今回ご紹介する映画は『X エックス』です。
タイ・ウェスト監督×ミア・ゴス主演、史上最高齢の殺人鬼夫婦が住む屋敷に足を踏み入れてしまった3組のカップルの運命を描くホラー映画。
本記事では、ネタバレありで『X エックス』を観た感想・考察、あらすじを解説。
A24による新たなホラー映画の誕生です!
映画『X エックス』の作品情報とあらすじ
『X エックス』
5段階評価
ストーリー :
キャラクター:
映像・音楽 :
エンタメ度 :
あらすじ
1979年、テキサス。映画でひと山当てようと田舎の農場に撮影に向かう3組のカップル。農場に到着し、みすぼらしい老人・ハワードに納屋へと案内されるなか、カップルの1人、マキシーンは、母屋の窓から見つめるハワードの妻・パールと目が合ってしまう…。
作品情報
タイトル | X エックス |
原題 | X |
監督 | タイ・ウェスト |
脚本 | タイ・ウェスト |
出演 | ミア・ゴス ジェナ・オルテガ マーティン・ヘンダーソン ブリタニー・スノウ |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2022年 |
上映時間 | 105分 |
予告編
↓クリックでYouTube が開きます↓
配信サイトで視聴する
配信サイト | 配信状況 |
---|---|
31日間無料/600ポイントGET 今すぐ無料でお試しする | |
見放題 30日間無料/学生は半年無料 今すぐみる | |
見放題 今すぐ見る |
映画『X エックス』のキャスト・キャラクター
キャラクター | キャスト/役柄 |
---|---|
マキシーン(ミア・ゴス) ポルノ映画でスターを夢見る。ウェインは恋人。 | |
ロレイン(ジェナ・オルテガ) ポルノ映画の撮影では音響担当。RJは恋人。 | |
ウェイン(マーティン・ヘンダーソン) 自主制作ポルノ映画のプロデューサー。マキシーンは恋人。 | |
ボビー=リン(ブリタニー・スノウ) RJのポルノ映画の出演者の女優。ジャクソンは恋人。 | |
ジャクソン(スコット・メスカディ) RJのポルノ映画の出演者の男優。ボビー=リンは恋人。 | |
RJ(オーウェン・キャンベル) 自主制作ポルノ映画の監督。ロレインは恋人。 | |
ハワード(スティーヴン・ユーレ) 農場を営む老父。 | |
パール(ミア・ゴス) 農場を営む老婆。 |
ネタバレあり
以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ラストまでネタバレ】映画『X エックス』のあらすじ解説
(C)2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.
映画は、1979年、デントラー保安官(ジェームズ・ゲイリン)が、ある屋敷で起きた凄惨な事件現場に到着するところから始まる。家の前には死体が転がり、玄関には血で赤く染まり、手斧がポーチに突き刺さっている。
家の中に入ると、テレビでは宗教番組が流れていた。副保安官から「これを見てください」と言われて地下に向かうと、その光景にデントラーは呆然とするしかなかった。
ポルノ映画の撮影
(C)2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.
事件の1日前、女優志望のマキシーン(ミア・ゴス)は、テキサス州ヒューストンでポルノ映画『The Farmer's Daughter』の撮影の準備をしていた。
恋人でプロデューサーのウェイン(マーティン・ヘンダーソン)、脚本家兼監督のRJ(オーウェン・キャンベル)、恋人で音響担当のロレイン(ジェナ・オルテガ)、俳優でカップルのボビー=リン(ブリタニー・スノウ)とジャクソン(スコット・メスカディ)の6人で撮影を行うために車で出発した。
ボビー=リンとジャクソンは道中でイチャイチャし始める一方、RJは作品を芸術的に見せようと語るが、ロレインには響いていなかった。
撮影場所の農場に到着し、ウェインがオーナーのハワード(スティーブン・ユーレ)に話を聞きに行くと、ライフル銃を向けて出迎える。事前に話を通していると伝えてなだめ、撮影の準備に取りかかる。マキシーンは、ハワードの妻パール(同じくミア・ゴス)が窓から見ていることに気づく。
ハワードとパール
(C)2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.
