今回ご紹介する映画は『パスト ライブス 再会』です。
海外移住のため離れ離れになった幼なじみの2人が、24年越しにニューヨークで再会する様子を描いたドラマ。
本記事では、ネタバレありで『パスト ライブス 再会』を観た感想・考察、あらすじを解説。
恋愛映画のようで、実際は移民の主人公が折り合いをつける様子を描いた人間ドラマでした!
『パスト ライブス 再会』作品情報・配信・予告・評価
『パスト ライブス/再会』
あらすじ
韓国・ソウルに暮らす12歳のノラとヘソンは、互いに恋心を抱いていたが、ノラの海外移住により離れ離れになる。そこから12年後の24歳、さらに12年後の36歳の2人の様子を描く。
5段階評価
予告編
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作品情報
タイトル | パスト ライブス/再会 |
原題 | Past Lives |
監督 | セリーン・ソン |
脚本 | セリーン・ソン |
出演 | グレタ・リー ユ・テオ ジョン・マガロ |
音楽 | クリストファー・ベア ダニエル・ローセン |
撮影 | シャビエル・キーシュナー |
編集 | キース・フラース |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2023年 |
上映時間 | 106分 |
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『パスト ライブス 再会』監督・スタッフ
監督:セリーヌ・ソン
名前 | セリーヌ・ソン |
生年月日 | 1988年9月19日 |
出身 | 韓国・ソウル |
監督・脚本は、韓国出身のセリーヌ・ソン。本作が彼女の長編監督デビュー作となります。
両親はともに芸術家であり、12歳のときに家族とともにカナダのオンタリオ州マーカムに移住。その後、クイーンズ大学で心理学と哲学を学び、2014年にニューヨークのコロンビア大学で劇作により芸術修士号を取得。
この経歴を見ればわかるように、本作は監督の個人的な体験を元にした半自伝的映画です。シャビエル・キルヒナーによる撮影で、本作は35mmフィルムで撮影が行われています。
『パスト ライブス 再会』キャスト・キャラクター解説
キャラクター | 役名/キャスト/役柄 |
---|---|
ノラ(グレタ・リー) 劇作家。12歳で韓国からトロントへ移住し、その後ニューヨークへ移住した。韓国名はナヨン。 | |
ヘソン(ユ・テオ) ノラの幼なじみ。24歳のときに初恋だったノラのことをFacebook上で探す。 | |
アーサー(ジョン・マガロ) ノラの夫で小説家。ノラとは小説家のレジデンシーで出会う。 |
韓国と時代背景から年代を振り返る
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『パスト ライブス 再会』は、午前3時のニューヨークのバーで語り合う男女3人の様子を、第三者の目線で捉える場面から始まります。第三者の会話では、真ん中に座る女性(ノラ)と両脇に座る男性(ヘソンとアーサー)との関係性について想像する様子が描かれています。
この映画、「号泣した」「大変共感した」という感想も多いですが、私にとって本作は、この場面に象徴されるように、3人の様子を終始、俯瞰で眺めていた不思議な映画でした。一方で物語は、そんな3人にどんな関係性と物語があるのかが明かされていきます。
宣伝では「ラブストーリー」「恋愛映画」と表現されていますが、本作は三角関係を描いた物語ではありません。
映画は、ノラとヘソンが12歳の時(2000年)、24歳の時(2012年)、36歳の現在(2024年)の3つの時間軸を映しています。また、本作は監督セリーヌ・ソンの体験に基づいた物語であることも注目ポイントです。
物語はとても淡白なため、背景が語られることはありませんが、ノラが韓国からトロント、そしてニューヨークへ移住した時代背景とヘソンとの関係は考える余地があります。以下では、時代背景と共に物語を振り返っていきます。
12歳(2000年)
ノラは、父親が映画監督、母親が画家という家庭でした。そんな両親がカナダのトロントへと移住を決めたのが2000年。ノラが12歳の頃です。
この頃の韓国は、1990年代末から2000年代初頭にかけて、文化産業の振興を国家戦略の一環として掲げ、文化コンテンツの輸出を促進する政策を積極的に推進しました。韓国の3大事務所(SM・YG・JYP)の前身となる会社が創設されたのもこの時期です。
さらに1997年には、タイを発端として東南アジアや韓国の経済に深刻な影響を及ぼした「アジア通貨危機」が起こっています。ノラの両親が移民を決意した背景には、韓国の激動の時代にあったことが想像できます。
