映画『バービー』

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映画

映画『バービー』ネタバレ感想・考察|賛否両論のフェミニズム映画

今回ご紹介する映画は『バービー』です。

グレタ・ガーウィグ監督&マーゴット・ロビー主演、世界的人気を誇るアメリカのおもちゃ会社マテル社のバービーを題材としたコメディ映画。

本記事では、ネタバレありで『バービー』を観た感想・考察、あらすじを解説。

まめもやし

笑えて楽しい映画である一方で、議論を呼ぶ意欲的な作品でした!

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映画『バービー』の作品情報

『バービー』

『バービー』ポスター

5段階評価

ストーリー :
キャラクター:
映像・音楽 :
エンタメ度 :

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あらすじ

様々なバービーが生活するバービーランド。主人公のバービーは、ある日、死について考え始め、それを機に人間たちが暮らす現実世界への旅を始める。

作品情報

タイトルバービー
原題Barbie
監督グレタ・ガーウィグ
脚本グレタ・ガーウィグ
ノア・バームバック
出演グレタ・ガーウィグ ノア・バームバック
音楽アレクサンドル・デスプラ
撮影ロドリゴ・プリエト
編集ニック・ヒューイ
製作国アメリカ
製作年2023年
上映時間114分

予告編

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おすすめポイント

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グレタ・ガーウィグ監督&マーゴット・ロビー主演、世界的人気を誇るアメリカのおもちゃ会社マテル社のバービーを題材としたコメディ映画。

マテル社のIPであるバービー人形を、現代的かつ社会批判的な視点で解釈。

鮮やかなピンク色を中心としたバービーランドのセットデザイン、ファッションが見事で、ストーリーを引き立てています。

グレタ・ガーウィグ監督が一貫して伝えているメッセージ性を、高い娯楽性を兼ね備えて描いた映画。

まめもやし
ポップで楽しくて社会的なファンタジックコメディ!

映画『バービー』のキャスト・キャラクター

キャラクター役名/キャスト
『バービー』バービー役のマーゴット・ロビーバービー(定番バービー)
(マーゴット・ロビー)
『バービー』ケン役のライアン・ゴズリングケン
(ライアン・ゴズリング)
『バービー』ジャーナリストのバービー役のリトゥ・アルヤジャーナリストのバービー
(リトゥ・アルヤ)
『バービー』外交官のバービー役のニコラ・コクラン外交官のバービー
(ニコラ・コクラン)
『バービー』最高裁判事のバービー役のアナ・クルーズ・ケイン最高裁判事のバービー
(アナ・クルーズ・ケイン)
『バービー』人魚のバービー役のデュア・リパ人魚のバービー
(デュア・リパ)
『バービー』ノーベル賞受賞物理学者のバービー役のエマ・マッキーノーベル賞受賞物理学者のバービー
(エマ・マッキー)
『バービー』変てこバービー役のケイト・マッキノン変てこバービー
(ケイト・マッキノン)
『バービー』大統領のバービー役のイッサ・レイ大統領のバービー
(イッサ・レイ)
『バービー』弁護士のバービーシャロン・ルーニー弁護士のバービー
(シャロン・ルーニー)
『バービー』作家のバービー役のアレクサンドラ・シップ作家のバービー
(アレクサンドラ・シップ)
『バービー』医者のバービー役のハリ・ネフ医者のバービー
(ハリ・ネフ)
『バービー』ケン役のシム・リウケン
(シム・リウ)
『バービー』ケン役のキングズリー・ベン=アディルケン
(キングズリー・ベン=アディル)
『バービー』ケン役のスコット・エヴァンスケン
(スコット・エヴァンス)
『バービー』ケン役のチュティ・ガトゥケン
(チュティ・ガトゥ)
『バービー』ケン役のジョン・シナケン
(ジョン・シナ)
『バービー』グロリア役のアメリカ・フェレーラグロリア
(アメリカ・フェレーラ)
『バービー』サーシャ役アリアナ・グリーンブラットサーシャ
(アリアナ・グリーンブラット)
『バービー』ルース・ハンドラー役のリー・パールマンルース・ハンドラー
(リー・パールマン)
『バービー』ナレーターのヘレン・ミレンナレーター
(ヘレン・ミレン)
『バービー』アラン役マイケル・セラアラン
(マイケル・セラ)
『バービー』ミッジ役エメラルド・フェネルミッジ
(エメラルド・フェネル)
『バービー』アーロン・ディンキンス役のコナー・スウィンデルズアーロン・ディンキンス
(コナー・スウィンデルズ)
『バービー』マテル社CEO役のウィル・フェレルマテル社CEO
(ウィル・フェレル)

