホルストは、その欲求に抗えずに飲み込まれてしまいましたね。
【ネタバレ考察】“最悪の奇跡”がもたらす2つの結末
(C)2021 UNIVERSAL STUDIOS
さて、ここからは劇中で登場しつつも、その意味について明かされることのなかった気になる点について考察していきます。
『NOPE ノープ』における重要キーワードが“最悪の奇跡”です。
OJとエメラルド、ジュープの“最悪の奇跡”へのアプローチによって結末が変わっていることが興味深いところでもありました。
その違いは、見世物を「見るものと見ないもの」違い。
まずは、劇中に登場した旧約聖書の意味から考察していきます。
ナホム書の引用
映画の冒頭では、旧約聖書の「ナホム書 第3章6節」の文章を引用するテロップが映し出されます。
ナホム書は、圧制的だったアッシリア帝国の陥落を予言した内容で、首都ニネヴェに対して神が裁きを下すというもの。
わたしはあなたに汚物をかけ、あなたをはずかしめ、あなたを見せものとする。
ナホム書 第3章6節
冒頭で本作のテーマである「見せもの」という言葉が使われますが、旧約聖書におけるこの一節は、神の裁きによる行為です。
さらに、第3章の4節では、神が裁きを下した理由として、以下の文章が記されています。
これは皆あでやかな遊女の恐るべき魔力と、多くの淫行のためであって、その淫行をもって諸国民を売り、その魔力をもって諸族を売り渡したものである。
ナホム書 第3章4節
ニネヴェでは、売春や魔術によって国民を支配し、敵国の相手を柱に吊るして皮を剥ぎ、見世物にしていたといいます。
これらを踏まえた上で要約すると、ナホム書では、搾取と偶像崇拝の行き着く先には破滅しかないと示しています。そしてその裁きを下すのは神であると。
テレビ番組という見世物で、チンパンジーを使い、痛い目にあう。UFOを目撃し、飼いならそうとしたり、映像に収めて一儲けしようとする。
どちらも、コントロールできない対象を支配しようと搾取した結果の罰だったのです。
思い返せば、ジョーダン・ピール監督は前作『アス』においても旧約聖書を引用していましたね!
「ゴーディ 家に帰る」での立った靴にはどんな意味が?
(C)2021 UNIVERSAL STUDIOS
「ゴーディ 家に帰る」の番組内で、直立した靴が印象的に映されていました。
あの描写についても明確な意味は描かれていませんが、どんな意味があったのでしょう。
まず、重要なこととして、「ゴーディ 家に帰る」の映像が、記録されたものではなく、ジュープの記憶を介して見ていること。
つまり、ジュープの頭の中の映像であるため、実際に靴が直立していたかは定かではないのです。
それを踏まえた上で考察すると、直立した靴には、ジュープのトラウマが偶像崇拝と見世物と変わっていく意味があったと考えられます。
ジュープは、ゴーディが暴走した大惨事において、奇跡的にゴーディからの攻撃を受けませんでした。そして後ろには、あれだけの大惨事にもかかわらず自立する靴があった。
それはまさに、“最悪の奇跡”。
ジュープはその後、映画業界でのキャリアが暗転し、トラウマであるはずのその番組を「ジュピターズ・クレーム」で有料の博物館として、自慢気に語っていました。
普通の精神状態ならそんなことはできるはずもないのですが、ジュープは“最悪の奇跡”を自らの幸運と認識していたのだと思います。
(C)2021 UNIVERSAL STUDIOS
実際には、ゴーディとの間にテーブルクロスがあったのと、直立する靴を見てゴーディと直接目を合わせなかったことが助かった理由だと思います。
「ゴーディ 家に帰る」の惨事を無傷で生き抜いたジュープは、その後UFOを発見し、それも自分なら手懐けられると思ったのでしょう。
子役で活躍したジュープは、名声という偶像に固執し、自身の悲劇的な経験を“見世物”とすることで、利益を得て、かつての人気を取り戻そうとしたのです。
ジュープは、トラウマと業界に使い捨てされたことで悲運を遂げる悲しきキャラクターでしたね…。
OJとエメラルド
(C)2021 UNIVERSAL STUDIOS
劇中で、“最悪の奇跡”の言葉が出てくるのが、父を亡くした後、OJがUFOを目撃してエメラルドに言う場面でした。
OJの父は、空からの落下物(5セント硬貨)によって運悪く死んでしまい、それを“Bad Miracle(最悪の奇跡)”と表現したOJ。
しかし、その言葉では納得がいかない気持ちを強く示し、実際に父を殺した硬貨を大事に保管している様子が伺えます。
初めはUFOを撮影することによって名声を得ることを目的としていたものの、OJの根底にはUFOを撮影して証拠として残すことが、父の死の証拠になると信じていたのでしょう。
そんな父親を殺したのが5セント硬貨というのも面白いところ。
