今回ご紹介する映画は『クレイジークルーズ』です。
坂元裕二によるオリジナル脚本で、豪華客船を舞台に、吉沢亮&宮崎あおい主演で描くミステリー・ロマンティックコメディ。
本記事では、ネタバレありで『クレイジークルーズ』を観た感想・考察、あらすじを解説。
坂元裕二作品としてNetflixで出す必要性をあまり感じない作品でした!
『クレイジークルーズ』の作品情報・予告・配信
『クレイジークルーズ』の監督・脚本・スタッフ
監督:瀧悠輔
監督は、主にテレビドラマを手掛けている瀧悠輔監督。坂元裕二脚本の2021年のTVドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』で演出の1人として参加しています。
脚本:坂元裕二
名前 | 坂元 裕二(さかもと ゆうじ) |
生年月日 | 1967年5月12日 |
出身 | 日本・大阪府 |
『クレイジークルーズ』のキャスト・役柄
キャラクター | 役名/キャスト/役柄 |
---|---|
冲方優(吉沢亮) 腰が低い理由で乗客のクレーム対応を任される豪華クルーズ船のバトラー。 | |
盤若千弦(宮崎あおい) 切羽詰まった様子でクルーズ船に乗り込んできた謎の女性。 | |
矢淵初美(吉田羊) 豪華クルーズ船の船長。 | |
保里川藍那(菊地凛子) 映画プロデューサー。 | |
井吹真太郎(永山絢斗) 若手俳優。保里川不倫している。 | |
湯沢龍輝(泉澤祐希) 萩原組元組員。 | |
萩原汐里(蒔田彩珠) 萩原組組長の娘。龍輝と駆け落ちしている。 | |
久留間宗平(長谷川初範) 医療界のゴッドファーザー。 | |
久留間道彦(安田顕) 宗平の息子で総合病院の院長。 | |
久留間美咲(高岡早紀) 久留間家の嫁。 | |
佐久本奏翔(潤浩) 宗平の家事手伝いをする母の息子。美咲の娘・玲奈の相手をする。 | |
エドワード江戸(岡部たかし) 乗客たちを楽しませるマジシャン。 |
ネタバレあり
以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ解説】『クレイジークルーズ』のあらすじ
(C) Netflix,Inc. 11月16日(木)よりNetflixにて世界独占配信
避雷針
エーゲ海を巡る47日間のクルーズ船内でバトラーを務める冲方優(吉沢亮)は、迷惑客(光石研)のクレーム対応をしていた。船長の矢淵初美(吉田羊)は、プライドのない冲方を乗客からのクレームの「避雷針」として役に立つと考えている。
冲方は、恋人でニュースキャスターの船橋若葉(林田岬優)が横浜で合流するはずが仕事で来られないとのメッセージを受ける。そんな中、横浜から若葉を探しにやってきた盤若千弦(宮崎あおい)という女性が乗船する。
千弦は冲方が若葉の恋人であることを知ると、若葉が浮気していることを明かす。若葉が恋人・清川(眞島秀和)と浮気旅行しようとしていることをメッセージのやり取りを見せて伝えると、冲方はショックを受ける。
殺人事件
久留間宗平(長谷川初範)は、遺産のすべてを佐久間(菜葉菜)に相続することを決めていたが、息子の道彦(安田顕)と妻の美咲(高岡早紀)は不満に感じていた。
宗平はデッキのプールで、過去にある患者を臓器移植手術したこと、そのときに臓器提供した新婚だった女性は死んでしまったことを美咲に明かす。遺産を狙う美咲は車椅子に乗る宗平をプールに突き落として溺れさせようとする。
同じ頃、冲方と千弦、佐久本奏翔(潤浩)、保里川藍那(菊地凛子)、井吹真太郎(永山絢斗)、湯沢龍輝(泉澤祐希)、萩原汐里(蒔田彩珠)の7人もデッキのプールにやってくる。すると、電気音とうめき声が聞こえた後、何者かが立ち去る姿と宗平がプールに落ちる姿を目撃する。
全員がその場を離れている中、道彦は美咲とともに遺体を回収する。冲方は急いで矢淵に伝えるが、遺体はすでに消えており、現場に居合わせた6人も知らないと答える。
困惑する冲方だったが、千弦は奏翔を気遣ってウソを付いただけであり、彼女はクルーズ旅を続けるためにウソを着く4人【藍那・井吹・湯沢・汐里】を説得しようと持ちかけ、冲方は承諾する。2人は事件を公にして船を引き返すことで2人の恋人の浮気を止めるために結託する。
調査開始
冲方は変装して千弦とともに調査を開始する。湯沢と汐里に接触すると、2人はヤクザの組を抜けて駆け落ちしたことで、日本に戻ると身の危険があるという理由でウソを付いたことを明かす。一方、藍那と井吹は証言することで不倫旅行であることが公になることを恐れてウソを付いたことが判明する。
