この穴は、私たちが住む世界の冷酷な非人間化を反映している。
Digital Spyによる監督インタビュー
今回ご紹介する映画は『プラットフォーム』です。
この映画、公開するやいなやSNS等で「気持ち悪い」「グロい」「意味不明」などと話題となりましたが、映画は資本主義における不平等や人間の本性を鋭く風刺した作品でもあります。
本記事では、ネタバレありで『プラットフォーム』を観た感想・考察、あらすじを解説。
確かに「気持ち悪い」作品であるのは間違いないですが、作品全体がメタファーに満ちた意欲作でした!
続編『プラットフォーム2』は以下の記事で詳しく解説・考察しています。
『プラットフォーム』作品情報・配信・予告・評価
『プラットフォーム』
あらすじ
"穴"と呼ばれる、無数の階層からなる施設。各部屋には2人。ここに住む者たちにあてがわれるのは、1日に1度、上層階から順に降りてくる巨大な台座に載せられた食べ物のみ。
5段階評価
予告編
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作品情報
タイトル | プラットフォーム |
原題 | El hoyo |
監督 | ガルデル・ガステル=ウルティア |
脚本 | ダビド・デソーラ、ペドロ・リベロ |
出演 | イバン・マサゲ、アントニア・サン・フアン |
音楽 | アランサス・カジェハ |
撮影 | ジョン・D・ドミンゲス |
編集 | アリッツ・ズビリャガ エレーナ・ルイス |
製作国 | スペイン |
製作年 | 2019年 |
上映時間 | 94分 |
動画配信サービス
『プラットフォーム』相関図・キャラクター・キャスト解説
ネタバレあり
以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
『プラットフォーム』のルール・設定
『プラットフォーム』の舞台となるのは、「垂直自主管理センター(通称“VSC”)」と呼ばれる刑務所施設。中に居住している囚人たちからは、「穴(the pit)」と呼ばれています。
まずは、映画『プラットフォーム』での「穴」のルールと特徴を整理したうえで、考察していきます。
資本主義・格差社会への風刺
(C)BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE
『プラットフォーム』は、構造だけを見るとポン・ジュノ監督の『スノーピアサー』や『パラサイト 半地下の家族』に近い作品のように思えますが、それらの作品や近年の格差社会を風刺する「イート・ザ・リッチ」の物語とは異なる切り口で、資本主義社会や格差を風刺する作品となっています。
毎日、食料が中央の「穴」を通じて降りてきますが、食料は上層階から順に提供されるため、上の階の囚人が食べ残したものが下の階の囚人に届きます。もちろん、下に行くほど食べ物は少なくなります。視覚的に「持てる者と持たざる者」を映像化しているのです。
トマ・ピケティらが運営する世界不平等研究所の調査によると、世界の上位1%の富裕層が持つ総資産は、世界全体の個人資産の37.8%を占めています。
さらに、世界の上位0.1%が、世界の19.4%の資産を持っており、対照的に、世界の下位50%が持つ資産をすべて合わせても、世界全体の資産の2%に過ぎないのです。
映画で描かれている、上層階の人間が食べ物を独占する様子は、現実世界を反映するようなものです。
SDGsの17の目標のひとつに「人や国の不平等をなくそう」があります。現代はすでに貧困を根絶できるだけの資源は存在すると言っても過言ではありませんが、単に富を再分配するだけでは貧困の根本的な問題を解決するには不十分です。
本作『プラットフォーム』は、高層構造の施設を舞台に、社会的な不平等と人間の本性を鋭く描き出し、強烈なメッセージを投げかける作品でした。
【キャラクター考察】何が言いたい映画だったのか
この映画は、誰かを特に悪い人や良い人として描いているわけではありません。自分がレベル200やレベル48にいたらどうするかを問うているのです。連帯感の限界と、レベル10で快適に過ごしているときには善人でいるのがいかに簡単か、しかしレベル182ではそうすることがいかに難しいかについて描いています。
Digital Spy
監督がインタビューで語ったように、『プラットフォーム』で描かれているテーマの一つは、人々の考え方や価値観が、その人が置かれた経済的・社会的立場によって大きく変わるということです。以下では、映画に登場したキャラクターごとに、その特徴と意味を考察していきます。
トリマガシと貧困層
(C)BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE
主人公のゴレンが施設内で最初に同部屋となるのが、老人男性のトリマガシです。
トリマガシは、ゴレンから「穴」の情報を尋ねられますが、最初は答えることに乗り気ではなく、何か情報を教えても「話すと疲れる」「不公平だ」と言います。
これは、資本主義におけるギブ・アンド・テイクの関係を反映しているようで、コンクリートに囲まれた何もない刑務所の中ですら、施しはなく、言葉(情報)に対して見返りを求める姿勢が見られます。
さらに、トリマガシの口癖である「明らかだ」という言葉には、「暗黙のルール」に従い、疑問を持たずに状況を受け入れるようなニュアンスが感じられます。
なぜ彼らが刑務所の中にいるのか、最下層がどこまで続くのか、なぜ食べ物が降りてくるのか、施設の目的は何なのか。ただ従うしかないのです。
トリマガシというキャラクターが映し出しているのは、格差社会における「貧困層」の姿です。貧困層は、日々の生活の維持が最優先となるため、制度の改革や将来の自己実現よりも、当面の生存や基本的なニーズの充足が主な関心事となります。
そのため、彼が持参した包丁や、ゴレンの肉を切って食べようとした行動も、生き延びるための実用的な手段として描かれています。
