今回ご紹介する映画は『ミラベルと魔法だらけの家』です。
コロンビアの山中にある魔法の家で暮らすマドリガル家の様子を描いたディズニー・アニメーション作品。
本記事では、ネタバレありで『ミラベルと魔法だらけの家』を観た感想・考察、あらすじを解説。
ひどい、ポリコレなどと言われていますが、近年のディズニー作品、ミュージカル映画としても大傑作です!
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『ミラベルと魔法だらけの家』の作品情報・予告・配信
『ミラベルと魔法だらけの家』
5段階評価
ストーリー :
キャラクター:
映像・音楽 :
エンタメ度 :
あらすじ
魔法の力に包まれた不思議な家に暮らすマドリガル家。家族全員が家から与えられた「魔法のギフト」を持つが、ミラベルだけ何の魔法も使えなかった。そんなある日、彼女は家に大きな亀裂があることに気づく。それは魔法の力が失われていく前兆だった。
作品情報
タイトル | ミラベルと魔法だらけの家 |
原題 | Encanto |
監督 | ジャレド・ブッシュ バイロン・ハワード |
脚本 | チャリーズ・カストロ・スミス ジャレド・ブッシュ |
出演 | ステファニー・ベアトリス マリア・セシリア・ボテロ ジョン・レグイザモ マウロ・カスティージョ ジェシカ・ダロウ アンジー・セピーダ キャロライナ・ガイタン ダイアン・ゲレロ ウィルマー・バルデラマ |
撮影 | ネイサン・ワーナー アレッサンドロ・ヤコミーニ ダニエル・ライス |
音楽 | ジェルメーヌ・フランコ リン=マニュエル・ミランダ |
編集 | ジェレミー・ミルトン |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2021年 |
上映時間 | 102分 |
予告編
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おすすめポイント
世代を超えて引き継がれるトラウマ。
家族全員が魔法の力を与えられた一家で唯一、力を与えられなかった主人公が一家の危機に対峙する物語。
家長のおばあちゃんが抱えるトラウマが家族に引き継がれ、それぞれが内なる苦しみを抱えている。
文字通り家族の崩壊の危機に瀕したとき、それをどう乗り越えていくのか、これまでのディズニー作品にはないアプローチで描かれています。
『ミラベルと魔法だらけの家』家系図・キャラクター・キャスト
キャラクター | 役名/キャスト/役柄 |
---|---|
ミラベル(ステファニー・ベアトリス/斎藤瑠希) 家族で唯一、ギフト(魔法)が授からなかった“普通”の女の子。 | |
アルマ(マリア・セシリア・ボテロ/中尾ミエ) ミラベルのおばあちゃんでマドリガル家の家長。 | |
ブルーノ(ジョン・レグイザモ/中井和哉) ミラベルのおじ。未来を予測する魔法を授かる。問題児として家族と疎遠になる。 | |
アグスティン(ウィルマー・バルデラマ/関智一) ミラベルの父。うっかり者だが、優しく娘たちを育てる。 | |
フリエッタ(アンジー・セペダ/冬馬由美) ミラベルの母。料理で人々を癒やす魔法を授かる。 | |
ルイーサ(ジェシカ・ダロウ/ゆめっち(3時のヒロイン)) ミラベルの次姉。ものすごい力持ちの魔法を授かる。 | |
イサベラ(ダイアン・ゲレロ/平野綾) ミラベルの長姉。植物を成長させたり花を咲かせる魔法を授かる | |
ペパ(カロリーナ・ガイタン/藤田朋子) ミラベルのおば。感情で天気をコントロールできる魔法を授かる。 | |
フェリックス(マウロ・カスティージョ/勝矢) ミラベルのおじ。 | |
ドロレス(アダッサ/大平あひる) ミラベルのいとこ。ものすごい聴力を持つ魔法を授かる。 | |
カミロ(大平あひる/畠中祐) ミラベルのいとこ。変身の魔法を授かる。 | |
アントニオ(ラヴィ・キャボット=コニャーズ/木村新汰) ミラベルのいとこ。5歳の誕生日を控えてギフトを授かろうとしている。 | |
マリアーノ(マルーマ/武内駿輔) イサベラの婚約者でマドリガル家の隣人。 |
ネタバレあり
以下では、映画の結末に関するネタバレに触れています。注意の上、お読みください。