ノラは学校で一番成績が良い少女であり、ヘソンに一度だけ成績トップの座を奪われると、悔しくて涙を流すような性格です。そんな2人は、少年少女ながらに互いに想いを寄せていることが伝わります。
この頃、ノラはヘソンと結婚すると思っており、彼のことを好きな理由に「男らしさ」と語っています。ノラの移住前に両親がセッティングしたデートの場所が韓国国立現代美術館(MMCA)であるのも印象的でした。
24歳(2012年)
それから12年が経過し、ノラとヘソンの2人はオンライン上で再会することになります。きっかけは、ノラがFacebookを通じて、ヘソンが自分を探していることを知ったからです。
2人はスカイプを通じてオンライン上で12年ぶりに再会しますが、お互いに会いたい気持ちを示しながらも、それぞれが「作家として忙しい」「大学の授業があって忙しい」と、お互いに会いに行くことはありませんでした。
この頃、ノラはトロントからニューヨークに移住しており、劇作家としての活動に専念したい気持ちがありました。2人は定期的にオンライン通話をしていましたが、ある時、ノラは「執筆活動に集中したい」ことを理由に、連絡を取り合うことをやめることを提案します。
そしてノラは、ニューヨーク州のビーチリゾートであるモントークで小説家のレジデンシー(短期滞在プログラム)に参加し、後に夫となるアーサーと出会います。一方、ヘソンも、語学留学した中国で彼女ができていることがわかります。
36歳(2024年)
それからさらに12年後。ノラとヘソンは、ニューヨークでようやく面と向かって再会することになります。この時点でノラはアーサーと結婚して7年が経過していることが明かされます。恋人と別れていたヘソンは、ノラに会うためにニューヨークにやってきました。
マディソン・スクウェア・パークで再会した2人は、観光地を巡りながら語り合います。この時、ヘソンが12年前にFacebookでノラを探していた理由を明かしています。ヘソンは兵役の時に、初恋だったヘソンのことが自分の頭の中に浮かんだのでした。
本作が面白いのは、「初恋と再会」の物語でありながら、そこに劇的なロマンスがあるわけではないところ。2人は24年越しに再会しますが、初恋をずっと引きずっていたわけではなく、ヘソンは兵役によって、ノラはFacebookの彼が自分を探していること知って再燃しているのです。
一方でアーサーは、ノラが幼なじみのヘソンと会うことに対して少なからず心がざわついているのが伝わります。ノラと同じく小説家である彼は、ノラとヘソンを「ラブストーリー」とすると、自分の存在が障壁のように感じると吐露していました。
アーサーは、ノラがレジデンシーで出会ったのが自分ではなかったら、そしてその人物が自分と同じような人間だったらどうなっていたかを考えます。ノラが結婚したのも、アメリカでのグリーンカード(永住権)のためだったのではないかとすら思っているのです。それに対してノラは、アーサーへの愛を誓います。
私にとってはこの場面が一番印象的で、本作はノラとヘソンの初恋にまつわる物語である一方で、アーサーの存在が印象深く残ります。彼は自分がノラにとって「たまたまタイミングがよかった代替可能な存在」なのではないかと考えているのです。
この言葉からもわかりますが、アーサーはいわゆる「男らしさ」のある人物ではありません。それでもノラはそんなアーサーと生きる道を選んだのです。だからこそ彼と一緒にいるのです。
12歳のノラは、ヘソンを「韓国らしい男らしさ」があると言って結婚したいと話していましたが、アーサーとの会話で彼女は、現在のヘソンを「韓国的な韓国人(Korean-Korean)」と表現しています。それはノラが母国を離れて生活しているバックグラウンドからくる考え方ともいえます。
翌日、ヘソンはノラとアーサーの家に招待され、3人で食事を取った後、冒頭のバーのシーンに繋がります。冒頭で第三者目線だった観客は、この時のバーでの3人の状況をすでに知っています。
その後、ヘソンは2人が韓国に来ることを歓迎し、Uberタクシーを呼びます。タクシーが到着するまでの間、ノラとヘソンはお互いを見つめ合いながら、何も語らない少しの時間がありました。
別れ際、ヘソンは「今が前世だとしら、来世ではどうなっているかな」と質問します。これは2人が話していた「イニョン(縁)」についての考え方によるもの(後ほど解説)。
ノラが「わからない」と返答すると、ヘソンは「じゃあその時また」と別れを告げて去っていきます。ヘソンを見送ったノラは、彼が去った後、家の前で待つアーサーの腕の中で涙を流します。
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この時、Uberでノラのもとを去っていくヘソンは、画面左側へ進み、見送ったノラは、その後ゆっくりと画面右側に歩いていきます。この描写でわかるように、ヘソンはノラにとって「過去=(韓国)」の象徴なのです。
