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ヒューマンドラマ

【ネタバレ考察】『聖なる犯罪者』ラストの衝撃と揺さぶられる善悪の価値観

今回ご紹介する映画は『聖なる犯罪者』です。

ポーランド出身のヤン・コマサ監督による作品で、若者が3ヶ月の間、神父になりすましていた実話を元にした映画。

本記事では、ネタバレありで『聖なる犯罪者』を観た感想・考察、あらすじを解説。

まめもやし
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静かな作品ですが、価値観を揺さぶるような力強い作品になっていました!

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『聖なる犯罪者』作品情報・配信・予告・評価

『聖なる犯罪者』

聖なる犯罪者

あらすじ

少年院を仮釈放したダニエルは、前科者が聖職者になれないと知りながら、田舎町の教会で新任の司祭と名乗ってしまう…。

5段階評価

予告編

↓クリックでYouTube が開きます↓

作品情報

タイトル聖なる犯罪者
原題Boże Ciało
監督ヤン・コマサ
脚本マテウシュ・パツェビチュ
出演バルトシュ・ヴィエレニア
音楽エフゲニー・ガルペリン
サーシャ・ガルペリン
撮影ピョートル・ソボチンスキ・Jr.
編集プシェミスワフ・フルシチェレフスキ
製作国ポーランド・フランス
製作年2019年
上映時間115分

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『聖なる犯罪者』監督・スタッフ

監督:ヤン・コマサ

Jan Komasa

出典:https://www.imdb.com/

主な監督作

  • 『ログアウト』
  • 『リベリオン ワルシャワ大攻防戦』

本作の監督を務めたのは、ポーランド出身の世界が注目する新鋭、ヤン・コマサ監督

劇場3作目となる本作は、ポーランドのアカデミー賞で11部門に輝き、第92回のアカデミー賞では、国際長編映画賞にもノミネートされています(受賞は『パラサイト 半地下の家族』)。

パラサイト 半地下の家族
【ネタバレ解説】『パラサイト 半地下の家族』岩や階段、エロのモチーフが現す格差

Netflixで配信中の最新作『ヘイター』では、SNSでの中傷で成功を収めた若者が歩む暗い影を描いています。『ヘイター』も、本作の脚本でもあるマテウシュ・パツェビチュが担当している作品なので要チェックです。

『聖なる犯罪者』キャスト・キャラクター

キャスト役名
バルトシュ・ビィエレニアダニエル
エリーザ・リチェムブルマルタ
アレクサンドラ・コニェチュナリディア
トマシュ・ジィェンテクビンチェル
レシェク・リホタバルケビッチ
ルカース・シムラットトマシュ

バルトシュ・ビィエレニア

Bartosz Bielenia

主演を務めたのは、28歳のバルトシュ・ビィエレニア

7歳で『星の王子様』の主役を務め、シェイクスピアなどの舞台に数多く出演してきたポーランドの若手スター。

感じたのは、圧倒的に表情にインパクトがあること。彫りの深く、くぼんだ目やふと見せる純粋な表情と、狂気の表情。

本作、主人公ダニエルをクローズアップする描写がかなり多いのですが、そのどれもが印象的で、複雑な感情を秘めた表情が素晴らしいものでした。

犯罪を犯し、少年院を出た男が司祭になりすまし、村の人々の心を掴んでいく様子を振れ幅のある演技で見事に演じていました。

まめもやし
まめもやし

映画鑑賞後は顔がインパクトあって、頭から離れませんでしたよ!

ポーランドの実話が元ネタ

『聖なる犯罪者』は、ポーランドにおいて実際にあった元犯罪者が司祭になりすましたという事件からインスピレーションを受けて作られています。

脚本のマテウシュ・パツェビチュはニュースで実際の事件を知って執筆を始めたものの、事件単体についてを描くとドキュメンタリー風になってしまうと考え、いくつかの似たケースを取り入れたとのこと。

ポーランドでは「なりすまし事件」は珍しくないそうで、元ネタは実際の事件をベースにしているものの、基本的に内容はオリジナル。

ちなみに本作は着想から完成まで9年を費やし、ラストシーンは150以上のパターンを考えていたとのこと。

ネタバレあり

以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。

【ネタバレ感想】 宙ぶらりんな危うさとラストの衝撃

Boze Cialo_03

『聖なる犯罪者』は、善悪の危うさの行き来するハラハラ感が非常に印象的でした。

大筋は「なりすまし」系だけど…

第二級殺人で少年院に服役していたダニエルは、服役中にキリスト教に感化され、出所後に立ち寄った小さな村の教会でとっさに神父だとウソをついたことから物語は始まります。

そのウソがトントン拍子で信じられてしまい、逃げ出そうにも逃げ出せなくなり、仕方なくスマホを見ながら告解を受ける姿は滑稽で笑えてしまうのです。

そう思っていると、いつの間にか物語は雲行きが怪しい方向へ進み、ダニエルのあまりにも自由な姿に呆気にとられるのですが、彼が説く教えにはどこか切実で率直な思いを感じるのです。

そうしていく中で、いつの間にか村人はダニエルを信じるようになっていくのですが、そうは言っても本作はいわゆる「なりすまし」系の物語

つまり、正体がバレていくのが容易に想像できるし、実際にそうなっていくのですが、本作が他の「なりすまし」映画と一線を画しているのはダニエルという掴めない人物像にあります。