【ネタバレ感想】コロンビアと家族の背景
ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ製作60作品目となる『ミラベルと魔法だらけの家』は、コロンビア人の家族、マドリガル家を描いた物語です。
奇跡によって魔法のギフトを授かった家族は、「エンカント」と呼ばれるコニュニティのために力を使って生活しています。そんな中、唯一、魔法を授からなかった主人公のミラベルが、家族が魔法を失いつつあることに気づき、その理由と探っていく中で家族の抱える内情が明らかになっていくストーリー。
ラテンアメリカのコロンビアが舞台の物語
コロンビアが舞台の本作。ディズニーアニメーション映画(ピクサー除く)でラテンアメリカ文化を描く作品としては、『ラテン・アメリカの旅』(1942)『三人の騎士』(1944)『ラマになった王様』(2000)に次いで4作目となります。
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冒頭シーンや終盤で描かれる、アルマと夫のペドロが村を追われて逃げ出す様子は、コロンビア内戦に基づいています。劇中の要素から考えるに「千日戦争(1899〜1902)」の時代とリンクします。
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そしてこの内戦が、アルマの夫でミラベルの祖父に当たるペドロの命を奪った出来事の背景として組み込まれています。
ディズニー映画における冒頭の定番パターンである「背景(世界観)説明パート」において、アルマが暴力によって居場所を強制的に追われ、それと同時に贈られた奇跡によって、3つ子が助かり人々を助ける力を授かったことが描かれました。
アルマはこの出来事により、授かった力で人助けすることで「エンカント」のコミュニティが繁栄したことに囚われているのです。そしてその矛先が、唯一授からなかったミラベルに向けられてしまうのです。
本作は、同じく家族について描かれた『リメンバー・ミー』と比較されることも多いですが、その描き方やアプローチは大きく異なります。
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一方で、『リメンバー・ミー』『インサイド・ヘッド』『ソウルフル・ワールド』など、近年のディズニー作品では、悲しみやトラウマとどう向き合っていくかを描いており、その部分では大いに通じるものもありました。
本作で描かれるテーマは、「世代を超えて引き継がれるトラウマ」でした。
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【ネタバレ考察】悪役のいない物語と世代間のトラウマ
『ミラベルと魔法だらけの家』の特徴的な要素に、悪役が登場しないことが挙げられます。本作はマドリガル家の家族について描かれるスケールの小さい物語であり、そこに目立った悪役は登場しません。
マドリガル家の家長であるアルマを「悪役」のように感じる人もいると思いますが、彼女の行動は悪意からではないことが判断できます。この物語は、アルマが受けたトラウマ(内戦による迫害と夫の死)が、トラウマを直接経験していない孫世代にまで引き継がれているのです。
ルイーサの“Surface Pressure”
ミラベルの次姉ルイーサは力持ちで村の人から頼りにされていますが、内心では多くの負担と不安を抱えていることが『Surface Pressure』という楽曲で表現されています。曲の中で彼女は「役に立てないなら私には価値がない」とさえ感じているのです。
最初に映画を見た時はルイーサが長女であるかのように思っていましたが、彼女は3姉妹の次女。「姉に任せな」という歌詞が表すように、年上の姉・兄が直面する家族の(物理的・肉体的な)重荷を象徴する歌になっています。
集団主義の根ざしたエンカントにおいて、その責任は村全体に及んでいて、彼女の肩には1人では到底抱えきれないプレッシャーが重くのしかかっています。劇中のルイーサの動向に注目すると、彼女は何かを楽しんだり、リラックスする暇もなく誰かのために働いていることが分かります。
イサベラの"What Else Can I Do?"
