今回ご紹介する映画は、『プロミシング・ヤング・ウーマン』です。
チャーリー・XCXの「Boys」をバックに、ダンスする中年男性の股間をアップで映す印象的なシーンから始まる本作。
ブリトニー・スピアーズの「TOXIC」やパリス・ヒルトンの「Stars Are Blind」など、ポップなナンバーと色彩豊かな映像の一方で、ジャンルはレイプリベンジ映画です。2021年ではアカデミー賞脚本賞を受賞、作品賞を含む5部門にノミネートされた注目作。
本記事では、映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』のネタバレありの感想と、内容の解説や考察をしていきます。
スリリングな復讐劇とジャンルを超えたエンタメ性の高さ、そしてその裏にある問題まであぶり出した、力量ある一本となっています。
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『プロミシング・ヤング・ウーマン』の作品情報・評価・予告・配信
『プロミシング・ヤング・ウーマン』
あらすじ
過去の悲劇的な出来事で心に傷を負った若い女性が、自分に逆らった者たちに復讐しようとする。
5段階評価
予告編
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作品情報
タイトル | プロミシング・ヤング・ウーマン |
原題 | Promising Young Woman |
監督 | エメラルド・フェネル |
脚本 | エメラルド・フェネル |
出演 | キャリー・マリガン |
音楽 | アンソニー・ウィリス |
撮影 | ベンジャミン・クラカン |
編集 | フレデリック・トラヴァル |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2020年 |
上映時間 | 113分 |
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おすすめポイント
復讐映画の枠を越えた怪作。
主演はキャリー・マリガン、監督は長編映画監督デビューとなるエメラルド・フェネル。
医学部を中退した“将来を有望視された女性(プロミシング・ヤング・ウーマン)”が、過去の悲劇的な出来事で失った友人に代わり、復讐しようとするスリラー映画。
復讐映画ですが、安易なカタルシスや爽快感は皆無で、物語の行き着く先には放心してしまいます。
先がまったく読めない展開で、ジャンルに当てはまらないエンターテイメント性を担保しながら、扱うテーマを観客にドーンと突きつける怪作。
アカデミー賞ではエメラルド・フェネルが【脚本賞】を受賞。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』のスタッフ・原作
監督:エメラルド・フェネル
名前 | エメラルド・フェネル |
生年月日 | 1985年10月1日 |
出身 | イギリス・ロンドン |
本作を手掛けたのは、イギリス出身のエメラルド・フェネル監督。
監督以外にも脚本家や劇作家として活躍していて、俳優としてエディ・レッドメイン主演『リリーのすべて』や、Netflixドラマ『ザ・クラウン』などにも出演しています。
BBCの人気サスペンスドラマ『キリング・イヴ』シリーズの脚本や製作総指揮を務め、エミー賞候補にも挙がりました。本作『プロミシング・ヤング・ウーマン』は、アカデミーで5部門にノミネートされ、監督賞でのイギリス人女性のノミネートは史上初となりました。
抑圧された者たちの復讐を描いた作品は近年多くありますが、その中でも安易なカタルシスを描かず、本質的な問題を突きつけて議論を巻き起こす意欲的な作品です。
本作が長編映画デビュー作とは思えない完成された傑作です!
撮影 | ベンジャミン・クラカン |
美術 | マイケル・T・ペリー |
編集 | フレデリック・トラヴァル |
衣装 | ナンシー・スタイナー |
音楽 | アンソニー・ウィリス |
製作 | マーゴット・ロビー |
ポップでビビッドな色彩が印象的な本作ですが、ソフィア・コッポラ作品や『聖なる鹿殺し』などでも活躍する衣装デザイナーのナンシー・スタイナーなどが参加。製作にはマーゴット・ロビーも参加しています。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』のキャスト・キャラクター解説
主演:キャリー・マリガン
名前 | キャリー・マリガン |
生年月日 | 1985年5月28日 |
出身 | イングランド/ロンドン |
本作『プロミシング・ヤング・ウーマン』で主演を務めるのは、「キャリア最高の演技」と称されたキャリー・マリガン。
これまでの出演作での印象だと、『ドライヴ』『華麗なるギャツビー』など、男性の主人公に対して大きな影響を与えた相手役の女性という役柄が目立っていました。
一方、本作のキャリー・マリガンは、ハーレー・クインのようでジョーカーのようであり、あるいは世直しするヒーローのようにも見えるのです。もちろん、本質的にはどれもが違うのですが。
間違いなく、キャリーの新たな代表作と言えるでしょうね!