【ネタバレ解説】映画『バービー』のあらすじ

『バービー』バービーランド
(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

バービーランドへようこそ

映画は、スタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』のオマージュシーンから始まる。ヘレン・ミレンのナレーションを通して、かつて少女たちが遊ぶ人形は、赤ちゃん人形に代表されるような母親としての役割のものしかなかったことが示される。

バービーランドの世界には、大統領・医者・作家・外交官・物理学者・ジャーナリスト・人魚など、様々なバービーが生きている。バービー(マーゴット・ロビー)は、ほかのバービーやケンたちと一緒にバービーランドでの楽しい生活を送っていた。

ケン(ライアン・ゴズリング)ケン(シム・リウ)は互いをライバル視する関係にあった。バービーたちは毎晩のようにダンスパーティーをして生活を楽しんでいたが、バービーが「死ぬことを考えことある?」と口にすると、場の空気が変わり、全員が動きを止めてしまう。

現実世界とのギャップ

それからのバービーは、かかとが地面についたり、肌にセルライトができたりなどの異変が起きていた。彼女はその原因を探るために、変てこバービー(ケイト・マッキノン)の元を訪ねる。

すると、彼女は現実世界のバービーの持ち主に原因があるかもしれないと言い、バービーは現実世界に行くことを余儀なくされる。

バービーは密かに付いてきていたケンと一緒に現実世界へ旅に出る。ビーチにたどり着いた2人だったが、バービーが人間の男性に体を触られたことで相手を殴ると、刑務所に入れられてしまう。

釈放された後、バービーは人形の持ち主を探す途中で、楽しそうに遊んでいる女の子の幻影を見る。気がつくと隣には老婦人(アン・ロス)が座っていた。バービーは彼女に「美しい」と伝えると、彼女は「知っている」と答える。

一方、ケンは現実世界の男性がバービーランドとは対照的に見えて興味を惹かれていた。

バービーとマテル社

『バービー』サーシャの前に現れるバービー
(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

バービーが中学校に向かうと、幻影で見たサーシャ(アリアナ・グリーンブラット)を見かけて接触するが、気味悪がられてしまう。

その後、マテル社の従業員に捕まえられて本社に連行されると、役員室でCEO(ウィル・フェレル)らに接触する。現実世界にバービーが現れたことで対処を迫られていたCEOは、バービーを等身大の箱に戻そうとするが、バービーは逃げ出していく。

サーシャの母でマテル社のデザイナーであるグロリア(アメリカ・フェレーラ)は、学校でサーシャを拾った後、マテル社の従業員に追われるバービーを発見して助け船を出す。

ケンダム

『バービー』ケン
(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

バービーがグロリアとサーシャをバービーランドに案内すると、バービーランドは先に戻っていたケンによって男性中心社会の「ケンダム」と名前を変えて様子が一変していた。

さらに、バービーは自宅がケンによって「モジョ・道場・カサ・ハウス(Mojo Dojo Casa House)」という名前に変えられており、現実世界にも影響が及び、マテル社でも商品が売れ始めていた。