ある事件をきっかけに変化する物語

Boze Cialo_02

物語が変化していくのは、ダニエルが村人たちの抱える“ある事故”について首を突っ込んでいくところ。

それは、1年前、村人7人が死亡する自動車事故があり、スワヴェクという男が運転する自動車と修道女マルタの兄ら6人が乗る自動車が衝突したものでした。

村人はスワヴェクの飲酒運転が事故の原因だと決めつけ、憎しみの矛先は彼の妻であるエヴァに向けられ、エヴァは村から孤立していました。

マルタから事故前の兄から送られて来た動画を見たダニエルは、スワヴェクが原因ではないことを悟ります。

それにも関わらず、献花台にもスワヴェクの姿はなく、遺体の埋葬も司祭から拒否されていた状況を知ったダニエルは、スワヴェクの葬儀を行うと村人たちに伝えるのでした。

信頼を築いてきた状態で自分の状況を悪くするようなことはしないと考えるのが一般的ですが、ダニエルは違うのです。

自ら触れなくてもいい問題に触れていき、正しい行いをしようとするのです。

ラストの衝撃

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面白いのは、ダニエル自身が「偽りの神父」であるのに、村人たちの抱える暗い部分を正しさをもって解き明かしていくところ。

そこには、加害者として服役した経験のあるダニエルだからこその懺悔や思いが感じられるのです。

そして物語は、なりすましたダニエルの正体が暴かれていく展開になります。

同じ少年院に入っていたピンチェルや、ダニエルが名前を偽って使っていたトマシュ神父の登場により、結果的にダニエルは少年院に戻ることに

少年院では、ダニエルに弟を殺されたボーヌスが待ち受けており、めった打ちにされてしまうのですが、一瞬のスキをつき、ボーヌスの顔が潰れてしまうほど頭突きを食らわせるダニエル。

その裏で、村の教会では治療から復活した神父が戻り、住民に受け入れられたエヴァの姿も映し出されるのです。

ラスト、ダニエルは少年院から逃げ出し、血まみれの狂気的な顔つきが映されて終幕するのでした。

【ネタバレ考察】 ダニエルは悪人か善人か、それとも聖人か

Boze Cialo_04

劇中を通して、ダニエルという人物が掴めないと感じた人は多いですよね。

それもそのはずで、ダニエルについては明確な過去や人物像が描かれません

これが非常に効いていて、観ている側に彼の行動を通して「彼は善か悪か」を終始見守らせ、刻一刻とその価値観を常に揺さぶってくるのです。

表裏一体の価値観

『聖なる犯罪者』を通して感じたのは、表裏一体の価値観

善も悪も、犯罪者もそうでないものも、表裏一体であり、その事実は事実でしかなく、常に誰しもの後ろにつきまとっている。

犯罪歴のあるダニエルは聖職者になれませんが、村で“正しい”アプローチで神父を務めていたし、実際にそれで救われるものもいました。

それまでの神父や町長は、狭いコミュニティ故に村人たちの意思を忖度して決まり事を決めていましたが、ダニエルは自由奔放ではあるものの、真っ直ぐに信仰や救済と向き合っていたのでした。

とはいえ、危うい一面ももっていて、善悪の2つの間を一本の綱渡りをしているかのようなアンバランスさを映しているのです。

まめもやし
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それを物語るバルトシュ・ビィエレニアの表情が絶妙なんですよね!

ラストのダニエルはどうなったのか

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それでは、実際のところダニエルは善人なのか、悪人なのか。気になるところですよね。

唐突に終わるラストも、観客に投げかけるようで、感じ方は人それぞれあると思います。

ダニエルは善人だと思いたいです。

彼が、事故によって影を落とした村人たちに、一筋の光をもたらしたのは確かなこと。

しかし、一方で気になってしまうのは、ダニエルの「衝動」の描き方。

彼がとっさに神父とウソをついてしまったことや、少年院にいる原因が第二級殺人(無計画な殺人)であること。

つまり、ダニエルが突発的な衝動で行動してしまう危うさはどうしてもあるということなんですよね。

そのため、彼は今後もまた何か過ちを犯してしまうかもしれません。

しかし、それは誰にでも当てはまることなんです。今、そうでないだけであり、いつそうなるかは誰にも分かりません。

ラストのダニエルの狂気にも見える表情には、どこか解放的なものにも見えてくるのでした。

まめもやし
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『ミッドサマー』のフローレンス・ピューの表情を思い出しました。

ミッドサマー
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また面白いのは、ダニエルの衝動が、自分を神父と名乗る前後で違ったように映ること。

少年院を出た彼は、バスの中でタバコを吸い、酒やドラッグ、セックスに至るまでこなしていました。

しかし、とっさに神父と名乗ってしまってからは、彼はあくまでも、彼の中での聖職者になろうとしていたように映るのです。

爆音でEDMを聞きながらバイクを直したりこそしていますが、あくまでも神父として救いをもたらす役目はしっかりとこなします。

もしかすると、それは受刑者として受けた信仰による、赦し救われた感覚を、他人にも与えたいというエゴなのかもしれません。

どちらにせよ、ダニエルという男の掴めなさに魅せられた一本でした。

まとめ:ヤン・コマサ監督の今後が楽しみでしかない

今回は、ポーランド映画『聖なる犯罪者』をご紹介しました。

絶妙に善悪の価値観を突きつける内容と、緑がかった映像の風合い、そして主演のバルトシュ・ビィエレニアの圧倒的表情。

どれもが素晴らしい映画でした。

ポーランドといえば、ロマン・ポランスキーらを輩出した名作映画の宝庫でもあります。

まめもやし
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ヤン・コマサ監督は今後どんどん注目されていくことでしょうね。今後が楽しみです!

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