長姉のイサベラは(まるでこれまでのディズニープリセンスの主人公のように)完璧主義に囚われていたことが明らかになり、ミラベルとの対話によって「完璧であること」から解き放たれる様子が『What Else Can I Do?』という楽曲で描かれました。
彼女の完璧さは自分が望んだものではなく、アルマの期待に応えようとするためのものでした。長女として、一家の規範として「完璧」であろうとした彼女は、「他に何ができるだろう」と自分の本心を自由に表現していきます。
それまでバラを中心に咲かせていた彼女が、サボテンやジャカランダなど、ラテンアメリカの多様な植物を咲かせていく様子も印象的。
同様に、いとこのドロレスは聞きたくない家族の秘密を抱える不安、カミロは様々な人に変身して家族におどけてみせますが、それは「自分が何者であるか」を模索している最中であることが伝わります。
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"We Don't Talk About Bruno"と沈黙の代償
本作で最も印象的な楽曲のひとつと言えるのが、『We Don't Talk About Bruno』。日本でこそ話題になっていませんが、『アナと雪の女王』における『Let It Go』を超える大ヒットとなりました。
その人気の一方で、楽曲で歌われている内容は、「ブルーノについて話してはいけない」というネガティブなもの。家族における「ゴシップソング、つまり噂話」のような形で、ブルーノを結果的に排斥してしまうのです。
ブルーノは未来を読む力を授かりますが、家族にとって良くないビジョンを見たことで恐れ、引きこもってしまいます。そんなブルーノに対して家族たちは「沈黙」という形で見ないことにしてしまうのです。
そんなブルーノですが、彼は家を出ていったのではなく、家の中に潜み、人知れず家族の「ひび割れ」を修復しようとしていました。
そしてアルマのトラウマは、中盤でギフトを授からなかった「ミラベルへの拒絶」として最悪な形で現れてしまいます。結果的にカシータ(家)は崩れ去り、ロウソクの火は消え、魔法(ギフト)もなくなってしまいます。
大事なのは「沈黙」でも「拒絶」でもなく「対話」すること
ミラベルとアルマの共通点として、トラウマに対して「拒絶」していることが挙げられます。
ミラベルは冒頭の家族紹介パートである楽曲『The Family Madrigal』において、村の子供たちにミラベルだけギフトをもらえなかったことを突っ込まれながらも、「私は悲しくない」と言い、その理由として「ギフトがなくても家族と同じで特別だから」と言っています。
一方で、その後の楽曲『Waiting On A Miracle』では、奇跡が自分に訪れることを切実に待ちわびている様子が伝わり、歌詞にあるようにミラベルが「言葉にできない痛み」を抱えていることが分かります。
アルマについては先述したように、トラウマを抱えつつ、コミュニティと家族を支えるために懸命に働いてきたのです。
そして、アルマは自分が胸の奥に封じていたトラウマを『Dos Oruguitas』という楽曲を通してミラベルに打ち明けます。ミラベルはアルマと家族のルーツを知り、彼女が守ってきたものを理解します。
この楽曲、日本語では「2匹のオルギータス」と題されています。「オルギータス」は「青虫」の意味で、これはアルマとペドロの人生のメタファーであり、2人の出会い、三つ子を授かり、内戦で居場所を追われ、ペドロを失う様子が描かれています。
この曲で描かれるのは「変化」。歌詞内の「オルギータス(青虫)」は「クリサリダス(蛹)」になり、曲の後半で「マリポサ(蝶)」へと変化します。
住む場所と最愛の人を失ったアルマの悲劇によって、彼女は過去に囚われているのです。彼女は「繭」のように家族を守り続けてきましたが、それは結果として、彼女たちが苦しむことにも繋がっていました。
歌の中で「壁を取り払って、もう奇跡はある」というニュアンスの歌詞がありますが、「奇跡」はミラベルであり、ギフトの有無によらず家族一人一人の存在そのものが奇跡だったのです。彼女は、アルマが自分自身と家族を閉じ込めていた「繭」から解き放ったのです。この歌の終わりの場面では、美しい蝶が羽ばたく様子が2人を包んでいます。