グロリアとサーシャは現実世界へ戻ろうとするが、バービーランドの出入りを阻止しようと壁を作るケンたちに遭遇するが、アラン(マイケル・セラ)が立ち向かう。

一方、サーシャは、グロリアがバービーを気にかけていることを察し、2人はバービーを助けるためにバービーランドに戻っていく。

バービーとケン

『バービー』バービーたち
(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

グロリアとサーシャは、変てこバービーの家で落ち込むバービーの姿を発見する。そんなバービーに対して、グロリアは現実世界で女性が直面する困難を熱弁する。すると、それによってバービーは正気を取り戻す。

その後、一人ひとりほかのバービーたちを正気に戻らせていくと、バービーたちはケンたちを対処するための作戦を練っていく。

バービーたちは、ケンたちを嫉妬させたり、お互いに競わせ、彼らが聴かせたいバラードを聴いてあげることで気持ちを高ぶらせていく。ケンたちが互いの争いに夢中になっている間に、バービーたちはバービーランドの憲法を改正し、秩序を取り戻すことに成功する。

ケンは自分が「ケン」としてではなく、「バービーとケン」と定義されていることを嘆くと、バービーもそれを理解し、ケンとしてのアイデンティティを見つけるように助言する。

その後、バービーの前に再びマテル社の創業者ルース・ハンドラー(リー・パールマン)の霊が現れ、マテル社のCEOらもバービーランドにやってくる。ルースは人間には終わりがある一方で、バービーの物語には終わりがないことを伝え、バービーも理解していた。

バービーは目を閉じ、さまざまな女性の姿、生き方を思い描き、現実世界で人間として生きていくことを決意する。バービーはバーバラ・ハンドラーと名乗り、再会したグロリアとサーシャの車から降りて婦人科の診察に向かう。

【ネタバレ感想】ステレオタイプからの脱却

『バービー』バービー
(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

世界一有名なファッション・ドール「バービー」は、1959年にアメリカのおもちゃ会社「マテル社」で登場しました。バービーの生みの親であるルース・ハンドラーは、息子が遊べるおもちゃが多様であるのに対して、娘が遊べるおもちゃは赤ちゃん人形などしかないことに着目し、「女の子だって何にでもなれる」という想いからバービー人形が誕生しました。

そんな『バービー』をテーマにした実写映画が、マーゴット・ロビー主演で映画化。

先に公開していたアメリカでは爆発的なヒットとなっている一方で、同日公開の『オッペンハイマー』と合わせたネットミーム「#BARBENHEIMER(バーベンハイマー)」が大炎上し、日本では公開前から予期せぬ形で話題となっていました。

ロバート・オッペンハイマー
【原作ネタバレ解説】ロバート・オッペンハイマーの人生と葛藤・後悔

ネットミームと映画の内容は切り離して考えたいので、今回扱うのは映画の内容のみについてです。

映画の予習や復習の意味でも、バービー人形の歴史や背景についてNetflixのドキュメンタリー番組『ボクらを作ったオモチャたち』のバービー回を見ておくと、より理解を助ける役割になると思います。

バービー人形の歴史とステレオタイプ

本作を手掛けたグレタ・ガーウィグ監督は、2017年の単独初監督作品である『レディ・バード』、そして2019年の『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』の両方でアカデミー賞作品賞にノミネートされている、まさに世界的に注目されている監督のひとり。

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【ネタバレ感想/考察】『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』グレタ・ガーウィグの傑作

本作『バービー』は、グレタ・ガーウィグノア・バームバックによる共同脚本。2人は2013年の『フランシス・ハ』、2015年の『ミストレス・アメリカ』でも共同脚本を務め、それぞれ主演をガーウィグ、監督をバームバックが担当しています。

2人は交際し、子どもを授かっていますが、結婚しているわけではありません。アメリカのトークバラエティ番組『レイト×2ショー with ジェームズ・コーデン』において、ガーウィグは「ボーイフレンドも、恋人も、婚約者も、しっくりこない」と語り、2人の関係性を定義づけることに対して意味を感じていない様子を明かしています。