2人は4人が証言してくれないことに気落ちしながらも、切り替えて船内のサービスを楽しみ距離が近づいていた。
一方、道彦と美咲は部屋に宗平の遺体を置いていたが、手伝いの佐久本に気づかれてしまい、道彦は彼女を階段から突き落とす。佐久本は意識不明になりドクターヘリで運ばれるが、息子の奏翔は船に残り、久留間玲奈(大貝瑠美華)の相手を続けることになる。
決意
道彦と美咲が怪しいと感じた冲方と千弦は、マスターキーで部屋に侵入する。するとベッド下で宗平の遺体を発見する。しかし、2人が知らせる前に、道彦が心筋梗塞で死亡したと申告してしまう。
そんな中、千弦は清川からの電話を受け、浮気しそうになったが思いとどまったことを伝えられる。宗平の遺体は寄港する香港で引き取られることになる。
千弦は香港で降りる準備をするが、冲方はの好意を伝えて船に残るように伝え、その思いが届き、千弦は降りる直前で引き戻して船に残ることを決める。
事件の真相
その後、藍那・井吹と湯沢・汐里のカップルは、それぞれ揉めていた。下船したい気持ちになった井吹は、デッキで撮影した動画に現場から逃げる男の姿が映っていたことを冲方と千弦に打ち明ける。
冲方はその動画と4人の証言を取り付け、宗平殺害の容疑で道彦と美咲を問い詰める。道彦は美咲が宗平をプールに突き落とした動画を撮影しており、それを元に美咲の仕業だと言い張る。
しかし、千弦が道彦と井吹の動画の月の位置が違うことに気づき、矢淵船長が舵を切った前後で宗平が2回プールに落ちていることを突き止める。
すると、マジシャンのエドワーズが現れ、自分が殺したことを明かす。彼は宗平に臓器移植手術されて死んだ女性の夫で恨みを持っていた。
エドワーズは港に着くまで拘束されて事件は収束し、冲方と千弦は恋人になり、残りの船旅を楽しむ。
【ネタバレ感想】これが坂元裕二脚本だと…!?
(C) Netflix,Inc. 11月16日(木)よりNetflixにて世界独占配信
『クレイジークルーズ』の感想をハッキリ言うと、「虚無」でした。
一切の感情が動くことがなく物語が終わる。もはやつまらないとすら感じているのかもわかりませんでした。途中で何度も鑑賞を止めたくなりましたが、坂元裕二脚本×Netflixを信じて観ました。しかし、残ったものは何もありませんでした。
紙より薄い登場人物の設定
『クレイジークルーズ』は、豪華客船を舞台にしたミステリー&ロマンティックコメディ作品です。予告編を観た印象では、ライアン・ジョンソン監督×ダニエル・クレイグ主演の『ナイブズ・アウト』シリーズ的なミステリーコメディになるのかと期待しましたが、私が期待しすぎたせいか、見当違いでした。
例えば、福田雄一監督のコメディ映画のように、「牛丼屋で牛丼が出てくるように」作家性と需要が一致している作品はわかりやすく、良くも悪くも想像と違うことは少ないです。全く好みではありませんが、2023年にNetflixで配信された『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』も、監督らしさが出ていた作品です。
MOVIE WALKER PRESSのインタビューによると、本作はこれまでの坂元脚本のようにキャラクター主導で脚本を書くのではなく、ストーリー主体で作ったと話しています。まさにこれが失敗しています。
ストーリーが破綻している点は後ほど触れるとして、坂元裕二脚本に期待していたキャラクター性がまったく感じられないのです。それっぽい会話はあるものの、その背景がない人間が話す姿は、ビジネス書で知った言葉を自分の言葉として話す人間のように空虚なのです。
それにもかかわらず、ポスターには監督名も記載せずに「脚本 坂元裕二(第76回カンヌ国際映画祭 脚本賞受賞)」と書いているあたり、なかなかにズルいです。ちなみにカンヌの脚本を受賞したのは、是枝裕和監督の『怪物』の脚本です。
脚本はコロナ禍に書かれたものですが、カンヌ俳優に憧れる若手俳優に永山絢斗氏がキャスティングされ、アカデミー助演女優賞ノミネートの菊地凛子さんがカンヌも知らない映画プロデューサーという設定も、本来笑えるところが、笑えない事態になっているのも皮肉です。
同じく坂元裕二脚本で傑作映画となった『花束みたいな恋をした』では、とあるカップルの出会いと別れの5年を描き、サブカル好きな2人の繋がりが、時間の経過と社会人になることで変化していく様子が共感性の高い見事な一本でした。