両親に連れられて12歳で母国・韓国からトロントへ移住したヘソンは、24歳で自分の夢(劇作家)を追いかけるためにニューヨークへ移住しました。彼女は、夢のために初恋だったヘソンとの関係にも自らケリをつけたのです。
グリーンカード取得のために、時期尚早と思いながらも結婚し、36歳となった現在では結婚生活も7年が経ち、完璧ではないけれどそれなりに満足した暮らしを送っている。それでも過去の「IF」に考えを巡らせてしまうきもあるのです。
このあたりは、コロナ禍で制作された日本映画の『ちょっと思い出しただけ』にも繋がる部分がありました。
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12歳で移住するという人生の分かれ道を歩んだノラの姿を象徴するように、ノラは階段を、ヘソンは緩やかな坂を歩んでいます。
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それと対応するのが映画のラストシーン。ノラが選んで進んでいった階段の先には、愛する夫と自分の家があるのです。
『パスト ライブス 再会』は、ノラが過去と折り合いをつけて、ゆっくりと前に進んでいく様子を描いていました。
タイトルの意味とイニョン(縁)
『パスト ライブス 再会』は監督の半自伝的作品というパーソナルな物語である一方で、移民である彼女の体験を通じて普遍的とも言える「もしも」を描いた物語でした。
自分の人生を振り返ったときに、「あの時、違う道を選択していたら…」と考えることは誰にでもあることでしょう。それは必ずしも後悔によるものではなく、あくまでも違う選択肢、違う人生への想像なのです。
本作は、そんな感情をタイトルにもなっている「Past Lives(前世)」に重ねることで、より多くの人にとって共感できる物語として描いています。
映画の中でノラやヘソンが使う印象的な言葉が「인연(イニョン)」です。これは韓国ドラマにもよく登場する言葉なので知っている方も多いと思いますが、日本語で「縁」と似た意味で使われる言葉です。
劇中の言葉で表現すると、イニョンは「前世からのつながり」のようなもので、前世でのつながり・接点が、来世でのより強いつながりをもたらすという考え方です。
バーのシーンでは、ヘソンとノラは「イニョン」について会話していました。2人は前世で「王妃と王の子分の不倫関係だったかもしれない」「それか鳥と枝の関係かもしれない」と笑い合います。
街ですれ違った時に、袖と袖が擦れたらそれは「イニョン」であり、来世ではもっと強いつながりがある。この「イニョン」の考え方で、ヘソンはラストにノラに「今世が前世(Past Lives)だったら、来世はどうなるかな」と質問していたのでした。
これは2人が「初恋同士」であるから成立する話で、そうでなければ、ただ気味の悪いセリフであるのも面白いポイントです。しかし、本作はあくまでもノラの物語。
イニョンも前世も実際にあるものではなく、ノラの人生はノラが自ら選択した結果によるものなのです。彼女は、36歳(もう子供ではなくなった年齢)にして、ようやく自分が「なり得たかもしれない人生」と折り合いをつけることができたのです。
『パスト ライブス 再会』感想まとめ
今回は、『パスト ライブス 再会』をご紹介しました。
ただ、ノスタルジー成分強めの「タラレバ」物語なので、共感できる人は多いと思いますが、個人的には肌に合わず、冒頭の第三者目線で客観視していました。今作は半自伝的物語でしたが、監督の次回作にも期待が高まります。
本作は感動して涙した人も多いと聞きますが、私にとってはむしろ、やる気・活力が湧いた作品で、ノラが過去と折り合いをつけて前に進んで行く様子、そして彼女が自ら自分の人生を決断するようすに触発されました。
ありきたりな言葉ですが、人生は「痛みなくして得るものなし(No pain No gain)」なんだと痛感させる映画でした。
【ネタバレ考察】『パスト ライブス/再会』イニョン(縁)とラストの意味
今回ご紹介する映画は『パスト ライブス 再会』です。 海外移住のため離れ離れになった幼なじみの2人が、24年越しにニューヨークで再会する様子を描いたドラマ。 本記事では、ネタバレありで『パスト ライブス 再会』を観た感想・考察、あらすじを解説。 『パスト ライブス 再会』作品情報・配信・予告・評価 『パスト ライブス 再会』監督・スタッフ 監督:セリーヌ・ソン 監督・脚本は、韓国出身のセリーヌ・ソン。本作が彼女の長編監督デビュー作となります。 両親はともに芸術家であり、12歳のときに家族とともにカナダのオ ...
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