そんな彼女の想いに呼応するように、映画『バービー』で描かれるテーマも、バービー人形の歴史を背景にしたステレオタイプからの脱却を描いた映画になっていました。

主演を務めたマーゴット・ロビーも、俳優だけではなくプロデューサーとしても制作に携わり、本作でバービーを演じる上で、「マーゴット・ロビー=バービー」というステレオタイプにならないように、多様なバービーを描くことなどを出演の条件に提示していました。

彼女は2020年の傑作映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』においてもプロデューサーを務めており、監督のエメラルド・フェネルは本作で妊婦のバービー、ミッジ役を演じています。

まめもやし

フェミニズム映画としての横のつながりを感じさせて面白いポイントですね!

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【ネタバレ感想/解説】『プロミシング・ヤング・ウーマン』は復讐映画の枠を超えた傑作

【ネタバレ考察】フェミニズム映画とその先へ

『バービー』ケンらと止めるバービー
(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

原案と設定の妙

『バービー』は、人形のバービーたちが暮らす「バービーランド」と、人間たちの「現実世界」の2つの世界を行き来する「行きて帰りし(行って帰ってくる)物語」のような構造です。

バービーランドが女性優位の母権制的な世界観になっているのに対して、人間世界は家父長制となっています。そんな中で、バービーランドからやってきたバービーとケンの2人が、現実世界への旅を通して変化するという物語。

グレタ・ガーウィグ監督はVOGUEのインタビューで、本作が子供の頃に読んでいた『オフェリアの生還 傷ついた少女たちはいかにして救われたか?』にインスパイアされたと明かしています。

オフェリアの生還―傷ついた少女たちはいかにして救われたか?オフェリアの生還―傷ついた少女たちはいかにして救われたか?
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この本では、女性が思春期を経て大人になっていく過程で起こる変化を描き、成長過程で変化する男性から向けられる視線や、男性による理想的な女性像を押し付けられて苦しむ姿を描いています。

これが映画の全体像の背景にあり、マテル社とバービーの歴史を交えながら進んでいきます。

バービーランドからやってきたバービーが、人間の男性たちの性的な視線やハラスメントを受ける一方で、ケンは対照的に注目されることに喜びを感じ、現実世界が男性を中心に回っていることに魅力を感じていくのです。

こういった設定のアイデアが絶妙で、映画を通して現代社会への批判や、マテル社が直面している課題にまで波及していくところが面白かったです。

それでいて、ちゃんとコメディ映画としての面白さを担保しているのです。似たような構造で言えば、ジョージ・ミラー監督の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や先述した『プロミシング・ヤング・ウーマン』に近いものを感じます。

バービーとマテル社

本作には複数のバービーが登場します。それはマテル社が打ち出してきたような、大統領や医者、弁護士など、多様な職業である一方で、マーゴット・ロビー演じる主人公のバービーは、「定番バービー(Stereotypical Barbie)」と呼ばれる一般的なバービーです。

演じるマーゴット・ロビー自身も白人で金髪、モデルでもあり、多くの人が最初に思い浮かべるであろうバービー像なのです。それこそステレオタイプを助長するのではないかと感じる人もいると思います。

実際に映画も「ホワイト・フェミニズム」(白人女性やマジョリティ特権の上に成り立つフェミニズム)と言われていたりもします。

ホワイト・フェミニズムを解体するホワイト・フェミニズムを解体する
カイラ・シュラー

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映画の中では、現実世界にやってきたバービーが、学生のサーシャから「フェミニズムを50年遅らせ、女性の画一的な美を助長させたファシスト」と強烈な批判を受けるシーンがありました。

これはまさしくマテル社とバービーの歴史にリンクするもので、本作はマテル社が全面的に協力していますが、生産中止となった妊婦バービー・ミッジや、生みの親ルース・ハンドラーの粉飾決済まで取り上げていて、グレタ・ガーウィグ監督が反バービー派な母親のもとで育ったことも影響しているのか、安易にマテル社を持ち上げる形にはなっていません。