トリマガシは貧しい老人で、刑務所から出るために、ただ生き延びたいと思っている風変わりで面白い男だ。
確かに、彼にはサディスティックな傾向があるが、彼は基本的に、私たちの誰もがそうするように、生き残るために必要なことをしているだけだ。結局のところ、トリマガシはゴレンよりも観客を代表しているのかもしれない。
Digital Spy
ゴレンと理想主義
(C)BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE
主人公のゴレンというキャラクターに注目してみましょう。ゴレンは自ら志願して「穴」に入り、6ヶ月間を耐え抜くことで「認定証」を得て、外の暮らしを有利にするつもりでした。彼は1つだけ持ち込むことができるアイテムにセルバンテスの『ドン・キホーテ』の本を選びました。
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『ドン・キホーテ』は、騎士道精神に取り憑かれた男が、社会の失われた騎士道精神を復活させようとする物語。簡単に言えば、時代遅れの価値観に囚われた人を描いた作品とも言えます。
他の囚人たちが、武器となるナイフや刀、生活のための道具や犬など、利己的なアイテムを持ち込む中で、ゴレンが選んだ「本」というアイテムは、彼の思想や哲学を反映させていると考察できます。
ゴレンというキャラクターが映しているのは、「理想主義」です。彼は刑務所のシステムに抗い、変革を求める「救世主(メシア)」のように描かれています。しかし、それは理想主義とも言えるでしょう。
冒頭から資本主義への批判があるかもしれないが、ゴレンとバハラトが他の囚人たちに喜んで食べ物を分け与えるよう説得するために社会主義を試した途端、彼らが助けようとした人々の半分を殺してしまうことになる。
ゴレンはパンナコッタと子供を最下層に引きずり下ろすという、彼がやろうとしたことをやってのけたが、食べ物を分け与えるということに関しては誰の心も変えられなかった。
Digital Spy
イモギリと特権階級
(C)BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE
「穴」こと、VSCの管理人として登場するのがイモギリという女性です。イモギリのキャラクターが映しているのは、「特権階級の無自覚さ」です。
彼女はVSCの管理人という特権的な立場にいる人物で、彼女が持ち込んだのはダックスフンドの犬でした。これは、彼女が「穴」のシステムやその内側を知る立場であるからこその選択であり、犬は「仲間意識」を象徴しているとも言えます。
実際に、イモギリは「自発的な連帯感」さえあれば、全員に食料が行き渡り、システムを打破できると考えていました。しかし、それは内部の生活をしたことがない、特権を持つ人々の理想論に過ぎなかったのです。
結果的に、イモギリはミハルに犬を殺されたこと、200階よりも下にさらに階が存在することを知って絶望し、その後、自ら命を絶ちました。VSCの管理人であった彼女ですら、上層部から偽りの情報を与えられ、利用される組織の歯車に過ぎなかったのです。
実はラストシーンと少女はゴレンの幻想だった
(C)BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE
ゴレンとバハラトがパンナコッタを守りながら最下層まで降りようとする計画の中で、2人は負傷しながらも333階にたどり着きます。そこには、アジア系と思われる少女がいました。
劇中で登場する最下層であるにもかかわらず、少女の見た目は健康そうで、不潔感もありません。一体彼女は何者なのか。
一見すると、彼女はミハルの子供とも考えられますが、劇中ではミハルの子供は息子だと語られていること、またイモギリがミハルに子供はいなかったと述べていることから、違うと考えるのが妥当でしょう。
実は、監督は映画の結末について、その解釈を明かしています。
私にとっては、最下層は存在しない。ゴレンは到着する前に死んでいて、これは彼がやらなければならないと感じたことの解釈に過ぎない。
Digital Spy
つまり、ゴレンが最後に出会った少女は、彼の死後に見た理想の解釈だったのです。少女は、子供(若い世代)という希望の象徴とも考えられます。
ゴレンはトリマガシの幻想に止められ、少女と一緒に行かないことも、ゴレンがすでに施設内の生活で
気味が悪く、胸が悪くなるような映画の中で、唯一希望が残るラストシーンでしたが、それが幻想だとすると、実際には何が起こったのか。以下で考察します。
パンナコッタの意味
(C)BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE
映画の途中では、0階で料理を作るシェフたちの様子が部分的に映し出されます。料理長らしき人物が、パンナコッタに髪の毛が混入していることに気づき、シェフたちを怒鳴り散らすシーンが描かれています。
このシーンは、2つの解釈が可能です。
- ゴレンとバハラトがパンナコッタを守り抜き、0階へ送り届けた後のシーン
- ゴレンとバハラトがパンナコッタをメッセージにしようとする前のシーン
そして、どちらの解釈においても共通する意味があります。それは、0階の人々がVSCの施設内での人間たちの生活に対して、全く無関心であるということ。
つまり、0階にいる特権階級の人々にとって、VSC施設に収容されている人々の存在は認識しているものの、彼らが気にしているのは食事の準備(つまり自分たちの問題)だけなのです。
たとえ、ゴレンとバハラトが守り抜いたパンナコッタが「メッセージ」として0階に届いたとしても、それは2人が意図したメッセージとして伝わらないのです。
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