「ニッケルオデオン」という20世紀初頭のアメリカで流行した小さい庶民的な映画館があります。
ニッケルとは、5セント硬貨の意味で、その映画館の入場料が5セントでした。人々は映画を「見る」対価として5セントを支払っていたのです。
そして最終的に、エメラルドがGジャンの姿を撮影するときに機械に入れていたのも5セント硬貨でした。
(C)2021 UNIVERSAL STUDIOS
エメラルドを逃がすために囮となったOJでしたが、ラストカットではエメラルドの前に馬にまたがって幻想的に現れています。
その姿は、まさに「The Horse in Motion」の黒人騎手さながら。
OJはエイリアンのGジャンから逃げ切って、生き延びたのか。それともOJの姿は、エメラルドの幻想なのか。その判断は観客の想像に委ねられます。
この描き方も絶妙ですよね!
OJがいる場所には、「OUT YONDER」のサインがあります。これが意味するのは、「はるか遠くの場所」。何を意味するのかは、何が「見たいか」視聴者次第ということ…。
「NOPE」の意味
本作のタイトル、『NOPE』ですが、否定する言葉としての意味や、恐怖や受け付けないものに対して「ムリ!」と反応するときに使ったりします。
ジョーダン・ピール監督は、ホラー映画に対する「ムリ!」という反応に遊び心を込めてタイトル化したと話しています。
実際、ホラー映画に見せかけたSF映画でしたからね!
ほかの意味を考えてみると、劇中で「NOPE」という言葉は数回使われますが、どのシーンでもニュアンスは「エイリアンというありえない対象への手に負えなさ」を感じました。
『NOPE ノープ』でエイリアンに殺されたのは、ジュープとカメラマンのホルスト、TMZの記者の3人。
彼らは「見せる」ためにスペクタクル(見世物)を追い求めた結果、食べられてしまいました。一方で、その見世物を「見る」観客も一緒に食べられています。
映画では、そんなスペクタクルへ執着するあまり、自分の体の危険や、ほかの人を危険に巻き込むことに対して無頓着な姿が描かれています。
エイリアンに食べられない方法は、エイリアンを「見ない」こと。
ソーシャルメディアでは、毎日のように情報が拡散され、日々スペクタクル(見世物)にあふれています。
『NOPE ノープ』では、そんな情報化社会で「見る」「見ない」という選択を持った私たち“The Viewers(視聴者)”に「あなたはどうするか」と問いかけているような気がしました。
【ネタバレ解説】細かいオマージュや補足情報
最後に、映画で登場した細かいオマージュなどの描写について紹介します。
衣装の色から見る運命
(C)2021 UNIVERSAL STUDIOS
『NOPE ノープ』では、キャラクターが着用している衣装の色が明確に意味を持っていたように感じます。
ダニエル・カルーヤ演じるOJは、「スコーピオン・キング」のオレンジ色パーカーが印象的でした。
これは、OJ(オーティス・ジュニア)という名前が、「Orange Juice(オレンジジュース)」にかけられています。加えて父親の名前を受け継いでいることも、名もなき黒人の話とリンクしますね。
同様に、エメラルドも宝石のエメラルドに由来しているのか、緑色の服を着用していましたね。
ジョーダン・ピール監督がインスピレーション映画の一つとして挙げている『オズの魔法使い』の、ドロシーの最終目的地の名前も「エメラルド・シティ」でしたね。
一方、赤いジャケットを着用していたジュープは、最終的にエイリアンに食べられることになり、赤=血を彷彿とさせる意味合いが感じられます。
スティーブン・スピルバーグ関連オマージュ
(C)2021 UNIVERSAL STUDIOS
ジョーダン・ピール監督は、スティーブン・スピルバーグ監督へのリスペクトを明言していて、スピルバーグが『未知との遭遇』や『ジョーズ』を作り出した情熱を『NOPE ノープ』のインスピレーションとして参考にしていると話していました。
その影響もあってか、スピルバーグ映画へのオマージュが見られるのも印象的。
「ゴーディ 家に帰る」の上図シーンは、『E.T.』の名シーンをオマージュしています。
飼い慣らすべきでない相手をコントロールしようとするのは、『ジュラシック・パーク』で恐竜にしようとしていたことと同じでした。
また、序盤は姿を見せずに最後になってエイリアンの全体像が明らかになる構成は『ジョーズ』を彷彿とさせ、倒し方も、風船による爆発と、水中タンクの爆発という点でリンクします。
(C)2021 UNIVERSAL STUDIOS
ジュープの子どもたちが使っていた、エイリアンの被り物も『未知との遭遇』のエイリアンにそっくりでした。
本当に監督のスピルバーグへの尊敬の念が感じられますよね!