ケンスプレイニング

『バービー』が面白いのは、バービーを描いた物語であるにもかかわらず、バービーと並ぶくらいにケンの姿も印象的に映ること。それは監督が意図的に対比させているからなわけですが、ライアン・ゴズリングやシム・リウらの素晴らしい演技がそれを支えていました。

ライアン・ゴズリングはGQの長文インタビュー(読み応えあるおすすめ記事です)の中で、彼がケン役に決まったとき、世間の声で「ケンのイメージじゃない、ケンにしては歳を取りすぎている」と言われたそう。

それに対して、ゴズリングは「ケンを気にかけていると言うけど、そんなわけない。もし本当にケンのことを気にかけたことがあるなら、誰もケンのことなんて気にかけてないとわかるはず。」と言い、「だから彼の物語は語られなければならないんだ」と続けます。

劇中でも語られるように、ケンは「バービとケン」つまり、バービーのアクセサリー的な位置づけとなっているため、バービーに存在を認識してもらうことに必死です。ケンたちはバービーに声をかけ、力を競い合い、ダンスをしたりバク転したりなど、カッコつけて気を引こうとするのです。

そんなケンは、人間社会から家父長制をバービーランドに持ち帰ります。バービーハウスはハマーのSUV、馬、小さな冷蔵庫、革張りのソファ、そして入り口にはウエスタンな両開き扉がつけらます。その名も「モジョ・道場・カサ・ハウス」。このネーミングセンスも抜群。

先述した『オフェリアの生還 傷ついた少女たちはいかにして救われたか?』の中で、幼少期に遊んでいた男子が男性となり家父長制に染まってく様子を、『バービー』ではケンを通して描く様子も絶妙です。

バービーランドで毎晩行われるパーティは男子禁制、一方、ケンダムで行われるパーティは女性は男性に奉仕する形であることも印象的。それでもケンダムに洗脳されたバービーたちは、「考えなくていい」とその状況を受け入れているのです。

ケンダムに家父長制を持ち込んだケンは、マンスプレイニング(説明したがる男たち)ならぬ、“ケンスプレイニング”を発揮します。

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面白いのは、バービーたちがそれを逆手に取ること。『ゴッド・ファーザー』を解説したり、Photoshopの使い方を教えたり、スポーツを教えたり、教えたがりなケンたちに頼るふりをして気持ちよくさせていき、その究極形として、ケンはバービーに弾き語りをしていました。

さらに、本作全体が巧妙なオマージュや小ネタを散りばめていて、それを解説しようものなら、それこそマンスプレイニングの構図にハマってしまうのです。

「Ken is me.」

物語の終盤、グロリアの切な訴えで目覚めたバービーたちによってバービーランドは取り戻され、その後、バービーは意気消沈するケンを慰めます。その過程で、ケンは自分の個性を理解していくのです。

このとき、ケンは「Ken is me.」と言いました。自分がケンであることを理解するならば、「I am Ken.」の方が一般的かもしれませんが、映画では明確に意味が異なります。

ケンは自分が「バービーとケン」「ビーチのケン」などと定義され、同様にバービーも「定番バービー」であることを定義され、それに自分を寄せるように自らも定義していたのです。

バービーやケンにとって「私は〇〇だ」ということは、人間のそれとは異なります。「バービー」や「ケン」であることは、人間のカテゴリー(医者や弁護士、男性、女性も含めて)に相当するのです。

だからこそ「I am Ken.」ではなく「Ken is me.」であることが重要で、バービーの言葉の通り、ケンはケンであろうとすることから解放され、自分自身でいることを理解するのです。

バービーの変化

同様に、バービーにも大きな変化が見られます。バービーは自分が「定番バービー」であることを理由に冒険できないといったり、賢くないと言ったりしていました。自分自身を「定番バービー」のステレオタイプに定義づけしていたのです。