撮影が始まる前、マキシーンは近くの湖を裸で泳いでいるが、湖にワニがいることに彼女は気づかない。その様子を遠く見守っていたパールはその後、マキシーンに言い寄るが、彼女はハワードが帰宅した隙を見て屋敷を逃げ出していく。
撮影はジャクソンとボビー=リンのセックスシーンからスタートし、次のシーンでは、マキシンがジャクソンと体を重ねる。パールはその様子を外から見ていて、自分のことのように興奮した様子を見せる。
パールはその後、ハワードとセックスをしようと持ちかけるが、ハワードは心臓に負担がかかると言って断る。
その夜、ゲストハウスでくつろぎ、雑談をする中で、ロレインが映画に出演したいと言い出す。RJは断るものの、ほかのメンバーは受け入れ、ロレインが単に音を録るだけでなく、実際に映画の一部になりたいと考えていることから、渋々ロレインの出演を許可する。
ロレインの撮影後、RJはシャワーを浴びに行きショックで涙を流す。彼は仲間が寝ている間に撮影現場から逃げ出そうとして車を出すと、パールが道に立っているのを見て立ち止まる。
RJがパールに声をかけると、彼女が自分にすり寄ってこようしたため、それを拒絶すると、パールはRJの首をナイフで突き刺し、血飛沫をあげながら何度も繰り返して突き刺して殺害する。
血まみれの夜
(C)2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.
RJがいなくなったことに気づいたロレインがウェインと一緒に探しに行く。ウェインが納屋を捜索していると、裸足のまま釘を踏んでしまう。その後、何かが動いているのを見て納屋の扉の穴から覗こうとすると、パールに熊手で目を突き刺されて殺される。
一方、ロレインは、パールが行方不明になったと主張するハワードに屋敷に招かれる。ロレインは、ハワードに言われて懐中電灯を取りに地下室へ向かうと、そこには天吊りされた男の死体があり、叫び声を上げて逃げようとするが地下室に閉じ込められてしまう。
ハワードはゲストハウスへ行くと、ジャクソンにパールを探すのを手伝うように頼む。2人は湖の周辺を探していると、ジャクソンは水中に沈んだ車を発見する。しかし、ハワードは突然ショットガンでジャクソンの胸を撃ち抜いて殺害する。
その頃、パールはゲストハウスのマキシーンのベッドに潜り込み、血まみれの手で彼女の体を触ると、マキシーンは目を覚ます。気づいたボビー=リンが悲鳴を上げる。ロレインは手斧を使って地下室のドアの一部を破り、鍵を開けようとするが、ハワードに斧で指を切られてしまう。
ボビー=リンは、湖に向かったパールを認知症だと思い助けようと向かうが、パールに罵倒されて湖に突き落とされ、ワニに食べられてしまう。
マキシーンとパール
(C)2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.
パールとハワードがゲストハウスに戻ってくると、2人はセックスし始め、マキシーンはベッドの下で息を殺して身を潜める。
マキシーンは抜け出して車に向かうと、タイヤは切り裂かれ、近くにRJの首なし死体を発見して驚くも、彼女はダッシュボックスから銃を手にし、屋敷に入って地下室のロレインを解放する。
ロレインは一連の事件をマキシーンのせいにし、家から逃げ出そうと飛び出ると、やってきたハワードにショットガンで頭を撃ち抜かれる。ハワードがロレインの体を運ぼうとすると、瀕死のロレインが痙攣を起こし、それに驚いたハワードが心臓発作を起こして死亡する。
マキシーンはハワードの車のキーを手に入れると、テレビで流れる宗教伝道師の映像と同じく「私は私にふさわしい人生を手に入れる!」と言って撃とうとするも、弾が入っていないことに気づく。
一方、パールはマキシンに向けてショットガンを撃つも外れ、その反動で家の外に吹き飛び、腰の骨を折る。パールは痛みに耐えながらマキシーンに助けを求めるが、彼女は拒否する。
マキシンはパールに罵られながら車に乗り込むと、彼女の頭を轢いて去っていく。
翌日、デントラー保安官が到着し、遺体を発見する。屋敷で流れていた伝道師の映像では、マキシーンがその狂信的なキリスト教伝道師の娘であることが明らかになる。
副保安官がRJのカメラを発見し、その中身についてデントラーに尋ねると、彼は「クソッタレなホラー映画の映像だろう」というのだった。
【ネタバレ感想・考察】ホラー映画と芸術
(C)2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.