『AKIRA アキラ』オマージュ
(C)2021 UNIVERSAL STUDIOS
日本人にとって馴染みの深い『AKIRA アキラ』の名シーンもオマージュされていましたね。
オプラ・ショット
OJとエメラルドがUFO・エイリアンの決定的な写真を撮ることを「The Oprah Shot(オプラ・ショット)」と呼んでいました。
これは、アメリカのトーク番組史上最高の番組と評価された、オプラ・ウィンフリーが司会を務める番組『オプラ・ウィンフリー・ショー』に由来しています。
オプラ・ウィンフリーは、アメリカの歴史で最も偉大な黒人の慈善家のひとりと言われています。
ポスターデザイン
(C)2021 UNIVERSAL STUDIOS
余談ですが、ポスターデザインも秀逸でしたね。
左のスティーヴン・ユァンのポスターは、ジュープの被る帽子がエイリアンの造形と同じで、それに取り込まれたジュープの運命も暗示させます。
右のドルビーシネマポスターは、ジュープの衣装の背中デザインになっていて、両側の花がエイリアン・Gジャンの第2形態にそっくりです。
この衣装の白い花は蓮(ハス)だと思います。「白いハス=white lotus」ということで、本作の衣装デザインを手掛けたアレックス・ボーベアードは、HBOドラマ『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』の衣装デザインも手掛けているので、これは偶然なのか、面白いところ。
タイトルクレジット
『NOPE ノープ』の物語では、登場する生物の名前をタイトルカードによって章立てされていました。
- Ghost(ゴースト)
- Clover(クローバー)
- Gordy(ゴーディ)
- Lucky(ラッキー)
- Jean Jacket(Gジャン)
このタイトルは、本作が見世物として搾取されてきた「名もなきものにスポットを当てる」ことを描いた作品であり、飼い慣らそうと搾取された者たちに監督が章立てして名前を残しているのだと考えられます。
つくづく粋な演出でした!
まとめ:見るもの、見られるものの根源的な欲求をあぶり出す意欲作
今回は、ジョーダン・ピール監督×ダニエル・カルーヤ主演のスリラー映画『NOPE ノープ』をご紹介しました。
ホラー映画と思いきや、夏の大作SF映画を表面に、その背景に、ハリウッドをはじめとした痛烈な社会批判が描かれていました。
人間は、スペクタクル(見世物)のために、危険を犯してしまう。
映画という見世物を通して「見るもの、見られるもの」の人間の根源的な欲求をあぶり出す意欲作。
撮影監督ホイテ・ヴァン・ホイテマによるIMAXフィルムカメラで撮影した見ごたえのある映像は、過去最大の製作費をかけた、まさに壮大なスペクタクル(見世物)。
映画の内容と、映画自体のメタ的なリンクも絶妙で、ジョーダン・ピール監督らしいこだわりがしっかり伺える映画でした。
すでに次回作が待ち遠しい!
ジョーダン・ピール監督の過去作は、U-NEXTで視聴できますので、あわせてチェックしてみてください。
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【邦画】日本の面白いホラー・サイコスリラー映画10選