ケンダムからバービーランドを取り戻し、さらにケンたちの悩みも理解して和解したバービー。より一層、完璧なバービーランドができる一方で、バービーは再びルース・ハンドラーの亡霊と出会い、彼女から「バービーランドか人間社会か」の選択を提示されます。

このとき流れるのが、ビリー・アイリッシュの「What Was I Made For?」。「私は何のために生まれてきたの?」映画と楽曲が完璧に融合した劇中でも白眉のシーン。

風に揺れる木々と木漏れ日にはじまり、幼少期から人生を追体験するようなモンタージュが映し出されます。そしてバービーは人間社会で生きることを選択するのです。

老いも痛みもセルライトも口臭もない完璧で快適なバービーランドではなく、不快な人間社会を選択するのです。

バービーは初めて人間社会にやってきたとき、ベンチに座る老婦に対して「美しい」と言いました。バービーは、このときすでに他人の中に美を見出していたのです。

あるとき死を意識したことで自分の実存的な危機に直面したバービーが、完璧で快適な世界から不完全で不快な世界へ向かう。

グレタ・ガーウィグ監督はVOGUEのインタビューでバービーランドを旧約聖書の創世記、アダムとイブの「エデンの園」に例えて語っています。

ケンはバービーの後に、バービーの地位を高めるために作られたのです。それは創世記の創造神話とは正反対です。

VOGUEのインタビュー

『レディ・バード』でシアーシャ・ローナン演じる主人公が田舎の神学校に通う高校生であるように、監督自身がカトリック学校に通っていた影響から神学的テーマを取り入れていることが伺えます。

バービーは失楽園ような追放ではなく、自ら選んだ、恥も痛みも美しさも知る祝福の旅立ちを描いたのです。

ラストの婦人科と「何にでもなれる」の先へ

マテル社とバービーは、生みの親であるルース・ハンドラーの「You can be anything(女の子だって何にでもなれる)」の理念のもと、数々の社会的批判を受けながらも多様なバービーを作り上げてきました。

現在では、バービーのキャリアは250以上にものぼっています。多様な女性の姿を描く背景で、本作の主人公「定番バービー」を通して、「定番バービー」であることのステレオタイプを描き、そこからの解放を描きました。

物語の最後、バーバラ・ハンドラーと名を変えたバービーは婦人科の検診に訪れます。あのラストは、人間社会で生きることを選択した彼女が、自分自身の体を大切にして生きていくことを意味していたように感じました。

それは、人間社会に初めてやってきたとき、建設作業員に「自分は性器がないツルペタなんだ」と明かしていたシーンと対照的に映ります。セリフでは「I don't have a vagina. He doesn't have a penis.」と明言しています。

映画全体でみても、バービーは前半ではあっけらかんと声高に話しているのに対して、後半に進むにつれ、セリフの間も長く、声も低くなっているのです。バービーが自ら思考していることがよく伝わります。

さらなる一歩へ

一方で、手放しで称賛できない部分も多く残っている印象。デデさんという方の『バービー』レビューでは、専業主婦の不在を挙げてフェミニズム映画としての課題を問いかけていて、膝を打つ学びになる記事になっています。

同様に、イスラム女性のコラムニストの記事では、本作が多様なキャストを採用し、議論や話題を呼ぶ作品であることはポジティブに捉えながらも、ホワイト・フェミニズムを脱しておらず、表層的で目新しさがなく、葛藤を感じながら劇場をあとにしたと記しています。

まとめ:グレタ・ガーウィグ監督の今後に期待

今回は、グレタ・ガーウィグ監督×マーゴット・ロビー主演『バービー』をご紹介しました。

世界的に名の知れたマテル社のバービーというIP(知的財産)を使って描く意欲的な作品でした。賛否がハッキリ分かれそうな作品ですが、それはいい意味で名作の要素のひとつだと思います。

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