アメリカではA24作品などを中心に巻き起こる新たなホラー映画の潮流を「プレステージ・ホラー(Prestige Horror)」、つまり「高尚なホラー映画」と呼んでいます。ジャンスプスアではないホラー映画や、ほかの多くのジャンルをブレンドしたホラー作品がこれに当たると言われていて、『ヘレディタリー 継承』『ミッドサマー』『ゲット・アウト』『アス』などが挙げられます。
本作『X エックス』もまさにその流れを汲むホラー映画となっていて、ホラー映画の中で、ポルノ映画の撮影クルーの様子を描く内容と主人公の変化を通して、映画という芸術のあり方と、自己肯定のテーマ性がみられました。
1979年の時代設定と、その背景にあるアメリカの歴史からテーマを考察していきます。
ポルノの黄金時代
1969年から1984年、アメリカの商業ポルノにおける15年間は「ポルノの黄金時代」と呼ばれ、露骨な性描写がある映画が映画評論家や大衆から評価され、人気を博しました。別名「ポルノシック」とも言われ、低予算のポルノ映画の興行収入が莫大な利益をもたらし、ハリウッド映画に迫る競争力となっていました。
ポルノ映画に出演した俳優は「ポルノスター」と呼ばれる一方で、ポルノ出演者に対する扱いは酷く、ポルノ出演がバレると俳優としての未来は絶たれることも少なくありませんでした。
収益性の高いポルノ映画は、反社会勢力が製作資金に関与したりなど、多くの問題を孕んでいましたが、結果的にポルノの黄金時代は、1980年代初頭のホームビデオの普及によって終焉を迎えました。
ホラー映画は血、ポルノ映画はセックスか
ポルノの黄金時代の始まりと言われるのが、アンディー・ウォーホルのポルノ映画『ブルー・ムービー』です。ポルノ映画と芸術性という意味で、本作のRJが目指すものとリンクします。
劇中の映画監督のRJは、ポルノ映画を撮る上で、前衛的で芸術的な作品を撮りたいと意欲を見せますが、それに対してプロデューサーのウェインは、「ポルノ映画に求められるのはセックスだろ」と言っています。
この言葉がとても重要で、本作はホラー映画の枠組みでポルノの黄金時代を背景に描いているのです。このメタ的な視点が面白く、ホラー映画が“高尚な”表現として評価される近年の潮流と重なり、「ホラー映画やポルノ映画に芸術性が必要か」という問いを投げかけつつ、本作『X エックス』自体がそれを体現しているのです。
ポルノ映画に芸術性を求めていたRJが最初に殺されたことは、「芸術性なんて必要ない」と思わせる一方で、血しぶきを車のヘッドライトで表現する芸術性をもたせているのです。
ラストシーンでは、凄惨な現場を目の当たりにしたデントラー保安官が、撮影フィルムに対して「クソッタレなホラー映画だろ」と言っていましたが、RJたちが撮影していたのはポルノ映画という点も同様で、メタ的な視点で映画制作と芸術性について見つめる描き方は本当に見事でした。
さらに、映像的にもそれは顕著です。上記の冒頭シーンを観ると、ゲストハウスの扉を使って映像の画角を狭め、段々とアスペクト比(画面の縦横比)が広がっていく演出になっています。
かつての家庭用テレビの主流だった画面比率3:4(1:1.33)から、現代の映画の一般的なサイズに切り替わるのです。本作でオマージュされている『シャイニング』も当時の映像は3:4であり、屋敷の宣教師が映るテレビはまさに3:4です。
これらも1979年を舞台にした現代のホラー映画という点で、非常に優れた演出として働いていました。
徹底したメタ的な視点がうますぎます…!
【ネタバレ感想・考察】マキシーンが自分に打ち勝つ物語
(C)2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.
『X エックス』のもう一つのテーマは、主人公マキシーンの変化です。
自分自身への勝利
マキシーンは、夢だったダンサーでは仕事にならず、ポルノ映画に自分の価値を見出そうとしてしていました。マキシーンは農場で出会う老婆パールに気に入られますが、このパールを演じているのもマキシーンと同じミア・ゴスであることは誰もが膝を打ったことでしょう。
若くて魅力的なマキシーンに対して、老いたパールは夫にセックスも拒まれていました。パールは執拗にマキシーンに接触し、若さへの羨望と彼女に自分を投影する姿が印象的でした。
ラストシーンで、マキシーンは屋敷で流れていた宣教師の娘であることが明らかになります。宣教師は「娘は悪魔の手中にある」と言っていましたが、狂信的なキリスト教の宣教師の父にとって、家族である娘がポルノ映画に出演するということは耐え難いのです。
つまり、あの映像は父親から娘に向けられた「帰ってこい」というメッセージが込められていたのです。
「私は私にふさわしくない人生を受け入れない。」
“I will not accept a life I do not deserve.”