主演のキャリー・マリガンはもちろん、本作は助演のキャスティングも絶妙。後ほど解説していきます。
キャラクター | 役名/キャスト/役柄 |
---|---|
ライアン(ボー・バーナム) 小児科医でキャシーの同級生。 | |
マディソン(アリソン・ブリー) キャシーの同級生。 | |
スタンリー・トーマス(クランシー・ブラウン) キャシーの父。 | |
スーザン・トーマス(ジェニファー・クーリッジ) キャシーの母。 | |
ゲイル(ラヴァーン・コックス) キャシーが務めるカフェの店主 | |
ウォーカー学部長(コニー・ブリットン) キャシーの通っていた大学の学部長 |
ネタバレあり
以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
ネタバレ解説(1)復讐の天使
『プロミシング・ヤング・ウーマン』のジャンルを一言で言い表すと、「レイプリベンジ映画」といえるのですが、従来のリベンジ映画とは、ひと味もふた味も違う作品です。
リベンジ映画では、何らかの被害に遭った者たちが加害者への復讐を遂げることで、溜飲を下げるような描き方も多いですが、本作は本質的に違います。
まず印象的なのは、主人公のキャシーが直接的な被害者ではないという点です。
キャシーは、親友のニーナが性加害に遭い、それが原因で彼女を失ったことから医学部を中退し、人生が一変しました。この設定は非常に重要です。
キャシーが被害者本人でも親族でもないことで、彼女の行動の動機が分かりづらいかもしれませんが、そこにこそ本作のテーマが反映されています。
キャシーは、レイプによって自殺に追いやられた親友のために行動する“復讐の天使”なのです。彼女が天使や聖人のように見える瞬間が映像でも表現されています。
(C) 2020 PROMISING WOMAN, LLC All Rights Reserved.
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キャシーとライアンが薬局に訪れる場面では、パリス・ヒルトンの「Stars Are Blind」が使用されていますが、歌詞では、「あなたを悪魔にも天使にもできる」と歌っています。
I can make you nice and naughty
Be the devil and angel too私はあなたを上品にも下品にもできる
悪魔にも天使にもできる
エンドロールでは、ジュース・ニュートンの「Angel of the Morning(夜明けの天使)」が採用されています。こちらの歌の歌詞では、「手を縛るものはない」「夜明けの天使と呼んで」と歌っており、本作におけるキャシーの姿を重なります。
There'll be no strings to bind your hands
あなたの手を縛るものはないJust call me angel of the morning angel
私を夜明けの天使と呼んで
ネタバレ解説(2)キャシーの復讐の方法
(C) 2020 PROMISING WOMAN, LLC All Rights Reserved.
キャシーの復讐方法も強烈に印象に残ります。彼女は直接的な暴力で傷つけることはせず、自分のした行為と向き合わせるのです。
そして復讐の対象者は男性だけではなく、事件を見て見ぬ振りをした女性にも及んでいきます。
映画では上記の復讐相手をお礼参りのように巡っていく姿が描かれます。中でも印象的だったのは、同級生のマディソンとウォーカー学部長とのシーン。
ニーナの被害を訴えても味方になってくれなかった彼女に対し、キャシーは「あの日のことを思い出すことはある?」と尋ねます。
マディソン「どうして私が?」
キャシー「そうよね、どうしてと私がと感じるよね」
このやり取りからもわかるように、本作は見て見ぬ振りをした者たちまでも対象とした復讐劇です。
ニーナの事件以降、キャシーの時間は完全に止まっています。一方で、見て見ぬふりをした人物たちは事件のことなど忘れて平然と生活を送っているのです。
キャシーがそんな彼女たちにする復讐の方法は、「自分や自分の愛する人だったらどうするのか?」ということ。
まさに映画を観ている私たちも無関心ではいさせないのです。
ネタバレ解説(3)優しくて"イイ男"たち
『プロミシング・ヤング・ウーマン』で描かれる男性たちは、いわゆる女性を見下すような露悪的な人物ではなく、それぞれが「自分は女性に対して優しい」と思っているような“ナイスガイ”たちです。
助演の男性たちのキャスティングも絶妙なんですよね!