本作では、キャラクターの作り込みがないとこれほどまでに空虚なのかと痛感する内容でした。
例えば、ともに浮気されたバトラーの冲方と千弦が、仕事の向き不向き、恋人としての価値に思い悩む場面がありますが、2人の背景が何もわからないため、言葉だけが「共感するでしょ?」といっているような、表面的なものに留まっています。
【ネタバレ考察】恋愛は空虚なもの
(C) Netflix,Inc. 11月16日(木)よりNetflixにて世界独占配信
人が人を好きになった瞬間
車と車がぶつかる瞬間や、人が人を殺す瞬間は映像として撮れるけど、人が人を好きになった瞬間というのは目に見えなくて、撮影できないじゃないですか。画に映らないし、それは脚本にも書けないものです。そういう問題をラブストーリーをつくってる人間はずっと抱え続けているんですよね。
上記の文春オンラインのインタビューを読むと、本作で一番描きたかったのが「人が人を好きになった瞬間」だと思います。
確かに劇中でも、「恋人が浮気をしかけた」ことと「冲方と千弦が恋をしかけたこと」を共存させ、それを殺人事件をなかったことにしない「正しい行動」と交差させる状況は、止められない恋愛感情を描くワクワクするものがありました。しかし、それを活かせてるとは思えないのです。
結果的にロマンスもミステリーも安っぽいコメディに帰着しているので、どっちつかずの印象が拭えません。ロマンスを描くのであれば、せめてミステリー要素をもっとちゃんと描いてほしかった。
そうなっていたら、インタビューで坂元裕二氏が語る「恋愛の空虚さ」が際立ったと思うのですが、本作はすべてにおいて中途半端。
これを象徴するように、2人が再会してハグするシーンでは、場違いなトイレットペーパーと紙吹雪が舞い、それを回収する清掃員とのギャップを描いたシーンがすごく良いシーンであるにも関わらず、全体がお粗末なので取って付けたようなシーンに感じられるのです。もったいない…。
セットでの撮影が一番の原因
【クレイジークルーズ 製作の裏側】
2022年春、製作チームは実際のクルーズ船を使用した撮影の許可をいただいてましたが、コロナ禍の影響でクランクイン直前に国際クルーズ船の国内入港が禁止に…。しかし、そこで製作陣が選択したのは撮影延期ではなく「実寸大のセットを作ってしまおう」という決断でした。
本作で登場する豪華客船は、日本に来航している中でも最大級に大きい豪華客船「MSCベリッシマ」です。
そんな豪華客船を舞台にしたミステリーの本作ですが、Netflix JapanのTwitterによると、コロナ禍の影響で実際に撮影するはずだったMSCベリッシマで撮影ができずに、セットでの撮影に臨んだことが明かされています。
「豪華客船が舞台」という一番大事な要素を、なぜ撮影延期ではなくセットでの撮影の選択を選んでしまったのか。これが本作で一番もったいないと思ったところです。
映画を観ればわかるように、豪華客船とは名ばかりで、まるで開放感のない様子になっています。製作費が潤沢にあるNetflixなら、同じセットを作るのではなく、実際の豪華客船で撮影してほしかった。
乗客は4860人いるとのことですが、都合のよく登場したり消えたりする群衆が一番のミステリーでした。そしてそんな乗客も、なぜか絵に描いたような「外国人」ばかりで、2人が着替えて船内を楽しむシーンは、「東京カレンダー」にしか見えません。
結果的に、配信プロモーションでようやく乗船した本物のMSCベリッシマが一番迫力があるという、皮肉なものになっていました。
まとめ:地上波2時間ドラマで良かった
今回は、Netflix映画『クレイジークルーズ』をご紹介しました。
2023年6月、坂元裕二氏はNetflixと5年契約を結びました。インタビューでは、「5年間書くだけでいいというのは、すごく気が楽なんですよね。年齢的にもそろそろ書けなくなることを見据えながら仕事をしなきゃいけない時期なので、落ち着いて仕事ができるというのはいいなと思いました。」と語っています。
坂元氏の脚本ファンである1人の人間の無責任なお願いです。「気楽なもの」もいいですが、これまでのような魅力的なキャラクターをこれからも書き続けてください…。
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