今回ご紹介する映画は『きみの瞳が問いかけている』です。
三木孝浩監督による作品で、不慮の事故で視力と家族を失った女性と、罪を犯しキックボクサーの未来を絶たれた男性が出会う物語。
主演は吉高由里子さんと横浜流星さん。
本記事では、『きみの瞳が問いかけている』をネタバレありで感想・解説・考察していきます。
単なるラブストーリーに終わらず、罪と赦しを描いた物語となっていました!
映画『きみの瞳が問いかけている』の作品情報とあらすじ
『きみの瞳が問いかけている』
あらすじ
視力を失った明香里と、罪を犯してキックボクサーの夢を絶たれた塁。2人は幸せに暮らしていたが、明香里が視力を失った事故の秘密を知り、酷な運命に気づいてしまう…。
5段階評価
予告編
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作品情報
タイトル | きみの瞳が問いかけている |
原案 | 映画『ただ君だけ』 |
監督 | 三木孝浩 |
脚本 | 登米裕一 |
出演 | 吉高由里子 横浜流星 |
音楽 | mio-sotido |
主題歌 | BTS『Your eyes tell』 |
撮影 | 小宮山充 |
編集 | 柳沢竜也 |
製作国 | 日本 |
製作年 | 2020年 |
上映時間 | 123分 |
動画配信サービス
『きみの瞳が問いかけている』のスタッフ・原作・主題歌
監督:三木孝浩
名前 | 三木 孝浩(みき たかひろ) |
生年月日 | 1974年8月29日 |
出身 | 日本・徳島県 |
本作のメガホンを撮ったのは、三木孝浩監督。
長編デビュー作の『ソラニン』を始め、その後も恋愛映画を数多く手がけてきたことから、廣木隆一監督、新城毅彦監督とともに“胸キュン映画三巨匠”の一人でもあります。
本作と同時期公開の映画『思い、思われ、ふり、ふられ』も三木孝浩監督が手掛けていて、どちらも繊細な心理描写を丁寧に描いていました。
原作:韓国映画『ただ君だけ』
本作は、ソン・イルゴン監督による韓国映画『ただ君だけ』を原案・原作とした日本版リメイク映画となっています。
そして、原作の『ただ君だけ』は、チャップリンの『街の灯』をモチーフとしたラブストーリー。
2014年にはトルコで『Sadece Sen(日本語タイトル:オンリー・ユー 光を求めて)』としてリメイクもされています。
主題歌:BTS『Your eyes tell』
本作の主題歌には、韓国の大人気7人組ヒップホップボーイズグループ・BTSの『Your eyes tell』を起用。
伸びのある高音ボイスと切ないメロディが感動を誘います。
『きみの瞳が問いかけている』のキャスト
吉高由里子
柏木明香里
大学で彫刻を専攻していたが、自ら運転していた車の事故で両親を亡くし、自身も視力を失う。現在は電話対応のカスタマーセンターで働く。
主人公の明香里を演じたのは吉高由里子さん。視力を失った女性で、目を開けながらの演技なので非常に難しい役柄ですが、素晴らしく演じていました。
焦点を外した中での瞳の動かし方は本当に素晴らしかったです!
三木監督とは以前に、少女漫画原作の映画『僕等がいた』でタッグを組んでいます。
主な出演作
- 『蛇にピアス』
- 『僕等がいた』
- 『横道世之介』
横浜流星
篠崎塁
幼い頃に母を亡くし、修道院の児童養護施設で育つ。過去に罪を犯したことで夢破れたキックボクサー。
過去に罪を犯したことで夢破れたキックボクサーを演じるのは横浜流星さん。端正な顔立ちと、空手の世界大会で優勝した経験を持つ稀有な俳優です。
本作ではその経歴を存分に活かしたキックボクシングで華麗な動きを見せてくれました。
整ったルックス故にキラキラした映画に出演することが多いですが、泥臭い演技も上手くできると本作でより一層感じたので、今後も楽しみです。
彼の才能、ポテンシャルには驚かされます!