ボー・バーナム 役名:ライアン 役柄:小児科医 / キャシーの同級生 出演作:『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』監督 | |
アダム・ブロディ 役名:ジェリー 役柄:自称ナイスガイ 出演作:ドラマ『The O.C.』 | |
クリス・ローウェル 役名:アル 役柄:ニーナをレイプした実行犯 出演作:ドラマ『ヴェロニカ・マーズ』『ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜』 | |
マックス・グリーンフィールド 役名:ジョー 役柄:アルの悪友 出演作:ドラマ『New Gir/ダサかわ女子と三銃士』 | |
クリストファー・ミンツ=プラッセ 役名:ニール 役柄:自称フェミニストの小説家 出演作:『スーパーバッド 童貞ウォーズ』『キック・アス』 |
助演キャストの男性たちは、他の作品では好青年やナイスガイを演じてきたキャストたちです。
一方、本作の役柄は、誰もが見た目は好青年で、自らを“いい人”だと思っているような男性です。性差別についても疑問を感じたり、フェミニストを自称したりしています。
しかし、そんな“ナイスガイ”たちが、女性を“優しく”扱い、酔った彼女たちに性的同意なしに行為を迫りるのです。「大丈夫だから」「優しくするから」といった言葉を使って。
- 「酔っていたから」
- 「抵抗しないから」
- 「露出が多いから」
- 「遅い時間に一人でいるから」
痴漢や性犯罪者は、動機として上記のような理由を挙げたりしますが、すべて自分本位の身勝手な理由です。その背景には、有害な男らしさや女性蔑視が深く根付いています。
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一方で、キャシーが惹かれる男性ライアンとのシーンには心が揺さぶられます。ライアンとの場面では、劇中でも穏やかに感じられるシーンが多くあります。
特に薬局でのシーンは、重いテーマの本作の中で、まるでポップなラブコメのように描かれており、時が止まっていたキャシーの時間が動き出したような、彼女の幸せを願わずにはいられない瞬間です。
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ライアンに心を許していくキャシーですが、後半になると無情にも悲しい現実が明らかになります。ライアンもニーナのレイプ事件に居合わせていたことが判明するのです。
この映画のすごいところは「有害なナイスガイ」だけでなく、もう一歩踏み込んで愛する人や身近な人の関与まで描いている点です。
ライアンがどのように関与していたかは明らかにされませんが、彼がその場にいたことは事実であり、たとえ何もしなかったとしても、「何もしなかったこと」は大きな問題なのです。
ライアンを好きになってしまったキャシーにとって、これは苦渋の選択を迫られる出来事です。そして考えに考え抜いた結果、キャシーは一度は断念したアルへの復讐へと向かうのでした。
ネタバレ考察(1)ラストの思わぬどんでん返し
(C) 2020 PROMISING WOMAN, LLC All Rights Reserved.
ラストの結末
観客の想像を超えるどんでん返し復讐劇となっていた本作ですが、そのラストシーンを解説・考察していきます。
キャシーは親友のニーナをレイプした実行犯・アルへの復讐を決意し、アルの独身最後のバチェラー・パーティに、ストリッパーとして潜入します。
ニーナを死に追いやったうえに彼女を忘れ去り、人生を満喫するアル。キャシーは彼を誘導し、手錠でベッドに固定すると、アルの身体にニーナの名前を刻もうと脅しかけます。
しかし、物語は予想もできない展開へと向かいます。抵抗して暴れたアルの手錠が外れてしまい、キャシーは枕を押し付けられて窒息死させられてしまうのです。
このシーンには思わず絶句しましたね…!