映像の中で、宣教師は上記の言葉を唱えるように語りかけていました。
物語の終盤、パールはマキシーンに「あんたも結局私と同じ様になる」と言いましたが、それに対してマキシーンは「私はスターになって世界中が名前を知ることになる」と言い返しました。
そして上記の宣教師の父と同じセリフを言うのです。それは自分の意思で自分の将来を掴み取る明確な気持ちの現われであり、同じ自分が演じる老婆のパールを車で轢き殺し、自分自身に勝利したのです。
『X エックス』の映画で登場したオマージュ
『X エックス』には、ホラーや名作映画のオマージュと思われるシーンが多数みられます。最後に、以下ではそれらを解説していきます。
『サイコ』(1960)
本作で最もオマージュされているのが、アルフレッド・ヒッチコック監督の名作サイコホラー映画『サイコ』。ノーマン・ベイツ(アンソニー・パーキンス)がマリオン(ジャネット・リー)の服を脱いでいる様子を覗き穴で見ているシーンは、本作で、牛舎で目を串刺しにされるシーンで同様のシーンが描かれています。
同様に、『サイコ』におけるマリオンの妹ライラ(ヴェラ・マイルズ)がノーマンの地下室で死体を発見する場面は、本作のロレインが地下室で死体を発見する場面でオマージュされています。(電球が揺れるところまで一緒ですね)
さらに、ノーマンが車を沼に沈めて証拠隠滅するシーンは、ハワード夫婦が同様の行動を取っており、一見すると無害な老女が実は殺人鬼だったというアイデアも『サイコ』と重なります。
劇中で、ロレイン自身がポルノ映画に出演したいと申し出たときに『サイコ』を引き合いに出していることも印象的。
『悪魔のいけにえ』(1974)
全体のプロットとして最も近いのが、トビー・フーパー監督の名作ホラー『悪魔のいけにえ』です。バンに乗ってテキサス州にやってきた若者たちが、レザーフェイスの住む屋敷を訪問するという流れは、本作の導入部分と重なります。
『シャイニング』(1980)
スタンリー・キューブリック監督のサイコホラー映画『シャイニング』を意識したシーンもありました。
ハワード夫妻の屋敷の地下室に閉じ込められたロレインが、手斧でドアを切り裂いて逃げようとするシーンは、ジャック(ジャック・ニコルソン)とウェンディ(シェリー・デュヴァル)のシーンのオマージュ。
ドアを開けようとして手を斬られるところまで同じですが、本作と『シャイニング』では立場が逆転しているのも面白いところ。
『アリゲーター』(1980)
ルイス・ティーグ監督のパニック映画『アリゲーター』のオマージュもみられます。
ボビー=リンが沼へ突き落とされてワニに喰い殺されるシーンは、『アリゲーター』における少年がプールに落とされてワニに殺されるシーンと同じです。
『ブレインデッド』(1992)
ピーター・ジャクソン監督のスプラッター映画『ブレインデッド』へのオマージュもありました。
RJがパールからの誘惑を拒否した後に殺されるシーンでは、脳みそを飛び散らせていましたが、映画このシーンの特殊撮影やミア・ゴスの特殊メイクに、本作のタイ・ウェスト監督は、ピーター・ジャクソン監督が設立したスタジオのウェタ・ワークショップを利用しています。
X Horror Prosthetics|WETA WORKSHOP
『ブギーナイツ』(1997)
ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ブギーナイツ』を彷彿とさせるシーンもありました。
映画の冒頭で、マキシーンがこれから撮影する映画に向けて気合をいれるために、楽屋で自分の姿を見つめて「私はスターだ」と言い聞かせるシーンが描かれますが、これは『ブギーナイツ』におけるエンディングシーンのオマージュ。
『ブギーナイツ』は、実在したポルノ男優のジョン・ホームズをモデルにした映画で、主人公のダーク・ディグラー(マーク・ウォールバーグ)の同様のシーンと重なります。
まとめ:ホラー映画に高尚な要素は必要か
今回は、A24によるホラー映画『X エックス』をご紹介しました。
『悪魔のいけにえ』『シャイニング』『サイコ』『悪魔の沼』など、オマージュにも溢れていて、純粋にホラー映画として楽しめる一方で、その背景にあるテーマの深さがとても面白い作品でした。
昨今ではホラー映画の中の芸術性に光を当たることも多く、A24やブラムハウスなどを筆頭にいろんな作品が生まれています。
『X エックス』は、メタ的な視座でホラー映画を見つめつつ、映画と芸術、自己肯定というテーマを描くタイ・ウェスト監督の手腕に驚かされました。
ミア・ゴス主演によるA24初の3部作シリーズとなる予定で、続編の『Pearl パール』が控えています。続編の公開が待ち遠しいです。
【ネタバレ考察】ジェイソンは〇〇?映画『Us アス』徹底解説
【ネタバレ感想】『ミッドサマー』はグロい怖い?【いや、不快です】
映画『透明人間』ネタバレ感想・考察・あらすじ解説|ラストのどんでん返しだけじゃない怖さと面白さ