主な出演作
- 『チア男子!!』
- 『いなくなれ、群青』
町田啓太 | 佐久間恭介(半グレのリーダー) |
やべきょうすけ | 原田陣(キックボクシングジムのコーチ) |
田山涼成 | 大内(キックボクシングジムの会長) |
風吹ジュン | 大浦美恵子(シスター) |
野間口徹 | 尾崎隆文(コールセンターの明香里の上司) |
その他にも、嫌な上司役を演じさせたら一級品の野間口徹さんや、ジムトレーナーのやべきょうすけさん、修道院のシスター役として風吹ジュンさんなど、脇役の配役も非常にマッチしています。
ネタバレあり
以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ感想】罪と救済の物語
罪と救済の物語
『きみの瞳が問いかけている』は単なるラブストーリーではなく、残酷な運命の因果、そして罪と赦しを描いた物語でした。
明香里と塁はひょんなことから惹かれ合っていきますが、それぞれが自分の犯してしまったことへの意識を抱えながら生活しています。
- 明香里:自分の運転で事故を起こし、両親と視力を失った過去
- 塁:半グレ集団に属し、人を死なせた罪で2年半服役していた過去
明香里は手術により自分の視力が回復する可能性があると知りながらも、両親を死なせてしまった罪の意識があるため、それを望まないのです。
そして、2人の傷にはリンクする事実があることが明らかになります。それは、塁が犯した罪によって明香里の事故が引き起こされてしまったこと。
それを知った塁は、明香里への贖罪から、身を引いた地下格闘技に戻り、なんとか大金を工面すると、半分を明香里の手術代に、もう半分を過去に死なせてしまった人の家族へと振り込むのでした。
塁は、それにより明香里の前から姿を消すことで、犯した罪への罰を自ら科そうとしていたのです。
しかし、半グレ集団の急襲にあい、入院生活を余儀なくされてしまいます。
残酷な運命に翻弄されながらも、ラストシーンでは、明香里の無償の愛によって赦しを受けることになり、大きな感動をもたらすのでした。
緩急のある展開
本作は、緩急のある展開が非常に印象的かつ効果的だと感じました。
明香里と塁が出会い、親密になるまでをゆっくり丁寧に描き、そこから深まっていく2人の関係性はスピーディに描かれます。
出会いの場所となる駐車場のシーンは、特に印象的で、繰り返し描くことで2人の芽生えていく恋心が丁寧に伝わります。
個人的に好きなシーンが、塁が明香里を待つシーン。
無愛想な塁が、明香里がいつ来るのかが待ち遠しいという気持ちを、杖の音を使って描いています。
設定を上手く恋愛映画に落とし込んだ描写です!
その一方で、リメイクなので仕方がないと思いますが、現実味のない設定などが気になる部分も多少はありました。
町田啓太さんらが演じた半グレ集団の安っぽさや、地下格闘技の浮世離れ感、明香里の視力が圧倒的に回復している描写にはどうしても違和感を覚えます。
【ネタバレ考察】 ラストシーンの解釈
感動的なラストシーンの展開に多くの方が涙した本作ですが、劇中で明香里が口ずさんでいた、藤村藤村の「椰子の実」という歌がもたらしている効果について考察してみます。
藤村藤村「椰子の実」
名も知らぬ遠き島より
流れ寄る椰子の実一つ故郷(ふるさと)の岸を離れて
汝(なれ)はそも波に幾月旧(もと)の木は生(お)いや茂れる
枝はなお影をやなせる我もまた渚を枕 孤身(ひとりみ)の
浮寝の旅ぞ実をとりて胸にあつれば
新たなり流離の憂海の日の沈むを見れば
激(たぎ)り落つ異郷の涙思いやる八重の汐々
藤村藤村「椰子の実」より
いずれの日にか故国(くに)に帰らん
この歌の内容を分かりやすく説明すると、海岸に流れ着いたヤシの実ひとつを目にしたことで、思いを巡らせる内容。
- どれくらい遠くの島からやってきたのか
- 元のヤシの木はどうなっているのか
- どれくらいの間、海を漂っていたのか
そんなヤシの実の旅路を、ふるさとを離れた場所にいる自分の人生と重ね、いつかふるさとに帰ろうと思う気持ちを詩にしたのです。
この詩は、藤村藤村が29歳のときに、友人の柳田国男から聞いた話を元に作り上げた詩でした。
それを踏まえた上で、ラストシーンを振り返ってみましょう。
ラストシーンの解釈はどうなるか
明香里と塁が離れてから2年後となるラスト、明香里は自分の店にやってきたのが塁であることに気付きます。その後、オルゴール片手に塁を探しに街に出る明香里。
最終的に塁の原点だと話していた海岸で、塁と再会することができるのでした。
ストレートに2人の感動の再会として観ることもできますが、先ほど紹介した劇中歌「椰子の実」のストーリーを考えると、違った解釈もできるのです。
ラストシーン、明香里が塁を探しに飛び出してから、明らかに意図的なぶつ切りのカットで海岸シーンへとつながることが気になった方も多いのではないでしょうか。
海岸をさまよい歩く塁は、思い出のシーグラスを手にし、母親同様に死ぬつもりで海に入ろうとしていました。
シーグラスは劇中でも説明があるように、海を流れてやってきたビンなどのガラスの欠片のことです。
つまり、シーグラスは「椰子の実」と同じなんです。海岸のラストシーンは藤村藤村の「椰子の実」を描いていたのです。
このシーグラスをモチーフとしたのは絶妙で、傷つけることもあるガラスの欠片が、シーグラスとなることで角が取れるという、塁のストーリーを意味したものと、「椰子の実」としての意味の2つの描き方をしているのです。
「椰子の実」は、いつかふるさとに帰ろうという気持ちを描いていましたね。
そう考えると、塁はシーグラスを通して、明香里はオルゴールを通して思い出をたどり、2人の思い出の場所である海岸をふるさとと見立てたと解釈できます。
つまり、2人はまだ再会していないのです。
ラストカットがまるで天国のように美しいシーンだったのもそれを想像させるのでした。
まとめ:切ない余韻が残る純愛ラブストーリー
今回は、『きみの瞳が問いかけている』をご紹介しました。
ティーン向けのラブストーリーと思っているといい意味で裏切られます。三木監督の描写力の高さには驚かされますし、これまでにはないダークな部分も観られました。
主演の2人の演技が素晴らしく、特に横浜流星さんは本作を期に役柄の幅も広がりそうで楽しみです。
日本の恋愛映画が苦手だという方でも楽しめる展開になっていました。
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