一方、本作はそれでは終わりません。その後、アルは悪友のジョーと共に事件を隠蔽。
2人はキャシーの死体を燃やし、平然と結婚式に参加します。その結婚式は、友人であるライアンも参加していました。すると、遠くからサイレンの音と共にパトカーが駆けつけます。同時に、ライアンのスマホにはキャシーからスケジュール予約されたメッセージが届きます。
キャシーは自分が死んでしまった場合に備えて、プランBを用意しており、それをグリーン弁護士に託していたのです。
警察はキャシーの焼死体からニーナの名前が書かれたハーフハートのネックレスを発見し、アルはキャシーの殺害容疑で逮捕されるのでした。
あえて描かないことの意味
あまりにもショッキングな結末でしたが、この結末だからこそ、アルへの復讐が「現実的」と言える形だったと思います。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』の物語を振り返ると、直接的な描写ではなく、あえて詳細を描いていないことが印象的で、それが重要な意味を持っていると感じます。
特にリベンジ系の映画では、復讐を果たす過程で、スカッとするようなカタルシスが描かれることはよくあります。一方、本作はそれが一切ありません。
酷い目にあった女性が、その当事者である男性へ復讐する物語のように見えますが、映画で描かれているのは、暴力を暴力で返すようなものではありません。
(C) 2020 PROMISING WOMAN, LLC All Rights Reserved.
例えば、アバンタイトルシーンでは、キャシーがクラブで手を出してきた男性に対しての仕打ちは映されていません。そのため、次のシーンで彼女の腕についているのが、血なのかケチャップなのかはわかりません。
レイプリベンジ映画である『プロミシング・ヤング・ウーマン』ですが、劇中で「レイプ」という言葉すら出てこないのです。
これらは、キャシーの暴力を暴力で解決しない意志の現れであり、同時に出演者を守ること、被害に遭った人へのフラッシュバックを防ぐ意図もあると想像できます。
直接的な被害・暴力描写を描かずとも問題提起はできる。見事な演出です!
映画のラストでは、キャシーは精神異常者として処理されてしまうことが予想できます。つまり、アルを罰するためには、キャシー自身が死ななければ成立しない形になっているのです。
一方で、劇中で徹底して描かれなかった暴力描写が唯一描かれるのが、皮肉にもキャシーが殺される場面なのです。
その瞬間、“復讐の天使”ですら、男性の力の前に屈してしまう女性の姿として映し出されており、映画の最初から最後まで、暴力・加害していたのは男性でした。
ネタバレ考察(2)ラストのメールと絵文字の意味
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キャシーは復讐の対象をノートに刻み、タリーマークでカウントしていました。ラストシーンでは、そのカウントが5人目に達しますが、これは誰に対するものなのでしょうか。
普通に考えると、ライアンへのカウントと見るのが自然でしょう。彼にメッセージを送り、動画の証拠を元にレイプ事件への関与で医者の地位を失わせることも想像できます。
しかし、もう一つの考え方もあります。それは、キャシー自身へのカウントです。
本作では、被害者であるニーナについてほとんど描かれません。そのため、キャシーの復讐がニーナの意思に基づくものかどうかはわかりません。実際、ニーナの母親はキャシーの様子を心配していました。
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人によっては、「キャシーが男を誘惑して痛い目に合わせているだけ」と思うかもしれません。しかし、彼女のノートの筆圧を見ると、そこに込められた想いや怒りが感じられます。
フェネル監督は、インタビューで孔子の言葉「復讐の旅に出る前に墓穴を2つ掘れ」を引用しています。それを考えると、5人目の復讐の対象は、結果としてニーナを救えなかったキャシー自身だったのかもしれません。
もちろんキャシーはそうなることを理解した上で、単身でパーティ会場へ向かったのでしょう。彼女がライアンに送った最後のメールには、「Enjoy the wedding Love, Cassie & Nina 😉」と記されていました。
キャシーは自分の死を覚悟して復讐をやり遂げ、天国で待つニーナのもとへ旅立ったのです。
キャシーは死ななければならなかったのか。そこには、そうならざるを得ない、前途有望な女性(プロミシング・ヤング・ウーマン)の人生が台無しにされてしまう、女性が搾取される社会が反映されています。
まとめ:甘くて猛毒のエンターテインメント
今回は、エメラルド・フェネル監督、キャリー・マリガン主演の映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』を紹介しました。
物語自体の面白さはもちろんですが、それ以上に問題を突きつける作品でした。本記事のように、わかったように解説記事を書いている自分も、胸に手を当てて「自分はどうだろうか、無意識なだけではないか」と
鏡を見ているような感覚になる、恐ろしくもすごい映画でした。傑作です。
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