「蝶」は「変化」を表す代表的なモチーフのひとつであり、『Waiting On A Miracle』の楽曲で変化を待ち望んだ彼女が、アルマと家族を変えたのでした。
【ネタバレ考察】魔法が戻ったことの意味
劇中の最後となる楽曲『All of You』では、崩れたマドリガル家と家族たちの絆が再建される様子が描かれます。
この楽曲には劇中の別の楽曲(『We Don't Talk About Bruno』や『The Family Madrigal』)の要素が組み込まれていて、それらが物語を経て変化したものになり、一つの曲として全体を包み込む完璧といえるフィナーレ・ナンバーになっています。
物語の最後、建て直されたドアにミラベルがドアノブを付けるシーンでは、ドアノブに反射した自分をみて「I see... me. All of me.」と言います。
家族の中で唯一ギフトを受けなかったミラベルですが、彼女は誰よりも一人一人をちゃんと見てきました。そんな彼女が最後に自分自身を見るのです。まさに完璧な締めくくりと言えるでしょう。
魔法を失ったマドリガル家でしたが、この楽曲の中で最後に魔法が戻ります。この描写に対して「特別な力がなくてもあなたは奇跡、特別なんだ」というメッセージであるため「魔法が戻る必要があったのか」と思うのは、確かに議論の余地があると思います。ただ、私は魔法が戻ったことがマイナスイメージに働くとは思えませんでした。
私は、魔法は天からの授かりものではなく、その根源はアルマにあり、彼女の悲しみ、トラウマと子供たちやコミュニティを守りたいという気持ちが生んだものだと思っています。しかし、彼女自身はそれを授かりものだと思い、それを守るために必死になってきました。
とはいえ1人で守っていくのは大変で、カシータがひび割れていったように、時が経つに連れて彼女は限界を迎えていたのです。ついに崩壊し、ミラベルに言われた言葉により、彼女が自分が間違っていたことに気づきます。
歌の中では、これまでマドリガル家に支えられてきた村の人々が感謝を伝え、協力しています。そして「完璧じゃない」ものの、家は再建されました。そしてそこにミラベルがドアノブを付けて完成させることで、魔法が戻りました。
アルマとミラベルには様々な共通点があり、ミラベルがアルマを継承したと考えることもできますが、私は魔法の源はすでにアルマだけでなく、マドリガル家全員によるものになっていると考えます。
エンカントの村人たちが「荷を下ろしていいんだよ(Lay down your load)」と言ったように、魔法を失った状態でコミュニティ全体で家を再建する過程があることで、才能や特別な力の有無によらず、一人ひとりが価値があることが伝わるのです。
最後のシーンでは、イサベラは感性豊かに植物で表現し、ルイーサはサボテンの鉢を重さを感じながら持ち上げていて(ハンモックでリラックスする彼女の姿が見られたことに感謝)、ペパは雹が降るなかで楽しげに踊っています。彼女たちにとってギフト(魔法)はもはや、かつての「自分がこうあるべき」だと思っていたものではなくなっているのです。
引き継がれた世代間のトラウマは、家族と自分自身を見つめることで変化をもたらしたのです。
まとめ:ミュージカル映画として大傑作
今回は、ディズニー映画『ミラベルと魔法だらけの家』をご紹介しました。
『ハミルトン』『モアナと伝説の海』『イン・ザ・ハイツ』などでリン=マニュエル・ミランダによる作曲の素晴らしさもあり、近年のディズニー映画の中でも、ミュージカル映画としても格段に優れた作品だといえる映画でした。
大ヒット曲『We Don't Talk About Bruno』で振り付けを取り入れたり、昨今のディズニーは過去のIP(知的財産)を否定する形になろうとも、変化しようとしている姿勢が伺えます。
その意味でも、ディズニー映画のニュースタンダードといえる今後の作品に重要な影響を与える位置づけなった作品だと思いました。
日本での知名度はそこまで高くないですが、もっと多くの人に観てほしい映画ですね!
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